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その99:冥王VS聖女


 「<ギガフリーズ>!」

 「ふん、その程度の魔法で俺は倒せんぞ」


 距離を取りながら魔法を放つ聖女。

 俺は手を振り払い飛んできた氷の塊を打ち消し、さらに前進する。兵士の増援はまだ来ないはずなので、動けない女性陣を庇いながら戦うとなれば早期決着が一番効率がいい。

 

 「<ギガファイア>ならどうです?」

 「無駄だ」


 さらに撃ちだしてくるギガファイアを回避すると、聖女に追いつき眼前に迫る。


 「今は緊急事態だ、終わらせるぞ」

 「ふふ、どうでしょうか?」

 「む」


 俺が最速で繰り出した拳を聖女は手のひらでやんわりと止め、捻り上げてくる。

 細腕と思っていたが、身長も高い俺を軽々とだ。


 「チッ」


 すぐに抵抗し、逆に力を入れて聖女を地面に転がす。

 しかし、笑みを崩さぬまま近距離で俺に掌を翳していた。


 「ふふふ、<ギガウインド>」

 「無駄だと言っている」

 

 至近距離だとて回避できないわけではない。

 だが、力が緩んだその隙をついて、聖女は滑るように寝たまま移動し立ち上がった。


 「……奇妙な動きをする」

 「あなたも中々やりますわね。……<シャイニングブレード>!」

 「くっ」


 間髪いれずに俺を貫こうと光の剣を伸ばしてくる。速い、これは避けきれないと腕でガードする。

 ただの攻撃なら薄皮一枚程度で済むのだが、そこは流石に聖女か、人差し指の第一関節程度、剣が突き刺さった。

 

 そのまま腕を切り裂くためぴくりと剣が動いたため、即座に拳を叩きつけて破壊する。すると俺の腕からは血だけが残された。


 「……」

 「あら、おかしいですね……赤い血、ですか」

 「……? なにを言っている?」


 訝しむ聖女の言葉の意味が分からず目を細めていると、背後でファムたちの声が聞こえてくる。


 「ザ、ザガムさんに傷を……ん。聖女様ってやっぱり強いんです、ね……」

 「ふう……ふう……驚いた、わね。でも、おかしい……」

 「わたし達はもうダメです……ザガムさん、頑張って、くださいー。本気、本気でいってください……ってイクぅ!?」


 ふむ、三人とも苦しそうだな。遅効性の毒と同等と見るべきか、扉の向こうに居る女達も早く助ける必要もある。

 ……だが、ファムに冥王状態を見せるわけにもいかない。どうする?


 「ザガム……ファムは私に任せて……」

 「ルーンベル?」

 「ルーンベル、さん? ……ひゃあ!?」

 

 ルーンベルは震えながらもファムを引きずり先ほど開けた部屋へ潜り込む。

 なるほど、動けないなら少なくとも目は切れるか。


 「……礼を言うぞルーンベル」

 

 瞬時に冥王の力を解放。

 腕の傷もその瞬間塞がると、それを黙ってみていた聖女が目を細めて笑みを止めた。


 「その凄まじい力……一体あなたは?」

 「気にするな、通りすがりのBランク冒険者だ」

 「ふうん……外にいる連中と同じ魔族の匂いがすると思ったのだけど、血は赤い。でもそのでたらめな魔力は魔王にも匹敵しますね。面白いです、わたくしが倒して調べさせてもらいましょうか」

 「この姿になったら手加減はできんぞ」

 「……!?」


 ペラペラと口だけはよく動く聖女の目の前へ一瞬で詰め、ガードをすることを見越して腹へ拳を叩きつけてやる。

 子を作るための腹を本気で殴るのは気が引けるが、先ほどの反応速度ならガードするだろう。最悪寸止めだ。


 「くっ……!?」

 「どうした? まだ一発だぞ?」


 よし、目論見通り大きくノックバックしたな。俺はすぐに背後に回り込み、背中に蹴りを叩き込む。

 防御魔法を蹴った手応えだったので、見えていないわけではなさそうだが。


 「この……! <ディバインブレイク>!」

 「<ブラックオンスロート>」

 「相殺!? ぐふ……!?」

 「どうした、さっきまでの威勢は?」

 

 女性を殴るのは気が引けるな……一気に意識を刈り取れればいいのだが、中途半端に硬いのと、反撃してくるので塩梅が難しい。


 (一思いに……殺し……て)

 

 険しい顔で魔法を叩きつけてくる聖女から、あの時、謁見の間で聞こえた声が脳裏に響く。


 「ああああ! 何故! 貴様は一体なんなのだ! ぐえ……!」

 (早く、このままでは仲間の方も……)


 オーガのような形相でシャイニングブレードを振り回してくる聖女に膝蹴りを食らわせ、背中に肘を落とす。


 「<ディバインブレイク>!」

 「考えたな、確かにそれなら俺もダメージをくらうが……」

 「か、回復魔法……!? <ギガウインド>!」

 「ふん」

 「かはっ!?」

 (惜しい……! もう少し!)


 ギガウインドで距離を取ろうとした聖女を蹴りながら吹き飛ばされる。

 しかし、ダメージを与えるたびに頭に響く声が増えてきたような……?


 もしやと思い俺は殺気を膨らませる。


 「……!?!? な、なに、この邪悪な気配は……!?」

 「……もういい、お前では相手にならない。ファムたちも待っているし、死んでもらおう」

 「ひっ!?」


 久しぶりに腰の剣、ブラッドロウを抜いて切っ先を向ける。

 血のように赤い剣身は切れ味とは違う意味で寒々しさを感じる剣だ。


 「……死ね、冥哭斬翔……」

 

 あえて、目に見える速度で瞬時に近づき剣を突きだす。

 心臓に突き刺さるかといったところで――


 『死ねるか!!』


 ――青い皮膚と赤い双角をした人型のなにかが聖女の背中からずるりと飛び出した。


 「ふん、やはり憑いていたか」

 『くそ……だが、聖女を殺したお前は……な、んだと?』

 「誰を殺したと?」

 「あふ……お股が……」


 床に金属の乾いた音。

 そして俺の腕には青かったり赤かったりという顔をしているが、息をしている聖女。


 そう、インパクトの瞬間に俺は剣の金具を外して地面に捨てたのだ。

 

 前に戦ったヴァンパイアのアムレートのように魔族の中には人に憑依する者がいるが、こいつはその典型。

 

 だが――


 「魔族か? それなりに力があるようだがそれにしては見たことが無い顔だ。そして聖女に憑いてなにをしようとしていた?」

 『……』

 「だんまりか、別に構わんが黒幕は叩き潰す。それだけだ」


 聖女を寝かせてブラッドロウの刃を戻しながらそう言うと、魔族は口元を歪めて喋り出す。


 『くく、調子に乗りやがって。オレをただの魔族だと思うなよ――』

 「!」


 膨れ上がる魔力に俺は片眉を上げる。

 確かにただの魔族では無さそうだが、脅威と言えるかと言われれば、メギストスの足元にも及ばない。イコール、こいつが俺に勝てる筋は無い。


 「むん!」

 『ぐげ!? こいつ……!!』

 「チッ」


 頬を殴られ顔が歪む俺。

 確かに攻撃力は上がっているようだが、ダメージは大してない。ブラッドロウの柄で鳩尾を打ちこむとたたらをふむ。


 「それ」

 『つ、強い!? ならば本気で行くぞ!』


 魔族の男はどこからか剣を取り出し、俺の首を狙って振り回す。

 剣筋を見る限り、こいつの得意武器といったところか。


 「はあ!」

 『とぉぉりゃあ!!』

 「甘い。……む」

 『てめぇがな! <ブレイジングブラスト>』

 「<ブラックオンスロート>」

 

 切っ先から出る火花を回避しつつ、俺も黒い槍を足元から突き上げる。

 

 『やるな……!』

 「……」


 さらに幾度か切り結び距離を取る俺達。


 俺の剣についてくるとは中々の腕だ。

 この前の【霊王】となら地位が変わってもおかしくないレベルだと、色眼鏡で見ずに評価をつけるならそのくらいの強さだと思う。


 「お前は何者だ? 魔族領に居ず、どうしてこんなことをしているのだ」

 『貴様こそなんだ? 人間の癖に、その強さは。オレの名は‟ヴァラキオン”大魔王様直属の側近だ』

 「……なんだと?」


 こいつは、なにを言っている……?

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