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作者の想像世界

ゲームでよくあるあれを幼なじみが頑張っていた話

作者: パーミテンション

 大人は、夢を持つことの大切は教えてくれるが、夢を叶えることの大変さは教えてくれない。

 その点、幼なじみは夢を叶えるという努力を惜しまなかった。

 その夢に関しては今は保留とさせてもらうが、とりあえず、その夢を叶えるために体を軽く、そして強くすることにこだわり抜いた。

 むしろ彼女の体はそれを応援するかのような体質だった。


 胸の脂肪が多すぎるのだとかをラノベ なんかで言われたりするような人物とはかけ離れた存在で、まな板や壁なんて言われる存在だ。

 髪の毛はベリーショート。身長は高校二年生にして180なんてびっくりな数字だ。

 軽くするという話なら、180という数字はむしろ足かせなんじゃないかと思うかも知れないが、しかし軽く、強くという点と、彼女の夢という観点から見れば、それはまさに好都合というものだ。

 運動が大好きで汗っかきだが、運動をよくする人の汗は臭くないしベタつかないとはそこそこ知られた話で、運動後にみる彼女の滝のような汗にびっくりすることはあれど、臭い、ということはなかった。

 むしろ、高身長、ベリーショート、運動大好きの汗っかきなんて特徴から、男子とよく間違えられるし、女子からラブレターをもらったこともあるとかないとか。


「バスケしようよ!」


 部活が終わって、友達と帰ろうとしていたところに、彼女は声をかけてきた。


「別にいいけど」


 彼女がバスケをしようと言ってくることはしょっちゅうなので、オーケーした。

 一応バスケ部のキャプテンをやっているが、そろそろこの幼なじみに負けてしまう。

 なあなあで任されたキャプテンではない。実力で任されたキャプテンだ。しかしこの幼なじみは、僕とのバスケの回数を重ねるごとに、明らかに上達してる。

 絶対、そこらへんのバスケ部よりもうまい。

 友達に一言断って、先に帰るように頼んだ。


「いつものでいいよね」

「いいよ」


 一対一の、先に一点を決めた方の勝ち。

 最初は三点だったのだけど、こいつが上達に上達を重ねるごとに一点までの時間が長くなり、下校時間までに終わらないという事態が発生したのだ。

 ジャンケンをして先攻を決める。先攻はあっち。

 だん、だん、と自分の周りでボールを行き来させる。僕はそれにぴったりと張り付き、行手を塞ぐ。


「ねえ、ちょっとした裏技してもいい?」

「裏技?」


 うん、と彼女は頷く。


「だけどこれね、まだ開発途中で、結構な助走つけないとダメなんだ」

「どれくらいだよ」

「体育館の端から、ここまで」


 彼女の言うこことは、スリーポイントのライン。

 ちなみに、こんな会話を続けている途中でもドリブルはしているし、僕はそのボールを奪うチャンスを窺っている。


「まあ、いいけど」

「ありがと!」


 そう言うと、ボールをつきながら体育館の端まで行って、


「行くよー!」


 なんて片手を振りながら合図をした。

 まさか、完成したのか。いや、開発途中と言っていたし、まだ完成はしていないはずだ。だけど、この助走であれを可能にするのであれば。


「……」


 まさかとは思うし、あんなのゲームや漫画の世界のはずだとも思う。

 だけど、彼女がこうして僕に見せてくるということは、つまりはそういうことなのではないのか。そのはずだ。

 僕は、スリーポイントラインからゴール下まで下がった。


 それをみた彼女は、ドリブルをしながら迫ってきた。

 そのスピードは、多分普通に走っているのとそこまで変わらないのではないかと思わせる速さだった。


 待て待て待て。


 ドリブルであそこまで速いなんて、それはおかしいだろ。確かにあいつは陸上部だし短距離走と走り幅跳びのエースだし走り幅跳びに関しては大会記録保持者だし、何ならオリンピックに出るんじゃないのかとさえ言われているほどだが、それにしてもだ。

 足を鍛えるために陸上部に入ったと言っていたが、一体どうしたらここまでドリブルを速くできるんだ今度教えてくれ。


 そんなことを考えていたら、彼女はすでに例の場所、スリーポイントのラインまで到達していて、ボールを両手で抱えて、そこから飛び跳ねた。

 助走と速さ、そして走り幅跳び大会記録保持者のジャンプは、身長170の僕を軽く超えていたことは間違いない。

 しかし、それはただジャンプしただけで、彼女がしようとしている、スリーポイントからのダンクシュートを決めるにはまだ距離が足りない。

 それでも、僕はそれを止めるべくジャンプの準備をした。

 彼女が夢を叶えるという確信があったからだ。


 彼女の夢。

 それは二段ジャンプ。


 始まりは麦わら帽子をかぶったゴム人間の仲間の金髪で料理をしている人。

 それを幼少期にみてから、ひたすらに彼女は高く、軽く、強くを意識していた。

 原理は合っているのかわからないが、とりあえず右足が沈む前に左足を上げての空中移動。みたいなよくある認識でいいと思う。


 彼女はそれをするためにひたすら努力した。脚力の強化はもちろん、二段ジャンプができて相手をフィールドの外に吹っ飛ばす格闘ゲームを、二段ジャンプの参考になるなんて訳のわからないことを言いながら鍛えた。

 そして、彼女の体が夢を応援する体というのは前述の通り。

 まな板は余分な肉がなく軽く、汗をかくことで軽く、髪の毛もベリーショートにすることで極力軽く。

 彼女は僕の予想どおり、二段ジャンプを決めた。成功させた。


「っ!」


 スリーポイントラインから二段ジャンプでダンクシュートを決めるなんてことさせてたまるかという思いとともに、僕も跳んだ。

 けれども僕の飛距離は彼女に届かず、彼女はダンクシュートを成功させた。

 どん、と乾いた音を数回響かせて、ボールはコートを転がった。

 僕は着地して、彼女はゴールにぶら下がる。僕がゴールから少し離れたことを確認すると、よいしょと着地した。


 ちょっとした裏技。

 確かにちょっとした裏技だ。

 まず始めに、あそこまで飛べるやつはきっとこの世に存在しないし、一対一というハーフコートバトルを体育館いっぱいを使っているし。


 だけど、それでも彼女が二段ジャンプを成功させたことに変わりはない。


「はあ、はあ……やったよ」

「……ああ、おめでとう」


 太陽みたいに眩しい笑顔と共にピースサインをして、大の字になってばたりと倒れ込んだ。


「あー、疲れたー!」


 体から大量の汗をかいているのはいつものこと。

 僕はバッグから水筒を持ってきて、彼女に差し出した。口付けだとかなんだとかは、気にするような仲じゃない。


「間接キッスいえーい」


 前言撤回。

 ごくごくと飲み干した彼女は、おかわりと、からになった水筒を突きつけたので、僕は冷水機の水をいっぱい注いで、再び彼女に手渡した。

 これまたごくごくと飲み干して、ぷはーといい飲みっぷりを見せてくれた。

 ありがとう、と言って渡される空の水筒。


「やりましたよ」

「ああ、おめでとう」


 ばっと立ち上がって急に抱きついてくる幼なじみ。


「はいはい、おめでとうおめでとう」


 ぽんぽんと背中を叩きながら、そう言った。


「……おぶって」

「はあ?」


 帰るぞ、と言おうとしたら言われた言葉に、流石に驚きを隠せない。

 絵面がすごいことになりそうだ。まあまあでかいやつが結構でかいやつを背負っていて、側から見たら男と男だが、実際は男と女。


「足がもう力はいらない」

「そりゃあ二段ジャンプなんて奇想天外なことしたらそうなるわな」


 わかったよと言っておぶる。

 軽くるす努力をしているとは言っていたが、それでも重量は感じた。


「ごめんね。お胸があればきっと幸せな気分になれていただろうにね」

「お前が夢を叶えたことですでに幸せだよ、安心しろ」

「ふふふ。それじゃあしゅっぱーつ!」

「待て、まさか駅までおぶらせるつもりか」

「駅なんてとんでもない。電車から降りて家までだよ」

「……」


 流石にそこまで腕がもつ自信はないんだが……。

 まあ、今日くらいは頑張ろう。

 そう思った。


 それから、彼女は二段ジャンプを完全にものにしてスポーツ界を震わせたことはまた別の話。

読んでくれてありがとうございました。

超絶久しぶりの投稿です。


他の作品も読んでくれるとありがたいです。

短編しか書いてないのでサクサクっと読めますよ。

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