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魅了[絶]?! カンスト(Lv.99)一般職男子  作者: たかしたま
人魔統一編 ~序~
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第20話 : 故郷からの脱出

「ウェイン様、心配してましたわ!大丈夫ですか?」


地下に入るとラリゴーが心配そうに声を掛けてきた。


「……ああ」


「ホントに?顔色悪いけど」


いつもは茶化してくるコムギも、この時ばかりは気遣ってくれる。


「色々とあってな……」


「それで、この後はどうするの?」


「この場所に長く留まっている訳にもいかないな」


むしろ、自宅で近衛師団を撒いてしまった事で事態は悪化していると考えるべきだろう。


「今日の夜中にここを立つ。長く留まっているとリエイムにも迷惑が掛かるからな」


「……そうね。そうすべきでしょうね。

でも、ロゴポルスキーにはどうやって入るの?」


「公務証で入るのが一番安全で確実な方法だったんだが……

他に手段が無い訳ではないんだ」


「具体的には?」


ギシギシ……ドッドッド……


コムギが質問を投げかけてきた時、上の方から足音らしき音が聞こえてきた。

それはリエイム1人だけのものではなく、数人のものだ。


耳を澄ませると、数人の男達とそれに受け答えるリエイムの声が微かに聞こえてくる。

詳細までは聞き取れないが、恐らく近衛師団の連中だろう。


暫くジッとしていると再び足音が響き、扉を強く閉める音が聞こえてきた。

なんとか乗り切れたようだ。

地下に隠れていなければ危なかった……


少し経つと、事態を切り抜けたリエイムが地下室を覗きにきた。


「近衛師団が来てたよ。全身を黒色のローブに覆ったヤツを見なかったかだってさ」


「巻き込んですまないな……」


「良いのよ。ただ、いつまでも此処で匿っていられる自信がないわ。

力にはなりたいんだけど」


「いや、良いんだ。今こうしてくれているだけで十分だ。

もともと長居するつもりはなかったしな」


「でも、この地区での目的は果たせていなんでしょ?」


「それは仕方ない。何にせよ、今夜中にはこの地区を離れる」


「……それが懸命よね。

ねぇ、ウェイン。私も付いて行ったら駄目?」


「駄目だ。お前にはこの国での立場と役割があるだろ」


「それはそうだけど……」


「用事を済ませたら、また戻ってくる」


「絶対だよ?」


そう言ってリエイムは俺に抱きついてきた。


い、良い匂いや……

嬉しかないけど……


「もちろんだ」


これは俺自身への決意表明でもある。

絶対に無事に戻ってくる。


「今日は夜通し移動する事になるから、出発するまで少し休ませてくれ。

コムギとラリゴーもそのつもりで頼む」


「はーい」


「リエイム、俺たちは少し休むから、あと3時間したら起こしに来てくれないか?」


「分かったわ。ゆっくり休んでね」



リエイムにそう告げてから、俺は地面に敷いてある布の上に横になった。

頭の中は変わらず混乱していたが、寝不足と疲労が相まって眠りにつくまでに時間は掛からなかった。


.

.

.


眠りついてからどれだけの時間が経ったのか分からないが、俺はリエイムが起こしに来てくれる前に目が覚めたようだった。

身体にはまだ怠さが残っているが、睡眠のお陰で混乱していた頭も幾分かスッキリとした。


暫くすると再び地下への扉が開かれる音がした。


「あれ?もう起きてたの?」


「ああ、ついさっきな」


「まだ少しだけ時間あるよ?」


「いや、十分だ。だいぶスッキリした」


「そう……」


リエイムと俺の間に暫く沈黙が流れる。


「……あの二人は、旅で知り合ったの?」


「そうだ……

意図したものではないんだがな」


「ウェインらしいわね。そういうところ」


「かもしれないな……」


再び沈黙が流れる。


……これ男同士の間の雰囲気じゃない。腹の探り合いしている男女のやつ。


「そろそろ起こすか」


そう言って腰をあげると不意にリエイムが顔を近づけ、俺のおでこに唇が触れた。

唇、やっわらか……

おじさんびっくり。


「無事に戻ってきたら、今度はちゃんとキスしてあげる」


はい、結構です。


「コムギ、ラリゴー起きろ。

そろそろ出発する」


声に反応したコムギがのっそりと起き上がる。

ラリゴーは地面に座ったまま、微動だにしない。


大きな声を出す訳にもいかないので、身体を揺すって起こそうと近づくと涙を流しながら呆然としてる。


「おい、どうしたんだ?」


「ウェイン様のファーストキスは私が頂こうと思っていましたのに……」


阿呆。

やるか、お前なんかに。


「……とにかく準備をしてくれ。

この時間が丁度いいんだ」


コムギはのろのろと、ラリゴーは涙を涙を拭いながら準備に取り掛かった。


「リエイム、外の様子だけ確認してきてもらって良いか?」


「うん。見てくるわ」


そう言うと、リエイムは地下から出て外の様子を確認しに行ってくれた。


「二人とも準備は良いか?

ここを出るまでは油断できないから気を抜くなよ」


「ウェイン!外は大丈夫そうよ」


様子を見に行ってくれたリエイムが状況を伝えてくれる。


「よし、行こう」


俺が地下から出たのに続いて、コムギとラリゴーが出てくる。


「リエイム、色々ありがとうな。

それと、巻き込んで本当にすまなかった」


「良いのよ……

久しぶりに会えて嬉しかったわ。気を付けてね」


後ろでは、コムギとラリゴーがお辞儀をしてお礼を伝えている。


「コムギ、ラリゴー。暗いから見失うなよ」


「うん。大丈夫」


まだ若干眠そうだが……


「それじゃあな、リエイム」


最後にその言葉だけを残して、俺たちはリエイムの家を離れた。


行き先は、王宮の厩舎だ。

この時間になると厩務員は職務を終えて自宅へと戻っている。

それに、厩舎の警備はそこまで厳しくない。

とは言っても、全く無い訳ではないから多少強引な手段を取らざるを得ない。


「ラリゴー、力を貸してもらうぞ」


「はい……分かりましたわ」


声のトーンが低いのは、まださっきの事で落ち込んでいるからだろうか。


リエイムの家から歩く事数分、目的の厩舎が見えてきた。


物陰に隠れて様子を伺ってみたところ、入り口付近に警護に当たっていると思われるら人物が3人ほどいる。男が二人に女が一人。


「ラリゴー、俺が合図を出したら男二人を頼む。

コムギはじっとしてろ」


そう言って、俺は身を包んでいたローブを脱ぎ、警備の女性の方へと向かっていった。


「あの、すみません。ここに行きたいんですけど道に迷ってしまって……」


そう言って俺は、一枚の紙を渡した。


「道、ですか……」


突然の質問に女性は困惑している。

そして渡された紙の方へと目を落とした。


「ウェインマーカス通りの3番地…」


名前を呼んでは貰えたが、まだ目は合っていない。


俺の様子を不審に感じたのか、他の二人の警備の男達も女性の方へと向かってくる。

しかし次の瞬間、女性は俺が思い描いた通りの行動をとった。


「あのですね、この地区にウェインマーカス通りなんていうのは……」


そう言う彼女の目は俺の方へと向いている。


よし、掛かった!


すると、彼女の瞳が真紅に染まり、首筋に紋様が浮かび上がる。

それを確認した俺は、背中の後ろで右手を上げ、ラリゴーに合図を送った。


ドタッ


合図を出しのとほぼ同時に、二人の男は地面へと崩れ落ちた。


はっや……


仕事をこなしたラリゴーは、涼しい顔で倒れた男たちを見下ろしている。

全然見えなかった……


「バミルダさん、ですよね?」


「……はい、そうです」


彼女の顔の横に表示された画面にはその名前が記されていた。


「イダリオンのところまで、案内してもらえませんか?」


「かしこまりました」


バミルダは俺の指示に従って、その場所まで案内してくれる。

イダリオンは長距離の移動や物資の輸送、更には戦闘時にまでマルチに活躍する魔物で、普段なら近衛師団など国の管轄にある部隊にしか乗る事が許されていない。

一番の特徴は持久力だが、小柄なマウランと違って大人3人が乗れるほどの大きさがあり、それでいて瞬発力も申し分ない。何より性格が温厚で従順なので扱いが簡単だという。

乗ったことはないけれど……


「こいつにしよう」


厩舎に入って一番最初に目に付いたのを選んだ。


「バミルダ。今からこいつに乗って行くが、今日あった出来事は絶対に口外するな。良いな?」


「はい……かしこまりました」


その言葉を聞いてラリゴーに目配せすると、意図を察したラリゴーが手刀を一閃させ、バミルダを気絶させた。


「二人とも乗ってくれ。

コムギは俺の後ろ、ラリゴーは一番後ろで頼む」


何度も言うが、乗ったことはない……


「よし、行こう」


全員がその背中に跨ると、イダリオンは手綱に従うがままに走り出し、わずか数分で地区から抜け出した。




故郷からの脱出

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