第18話 0点
「いらっしゃいませぇぇ」
私と天君は大型ショッピングモール内のフードコートに来ている。
「美味しそうなのいっぱいだねぇ?」
「好きなの頼んでいいよ?」
「……私のおごり」
「何本気にしてんだよ? アレは嘘でした! これでお互い様だから、ここは俺が払うよ」
思わず跳び跳ねてしまいそうな気持ちを抑え、アレもいいし、こっちもいいなぁなどとキョロキョロしていると……。
「いのり? 気付いた?」
「うん。あのお店の新商品、ここでしか食べれないっ!」
「違うよ、違う! いい? 急に視線を向けないで話を聞いて?」
「ん? わかった」
「俺の背後に柱があるでしょ? 右側の方」
私はお店選びを装いながら、天君が言う場所を周辺視野に捉えた。
「…………あの人って」
「うん。同じクラスの平沢さんだよ」
「私、あの人に天君の場所聞いたんだよ。正確には近くの男子が教えてくれたけど」
「どう思う? 一応、尾行のつもりかな?」
「はっ? 何でっ?」
柱の影からチラチラと、顔を出したり引っ込めたり、あれを尾行とするならば、0点でしかないだろう。
そんな平沢さんのもとへ──
「おねえしゃん、なにしてるでちゅか?」
かわいいキャラクターがプリントされた風船を持った女の子が話し掛けている。
「しぃぃ! 今、ナイショのお仕事中なの」
「おちごと?」
尾行を子供にどうやって説明しているのだろうか。
(……あんなに大きく動かないと説明出来ないのかなぁ? あっ、目が合った)
柱の後ろに身を隠すも、時すでに遅し──
隙をついて回り込んでいた天君によって、首根っこを捕まえられた平沢さんは、苦笑いを浮かべながら登場してきた──
「……ど、どうもぉ……奇遇ですねぇ」
「おねえしゃん。おちごと、ばんがってくだしゃい! ばいばいでちゅ」
「ありがとう。ばいばぁい」
「へぇ、お仕事ねぇ?」
「……ははっ、あはは……はぁ」
作中に登場した小さな女の子は、菜須よつ葉先生の“ななちゃん”に出演していただきました。
ギャラはいちご飴となっております。