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その115:メモリー【記憶】


 「メ、メモリーさん?」

 「落ち着けメモリー、一体どうした?」

 「どうしたもこうしたも無いわよ。こうしたらどうするのって聞いているのよ?」

 「う……」

 

 メモリーが髪の毛でファムの首を絞め、うめき声が聞こえてくる。

 意味がわからない……ことも無いが、言い草に俺はカチンと来て、語気を強める。


 「よせ、それ以上は本気で怒るぞ」

 「お、あんたが怒ったの初めて見たわ。……本当に感情が戻っているのね」

 「……俺についてなにか知っているのか?」


 そこで俺はひとつ気づいたこと、どうして頭に『それ』が今まで浮かばなかったのか不思議に思いつつメモリーに尋ねる。


 「いや、質問を変えよう。二つ聞かせろ、俺の感情が無いのを知っていたのか? それと、こうなった原因をお前は知っているか?」

 「……」

 「メモリーさん」


 俺の問いにメモリーの口元が大きくゆがみ、笑みを作る。

 【王】の中では何気に【土王】ロックワイルドとメモリーが古株で、500年位その座を譲っていない。

 なのでどちらかと言えば新参である俺の過去を知っているのではと考えたのだ。

 そしてこの笑み、なにかを知っていると見ていいだろう。


 「もちろん知っているわ。メギストス様もね」

 「なら――」

 「だけど話せない。それは自分で思い出さないといけないのよ」

 「またそれか……! もういい、ファムは返してもらうぞ」

 「フッ」

 「ひゃあ!?」


 俺が前かがみで駆け出すと、メモリーとファムの姿がスッと消えた。

 

 「カムフラージュか……! ぐっ!」

 「フフフ、そう風景に溶け込む私の得意技。見えないところから攻撃を受ける恐怖と混乱の中で、ゆっくり壊していく――」

 「ぐあ!?」

 「ザガムさん!?」

 

 どこからともなく飛んでくる斧の乱舞に俺は防戦一方だった。

 実力的には俺が上だが、こういう搦め手があるのでメモリーにしてもヴァルカンにしても絶対的に弱いわけではない。


 とにかくこいつと戦う時は足を止めるのは危険だ。俺はステップを踏みながら木剣を拾い、斧を弾いてそのまま攻撃をする。


 「ひゃ!?」

 「うっ!?」

 「残念、ファムちゃんでした♪ <リーフショット>!」


 居場所は特定できていたが、人質にしたファムの顔面を殴るところだった。

 にやにやと笑いながらメモリーが葉の刃を俺にまき散らし服をズタズタにし傷を負う。人間の一撃では防御魔法を破れないが、そこはやはり【王】の貫禄か。

 

 「チッ、<ギガウインド>」

 「うわあ!?」

 「おっと、やるわね」


 俺は一度その場から離れ、地面に向かってメガウインドを放つ。

 たちまち砂埃が舞い上がり、それと同時にメモリーとファムが空中へ投げ出された。

 即座に俺はファムを抱きかかえて着地。


 「大丈夫かファム」

 「はい! ありがとうございます! って、メモリーさんどうしちゃったんですか!?」

 「さすが、やるわね。人質が居なくとも――!?」

 「フッ……!」


 ファムをその場に置き、全力でメモリーへ向かう。カムフラージュをするつもりだろうが、その前に肉薄して一撃を加えてやる。

 慌ててガードしたが、瞬間、カムフラージュのキャンセルに成功。このまま畳みかける……つもりだったのだが、


 「ふう、降参。私の負けヨ」

 「なぜカタコト……」

 「なんのつもりだ?」


 メモリーは両手を上げて首を振り、抵抗の意思がないことを示したので、俺は剣を止めて尋ねた。


 「だいたい分かったからいいわ。なるほど、人間と触れ合うのが一番良かったって感じね。あんた泣いたことは?」

 「……いや、多分ないな」

 「昨日を見る限り笑っていたから喜怒哀楽の内、怒と楽は問題無さそう。後は喜ぶ……嬉しいことと悲しいことを体感すればいいのね」


 勝手に分析を始め、盛り上がる。

 ファムも俺の横に立ち、不思議そうな顔で首を傾げていた。

 

 「む、無理して体感することに意味があるんですか?」

 「今それか?」

 「ううん、ファムちゃんの言うことは優先事項よ。私たちが喜ばせることはできる。だけど、ザガムが『心から』そう思わないと意味が無いのよ」

 「なら今のやりとりはなんだ?」


 そういうことであれば、ファムを殺されて悲しいと思うのはまた違う。

 目的を問いただすと、メモリーは舌を出して笑う。


 「どれくらい大事にしているのかなあって」

 「も、もう、メモリーさん人が悪いですよ!」

 「……お前にはどう見えた?」


 ファムが顔を赤くしてメモリーの胸をポコポコと叩き、大きな胸が揺れる。

 

 「いい傾向だと思うわ。このまま感情が戻ればファムちゃんとっ所に‟大魔王”を倒せるかもしれない」

 「それほどか……」

 「『人間』は弱いから、寄り添って生きる生き物だからね。友人知人、恋人のためならその力は数倍になる。だから‟メギストス”はそう言ったのかもね」

 「俺は人間じゃ……あ、いや、なるほどな……」

 「えへへ、頑張りましょうね! というかやっぱりザガムさんの友人だけあって強いですねメモリーさん」

 「まあね~♪ というわけでちょっと休憩しましょ。ザガム相手は神経が磨り減るからいけないわ」

 「はーい、アイスコーヒー貰ってきますね!」


 ファムが屋敷へ走り、それを見送る俺とメモリー。

 するとメモリーは俺に微笑みかけてくる。


 「いい子ね。頑張りなさいよ? 大魔王を倒すのは……多分あんたの使命なのよ」

 「……? 言われなくてもそのつもりだが」

 「ふふ、そうね。さて、ファムちゃんが戻るまであのベッドを使わせてもらおうかしら。日光を浴びるのは【樹王】としては気持ちいいのよね」

 「好きにしろ。俺はオリハルコンの支柱でも叩くか」


 なにがしたかったのかさっぱりわからない。

 あいつはメギストスを倒す手伝いをしているのに気付いているのか……?



 ◆ ◇ ◆



 「……相変わらず熱心ねえ。それにしても、ザガムの出奔とタイミングが良すぎるわね。メギストス様はここまで見越していたのかしら?

 はあ……勇者と嫁、か。これもあの子の導き? ヴァルカンはともかく、メギストス様、ユースリア、ロックワイルドに私は動かざるを得ないわね」


 素振りと魔法を使うザガムに目を向けながらメモリーは小さく呟く。

 すぐに目を閉じて耳を澄まし――


 「その前に、ひと悶着ありそうね。さて、頑張ってねみんな。ふふ……」


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