第39話 : 統治会議第三席 (3)
「分が悪いな……」
シロとコムギの2人を相手にしている時には弱音を吐かなかったユリウスだったが、自身の攻撃を思わぬ方法で防がれた事で、置かれている立場が悪化した事に気付いたらしかった。
『急に弱気になったか』
「お前たちの事を少し甘く見ていた」
『それで?』
「表現は好まないが……引くとしよう……」
『ふっ……妾が逃すとでも?』
「ああ、そうせざるを得ないだろう……お前たちには守るべきものがあるからな」
そう言うとユリウスは素早く腰を下ろして地面に手をつき、スキルを発動した。
「スキル解放……”冥霊行軍”!」
次の瞬間、地中から無数の魂が浮かび上がり、それらを土塊が包み込むことで人の形を作り上げた。
その数は、少なく見積もっても100以上だ。
「それと……ダリアは返してもらう。
スキル解放……”冥門・引”」
そう言い放つと、円盤状の闇色の空間がユリウスを飲み込んだ。
「スキル解放……”|冥門・放”」
その声が何処からともなく聞こえたかと思うと、背後に人の気配を感じた。
「……お主らが足掻こうと、行く末は決まっている。
覚悟しておくと良い」
ユリウスの声が聞こえたのは、真後ろだった。
「あっ……」
続けてダリアさんの声が聞こえる。
急いで振り返ると、ダリアさんは気を失っているのか、ユリウスに抱きかかえられた状態でぐったりとしていた。
「また会おう……ニベル・アドラクトにハイレインの娘よ。
スキル解放……”晦冥”」
そう言うと、ユリウスは再び闇の中へ紛れ姿を消してしまった。
『待て!逃すものか!』
逃げられまいと必死のシロは何とかユリウスを引き止めようとするが、土塊の人形がそれを邪魔する。
コムギやラリゴーも一緒になって土塊の人形を破壊していくが、何せ数が多い。
痺れを切らしたシロは、地区の住人の存在をも忘れ、強力なスキルの発動を試みる。
『”氷波……”』
まずい……これは山頂でコムギに膝をつかせた攻撃だ。
「シロ、それはダメだ!落ち着け!」
『……くっ』
何とか踏みとどまってくれたシロだったが、その表情は見た事も無いほど険しく、悔しそうだった。
「取り敢えず、こいつらを何とかしよう!」
ラリゴーとコムギの奮闘で徐々に減ってきているが、土塊の人形の数は半分にもなっていない。
強力なスキルを使っての攻撃では地区の住人に被害が生じる可能性がある為、地道に倒していくしかない為だ。
「あー!面倒くさい!
……わたし、こういうの向いてない」
コムギがそう言い放った時だった。
「スキル解放……”散炎弾”」
手を向けた先にいる土塊の人形に向かって、数十発もの真っ赤な炎の弾が同時に放たれる。
流石は魔王と言うべきか、この攻撃によって土塊人形の数が更に半分になる。
しかし、コムギが放ったのは地区住人の住居のある方向だ。
「おい!危ないだろ!」
「大丈夫よ。変な方向に行ったら、色白トカゲが何とかしてくれるから。
……って言うか、ウェインは何でこそこそ逃げ回ってばかりなのよ」
色白トカゲって、褒めてんだか貶しているんだか……
それと俺が逃げ回っているのは、戦う手段がないからだ。
現状使えるスキルは2つ。
地形を変えてしまうほどの強力なスキルか、相手の視界を10秒間奪うスキル。
前者の使用はあり得ないし、後者はそもそも土塊の人形に目が見当たらないから使っても意味がないと思う……
腰に脇差サイズの刀は差しているけど、切った事があるのは野菜くらいで、実戦経験が全くない。
「……」
「何もしてないなら口出ししないでくれる?」
「……はい」
コムギとそんなやり取りをしている間にも、ラリゴーは確実に一体ずつを仕留めて回っている。
先ほどのコムギのスキルのお陰もあってか、土塊人形の数も十数体にまで減ってきている。
「それじゃあ、最後は派手に決めますか!」
派手に決めないでください……
控えめにお願いします……
「スキル解放……”炎槍”!」
すると、一本の大きな槍状の炎がコムギの頭上に現れ、土塊人形に向けて手を振りかざすと同時に、それは勢いよく放たれた。
9体……10体……11体……12体……
次々と土塊人形を破壊していくが、槍状の炎の勢いは全く弱まらない。
「……あっ。強過ぎたかも……」
その様子を見たコムギがボソッと呟く。
ゴーンッ!!
それは、ミゴの屋敷に屋根を吹き飛ばした音だった。
槍状の炎のいく先を追っていた全員の目に、その光景はハッキリと映っていた。
幸い屋敷の上部を掠った程度だったので、最上階が半分ほど無くなっただけで済んだようだ。
怪我人がいないといいのだが……
「コムギ、宣言通りだな……」
「……壊すつもりは無かったんだけど。
い、色白トカゲがボッーっとしてるからいけないのよ!」
人のせいにするなよ。
まあ、お陰で早く片付いたんだが……
「シロ、大丈夫か?」
ユリウスの逃げた方角を向いたまま、先ほどから微動だにもせず無言のままでいる。
『……奴の居所を失ってしまった』
「その……止めたりしてすまなかった」
『いや、良いのじゃ……』
そう答えるとシロはこちらを向いてくれたが、その表情には悲壮感が漂っている。
「でも、ロゴポルスキーに行けばあいつは居るんじゃないのか?」
『そうであれば、ユリウスが生きている事を妾が知らなかった筈がない……
妾は幾度となく、ロゴポルスキーに忍び込んでいるのじゃからな。
……しかし、統治会議はその存在こそ知られているものの、何処にいるのかが分からないのじゃ』
「そうだったのか。だが……恐らく場所なら分かる」
『な、何じゃと!? 何か情報を持っておるのか?
いや、しかし……』
「確実とは言い切れないが、手段はある。
さっき連れて行かれたダリアさんの場所なら、何処に居ようとも正確に把握できるんだ」
『そんな事が出来るのか!? それもまた聞いたことのない類のものじゃが……』
そう、初期従属枠の達成によって相手の位置情報が把握できるようになったのだ。
シロやコムギに地図を見ることは出来ないが、俺にはダリアさんの居場所が把握できてる。




