第2話 おきてよ
「もしもし、天くんおはよう。いのり、おしたくおわったから、もうお外にいけるよ」
マフラー、手袋、ニット帽にコートを準備して、ママは私のとなりでスタンバイ中。
「えっ? どうしたの? 天くん?」
電話の向こうの天くんは泣いていた──
「ママ? 天くんのパパ、バタンてなって、おっきしないって」
その言葉に息を呑んだママは、私から電話を奪うように取ると……。
「もしもし天君? 今から行くから、お家の鍵を開けて待っててくれる? 一旦お電話切るね。すぐに行くからね!」
「ママどうしたの? いのりこわい……」
大人が慌てているのを見ると、よくないことが起きているのだと、子供ながらに感じていたものだ。
私はコートを羽織わされると、天くんの家までの道を、ママに抱っこされたまま向かった。
天くんの家までは、走って三分も掛からない距離にあり、何かあった時や何もなくても、お互いの家を行き来するのが、当たり前になってはいたのだが……。
今回はいつもと違う──
(天くん泣いてた。それに……ママも泣いてる)
ママのおかげで、あっという間に天くんの家の前までやって来た。
「あっ、いのりがピンポンおすね」
しかし、私の声がママに届くことはなく、いつもなら押すインターホンの横を駆け抜け、勢いよく玄関の扉を開けた──
「天君っ! いのりママよっ!」
突き当たりの部屋のドアが開いていたのだが、そこには横たわる大人の足らしきものが確認出来た。
「パパ……おきて……おきてよ」