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第二話 不穏な女生徒2

「そこに誰かいるな」

 思いもがけなかった展開にカナメは動揺を隠せなかった。そして自らの愚かさを悔いた。件の女生徒が異形側の存在だという可能性だって十分にあり得たにも関わらず、不用意に近付いてしまったことを。

「その、化物は一体なんだ」

 精一杯にカナメは虚勢を張った。彼女が作り出したあの異形、まだ完成には至っていないとみえる。とはいえ一介の高校生であるカナメが戦えばなす術もなく殺されてしまうだろう。あの夜は何もかもが特別だったのであるから。

「まあまあまあ、君には関係ないよ。今ここで見たことを忘れて立ち去りな」

 左右に下ろした髪を撫でながら、女生徒は興味なさそうにそう告げる。腰と勇気が引けてしまったカナメは一歩、二歩と後退りをした。言う通りに、全てを、あの夜のこともいっその事忘れてしまって、逃げ出してしまうかという考えが頭に浮かんでいた。

「いや、やっぱり待て。よく見たらお前……始まってるな」

 しかし、女生徒は突然カナメを呼び止める。



「気が変わった。死んでもらう」



 異形が女生徒の元を離れてカナメへとゆっくり歩を進め始める。その異形は身体を黒い羽毛に覆われ、鋭利な嘴と鉤爪を持っていた。カラスを象って創造された、そういう異形だった。その眼光は鋭く殺気に満ちており、カナメの喉元を喰いちぎるという意志にひしひしと満ちていた。カナメは恐怖に足がすくみ、屋上の扉にもたれ掛かることしかできないでいた。


 自分はこのカラスの異形に殺される、近づく異形にカナメはそう感じずにはいられなかった。


 その時、カナメの横を黄金色の人影が風のように通り抜け、その勢いのままに異形を蹴り飛ばした。異形は女生徒の元まで転がっていき苦しそうに呻き声をあげた。

「ツバメさん!?」

 その姿にカナメは見覚えがあった。あの夜に出会った、あの、神鳥谷ツバメだと。その黄金の戦士の姿もあの夜のままにどこかぼんやりとした姿をしていた。

「おやおやおや、やはり何処かで見ていたのだな」

「カナメは……やらせない!」

 女生徒は想定の範囲内だとばかりに不敵な笑いを浮かべ、常に余裕のある態度を見せている。

「その身体はどうした!?」

「借りているんだよ、この姿と身分は何かと都合がいい」

 ツバメは戦闘態勢を崩さない。チリチリした空気がひしめき、ジリジリと距離を詰めていく。

「そんなに怖い顔をするなよ、たまにはお話でもしようじゃあないか」

 黄金の外装に覆われているツバメの表情を伺うことなどできないであろうに、女生徒はツバメを挑発する。

「ふざけてばかりいるんじゃあない……!」

「はあ……まったく、じゃあこいつは引っ込めるよ」

 女生徒は足元に転がった異形を蹴飛ばした。低く苦しそうな唸り声を上げたカラスの異形は、翼を広げて屋上から何処かへ飛び去ってしまった。

 異形の姿が消えたことを確認したツバメは変身を解く。ポニーテールが揺れ、顔には汗が滲んでいる。ツバメの姿を見た女生徒はくつくつと不気味に笑い、言った。

「自己紹介をしておこう、この姿の私は雀宮マキエ、だ」

 その名前にカナメは聞き覚えがあった。話したことこそなかったが、別のクラスにその様な名前の女生徒がいることくらいは知っていたのだ。

「か、借りてるってなんだよ」

 カナメは隣にツバメが来たことで、湧いてきたその勇気で問いかける。

「そのままの意味だが……」

 そう言うとマキエは、ブラウスのボタンを上から数個外して胸元を露わにした。その腹には、銀色のバッタの様なモノが取り付いていた。それはバッタにしては大きい。体長は二十センチメートルほど、そして十本足をしている。その表皮はぴかぴかとしていて、地球の物質とはどれも違うように見えた。

「私がこの地球人の身体を借りている、ただそれだけだよ」

 マキエは、腹のバッタはそう言った。

「外道が……!」

 ツバメは吐き捨てるようにそう言った。

「そう怒るなって。そうだいい事を思いついた」

マキエは無邪気に笑い、続ける。

「私とゲームをしよう。さっきのアレ、あいつみたいなのはこれからも作る予定なんだ」


「アレと闘って見せてくれよ」


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