第27話 : 採掘場の悪代官
「本国から遥々お越し頂きありがとうございます。
わたくし、当屋敷の主人でありこの地区の管理を任せて頂いております、
ミゴ・マーナでございます」
はいはい、生ゴミね。
「如何でしたでしょうか、当屋敷は。
本国の方にお越し頂いても恥ずかしくないように建てさせた、自慢の屋敷でございます」
「……ああ、悪くない」
嘘だよ。
正直、クソ気持ち悪りぃ。
真っピンクの外壁は百歩譲って良いとしても……
玄関扉とかカーペットとか、あらゆる場所をに自画像描くのは趣味悪過ぎ。
あと……お前の後ろにあるヌードの絵も何とかしろ。
誰得だよ。
「やはり、そう思われますか!流石、本国の方は目が肥えてますな!」
肥え過ぎておかしくなってんじゃねぇかな。
「ところで、本日はどう言ったご用件でお越しでしょうか?
連絡でしたら”共鳴石”で済みましょうに」
ご用件と言われてもな……
特にないんだが。
「……視察だ。
地区の管理が正しく行われているかを確認して来るようにとの申し付けを受けてな」
「左様でございましたか!」
「この地区の重要性はミゴ殿もお分かりでしょう?」
お分かりでしょう?って……こんな口調で話したの初めてだわ。
でも、悪い奴の話し方っぽいよな。
「それは勿論でございます!
そのような大任を授けて頂き、身にあまる光栄でございます。
して……如何でしたか?採掘場の様子は」
「そうだな……
集落の方にまで足を伸ばしてみたが、環境が良いとは言い難い」
「またまた、ご冗談を!
使者様は、ユーモアがお好きなのですかな?」
ユーモア?
何言ってるんだ、こいつ。
「冗談に聞こえるか?
彼らは消耗品ではないのだぞ?我らと同じ人間だ」
先ほどの光景を思い返すと、フツフツと怒りが沸いてくる。
「いえ、しかし……」
「しかし、何だ?」
「彼らは、”失敗作です。
この様な扱いを要求したのは、本国の方々ではありませんか。
私とて好きでしている訳では……」
やばっ……
そういう事だったのか。
「……試す様な真似をして悪かった。
ミゴ殿の本国への忠誠心を確認したまでだ」
誤魔化すの下手過ぎるわ。
しかし、先程まで狼狽えていたミゴは急に笑顔になった。
「そういう事でございましたか!
いやいや、これは一杯食わされましたな!」
うん……
君、素直なのね。
こんなベタな展開を受け入れてくれるなんて。
「こんな事はしたくなかったんだがな……
立場上、人を疑わねばならん」
やばい……話し方がどんどん変になっていく。
「とんでもございません!
お立場は重々理解しております……」
「……それで、最近はどうですか?」
この勢いに乗って、色々聞き出してみようと思う。
「はい。つい先日要請を頂きました通り、魔晶石の採掘量を増やしているところでございます。
出荷の準備も間も無く整う事でしょう」
採掘を増やしている?
何の為に?とは、聞けないよな……
一応、当事者側の人間になりきっている訳だし。
「そうか……その言葉が聞けて安心した。
本国の方にも報告しておこう。もちろん、ミゴ殿の仕事ぶりも含めてな」
「あ〜りがとうございます!
わたくし、使者様とは仲良くなれそうな気がしております」
そう言って、ミゴは手でスリスリさせながら身体を寄せて来た。
無理、マジでやめてくれ……
「も、もう用は済んだ。今日はもう帰る」
「えっ?もうですか?
まだいらしたばかりではありませんか」
「私とて暇ではないのだ」
「しかし……折角ですから、当屋敷自慢の温泉などに浸かられては如何でしょうか?」
……温泉?
そういえば、ここ数日お湯に浸かれていない。
コムギとラリゴーには申し訳ないけど……
「まあ、温泉くらいなら……」
「是非是非!旅路の疲れも、癒してくれる事でしょう。
ささ、こちらへどうぞ」
そうして俺はミゴの後ろに付いて行き、温泉へと案内された。
「こちらでございます。
ごゆっくりとお寛ぎになって下さい」
ひ、広い!
浴槽がめちゃ広いじゃないか。
『おい、ウェイン!』
周囲に人が居なくなったのを見計らったのか、シロが話し掛けてきた。
居るの忘れてた……
胸ポケットがモゾモゾしているなとは思ったけど。
『こんな事をしている場合ではないぞ』
「シロ、これも作戦通りだ。まずは、相手の懐に入らないとだろ?
ちゃんと考えてあるから安心しろ」
『むうぅぅ……そうは見えんがのぉ。
己の欲望のままに動いているとしか思えぬ』
はい、仰る通りです。
湯船、浸かりたいです!
「では、早速頂きますか」
超高速で服を脱ぎ捨て、超高速で身体を流してから、飛び込む様に湯船に突撃する。
「ああ〜、極楽……
幸せだ……」
さっきまで寒い雪山にいたもんだから、余計に気持ちよく感じる。
その様子を見たシロは呆れた顔をしながら、俺を見つめる。
『はぁ〜』
「どうした?」
『なんでもない……
そう言えば、気になったことがあるのじゃが』
「何だ?」
『妾には魔素の流れが見えるという話、覚えておるか?』
「ああ、覚えてるよ」
『奴らの言う、失敗作の意味が分かったかもしれぬ』
「本当か?!気になってたんだが、聞くわけにもいかなくてモヤモヤしていたんだ。
それで、何の事だったんだ?」
『恐らくじゃが……魔素の容量の話じゃ。
この地区で見た人間は、魔素の絶対量が圧倒的に少ない』
「魔素の容量?
ってことは、俺やラリゴーと一緒って事か?」
『いいや、違う。
ウェインやラリゴー?とかいうデカ女の体内の魔素は、正真正銘の零じゃ。
一方で、ここの住人には多少の魔素の流れは感じられるが、他の地域に住む人間共と違ってその量が圧倒的に少ない。あの程度の量ではスキルを使う事は出来ぬじゃろう』
「なるほどな……
しかし、そう言った人間だけがこの地域に集められているのは不自然な話だな」
もしかしたら……これは、人間がスキルを得た事に関係しているのかもしれない。
『それと……
お主と話していたミゴという男。
恐らく、あやつもここの人間じゃろう』
「あいつが?どういう事だ?」
『同じだったのじゃ。
あやつの体内を流れる魔素の量は、この地域の住人のものとな』
「じゃあ、あいつは同じ境遇の人間にあんなに酷い扱いをしてるって事か?」
いや待てよ……
そう言えばあいつは、私とて好きでしている訳では……と言いかけていた。
何か事情があるのかもしれない。
こうしちゃいられない。
すぐにでも話を聞かないと。
……もう少し浸かってから。




