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魅了[絶]?! カンスト(Lv.99)一般職男子  作者: たかしたま
始まりのはじまり
7/42

第7話 : 赤ハギ盗賊団 (3)

トンプトンを留めた場所からは既に1頭がいなくなっていた。

どうやら、ガリアーニは先に帰っているらしい。

残念ながら、獄炎には巻き込まれていないという事なんだろう。


ドーン!!


あのジジイ、絶対に許さん。

盗賊団に捕まった事も、スキルを使って地形を変えてしまった事も、

もとを辿れば全ての原因はあの爺さんにある。


ドドドン!


何度か共鳴石に話しかけてみたけど、うんともすんとも返ってこない。

無視されている。


ボカーン!!

ギャーン!ギャワー!


帰ったら、ただじゃ済まさな…...


「うるせえなさっきから!

何してんだよ!」


「ウェインのスキルを見てから興奮が収まらなくて…

手当たり次第スキルを打ちまくってるの!」


余計なことばっかりしやがって…...

それに、スキルは使わないんじゃなかったのかよ!


ドドドッ、ドドドッ、ドドドッ


すると今度は重厚な足音が響いてくる。


「何の足音だ?」


「多分、魔物ね。

怒ってるみたいだけど、何でかしら」


オメェが暴れているからだろうが!

何もしてないのに、急にスキルで攻撃されたら怒るわ…...


ああ…...疲れる。

頼むから、ちょっとの間で良いから…...落ち着かせてくれ…...




コムギのせいで、帰り道は散々だった。

魔物に追われて遠回りをしていたら、街に到着する頃には夕方になっていた。


散々走り回されたトンプトンはゼーハーしている。

こんなに疲れ切った姿は見たことない。心なしか、少し痩せ細ったようにさえ見える。


「ごめんな…...」


一方のコムギはそんな事を気に留める様子もなく、スキップしながら鼻歌混じりに歌っている。

あんだけ暴れれば、気分も良いでしょうね。


さてと、無事に帰ってこれた訳ですし…...

ガリアーニを締めに行こう。


疲れてはいたが、ふつふつと湧いてくる怒りで身体中に力が漲っている。

ウキウキ気分のコムギを外に放置したまま、入り口のドアを開けその姿を探した。


「ガリアーニさんを見ませんでしたか?」


「おー、君たち帰ってきたのか。

ガリアーニさんなら上の階にいるよ」


「ありがとうございます」


階段を登って、部屋に近づくと何やら声が聞こえてくる。

よし、いるな。

ドアを勢いよく引いて部屋に入った。


「ガリアーニさん、戻りました。

い・ろ・い・ろ、ありましたが何とか無事です」


「おー、無事で何よりだ」


ガリアーニが紅茶を啜りながら平然と答える。

こいつ…...自分のした事分かって…...

ん?


「あれ?その髪の毛どうしたんですか?

ちょっと焦げてますけど」


真っ白だった頭髪に、チリチリと焦げたような髪の毛が散見される。


「実は、帰り際にとんでもないスキルに巻き込まれてな」


ざまぁ!どうせなら全身真っ黒焦げになって欲しかったが…...


「あれは、あの娘のスキルだろう?君も苦労が尽きんな」


「いえ、あれは俺です」


「え?き、君なのかね?」


その答えを聞いたガリアーニは、少しばかりの動揺を見せた。


「そうですよ」


「ま、またまた〜

冗談はよしてくれたまえよ。そんな訳あるまい!ハハハハハ!」


「いや、俺ですってば。

もう一度やりましょうか?」


「ほ、本当か?」


「本当です」


「......そ、そーか、そーか!

き、君は思っている以上に強いんじゃな。ハ、ハハハハハ」


空笑いで誤魔化しているが、カップを持つ手がガタガタ震えている。

おいおい、溢すぞ。


「わ、悪いことをしたな!置いて行ったりなんかして。

もちろん助けに行こうと思っておったさ!

行こうと思ったタイミングで炎の塊に襲われてな。

いやー、危うく巻き込まれてしまうところだったよ。ハッハッハッハ!

な、なんにせよ無事でよかった!」


めちゃくちゃ喋るやん…...

不自然なくらい饒舌だぞ。


その様子に呆れて頭をかこうと手を挙げた瞬間、ガリアーニが

ビクッ、とした。


なんでビクッとしてんだよ。

もしかして…...ビビってんのか?

試しに、靴の裏で地面を、ドンっと強めに叩いてみる。


ビクッ!


「ど、どうしたのかね?

急にびっくりするじゃないか。ハハハ」


ビビっとるやん!

き、気持ち良い〜

リアクションが最高過ぎる。

もう少しこれで遊んでやろう…...


そうして暫くガリアーニの反応を楽しんでいると、気分はだいぶ晴れてた。

性格悪いな、俺。

でも、これでおあいこだ。

ガリアーニいじりにも飽きてきたし、これ以上は可哀想だからそろそろ帰るか。


「そろそろ帰ります、ガリアーニさん」


「そ、そうだな。

外も暗くなってきた事だし、今日はもう帰ると良い」


「はい。それでは失礼します」


ガリアーニにそう告げ、会釈をして部屋から出る。

部屋の外ではコムギが待っていた。


「早く帰ろーよ」


「そうだな。今日は疲れた」


建物を出て、昨日と同じ宿へと向かう。

宿泊先は、ビビってるついでにお願いしたら、ガリアーニが延長してくれた。

これで10地区にいる間は宿泊先の心配をする必要がなさそうだ。


部屋に辿り着くと、真っ先にベッドに飛び込んだ。

はぁ〜最高。

枕は柔らかいし、シーツがひんやりしていて気持ち良い…...

幸せ…...だ......



…...ハッ!

気付いた時には、帰ってきてから30分くらいが経っていた。

部屋を見回すとコムギの姿がない。

そして何故か、身に覚えのない奴が部屋にいる。


…...誰?


黒のスーツに身を包んだ、長身で黒髪の男だ。

そいつは、浴室の隙間を覗き込んで、ハァーハァー言っている。


「あのー、どちら様ですか?」


「…...チッ、邪魔が入ったか」


その男は不機嫌そうに言い放ち、こちらを向いた。

ビックリするくらい整った顔立ちをしている。


「わたしはニコリス。

魔王様の…...お兄ちゃんです!」


「お、お兄さん?」


本当の兄にせよ、本当じゃなかったとしてもカテゴリー変態は確定だ。


「で、お兄さんが何で風呂を覗いているんですか?」


「無論、魔王様の無事を確認する為だ!」


方法おかしいぞ…...

って言うか、妹の事を魔王様って呼ばないだろ。


「風呂ってそんなに危険でしたっけ?」


「何を言う!

絶え間なく水を浴びせ続ける凶悪な魔物いるではないか」


それ、シャワーな。


「それに大量の蒸気で視界を眩ませるとも聞くぞ!」


湯気な。


「それだけじゃない!海の如く水を溜め、対象者を沈めるイかれた手段を使うとも言うではないか!」


湯船な。


うん、確定だ。

こいつ頭おかしい。


すると次の瞬間、


「魔王様!今助けに参りますぞー!」


そう言い放った自称お兄ちゃんが、浴室の方向を向き、勢いよく扉を開け中へと入っていった。


「ちょ、ちょっと!」


そう言ったが、既に遅かった。


..............................ゴーン!ゴキッ、バキッ!ドゴッ、ボゴッ!


浴室から鈍い音が響いてくる。


それは数分ほど続いたが、暫く経つと静かになった。

ドアがゆっくりと開き、自称お兄ちゃんが出てくる。

ボコボコにされた姿で......


「やはり…...危険な場所だ」


そんなことを言いつつも、何故か達成感に溢れた幸せそうな顔をしている。

真性の変態さんだ。


それから少し空いて、コムギがため息をしながら出てきた。


「はぁー」


「何であんたがここに来てんのよ」


「魔王様成分を補充しに参りました!」


「あんまりふざけてると...…」


「本当です」


本当だろうな。

この変態。


「真面目に答えろっての!」


そう言って、コムギがニコリスのケツを蹴飛ばす。


「あ、あ〜〜」


こいつ、ちっとも痛がってない。

むしろ喜んでる…...


はぁ〜

この地区にきてから会う人会う人の癖がとにかく強すぎる。

まともな奴がいない......


「はっ!そう言えば、一つ思い出しました。

魔王様が参加必須の会合をすっぽかしたとイビルから苦情の連絡を頂いております」


聞いた話かよ。

って言うか、あんたもすっぽかしてるじゃねーか。


「わたしは魔王様をお守りする為にこっそり後をつけておりましたので知らなかったのですが」


それ、ストーカーってやつ。


「一度、居城に戻られた方が良いでしょう」


「そうね。戻らないといけない思ってるんだけど、わたしの意思だけではこの人から離れられないの」


コムギはそう言ってベッドに腰を掛け、俺の方に目を向けた。

勝手に行って来い、と言いたいところだけど…...目の届かないところに行くと何をしでかすか分からない。


「なるほど。この汚物次第ということですね。

ところで…...この汚物は誰ですか?」


汚物連呼すんな!と言うか、今更?!

さっき自己紹介してくれたじゃねーか!


「初めまして。ウェインです。

ニコリスさんですよね?」


「チッ」


あれ?舌打ち聞こえたぞ?


「どうもはじめましてにこりすです」


すっげー棒読み。

しかも、めちゃくちゃ態度悪い…...

たぶん、コムギが俺の隣に座っている事が気に食わないんだろう。


「それでどうするのです?このまま戻らないと言う訳にもいかないでしょう。

大切な話もある訳ですし」


「うーん、そうなのよね...…」


暫く沈黙の時間が流れる。

するとコムギが何かを閃いたようだった。


「そうだ!ウェインも一緒に行けば良いのよ!」


「行くって…...どこに?」


「決まりね!ニコリス、明日出発するから全員にまた声を掛けておいて」


「お、おい!勝手に決めないでくれ!」


「貴様は黙っていろ汚物。魔王様、承知しました」


「ま、待て!どこに行くんだよ?

それに、色々あり過ぎて疲れてるんだ。少しゆっくりさせてくれ」


「分かったわ。じゃあ出発は明後日に変更ね」


「いや、そうじゃなくて!まだ行くとは言ってな…...」


「行きます、よね?」


ニコリスが物凄い形相で俺を睨みながら尋ねる。

それに、右手の指先を鋭い刃物のように変化させてチラつかせている。

断ったら…...


「い、行きます!もちろん行きます!」


「チッ、最初からそう言っとけ」


返事を聞いたニコリスが物凄い小声で、吐き捨てるように呟いた。


「それでは魔王様、わたくしは一旦戻りますね。

明後日の早朝には、迎えを寄越しますので」


そう言うと、さっきまでコムギの入っていた浴室の扉を開け、

大きく息を吸い込んでから部屋を出て行った。

吸い込んでどうすんだよ…...


ついでに、ワザとらしく俺の足も踏んでいった。

か、関わりたくない…...



…...というか、行き先決まっちゃったよ。

この地区で暫くゆっくりしようと思っていたのに。

本来の目的なんて1mmも果たせていない…...


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