第6話 またね
今日は天くんがお引っ越しをする日──
すっかり晴れて、気温も上がったので、春物の上着を着て、私はママと一緒に天くんのお家へとやって来た。
タンスやソファといった大きな家具が、次々と運び出されていく様子に、口をポカンと開けていると……。
「あっ、いのりっ!」
天くんが私に気付いてくれた。
「天くん、おはよっ!」
「おはよう。いま、ボクのものを箱にしまってたんだけど、いのりにわたしたいものがあるから、おへやにきてくれる?」
「うんっ! いのりも天くんに、おてがみかいてきたんだよ」
大人達の間をスルリと通り抜け、ふたりは天くんのお部屋へとやって来た。
もう何度となく訪れているこのお部屋にも、遊びに来るのはこれが最後だ。
「おへやひろぉい!」
「大きなものはさっき、ひっこしやさんが、もって行ってくれたからね」
「そっかぁ」
部屋には段ボール箱が3つに、かわいい動物さんがプリントされた紙袋が1つ置かれている。
天くんはその紙袋を両手で持つと、私に差し出した。
「これ、いのりにあげるよ。中はおうちにかえってからあけて?」
「わかった。ありがとっ。いのりも、天くんにおてがみあげるね」
ワンショルダーの小さなポシェットの中から、昨日私が一生懸命書いた手紙を取り出した。
字は名前くらいしか書けないのでママに代筆してもらい、私は楽しく遊んでいる絵を描いた。
「シールもいっぱいはったからね?」
この頃の私は、かわいいシールを集めるのが好きで、いろんな物にペタペタと貼っては、ママに注意されていた。
「だいじにするよ。ありがとう」
「あっ、いたいた。お荷物はこれで最後だから、トラックに積んだら出発よ」
天くんママがやって来て、私の前に座った。
「いのりちゃん。天と仲良くしてくれて、本当にありがとう。ぎゅうしてもいいかな?」
「うんっ!」
私は飛び付くように、天くんママに抱きついた。
「秋にはいのりちゃんの大好きなリンゴさん、たくさん送るからね。天にも落ち着いたら、お手紙書かせるから待っててね?」
「いのり、おてがみと、りんごさんまってる!」
その言葉に、周りにいた大人達は笑顔を浮かべていた。
別れは悲しいものだと、大人はみんな思っているけど、私はこう思う──
(生きていればまた会える──)
(生きてさえいれば、いつかきっとまた──)
外に出て、車の窓越しに話す私と天くん。
「さよなら。いのり」
「ちがうよ? ”またね”だよ? ”またね”は、またあおうねってことだもん」
「うんっ! きっと、またあおうね!」
とても気持ちのいい四月のある日、私は南海 天くんと再会の約束をし、姿が見えなくなるまで笑顔を送り続けた──
いのりちゃんと天くんの、幼少期編はこれでおしまいです。
次回からは、成長したいのりちゃんが登場しますよ。
高校生となったいのりちゃんのアオハルが、動き出すっ!
お楽しみに──