かぐや姫を救出
「で、ここからどうするんだ?チームは私とお前だけでいいのだろう?」
「いや、悪いがもう1人入れる予定だ」
「何?もう1人だと?足手まといにしかならないように感じるが」
「河流、お前さ‥‥‥」
「なんだ?」
「このクラスの奴等のこと、全然確認してないだろ」
「な!?い、いやまあ」
「だろ?このクラスにはいるんだよ。俺たちに匹敵する実力を持つ生徒がな」
「そ、そんなはずはない!私に匹敵する実力者など、お前を除いては特待生くらいしかいないはずだ。特待生はどちらも他クラスなのだから‥‥」
「名前は竹月かぐや。サポート向けの戦い方にもかかわらず、入学試験で8位という結果を残している」
「入学試験で8位?それでは今の学年序列では上位十名にも入っていないではないか」
「そうか、お前は入学試験を受けていないんだった。あの試験はサポート系統のスタイルの奴には圧倒的に不利だった。そのための処置は行われていたが、それは不合格を防ぐことには役立っても順位を上げることには役に立たないものだ。それでも竹月は8位を取ったんだ」
「なるほどな。それで、その竹月は何処にいるんだ?」
「竹月さん、俺達のチームに入ってくれるなんて嬉しいぜ」
「竹月さん、君となら上を目指せるよ」
「アッシらとがんばりましょうね、竹月さん」
3人の男と竹月と思われる少女が不穏な会話をしている。
「どうやら、向こうは決まってしまったようだが‥‥ここから引き抜く訳にもいかないだろう。どうするんだ?物部」
「河流‥‥‥‥」
「あ、ああ。な、なんだ?」
「これから2人で頂点目指そうぜ!」
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「切り替えが速すぎる!もう少し、もう少し何かあるだろう!あとなんとなくキャラが変わってる」
「で、ですから私は、あなた方とは組めないと‥‥‥ 」
「固いこと言うなって、俺らと組むことは決定事項だから」
チームは、互いの同意で決定しているように見えたが、どうやら違ったようだ。
「なあ河流、あれは‥‥‥‥」
「ああ、聞き捨てならないな」
「や、やめてください!私は‥‥‥」
「だ!か!ら!もう決まってるんだって!」
竹月が必死に断ろうとするが、男たちは全く聞き入れる様子がない。
「「今すぐやめろっ!!屑どもがっ!!!」」
俺たちは竹月と3人の間に立ち塞がった。
「何だお前ら、俺たちが鬼山兄弟だと知っての言い草か?」
鬼山兄弟‥‥‥鬼山紅蓮、鬼山蒼、鬼山黒斗の3人からなり、入学試験では3人とも上位の成績を納め、確か黒斗の今の学年序列は15位だったはず。
つまり、かなりの実力者たちだ。
「あいつ等‥‥‥特待生の【鬼殺し】河流桃と入試1位の【超級者】物部紡だよ、兄さん」
【超級者】?初耳だ。そんなカッコいい二つ名付いてたのか。
「大丈夫だ。こっちの方が人数は上だ。それに、奴らは万全の状態じゃあねえようだぜ。負けるはずがねえよ」
そう、俺たちは模擬戦によって疲弊している。確かに万全の状態とは程遠い。
しかし、
「ほう‥‥負けるはずがないだと?私も随分舐められたものだな」
「それなら模擬戦と行こうじゃないか」
俺たちは簡単に挑発に乗ってしまった。
ここは敢えて乗ったと言っておこう。
「いいだろう。だが、お前らが負けたら土下座してもらうからな」
「もちろん構わないが、そっちが負けたら竹月をチームに誘うのはやめろよ?」
「はっ、上等だ!」
3人の武器は金棒のようなものだ。棘々のようなものはないが。
『戦闘準備。双方準備は整っていますか?』
「「「「「応!!」」」」」
『では、戦闘開始』
「物部っ!!あっしが相手でやんすよ!!」
三兄弟の1人、紅蓮が俺の方に向かって来る。
「河流、そっち任せていいか?できるだけ早く片付けて合流する!」
「ああ、任せておけ!」
紅蓮との間合いを一気に詰め、俺は剣を振るう。
しかし、簡単に回避される。
「喰らうでやんす!」
紅蓮の金棒が俺に振るわれる。
今だ。
「喰らうのはお前だ」
俺は紅蓮の動きに合わせてカウンターを繰り出す。
しかし、またしても躱されてしまう。攻撃の方はブラフか‥‥‥。
「畜生、なんで当たらないんだ‥‥」
俺は何度も攻撃を仕掛けるが、全く当たる気配がない。
「避けてばっかりじゃ勝てないぞ!」
苦し紛れの挑発だ。しかしこんなことをしなくては攻撃のチャンスは永遠に来ない。
「うるせえやい!あっしはこれでいいんだ!」
これでいい?何かあるのか?ふと河流の方を見る。
特に意味はなかった。本当に偶々、河流の様子を伺ったのだ。
「これで終わりだ」
「ぐっ‥‥‥」
思ってもいなかった。あの河流がやられる寸前の状態になっているとは。
黒斗が倒れた河流に金棒を振りかざす。
「まずいっ!!」
俺はとっさに自分の剣を河流の方に投げつける。
「ちっ‥‥おい紅蓮!時間稼ぎもまともにできねえのか!!」
やはりだ。2対1なら河流を倒せる自信があったのだろう。最初から紅蓮は俺に勝つ気はなかったのだ。
「大丈夫か河流!何があった!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私は、2対1でも勝てる自信があった。
「ああ、任せておけ!」
私は、二人の動きを警戒しながら間合いを取る。
「叩き潰す!」
蒼とやらが攻撃を仕掛けてくる。が、
「甘い!!」
私の刀は確実に蒼の首を捉える。
パキンッ!
「なっ‥‥!」
蒼を確実に捉えたはずの刀は直前で止まり、何かが割れるような音がした。
「今だ!喰らいやがれ!!」
「くっ‥‥」
その直後、黒斗の金棒が私を吹き飛ばす。
油断した。蒼の武器も能力付きだったとは。
黒斗の攻撃はなんとかダメージを最小限に抑えたが‥‥‥。
「なるほど、これは非常に厄介だ。しかし無限に使えるわけでは無かろう!!」
「ああ、蒼の障壁は3回しか使えねえ。だが、もう十分なんだよ」
「どういう意味‥‥‥ま‥‥‥さ‥‥か」
身体が急に重くなる。しかも、目眩が‥‥‥。
「お察し通り。俺の金棒も能力付きだ。その名も《怠惰の金棒》、この金棒の攻撃を喰らったら最後、気力を搾り取られて戦闘どころじゃねえだろ?」
「まだだ‥‥まだ‥‥‥終わって‥‥‥」
不意打ちで一撃でも入れればまだ勝機はある。
「蒼の障壁は俺にも効果を発揮する。お前の攻撃は意味がない。これで終わりだ」
黒斗が金棒を振り上げる。ここまでか‥‥‥。
すまない物部。
カキンッ!!
なにかが金棒を吹き飛ばした。
そこにいたのは、私の初めての仲間だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なんとか間に合ったが、状況はとても良くない。
「あいつの、黒斗の金棒を喰らったら気力が吸い取られる。私もまだ動けない」
河流が動けない上に、俺の剣は取ろうものなら叩き潰されるような位置にある。
「河流、その刀を貸せ」
「な!?私のこの刀、《白皇》は、扱うのに相当な鍛錬が‥‥‥」
「だが、この状況を打開するにはそれしかない」
「わかった。使え」
俺は河流から刀を受け取る。ずっしりとした確かな重さを感じる。
俺は蒼に向かって斬りかかる。
ガキッ
「痛っ!!!」
斬りつけた衝撃がそのまま押し寄せてくるような感覚に襲われる。
「その刀では、正確な太刀筋以外でまともなダメージを与えることはできない。私の動きを思い出せ!」
やはり簡単に使える代物ではなかったのか。
集中だ。思い出せ‥‥‥
俺は河流の動きを脳内で鮮明に思い出し、再生する。
見えた。
今度こそ確実なダメージが入った。スパァンと気持ちよく刀が入る。
だが、刀を使えただけで勝てる相手ではない。俺には河流剣術秘技を使うこともできない。
3人の動きを今一度観察――――――――――――!!
紅蓮の姿がない。まさかっ!
「いくら学年序列トップの特待生といえど、弱っている状態ならあっしでも‥‥‥」
完全に間に合わない位置だ。こうなったら相棒を信じるしかない。
「喰らえ!河流桃っ!!」
「舐めるなぁ!!」
河流の状態異常はなんとか治っていたようだ。
そして流石の技術で紅蓮の攻撃を躱しつつ手首を掴んで背負い投げ。きれいにきまった。
「「なっ!?」」
蒼と黒斗は驚愕している。今が絶好の好機だ。
俺は地面に転がった剣を飛び込む様に掴み、回転しながら距離を取る。
「奪還成功!受け取れ河流!!」
俺は河流の剣を投げつけ、向き直る。
『鬼山紅蓮、脱落』
河流は紅蓮を仕留めることに成功したようだ。
俺は黒斗と一気に距離を詰め、心臓の部分を狙って一突き。
パキンッ
何かが割れるような音。河流の言っていた蒼の武器の能力か。
河流は蒼の一撃を身体を反らして躱し、
「河流々剣術秘技‥‥‥【檸檬式連続斬】」
『鬼山蒼、脱落』
あとは黒斗だけだ。
「くっそぉぉ!!!」
最後の一撃と言うべき本気の一振り。俺はその直撃を受ける。
「油断したな!これで終わりだっ!」
「河流に効いたからといって、俺にも効くと思ったのは愚かだな」
「なにぃ!?」
俺は黒斗の肩から腰にかけてを一閃。
『鬼山黒斗、脱落』
『勝者、河流桃・物部紡』
決着はついた。
「竹月かぐや、これであいつらがお前に迫ってくることはない。組みたいやつと組むのが1番だ」
「そう言いながら、実は組んでほしいとか思っているのだろう?馬鹿者が」
「そこ、少し黙れ〜」
ともあれ、今後クラスの中で不安材料となり得たあの3人をここで潰せておけたのは良かっただろう。
「私を誘っていただけるのなら、喜んで入らせていただきます!」
「もちろんだ。これからよろしく」
想定通り、竹月は俺たちの仲間に加わってくれた。このメンバーなら、きっとどこまでも上を狙って行けるはずだ。
「これで、もういいんだな?メンバーは」
「ああ、報告にいくぞ」
流石にこれ以上メンバーを増やそうとは思っていない。
俺たち以外で鬼山黒斗以上の学年序列のやつはこのクラスにいないからな。
「待ってください!!桃さん!!!」
突然後ろから声が聞こえ、振り返ると一人の少女がそこにいた。
名前の解説です。
鬼山兄弟→紅蓮→赤鬼
蒼 →青鬼
黒斗→黒鬼
竹月かぐや→竹から生まれ、月へと帰ったかぐや姫
桃太郎ときたら鬼だと思いました。