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第一話 運命の夜2

 ツバメと異形による攻防を、一部始終を目撃していた少年がいた。少年の名は笹切カナメ。天体観測を趣味とする齢17の高校生である。

 戦いの現場はそこそこの山奥であるが、カナメは中学生の頃より毎日のように訪れる勝手知ったる場所だった。己の趣味のため、文明から光から離れて星空を眺めるお気に入りの秘密基地の様な場所だった。

「……」

 自身の安息の地を汚されて悔しいような、目の前の殺し合いに恐怖するような。自分と同じ位の歳と思われる少女の戦いに苦悶するような。カナメは考えも感情もまとめることが出来なかった。

 考えも感情もまとめることが出来ないのに、カナメの身体は自然に動いていた。恐怖する本能のアラートも危険だと判断する脳の常識も捨てて。目の前の少女を、異形へと身体が変化する前に涙を零した少女を助けたいという正義で。


 カナメは身体と意志は既に走り出していた。


 勝算などあるはずも無く、無我夢中で叫びながら恐ろしい異形へと一直線にカナメは走った。その時、発光を見せていたツバメの身体から微かに一筋の粒子がカナメへと流れていった。それは瞬時にカナメの全身を巡った。あまりにも微量な粒子、あまりにも僅かな時間の出来事であったのでその現象を観測できたものはこの場にはいなかった。しかしその現象が原因か、カナメの勢いは確実に増していっていた。


 そして遂に、カナメは異形の元へと辿り着き、渾身の一撃を異形へと叩き込んだ。


 ツバメの攻撃を意にも介さなかった異形が、ツバメを五年間に渡り苦しめ続けてきた異形が、カナメの一撃で吹き飛び後方の大木へと叩きつけられた。それはカナメの力だけで起こりうる力では到底ない。しかし、勢いに任せていたカナメは自身の身体の異変にも、驚くべき力の発揮にも自覚することができなかった。火事場の馬鹿力、アドレナリン、そしてカナメの身体を巡ったツバメの流体。相乗した結果がこの一撃だったのであろう。

 カナメはその勢いのまま、ツバメを抱えあげた。

「えっ? あれっ? ちょっと……」

 ツバメも突然の出来事に頭が追いついていなかった。混乱してとにかくカナメを振りほどこうとした。

「とにかく逃げよう! あんなの何とかできるわけないだろう!?」

「……ああ」

 ツバメも取り敢えずは提案に賛同し、カナメにその身を預けるとこにした。そして徐々に身体の変化も治まり、ごく普通の女子の姿へと戻っていった。


 この時にもカナメは人間離れした力を発揮していた。人一人を抱えて暗い山道を驚くべき速度で逃走していたのである。それも一時間にも渡ってだ。カナメにとっては慣れた道ということを差し引いても、普段の彼の能力を遥かに上回った走破力であった。

 そして二人は山の頂上付近の小屋にたどり着いた。異形も振り切ったのであろうか、姿は見えないが暗闇から突然現れそうな不気味さも感じる。しかし流石にカナメも息絶え絶えの様子であった。二人は山小屋に腰を下ろした。ツバメはここまで神妙な面持ちであったが、重い口を開いた。

「ありがとう」

「……ああ、はい」

 あまりにもシンプルな礼を言われ、カナメは気の抜けた様な返事しかできなかった。

「あれは一体何なんですか。貴女も姿が変化していたけど、何者なんですか」

「……」

 カナメが当然とも言える疑問をぶつけると、ツバメはまた押し黙ってしまった。数秒間沈黙が続いた。そしてツバメは辛そうに口を開く。

「巻き込まれたいならば答えよう。そうでなければ何も聞かずにこの場から立ち去ってくれ」

 ツバメは口早に続ける。

「私がずっと一人で逃げ回ってきた、あんな化け物に立ち向かって助けてくれた君はとてもいい人なのだと思う。そんないい人を出来れば巻き込みたくはない」

 さらにポツリと付け加えた。殺されてしまうかもしれないから、と。

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