82 二方面作戦
お久しぶりです。色々あって遅れに遅れました……。
ただ、コミカライズの方は遅れずに配信中です!
原作はもう影と形くらいしか残ってなくて、この作品で一番出したかったのにエタって出せなかったキャラが暴れ始めてたりするので、ぜひご覧ください!
「こ、これは……!?」
リンネがライゾウを撃破する少し前。
ところ変わって、グラディウス王国の王都。
アリス達のおかげで長距離転移の魔法の発動に成功し、王城の一角へ飛んできたオリビアは、信じられないものを見た。
「「「うわぁああああああ!?」」」
「た、助けてくれぇ!?」
「なんなんだ、こいつらぁ!?」
あちこちで火の手の上がる王都。
鳴り響く悲鳴。
見れば、町の至るところに敵がいた。
意志も宿らぬ虚ろな目をして、鳴き声一つ上げずに破壊の限りを尽くす魔物達が。
「うぉおおおおおお!!」
そんな魔物達に向けて王都の防衛戦力が、騎士や兵士達が立ち向かう。
首都に勤める精兵達は強く、戦力的には決して負けていなかったが。
「動くな」
「ひぅ……!? ママぁ……!」
「くっ……!?」
敵の中に搦め手を使う『人間』がいた。
画一の剣を持ち、群体生物のように動く敵兵達が。
「あれは……!」
オリビアはそのやり口に、その気配に見覚えがある。
黒装束こそ着ていないが、迷宮遠征を狙ってきた連中と同じだ。
向こうだけではなかった。
二方面への同時襲撃。
これではもう戦争だ。
己の役割の重みがより増したことを自覚して、オリビアは再び飛んだ。
唯一、座標指定なしで転移できる、敬愛する主の隣へと。
「スカーレット様!」
「え!? オリビア!?」
「報告します!」
意志なき魔物と、無情なる兵士達による襲撃。
その始まりは伝令兵の到着より少し前、遠征先の襲撃開始と同時刻に遡る。
◆◆◆
「…………」
最初は、無数の馬車の荷台から、そいつらが出てくるところから始まった。
クリーク商会、ゲスルート子爵、ヒドゥーイ男爵、ロクデルナ伯爵。
最近、妙な問題行動を起こして警戒されていた者達の馬車の中から。
「おい、なんか出てきたぞ」
「ああ。尾行する」
王都の民に紛れるような個性のない服を身に着けた者達が、迷いなく巨大都市のアチコチへ散っていく。
それを監視していた騎士団や兵士達が尾行を開始。
そして、
「『火炎球』」
「……は!?」
彼らはいきなり民家に向けて火の魔法を放った。
一切の躊躇なく、全員が町並みに火を放ち、各地で火の手が上がる。
「「「キャアアアアア!?」」」
「マジかよ!?」
「と、捕らえろぉ!! 被害者の救助も急げ!!」
「「「りょ、了解!」」」
王都防衛戦力の初動は早かった。
元々、不審な連中を監視していたのもあり、多くの実行犯をその場で逮捕。
しかし、敵は監視網にかかっていた者達だけではなく、逃れた一部がひたすらに火をつけて回った。
「クソッ……!」
こういう時、秩序側は歯がゆい。
本当は事件を起こす前に捕らえたいが、証拠もなしにそれはできない。
怪しいとはいえ貴族の手勢が相手ではなおさらだ。
どうしても後手に回ってしまう。
「何が狙いだ……!」
しかし、こんなことをしても、この程度の攻撃で王都は落ちない。
嫌がらせ程度の被害と引き換えに、犯人側が国家反逆で罰されるだけだろう。
あまりにも割に合わない。
「アハハ! それじゃあ、そろそろ──行っちゃいますか♪」
ゆえに──本命はこれじゃない。
「お、おい!? 上見ろ、上!!」
「上? ……おいおいおいおい!?」
その本命と思われる仕掛けが、空からやって来た。
上空から飛来する、無数の超大型爬虫類の群れ。
──ドラゴン
今より幼い身体だったとはいえ、リンネですら苦戦を強いられた危険度Sの大魔獣。
それが何匹も、何十匹も、王都上空から急降下してきた。
「嘘だろ!? ドラゴンがあんなに!?」
「た、大砲だ! 大砲で迎撃しろぉ!!」
ドラゴンの群れはまだ王都を覆う結界の外にいる。
外側からの魔力を通さない防衛結界。
魔力攻撃も、空間魔法による転移も防げる。
例外は事前登録された国家認定の魔法のみ。
だから、その壁を越えられる前に迎撃を──
「た、大変です!? 大砲の設置地点に敵襲来! 防衛戦力が蹴散らされてます! 英雄クラスの襲撃です!」
「なんだと!?」
火つけは陽動。
対処しないわけにはいかない攻撃に注意と人員を引きつけ、本命の攻撃を通された。
王道の戦術だ。
「「「…………」」」
意志なき竜達が、結界内部を目指して急降下してくる。
わかっていても早々どうにもならない超戦力が、貴重な迎撃手段の一つを失ったところに突撃してくる。
──けれど。
「舐めた真似してくれるじゃねぇか……!」
グラディウス王国には彼らがいる。
生まれ変わって弱体化した先代に代わり、最強を受け継いだ大英雄達が。
「飛剣『炎龍』!!」
王国三剣士の一角『炎剣』のマグマ・プロミネンスが剣を振るう。
受け継いだ伝家の宝剣、十剣の一つ『炎剣』イフリートを振るい、最高ランクの魔法剣撃を放つ。
竜の群れすら飲み込む火炎の龍が──大魔獣達を一瞬にして焼き尽くした。
衰えた先代が苦戦した相手を、纏めて瞬殺。
三剣士随一の火力を持つ男。
その称号に一切の偽りなし。
「んんん!?」
しかし、敵は更に一枚上手だった。
塵になって消えゆく竜達の体内から、無数の魔物が現れる。
ゾンビ、ヴァンパイア、リッチ、デュラハン、オーガ、サイクロプス、ワーウルフ、セイレーンなどなど。
比較的小型で高性能な魔物のバラエティセット。
それが消えゆくドラゴン達を足場に、一体一体が別の方向へ跳躍を──
「神速飛剣『五月雨』」
──斬撃の雨が降った。
あまりにも速すぎる飛翔する斬撃の連打が、王都へ降り注ごうとしていた怪物達を塵へ還していく。
「助かったぜ、アレク!」
ガラスのように透き通った騎士剣を持った仲間に、当代最高の剣士に、マグマは尻拭いの礼を送った。
しかし、最強の三剣士は、戦友の言葉に難しい顔を浮かべて。
「いや、何体か空間の歪みに飲まれて取り逃がした。……空間魔法使いに侵入されてるぞ」
「何っ!?」
最悪の情報が共有されると同時に、ドゴォォォン!! という轟音がアチコチで発生。
火つけとは比べ物にならない被害の発生がここからでも見える。
「ウフフ。怖い怖い。さすが三剣士。正面からじゃ無理ですね〜♪」
英雄に対して真っ向勝負を挑むことなく、守らなければならないものに狙いを定めて、嫌味な攻撃に徹する。
いくら強い個人がいても、個人である以上、手の届く範囲には限界がある。
英雄だけで全てを解決することはできない。
『アレク様!!』
「!?」
そして、ここで情報が飛んできた。
聞こえてきたのはスカーレットの声。
通信の魔道具と同じ原理、指向性の風魔法による音声の伝達。
『騎士学校の遠征先にも敵襲来! 大量の撹乱要員に加え、最低でも英雄上位が一人投入されているようです!』
「え!?」
『至急王城へいらしてください! オリビアの空間魔法で、あなたを送り込みます!』
愛する妻と娘のいる場所への襲撃。
すぐにでも駆け出したいが、アレクは一瞬だけ迷った。
こっちはこっちで凄まじい規模の攻撃。
次は何をやってくるかわからず、本当に最高戦力が抜けて良いのか判断に悩む。
「行け、アレク!!」
「マグマ……」
「安心しろ! グラディウスの騎士団は強い! こっちは守り抜いてやるよ!」
「……ありがとう。任せた!」
素直に他人を頼れ。
戦闘技術以外は大したことを教えてくれなかったダメ師匠の、珍しくまともな教え。
当たり前のことにも思えるが、力を持てば持つほど無意識にできなくなっていくこと。
それを意識して実践しよう。
「お、やっぱり、そっち行く感じですよね〜。──予定通り♪」
侵入を果たした悪辣な影が嗤う。
去りゆく最強を眺めながら『大本命』に手をつける準備を始めた。




