その119:それぞれの戦いへ
「ザガムさん、気を付けてくださいね……? これでザガムさんまで死んじゃったら私……」
そんなことを言いながらファムが俺の袖を掴む。
まだ俺達は庭に残っていた。
捕虜の二人をエイターが連れて行き、ワイバーンだけが残されている状況である。
「心配するな。ただ、仮死状態になってからは無防備になる。その間はイザール達に頼んでいるがな」
「それにしてもザガムさんってそんなこともできるんですね。凄いです!」
「……無事に戻って来れたら、その時はお前に隠していたことを話そう。流石にこの結果はあまり隠せるものでもない」
「……? なんだかよく分かりませんけどわかりました!」
ファムが拳を握り、やる気を見せてくれる。
亡くなったコギーたちがなんとかなると知り、泣いていられないと明るく振舞っているのだ。
そこでルーンベルが俺に声をかけてきた。
「で、私たちはどうするの? ヴァルカンとメモリーについていく? ……まあ、私は行くつもりだけど」
「大丈夫か?」
「この二人と一緒なら直接戦闘で死ぬことはほぼ無いと思うわ。『神霊の園』もたいがいだったけど、ちょっと今回はそれくらい頭に来たわ」
「そうか。なら俺の分まで頼む」
「ふふ、珍しいわねあんたがそんなことを言うなんて。ぶちのめしてやるわ」
とりあえずヴァルカン、ファム、ルーンベル、イスラの四人が攻める部隊に紛れて随伴する。
ちなみに冒険者達も何人か遊撃に出たいという者がいるらしく、取り急ぎ集めているそうだ。夕方には出発し、近くの町の防衛に入るとのこと。
伝令は早足で帰って来たが、敵は砦を突破していてもおかしくない。
敵の数が正確には分からないものの、攻めてくる自信があるのだろうから5000は見ていいだろう。
途中の町を接収すれば休息と食料は確保できる。俺ならそうする。
「ワイバーン部隊はどうしますか? こちらの魔法では手も足も出ませんよ」
「そうだな……できればヴァルカンに遊撃して欲しいが、お前は向こうの大将首を取るんだろ?」
「当然だ。マルクス当たりが居ればいいんだが、あいつは北へ偵察にでているんだよな」
「北? なん――」
俺が尋ねるより早くメモリーが口を開く。
「ちょっとあの方の要望みたいでね」
「……なるほど」
気になるところだが今はそちらにかまけている暇はない。
メモリーは飛べないので、どうするか考えていると、メリーナが手を打って名案を口にした。
「あのワイバーンちゃんを使いましょうかぁ♪ わたし調教は得意なんです。ワイバーンでも効きますし。ちなみにあの大きさなら二人まで行けますけど、どうしますかぁ?」
「はいはいはーい! わたしが行きます。ワイバーンの背中なんてあんまり乗れる機会なんてないですし、魔法の方が立ち回りが楽でしょうし」
「なら任せるぞイスラ」
「ははー、ザガム様の仰せのままに」
「なんだそれは……」
「ならもう一人は――」
「話は聞かせてもらった、俺が行こう」
メリーナがミーヤかルーンベルに声をかけようとしたところで、城の柱から声が聞こえ、俺達が目を向ける。するとそこには柱を背に腕組みをして立つスパイクの姿があった。
「いえ、間に合ってますぅ」
「そりゃないよメリーナさん!? ……これでも俺はAランクはある。弓矢での援護はできるぜ」
「……そうだな、近接もできるならイスラの護衛として使えるか」
「いざとなればぶつければ……」
「やめて!?」
メリーナが冗談か本気か分からないことをいいながら首を傾げて笑う。
「しかしいいのか? 冒険者を率いる必要があるんじゃないのか?」
「いや、今回は志願した人間は騎士達に随伴するから、指揮権は向こうだ。なので俺も一個人として戦えるのさ」
たまたま城に来ていたところ俺達に出くわしたのだそうだ。
まあ、人数は多い方がいい。
「なら頼む。イスラとメリーナを頼むぞ」
「任せてくれ、メリーナさんは必ず俺が守る……!」
「ちょっと、わたしは!?」
まあ、イスラはなんだかんだで強力な魔法使いなので自衛ができそうだ。
その後、屋敷に戻り各々準備をし、こちらに向かってくるであろう城門に向かった。
「ふざけた真似しやがった野郎達はぶちのめさねえとな」
「ええ。コギーちゃん達の弔い合戦よ!」
その場にはルガート達のパーティーも居た。
ただ、レティは回復魔法の連発で疲弊し留守番となり、ニコラは弓兵として別動隊に入っている。
「死ぬなよ」
「お前は来ないのか?」
「ああ。少し野暮用でな、こいつらを頼れ、俺と同じくらいの強さだと思っていい」
「よろしくなあんちゃん、祝いの席で会ったな」
「だな。コギーはあんたに懐いていたから来ると思ってたぜ」
「はん! 関係ねえ、俺の居る町に仕掛けてきた。だから潰すんだよ」
「そうかよ、はは」
そう言ってヴァルカンは鼻を鳴らす。
ルガードはそれを見て苦笑し、俺に小声で『こいつ、いいやつだな』と呟いた。
まあ、俺もこいつがこれほど肩入れするとは思わなかったからその意見には賛成だ。
「それじゃ、ザガムさん行ってきます」
「……もし、お前が死にそうになるくらいなら相手を殺せ。それが戦争だ。人間を殺したくないのは理解しているが、ファムが死んでは元も子もない」
「……うん、そうならないよう叩きのめしてきますね!」
「ルーンベル、ファムを頼むぞ」
「もちろんよ。行ってきますのキスは?」
「して欲しいのか?」
俺がそう言うと、ルーンベルとファムは顔を見合わせて目を丸くする。
「……ザガムさんが冗談を言うなんて」
「なら、無事に帰ってきたらお願いしようかしら」
「必ず帰って来い」
「もちろん、おっとそれじゃそろそろ出発ね。また」
「行ってきますー!」
ファムとルーンベルが歩き出し、俺の横に立つメモリーが口を開く。
「ま、あの二人は任せておいてくれていいわ。ヴァルカンが相当暴れるだろうしね」
「だな。人間の兵士や騎士程度では俺達には勝てんからな」
「……そうね。私も行くわ、冥界行き頼むわね」
メモリーもウインクして先へ行き、姿が見えなくなるまでその場で待ち、踵を返す。
さて、仮死状態になるところからか。上手く行けばいいが。