第19話 いのりん
平沢 奏さんは、お昼休みに私が天君の場所を聞いた子だ──
「ふたりはこんな所で何を?」
「それは俺が聞きたい。何で俺達のあとをつけて来た?」
声のトーンで、そこそこ怒っているのが分かる。
「まぁまぁ、天君。別に何かをされた訳でもないしさ……」
「そ、そうだよ! よく考えたら、私何もしてないじゃん!」
「隠れてつけて来ただろ?」
「そうだったぁ!」
(悪い子じゃなさそうなんだよなぁ)
問い詰められて反省している様子を見せているので、私は助け船を出してあげることにした。
「平沢……さん?」
「あっ、奏でいいよ。いのりん」
「いのりん?」
「……ぷっ」
吹いた天君に無言の圧力を送る──
「………………ごめん」
(よろしい。以後、気を付けるように)
口にせずとも、何となく伝わったようだ──
「じゃあ……奏ちゃん。私達がここに来た理由を教えてあげる」
「ホントっ!?」
「実は今日ね? 高校のお友達が出来た記念日なの。だから、天君が奢ってくれるんだって」
「それって……もしかして、わた……」
「平沢じゃない」
奏ちゃんが言い終わる前に被せるように、天君が否定した。
「天君っ! それは酷いっ!」
思わず奏ちゃん側に立ち、私は天君に向かってこう言った。
「もう奏ちゃんもお友達だから、三人でお祝いしよう!」
「わぁぁ! いのりんっ! ありがとう! 私は最初からお友達だと思ってたよ!」
「最初からって……調子のいいことを」
「いいから。ほらっ! お財布係は食べ物買ってくる」
「誰がお財布係だっ! って何だよ、その係りっ!」
(奏ちゃんがいると、場の空気が明るくなるなぁ)
明日の学校が楽しみだと、初めて思えた瞬間だった──
「高野さんも誘えばよかった」