83 大奮戦
またしても大遅刻……!
大賞に落ちたショックで、次の大賞狙いのやつを一気に書いてたりしました……。
選評で返ってくる意見、執筆中に聞きたかったと、毎回思う。
リンネVSライゾウ。
王都への襲撃。
それと時を同じくして、騎士学校の遠征先野営地。
三剣士『氷剣』のユーリが守る場所にて。
「そらそらそらそらぁ!!」
紫髪の女が暴れていた。
毒液の滴る蛇腹剣を振り回し、王国最強の女剣士を追い詰める。
「やれ! モリメット!」
「━━━━」
もう一つの強力な手札、フルフェイス兜の大男が突撃した。
その巨躯と身体能力を武器に暴れ回る。
筋肉の戦車が突撃して生じた隙に、女が毒蛇のごとく嫌らしくつけ込むコンビネーション。
英雄。
一騎当千。一国に一人いるかどうかの猛者。
それが二人がかりで攻めて、攻めて、攻めて──
「……チッ!」
崩れない。崩せない。
不意打ちで片腕を失わせた女剣士を、全く攻め切れない。
「守ノ型『流』」
「ッ!」
『氷剣』のユーリは守る。
焦り、痛み、それら一切を押し殺した無表情で、正確無比な守りの剣を振るい続ける。
「━━━━」
モリメットの全霊の拳撃。
完璧に受け流される。
更にユーリの剣から放出され続ける冷気が、敵将二人の動きをジワジワと鈍らせる。
「しゃらくせぇ! 蛇剣『熱毒』!」
紫髪の女──スコーピオンはそれを振り払わんとする。
特殊な蛇腹剣を振り回し、熱を持つ毒液を撒き散らして冷気を相殺。
生者ではない大男と、蛇腹剣の特殊な擬似闘気に守られたスコーピオンに、毒は通らない。
「良いだろぉ! お前のと同じ十剣の一つ『毒剣』ヴェノムだ! 当たれば即死の猛毒の剣! いつまで守り切れるかなぁ!?」
スコーピオンは蛇腹剣──『毒剣』ヴェノムを振り回す。
円を描くように、蛇がトグロを巻くように、毒液を撒き散らしながら回転の力を加えて、射出!
「飛剣『毒龍』!!」
「!」
紫の遠距離超火力攻撃を放つ。
威力だけでも最高位の魔物を消し飛ばす一撃。
それが即死の状態異常を纏って飛来する。
「━━━━」
タイミングを合わせ、モリメットもまた拳を大きく振り抜いた。
狙いは、ユーリが後ろに庇う生徒達。
彼らも魔法による迎撃や、前衛達が盾となって迎え撃とうとするが、あまりにも力の差があり過ぎる。
無理をしてでもユーリが庇わなければならず、そうなれば反撃の余裕は残らな──
「飛剣『風龍』ッッッ!!」
「「「!?」」」
その時、新たな駒が戦場に乱入してきた。
渦を巻く暴風の龍が、ユーリの迎撃を手助けし、毒の龍と拳の衝撃波を飲み込んでいく。
風だけなら威力不足だったが、風龍はユーリの追い風となることに徹して、相殺に足る威力を叩き出した。
「フォルテ・アクロイド……!?」
「ぜぇ……はぁ……! 助太刀、します!」
現れたのは、後ろに何人もの生徒達を引き連れた、騎士学校の生徒会長。
息は乱れ、身体は血に染まり、剣は折れた、満身創痍の姿。
どう見ても、身体を張って戦った証明。
「どうして……?」
「僕は、まだ、騎士候補生、らしいので……!」
「!」
意識の朦朧とした顔で、絞り出すように、フォルテはそう言った。
一瞬、ユーリの頭に計算が走る。
信用できないアクロイド、最近の彼の様子、切り捨てられた可能性、リンネと同じ班だった。
深く考えている暇もない。
『氷剣』のユーリは、今の彼を味方と認定した。
「生徒達を頼むわ!」
「はい!」
フォルテに後ろを任せ、ユーリは突撃を開始した。
守りの英雄が、攻勢に転じる。
狙いは──モリメット。
「ガキ一人増えたところで、なんだってんだよぉ!」
ユーリが筋肉に向かい、フリーになったスコーピオンが毒剣を振るう。
お守りなしで何とかなるつもりか! 舐めんな!
そう言わんばかりに、生徒達に狙いを定めて、先程以上の勢いをつけて、それを射出した。
「飛剣『毒龍』ッッッ!!」
フォルテの未熟なそれと違い、完成の域にある最高位の魔法剣撃。
さっきはユーリがいたから防げたそれを、今度は自力で防がねばならない。
当然、無理だ。
だから──
「魔法を!! 頼む!!」
「「「!?」」」
フォルテは、生徒達に懇願した。
ここにいる生徒達は、フォルテの被害に合った者達も多い。
助けてくれと言われて、即答できる者は少ないだろう。
「『ファイアボール』!」
「『アクアランサー』!」
「『サンドストーム』!」
それでも、彼らもまた騎士候補生だった。
全員とはいかずとも、多くがこの危機的状況で唯一の勝機を逃すような真似をしなかった。
「感謝する……!」
色とりどりの魔法が放たれる。
その全てを風が飲み込んで、一つとなった騎士学校の攻撃が、毒の龍を真っ向から迎撃する。
「守ノ型『風龍壁』ッッッ!!」
「なっ!?」
魔法を飲んだ風の龍がトグロを巻き、ユーリ以外の味方全員を覆い尽くす壁となる。
シオンやアリス達の活躍によって、この場に生徒達が集結していたのが大きかった。
一人一人は英雄に及ぶべくもない戦力でも、本当の意味で一纏めにできれば、純粋な火力に優れてはいない英雄の、足止めくらいは叶う。
「おおおおおおおおおおお!!」
「バカな……!?」
風の龍が、毒の龍を遮断する。
無理な魔力放出で、全身から血を噴きながら、フォルテは魔法を発動し続けた。
『消えろ、ゴミが』
武闘大会の後、塵を見るような目で父に見られた。
終わった。
与えられた力は没収され、アクロイドとしての彼は完全に終わった。
近いうち、病気療養にでも見せかけて領地に戻され、そのまま処分されるかもしれない。
『今までの行いを申し訳ないと思ってるんだろ? だったら行動で償え! 傷付けた分だけ守って罪を清算しろ!』
……なら、最後の最後くらい。
『今だけはシャキッとして仲間を守れ! お前は──騎士候補生だろうが!』
何か、意味のあることを成し遂げて終わりたい!
「『氷華一閃』!」
「━━━!」
「モリメット!? クソッ!」
フォルテがスコーピオンを封じている隙に、戦況が動く。
ユーリの斬撃が、筋肉ダルマの膝関節に正確にヒット。
硬い闘気に阻まれて軽傷止まりだが、氷剣メビウスによって増幅された氷魔法により、膝が凍りついて、暴走列車の動きが一時的に止まる。
「随分調子に乗ってくれたわね。覚悟はいい?」
「ッ!? 片腕でイキがるなよ、三剣士様ぁ!」
女傑同士の正面衝突が始まる。
同じ十剣を持ち、同じ英雄の領域にいる、二人の女剣士。
毒が飛び散り、氷が踊る、荒々しい剣舞。
「モリメットォォ!!」
「無駄よ」
復帰したもう一人の英雄が突っ込んでくるが、その度に身体のどこかを凍結され、動きを鈍らされて、連携を乱される。
決定打にはなり得ない行動阻害。
とてつもなく厄介!
「私、三人の中で一番、多対一が得意なの」
「!?」
ユーリの左腕が、即死の毒剣を掴んだ。
最初の奇襲で奪い、氷の義手となっていた左腕。
多大な魔力を注がれたそれが、熱毒を撒き散らす毒剣を、ほんの一瞬だけ機能停止にした。
武器が強すぎるせいで、まず敵にやられることのない戦法。
だからこそ、虚を突かれて。
「『白刃槍牙』!!」
「かっ……!?」
ユーリの一撃を、スコーピオンは諸に食らった。
心臓をぶち抜く、確殺の刺突。
「強、すぎ、だろ……」
純粋に、単純に、実力が違った。
足手まといから解放された『氷剣』のユーリは、この二人の襲撃者より格上だったのだ。
「英雄の領域にも力量差はあるのよ。弁えなさい、チンピラ」




