第16話 友達
「ごめんごめん。おまたせ」
天君の視線は私にではなく、教室にひとり残る高野さんへと向けられていた。
「あの子、何か話したがってたんじゃないの?」
「そうみたいなんだけど、とりあえず明日聞くねって言ってきた」
「まぁ、それでいのりが後悔しないならそれでいいけど」
目が合ったのだろう。天君は高野さんへ会釈してその場をあとにした。
(……後悔かぁ)
「ねぇ、天君? ちょっとだけ待っててくれる?」
「わかった」
(そうだよね。あまり話したことがないのに声を掛けるって、勇気がいるもんね。ここは……)
「高野さん。さっきはごめん。これ……」
私は紙の切れ端に、自分の携帯番号を書いて手渡した。
「夜にでも電話しよ? 声掛けてくれてありがとう。じゃああとでねぇ」
(あれ? もしかしてこれって、お友達っぽい!)
「星野さん、ありがとう。あとで掛けるねぇ」
どことなく高野さんの声も弾んでいるように感じた。
「なんか嬉しそうだね?」
「うん! だって初めてだから。高校のお友達」
「そっか。じゃあお祝いに、何か食べて帰ろうか?」
「それって……天君のおごり?」
「誘ったの俺だしね」
「あぁ! そうだっ! そうだよっ! 天君っ!」
突然の大声に驚いた天君は、私の方を見つめたまま動かなかった──
「なっ、何?」