第一話 運命の夜3
低く唸るような、重い音が小屋に響いた。
「だいぶ距離をとったと思ったが、近いな……」
ツバメは口惜しそうに言った。そして矢継ぎ早に続ける。
「あまり時間はないようだ。申し訳ないが君の疑問に一から十まで悠長に答えている時間はない、だから君は立ち去ったほうがいい。二手に別れればあれは私を追いかけるから」
泣きそうになりながら、続ける。
「私のことを助けてくれようとした人がいるなんて思わなかったから、嬉しかったよ」
堪えていた涙が頬をつたりそうになった時、ツバメはカナメの前から立ち去るつもりで立ち上がった。カナメは思わずツバメの腕を掴んで語りかける。
「さっきからずっと君は泣いている。巻き込みたくないとか意地を張ってないで助けてって言えばいいじゃないですか」
震えながら、カナメは問いかける。
「僕は貴女を助けられませんか?」
「……いいのか? 本当に危険なんだぞ?」
「かまいません」
「本当に本当に! 死ぬかもしれないんだぞ!?」
「僕が貴女を守ります! 二人で犬死にする気もありません!」
突如、二人はとてつもないプレッシャーを覚える。異形が小屋の前まで来た、と肌で感じたのだ。
ツバメはカナメの引っ張り上げて立ち上がらせる。そして涙を拭い、名乗りをあげた。
「私は神鳥谷ツバメ! 君を私の運命に巻き込んだ悪魔の名前だ!」
カナメもまた、名乗りをあげる。
「僕は笹切カナメ! 貴女を助けるヒーローの名前です!」
斯くして、ツバメとカナメ、二人の数奇な運命は、交わりを始めた。
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「私の姿が変わるのは見ていたな?」
カナメは頷く。
「ならば話は早い。私ではなく君があれに変身するんだ」
「それで勝てますか?」
「その為に作ったんだ、勝てるさ」
ツバメは言い切る、しかしカナメには一抹の不安も残っていた。一部始終を見ていたのだ。ツバメが変身する所も、ツバメの力が全く通用しない所も。
「私にはもう可能性がなかった、だから進化できずに負けた。しかし君には進化の可能性があるようだ」
その時小屋が揺れた。もうあの異形が扉の前にいるようだ。二人はそう感じた。
「やるぞ……やるぞ、やるぞ!」
ツバメは己を鼓舞するかのように叫んだ。そしてカナメの手を取り、自らの左胸に当てた。
「えっ?」
カナメは突然のことに驚き少し取り乱したが、ツバメは集中し、その様子には気付いていないようだった。
「大丈夫……うまくやれるさ……」
ツバメは最後にそう呟き、悲痛の叫びをあげる。カナメの手を力任せに、自らの胸を貫かせ、心臓を握らせたのだ。小屋が紅く染まり、カナメは血の匂いと出来事に思わずむせ返った。
ツバメは最後の力を振り絞り、カナメに握らせた心臓を、カナメの左胸に当てる。ツバメの心臓はそのまま、カナメの身体に吸い込まれていった。
ツバメの心臓は乳白色の流体を大量に放出し、黄金色の光でカナメを包んだ。
発光が収まると、そこには黄金色に戦士が、胸に穴の開いた血だらけの少女を抱えて立っていた。