第23話 : 竜との遭遇 (2)
誰彼構わず発動されちゃうのね……
しかし冷静に考えたら、コムギだって魔族(魔王)だ。
それでも百歩譲って、コムギの見た目は人間そのものだから良いとして、
目の前に居る方はゴリゴリの竜。
今まで魅了に掛かった4人のうちの半分が人外。
綺麗なお姉さん達どこ行った!
……こんな展開、予想できる訳ないだろ。
改めて目の前の竜のステータスを確認してみると、
《対象従属者ステータス》
状態:魅了
名前:□□□□□□□
性別:♀
年齢:不明
種族:魔族 (竜)
突っ込みどころが多過ぎるんだが……
まず、お名前が豆腐。
対応する文字コードがなくて、エンコードできなかった的な?
年齢は、もう良いや。
気にしたところでね……
「……それよりも、コムギは大丈夫か?」
「うん。何とか。
あと一発食らってたら危なかったかも。
その……ありがとね」
いえいえ……
途中まで逃げる気満々でしたので。
ありがとうなんて言われると、胸が痛いです。
「気にするな。当たり前の事をしたまでだ」
取り敢えず、決め台詞は吐いておく。
全く格好良くはないが。
「それにしても不思議ね。あの竜が、急に大人しくなるなんて。
ウェインは、一体どんな力を使っているの?わたしの事と言い、デモニスのことと言い……
そんなもの今までに見たことないもの」
「その正体は、ウェイン様の魅力ですわ!
私、こんなに素晴らしい殿方に出会ったのは初めてですもの!」
はい、ありがとう。
全然嬉しくない。
「そんな事より……
こっちは、どうするんだ?」
竜の方へと目を向けると、その巨体に似合わず体をくねくねさせながら、時折こちらをチラチラを見つめてくる。
これまたリアクションに困る。
『そんなに見つめないでおくれ……
動悸が、収まらぬではないか』
今までで一番効いてるじゃないですか……
しかし、竜か。
連れていければ、かなり便利だ。
空を飛んで移動できるし、いざという時の戦力として、これほど頼もしい存在はいない。
しかし、でかいよな……
こんなに目立つ奴を連れてロゴポルスキーに乗り込む訳にもいかない。
ただでさえラリゴーという色んな意味で目立つ奴がいるって言うのに、そこに更にデカい竜を連れて歩いていたら、私たちを見てください!と言っているようなものだ。
でも、もしかしたら人間になれちゃったりしないかな。
そういうパターンって、良くある気がするんだが……
「えーっと……」
そう言えば、名前わからないんだった。
「何て呼べば良いか?」
『お好きなようにお呼びください……
肥溜めでも雑巾でも、何でも構いません』
「……」
俺はいじめっ子か何かか?
「じゃあ、雑巾ね!雑巾竜!」
コムギが口を挟む。
だっさ……
『お主は黙っておれ!妾はウェインと話しておるのじゃ!』
「そしたら……
シロ、はどうですか?」
咄嗟に出てきたのは、前世で飼っていた真っ白の毛色をしたマルチーズと同じ名前だった。
鱗真っ白だし……
『何と可愛らしい!是非、シロとお呼びください』
あ、気に入ってくれるんだ……
それにしても、自分のネーミングセンスの無さよ。
コムギは、健康的な小麦色の肌をしていたからコムギ。
この竜は見惚れてしまうくらい真っ白な鱗をしていたからシロ。
呼びやすくて良いけども……
「それで、シロ。
お前は人の姿になれたりしないのか?」
『人の姿に?
……なれる訳なかろう。不思議な事を聞いてくるもんじゃ』
そうだよな……
竜が人の姿になれる訳ないよな……
『して、何故そのような質問を?』
「いや、連れて行けたら良いなと思っていたんだが。
流石に、その巨体では目立つからな……』
『ほう、そうであったか!
であれば……』
そう言うと、シロは大きな翼で自らの身体を覆い隠すような仕草を取った。
すると……
シュルシュルっと、徐々に身体のサイズが縮んでいく。
『これならどうじゃ?』
人の姿になれる以上の衝撃だよ。
って言うか、手乗り竜可愛すぎる……
「す、凄いな……」
『もっと小さくなれるぞ?』
そう言ったシロのサイズはどんどん小さくなっていき、最終的には米粒ほどの大きさになった。
『どうじゃ?』
いや、凄いけど。
声も小さくなってる……
「あー、十分だ……これ以上小さくならなくて良い。
取り敢えず、手のひらサイズに戻ってくれ」
手のひらサイズが一番可愛い。
「それで……ここに用があるなら無理にとは言わないが、良ければついて来てくれないか?」
『もちろんじゃ!妾は言われなくとも付いて行く気でおったぞ?』
「え〜、やだ!反対!」
暫く黙って様子を見ていたコムギが口を挟む。
『煩いのぉ。散々痛めつけてやったと言うのに、まだ足りぬか?』
「はっ!上等じゃない。あんな攻撃、屁でもないわよ!」
『ほう?口だけは立派じゃのぉ。
では、もう一度受けてみるか?』
「望むところよ!どこからでも掛かって来なさい!」
……やっぱり連れて行くのやめようかな。
「おい!もう良いから、やめてくれ。
コムギもその身体で無理言うな」
『はい、ウェイン』
シロ、素直でよろしい。
「いやよ!あいつに痛い目見せてやるわ」
コムギは戦いの興奮がまだ収まらないのか、引く気配を見せない。
「ラリゴー、ちょっとコムギを落ち着かせてくれ」
「畏まりましたわ」
「ラリゴーさん、余計なこ……」
指示を受けたラリゴーは、目にも止まらぬ速さでコムギの首元に向けて手刀を振り下ろした。
瞬間、コムギの意識は飛び、再び膝から崩れ落ちた。
落ち着かせる……ではなくて、黙らせたのね……
手っ取り早いけども……
それに、手負いとはいえ、魔王を手刀で一撃。
一度で良いから本気で戦う姿を見てみたい。
シロやコムギよりも強かったりして……
「……山を降りようか。
ラリゴー、コムギを頼んで良いか?」
「ええ、勿論ですわ!」
「それで、シロ。出発前に、一つだけお願いがある。
コムギの最初の攻撃を防いだやつを、もう一度見せてくれないか?」
『それは、氷結息吹の事かい?』
「ああ、それだ。
そのサイズのままで良いから、あっちの方に向けて頼む」
『はぁ……別に構わぬが……
氷結息吹!』
よし、これで俺にも使えるように……
……あれ?
《発動可能なスキルがあります。発動したいスキルを読み上げて下さい》
・獄炎 [1/1]
・奪視 [0/1]
・氷結息吹 [※解析不可]
……解析不可?




