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魅了[絶]?! カンスト(Lv.99)一般職男子  作者: たかしたま
人魔統一編 ~序~
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第26話 : 軍事国家への潜入

「ここがタンブレニアなのか?」


俺の目に映っているのは、ボロボロの平屋が連なる一つの集落の姿だった。

そこには、ちらほらと人の姿も見られるが女性と小さな子供しかいない。


少し遠くに目をやるとピンク色の塗装を施した絢爛な建造物が見えるが、その姿はこの地域に似つかわしく無い。

良くいる悪代官的な奴だろうか……


『男どもは坑道の方に駆り出されておるのじゃろう。

日が傾けば戻ってくる』


なんというか……目に映るタンブレニアの姿は想像と全く違う。

少なくとも、俺の目を通した歴史書には、国交を断絶した軍事国家として記してあった。

それを感じさせるものが一切ない。


これも、ニコリスの言っていた作られた歴史の一部なのだろうか。


って言うか、こんなにあっさり入れて良いのか?

確かにシロは行けば分かると言っていたけど、正直拍子抜けだ。

山の麓には警備と思わしき人間は1人も立っていない。


「いつもこんな感じなのか?」


『そうじゃ……少なくとも妾の知る限りはな。

ここに警備らしき人間が立っていることなど見たことがない』


ここまで簡単に入れてしまうと、逆に不安になってくる。


「それで坑道まではどうやっていくんだ?」


『正面に見える趣味の悪い建物を目指していくがよい。

暫くするとそれらしきものが見えてくるじゃろう』


趣味の悪いって、遠くに見えるピンク色の建物の事か。

まあ、住みたくはないな……


しかし、ここの住人たちは何で俺の事を気にも留めないのだろう。

時折視線は感じるが、何事もないかのように無関心を装っている。


何だが気持ち悪い……

見えない恐怖に抑圧され感情を押し殺しているようにも見える。

その様子から、タンブレニアにまともな執政者がいない事は想像に難くない。


『この光景を見れば、気分も悪くなろう。

……それに、此処に居る人間達には共通して不思議な事があるのじゃ』


「不思議な事?」


『そうじゃ、体内の魔素が……』


そう言いかけたところでシロは声を押し殺し、言葉を飲み込んだ。


それは丁度、人間の男に引かれて自身の数倍もの大きさの荷を積んだ魔物が隣を通った時だった。

おそらくファーモウだったが、グランへイルドで目にした事のある姿とは見違えるほど痩せ細っており、身体には痛々しい傷が刻まれている。


その光景に耐えかねてか、胸ポケットにいるシロが怒りに身を震わせている。


魔物は、魔族のなかで言語による意思疎通が困難な種として扱われているが、シロからすれば同族にあたる。


これほど凄惨な光景を目にしても、シロは手を出す事が出来ない。

コムギパパの努力を無駄にしてしまうだけでなく、新たな犠牲を生みかねないからだ。

シロは、ただ見ていることしか出来ない自分が許せないのだろう。


「建物、見えてきたぞ」


平屋の集落が集まっていた山の麓付近と違い、この付近には大小様々な倉庫らしき建物が連なっている。

人の姿も徐々に増え、大きな袋に詰められた荷を運ぶ屈強な男達が目に映る。

しかし彼らも麓の住人達同様、俺たちの存在を無いものかのように扱っている。


『……うむ。

建物の周辺は警備が厳しい故、できるだけ建物を迂回するように音のする方へ向かうと良い』


音……?

立ち止まってじっと耳を澄ますと、金属を何か硬いものに叩きつけるような音が聞こえてくる。

採掘している坑道が近くなってきたのだろうか。


「分かった。音のする方だな」


シロの言う通り、ピンクの建物とは一定の距離を保ちつつ微かに響いてくる音を頼りに坑道を探す。そうして、暫く歩いていくと、遂に坑道の元へと辿り着いた。


最初に目に入ったのは、深く深く掘られた穴だった。

幅はおよそ200m、深さは覗き込んでも底が見えないほどだ。


そして、その地下鉱山の出入り口と思しき場所からは、空の袋を掲げた男達と中身の入った大きな袋を肩に背負った男達が代わる代わるに出入りしている。


『これこそが、タンブレニアの真の姿じゃ』


「……」


思わず言葉に詰まってしまう。

いや、言葉が出てこない。


国交断絶中の軍事国家なんて、真っ赤な嘘だ。


『ウェインの掲げる理想は、妾も素晴らしいと思う。

しかし、この光景を見てもそう言えるか?』


地下鉱山で働かないされている人間の姿は、奴隷そのものだった。

出入口付近では、管理者と思われる男が鞭を使って坑夫を威圧している姿が見える。


坑夫達は一言も発する事なく、指示されるがままに黙々と仕事をこなしている。

その目に力はなく、表情からは生気を感じられない。


その光景を見ていると、自分のやろうとしていることに自信が持てなくなってくる。

同じ人間に対しても酷い事をしている人間が、魔族と共存する事なんて出来るのだろうか。


少なくとも、こんな事をしている人間がいる限りは叶わないのかもしれない……



そうして直面した事実に頭を悩ませていると、突如背後から声を掛けられた。


「すみませ〜ん。

どちら様ですか?お姿から察するに、失敗作(フェイルド)ではなさそうですが……」


失敗作(フェイルド)

何のことだ……?


『ロゴポルスキーからの使いとでも答えておけ。

統治会議の使いだとな』


シロが小声で囁く。


統治会議?

それまた聞いたことないんだが……


「えーっと……

ロゴポルスキーから来ました。統治会議……からの使いです」


声を掛けられるなんてと思っていなかったから、スムーズに答えられない。


「これはこれは!本国の方でしたか!

大変失礼致しました!ご無礼をお許し下さい……」


声を掛けてきた男は焦った様な表情を見せ、必死で謝罪をしてくる。


「こ、こんな汚いところに居てはご気分を害される事でしょうから、屋敷の方へお越しください!ミゴ様もお喜びになられるでしょう」


ミゴ?ゴミみたいな名前だな。

趣味が悪いとシロに言わしめた、あの屋敷の主人のことだろうか。


行くべきか迷うけど……

こんな光景を見た以上、何もせずには居られない。


とは言っても、何が出来るのかは分からないんだが……


「分かった……

連れて行ってくれ」


「かしこまりました!」

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