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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第5章 迷宮遠征編

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77 開幕

今回の後半からが新規です。

ちょっとはマシになってることを祈る。

「うげぇ」


 遠征二日目。

 私はあまりにもあんまりな学校側の采配に吐き気を催しながら呻き声を上げていた。

 今日もまた上級生に指導されての訓練。

 ただし、どんな上司と組んでも充分な連携を取れるように、上級生からすればどんな部下を率いても戦えるように、初日とは違う組み合わせで行われる。

 そうして私が組まされたのは──


「ああ、君か……」


 まさかのクソ虫だった。

 覇気を失い、抜け殻になったクソ虫。

 本名フォルテ・アクロイド。

 おまけに、アリスやシオンとも別の班になって私一人。

 いや、こいつと一緒なら、アリス達がいないのは好都合だが。


「君には悪いことをしたと思っている……。大変申し訳ない……」

「誰だ貴様!?」


 クソ虫が謝った。

 その瞬間、私はこいつが偽物であると確信した。


「アリスさんにも、シオンくんにも、今まで迷惑をかけてしまった全ての人達に心から申し訳なく思う……」

「本当に誰だ貴様!?」


 こんなんクソ虫じゃねぇ!

 ただの憂いを帯びたイケメンだ!


「しっかりしろ!? お前は憎まれてなんぼだろうが!?」

「ハハッ。そうだね。僕は憎まれるようなことを沢山してきた。憎まれてまで虚勢を張り続けてきた。でも、もういいんだ。もう手遅れだから」

「手遅れ?」

「僕は父上に完全に見放された。僕はもう人間じゃない。人間扱いされない。虫だ。無能なクソ虫だ」

「お、おう……」


 なんだろう。

 今までクソ虫クソ虫言い続けてきたが、自分で名乗られると微妙な気分になるな。

 こう、憎たらしい反発があるからこそ存分にそしれるわけで、これだと幼気な若者をただなぶってる気分になるというか。

 だからといって嫌悪感が消えるかと言えば……。


「ん?」


 と、その時、何やら妙な気配を感じた。

 魔物じゃない。

 魔物にしては気配の消し方が人為的過ぎる。

 では盗賊か?

 こんな迷宮化した森の中で?

 まあ、何はともあれ。


「警戒! なんかよくわからん人間っぽいのがこちらを見てるぞ!」

「え?」

「人間?」

「先生の誰かか……?」


 周りの生徒と教師に警告を飛ばせば、首を傾げながらもしっかりと武器を構えてくれた。

 うむ。優秀。

 ちょっとやそっとの連中なら彼らだけでどうとでもなるだろう。


「「「━━━━━」」」

「む……!」

「うおっ!?」 

「ホントになんか出た!?」


 私にバレて隠れる気が無くなったのか、気配を消していた連中が飛び出してきた。

 揃いの黒装束に画一の剣。

 気持ち悪いほど息の合った群体生物のような動き。


「ッ!?」


 嫌な記憶が刺激される。

 まさかという嫌な予感が脳裏を埋め尽くす。


「『飛剣・五月雨』!!」

「「「!?」」


 その瞬間には剣を振り抜いていた。

 飛剣の連続斬りで黒装束どもの首を飛ばし、あえて一人だけ手足を狙って生かした奴に接近。

 胸ぐらを掴んで問いかける。


「何者だ? 何故、私達を狙った?」

「━━━━━」


 黒装束は答えない。

 手足を失い、激痛が走っているはずだというのに、フードの中の顔は完全な無表情。

 やがて──その体が内側から膨らみ始めた。


「チッ! やはりか!」


 嫌な既視感は正しかった。

 それを確信しながら、私は黒装束を天高く放り投げる。

 数秒後──


「ひっ!?」

「なっ!?」

「……!?」


 膨れ上がった黒装束は、空中で大爆発を起こした。

 この場の生徒・教師は絶句。

 恐らく、他の場所でも似たようなことになってるだろう。


「敵だ! 今すぐに引き返して他の班と合流! ユーリが守れる場所で一塊になって迎撃!」

「は、はい!」

「りょ、了解!」


 呆けている教師に変わって檄を飛ばす。

 それで全員がハッとなって正気に戻り、油断なく武器を構え直した。

 優秀。


「私は走り回って敵を削る! この場は──クソ虫!」

「え?」


 自分が呼ばれると思っていなかったのか、クソ虫が間の抜けた声を上げる。

 ……不安しか感じないが、致し方ない。


「この場の皆を任せた! さっきの連中程度なら、お前一人で問題なく潰せる!」

「は? え? な、なんで僕に……」

「私以外だと、お前がこの場で一番強いからだ!」


 一分一秒が惜しい状況で、それでも私はクソ虫に構った。

 胸ぐらを掴み、お目覚めの頭突きを一発食らわせる。


「あ痛っ!?」

「今までの行いを申し訳ないと思ってるんだろ? だったら行動で償え! 傷付けた分だけ守って罪を清算しろ!」


 こいつも、こいつの家も、大いに信用ならない。

 だが、抜け殻のようなこの姿に嘘は感じなかった。

 今は少しでも戦力が欲しい。

 見放されたというのなら──寝返らせる!


「一度しか言わんからよく聞け! 心の底から気に食わんが、お前は強い! この私が認めてやる!」

「ッ!」

「だから今だけはシャキッとして仲間を守れ! お前は──騎士候補生だろうが!」

「騎士、候補生……」


 少しだけ、ほんの少しだけ、クソ虫の目に生気が戻った。

 それを確認して、私は走り出す。

 すまん。この場の若者達よ。

 私が最も大事なのはお前達じゃなくてアリスなんだ。

 やりたくないクソ虫の取り込みという苦行をして、最低限の生存率は確保した。

 教師もいるし、あとはどうにか自力で頑張ってくれ。


「『飛脚』!」


 そうして、私は速度を上げた。

 国を守る騎士ではなく、大事なものを守るただの剣士として走った。




◆◆◆




 迷宮遠征授業のための野営地。

 町中と比べられるものではないが、それでも未熟な生徒達を預かるということで、土魔法による防壁などで最低限以上の防衛力を持たせた場所。

 リンネ達への襲撃と時を同じくして、こちらにも襲撃者が現れていた。


「『飛剣・氷華』!」

「「「━━━━━━」」」


 だが、ここにはグラディウス王国の誇る三剣士の一人、『氷剣』のユーリがいる。

 彼女は大ジャンプして上空に陣取り、そこから襲撃者達に冷気を纏った飛ぶ斬撃をお見舞いする。

 味方を巻き込まないための軽い斬撃ではあるが、斬れ味は抜群で、直撃すれば即死。

 運良く避けて急所を外しても、掠りでもすればそこから凍りつき、自爆すら許されず氷像と化す。


「寝ていなさい、痴れ者ども」

「「「キャー! ユーリ先生ー!」」」


 突然の危機的状況で、頼れる美人女教師に黄色い歓声が飛ぶ。

 しかし、ユーリはそれを一喝した。


「見惚れている暇があるなら剣を振るいなさい! あなた達は騎士候補生でしょう!」

「「「ッ!」」」


 まだまだ守られる側の学生気分でいた若者達が、その言葉でハッとする。

 武器を構え、仲間と視線を合わせ、敵を見据えた。


「訓練の通りにやりなさい! まずは魔法で牽制! それを抜けてきた奴を囲んで倒す! 自爆される前にトドメを刺すことを忘れずに!」

「「「はい!」」」

「「「『マッドスワンプ』!」」」

「『アクアランサー』!」

「『ウィンドカッター』!」

「『ストーンブラスター』!」 


 平常心さえ取り戻せれば、彼らは強い。

 敵は自爆という精神攻撃を差し引いても強く、容易く自分を犠牲にして集団を活かす狂気の連携を使いこなす難敵。

 それでも、未熟な生徒達だけで抗えるほどにグラディウスの騎士候補生達は優秀だ。

 加えて、


「『飛剣』!」


 教師の一人が剣を振るい、飛翔する斬撃で数名の敵を纏めて真っ二つにする。


「『攻ノ型・一閃』!」

「『攻ノ型・五月雨』!」


 他の教師達も縦横無尽の活躍を見せ、生徒達だけでは抗える止まりの戦いを互角以上の展開に持っていった。

 騎士学校の教師は、全員が騎士学校を卒業し、騎士の資格を得た強者達だ。

 そして、グラディウス王国の騎士には、下級の量産品とはいえ、全員に魔剣が渡される。

 一部の天才しか習得できない闘気の力を、擬似的に纏うことができる魔剣を。


「「「おおおおおおおおおお!」」」


 騎士が猛り、騎士候補生達が奮戦する。

 これが侵略戦争を生き抜き、大陸屈指の武力を誇るまでに成長したグラディウス王国の力。

 神出鬼没の奇襲でさえなければ、カゲトラのような英雄をも正面から相手にできるほどの力。

 そして、


「ハッ!」

「「「━━━━━━」」」


 華麗に舞う氷の女剣士が戦局を決定づける。

 英雄がおらずとも強兵。

 そこに英雄が加われば最強。

 正規の騎士団でないとはいえグラディウスの強兵に勝る者は──


「━━━━━━」


 広い大陸の中でも、ほんの一握りである。


「……!」


 森の中から今までの黒装束とは毛色の違う襲撃者が現れる。

 上半身裸で、フルフェイスの兜を被った巨漢の男だ。

 武器を持たないステゴロスタイルのそいつは、魔剣の代わりに籠手を装着した拳を思いっきり振りかぶり、ユーリに向けて突き出した。


 ──戦場に爆風が吹き荒れる。


「ッ……! 『氷華一閃』!!」


 迫りくる衝撃波を、ユーリは愛剣にて一閃。

 縦割りの斬撃が爆風を真っ二つに切り裂き、余波すらも空気ごと凍結させて味方を守る。

 まさに堅守。

 しかし──


(こいつ、強い……!)


 英雄の領域に至り、三剣士と呼ばれるようになって以降、少し縁遠くなっていた己の命に対する危機感知。

 今の一撃は、ユーリのそれを呼び起こすのに充分な威力を秘めていた。


「━━━━━━」


 フルフェイス男が飛びかかってきた。

 直撃すれば今のリンネくらいミンチにできそうな剛拳。

 それに愛剣を合わせ、受け流す。


「凍れ」

「━━━!」


 ユーリの剣──十剣が一つ『氷剣メビウス』。

 それによって増幅された氷の魔法が、フルフェイス男の突き出した腕を凍結させる。

 守りながら敵の力を削ぎ落とす、攻防一体のスタイル。


「━━━!」

「遅い」


 フルフェイス男は闘気の爆発で強引に氷を砕いたが、それで一手を使わされてしまい、ユーリのカウンターへの対処が間に合わない。

 体に大きな斬り傷を付けられ、後退。

 だが、致命傷にはまるで届いていない。


(動揺が無い。痛みにも怯まない。今の状況で相手したいレベルじゃないわね)


 一対一ならともかく、無数の敵と守るべき味方がいて、あまり深く踏み込めない今の状況だと厄介極まりない。


(……こっちの切り札(オリビア)はランスロットのところにいる。近くの班にはアリスとシオンも。そう簡単にあの子の転移は止められない)


 空間魔法の使い手であるオリビアなら、王都からアレクやマグマを連れてこれる。

 未熟とはいえ英雄級のランスロットに守られ、英雄の卵であるアリスとシオンも駆けつけられる位置にいるなら、オリビアの逃走成功は十二分に可能。


(それにリンネが動き回ってるはず)


 機動力に優れたかつての師匠の姿を思い浮かべる。

 弱体化したとはいえ、未だそこらの英雄よりは遥かに強い戦力。

 この状況なら自分(ユーリ)よりも頼りになる。


(なら、無理に攻める必要は無い。私の仕事はここの死守。最低でも生徒は一人も死なせないわ)


 ユーリの構えが変わる。

 攻めの余地を残した構えから、完全な守りの構えに。

 敵から見た今の彼女は──まるで城壁。


「……!」


 動かぬ女剣士に押し潰されそうなほどのプレッシャーを感じ、フルフェイス男の肉体に刻まれた感覚は、無意識に足を一歩後退らせた。


『氷剣のユーリを殺せ』

「!」


 だが、即座に書き込まれた命令が優先され、彼の体は弾かれたようにユーリに向かって飛び出す。


「━━━━!!」

「『守ノ型──」


 筋骨隆々の巨漢が攻め、可憐な女剣士が防ぐ。

 左ジャブ、右ストレート、左フック、右アッパー、左ボディブロー。

 左へ受け流す、右へ受け流す、避ける、避ける、斜め下へ叩き落とす。


 そんな攻防はユーリの優勢。

 フルフェイス男の攻撃はことごとく流され、避けられ、いなされ、挟み込まれるカウンターで一方的にダメージを受ける。

 そのどれもが致命傷には届いていないが、確実に力を削ぎ落とされていく。


(気が抜けない……!)


 とはいえ、ユーリにもそれほどの余裕は無い。

 教師や上級生はともかく、まだまだ未熟な一年生のために余波すら防がなくてはならないのだ。

 優勢とはいえ楽観はできない。


 ──ゆえに。


「──ぶち抜け♪」

「なっ!?」


 彼女には、想定外過ぎる奇手に完璧に対処する余裕が残らなかった。

 フルフェイス男の胸を背後から突き破って刃が迫る。

 蛇のような、鞭のような軌道を描く、しなる刃。

 英雄級の戦力を贅沢に目隠しに使った攻撃が、ユーリの体を抉る。


「くっ……!」

「おー! さすが三剣士! 掠っただけか!」


 しかし、それで得られた成果は、彼女の左腕に付いた小さな斬り傷一つ。

 支払った代償とは全く釣り合わ──


「いいや、充分だ」

「ッッッ!?」


 左腕に付いた小さな切り傷。

 それがあっという間に病的な紫色に染まり、凄まじい速度で紫が肌色を侵蝕していく。


「毒……!?」


 攻撃の正体に気づいた瞬間、ユーリは──即座に自らの左腕を斬り落とした。

 剣の力で傷口が凍りつき、止血。

 これでは治癒も受けつけないが、どうせ本職の治癒術師ではないユーリの魔法では、部位欠損のような大きなダメージを即座に癒せないので関係ない。


「ヒュー! 躊躇わずに自分の腕斬り落とすとか覚悟決まってんなぁ! イイねイイねぇ! 強ぇ女は大好きだ!」


 サディスティックな笑顔を浮かべながら、今の攻撃を放った新手が姿を見せた。

 鞭のようにしなる刃──蛇腹剣と呼ばれる武器を持った、露出の激しい服を着た紫髪の女。


「……やってくれたわね」


 冷たく敵を睨みつけながら、ユーリは氷の魔法で義手を作る。

 魔道具でもない氷の塊。

 気休め程度の性能しか無いが、無いよりはマシだ。


「でも、今のは悪手だったんじゃない? 腕一本と英雄一人じゃ、さすがに釣り合わないわよ」

「いいや、そっちも問題ねぇよ」


 紫髪の女は「ニタァァ」と意地の悪い笑みを浮かべた。

 その直後、胸を貫かれた上に、ユーリと同じ毒を食らったはずのフルフェイス男が、何事も無かったかのように立ち上がる。


「……ゾンビ」

「正解♪ 行動阻害の氷結が裏目に出たな! 血が出ねぇのを確認すりゃ一発だったのによ!」

「チッ」


 ユーリは可憐な容姿に似合わない舌打ちを一つ。

 それで気持ちをリセットし、二人に増えた敵に片腕で向き合う。

 その闘志は欠片も衰えていない。


「ああ、やっぱお前最高だわ……! 依頼主の命令は殺しと死体の回収だが、それじゃもったいねぇにもほどがある。攫ってやるから、オレ様とイイコトしようぜぇ!」

「お断りよ。愛する夫が家で待ってるから」 

「じゃあ、こいつは寝取られってやつだな! そういうのも大好きだ!」

「……変態」


 本気の嫌悪を込めて小さく毒づく。

 紫髪の女にとってはご褒美でしかなかった。


「オレ様はスコーピオン! 新生十二神将の一人だ! よろしくな、マイハニー!」

「情報提供をありがとう。死になさい」


 手負いの三剣士VS二人の英雄。

 生徒の大部分を守りながらの戦いは、更に激化の一途を辿った。

誤報かもしれないけど、コミカライズが一瞬ピッコマのランキング8位とか9位とかに上ったとかなんとか。

……想像を遥かに超える好調な滑り出しで超嬉しい。

でも、プロットの作成とかもあって毎日更新はできないんだ。すまない。

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― 新着の感想 ―
こういうバトルを見ると、英雄クラスがワラワラと出て来てなんか可笑しい。 なんでこんなに強いのが全くの無名でいるんだろう? つーか、十ニ神将なら宮毘羅とか安底羅とか名乗れや。新生だから十ニ星座と対応させ…
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