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7 剣術教室

 シオンとの勝負と、ヨハンさんへの弟子入りから数日後。

 本格的に開催されたヨハンさんの剣術教室は、やたらと賑やかな事になっていた。


「し、シオンに友達が……!」


 ヨハンさんは、そんな感じで感動しっぱなしだ。

 涙まで流して喜んでいる。

 息子に更正の兆しが見えたのが、そんなに嬉しいか。

 ちなみに、そのお膳立てをしたのは私だ。

 感謝してもいいんだぞ?


 で、そんなヨハンさんの視線の先では、シオンが新しく出来た友達と遊んでいた。


「うおおおおおおお!」

「食らうっす!」

「チッ……!」

「み、皆頑張れー……」


 正確には、シオンが新しく出来た友達と試合をしていた。

 相手はベルとオスカーだ。

 ラビが離れた所で応援している。

 ベルを誘ったら、当たり前のように残りの二人も付いて来たのだ。

 友達がいっぱいである。


「らあああああああ!」

「そい!」

「くっ……!」


 そして、ベルとオスカーの二人は、意外にも天才シオンを相手に善戦していた。

 二人がかりの上に、ハンデとしてシオンの両手足には重りが装着され、魔法の使用も禁止されているが、それにしても二人の方が優勢というのは予想外だった。


 特に、オスカーの動きが地味に良い。

 力の限り暴れるベルを、後方から弓矢でサポートしている。

 あいつの父親は、村の自警団にも入ってる狩人だからな。

 親に教わって弓を覚えたと言っていた。


 まあ、これは殺し合いではないのだから、当然、放たれる矢は木製であり、矢の先には布が何重にも巻かれて安全を確保している。

 だが、当たれば普通に痛いだろう。

 それに、緊張感を出す為、シオンはできる限り矢を避けるか、叩き落とさなければならないルールになっているからな。


 そして、ベルも、なんだかんだで数年に渡って私の遊び相手をしてきたせいで地味に強い。

 決してシオンみたいな天才ではないが、私の見ていないところで努力していたのだろうな。

 動き方に、どこか私の面影がある。

 剣を教えてくれる相手などいなかったベルは、私の動きを真似る事で強くなろうとしたに違いない。

 強者から技を吸収しようとするのは良い事だ。


「守ノ型・(りゅう)!」

「おごっ!?」


 だが、それでもまだシオンには届いていないな。

 シオンの使った技、騎士や兵士の使う王国剣術の型の一つ、相手の剣を受け流してカウンターを狙う技がベルの腹に直撃する。

 そのまま、ベルは踞った。


「攻ノ型・飛脚(ひきゃく)!」

「あいたっ!?」


 そして、脚に力を籠めた特殊な歩方でオスカーとの距離を詰め、パカーンと頭を打って、こっちも沈めた。

 二人は戦闘不能だ。


「それまで! 勝者シオン!」


 ヨハンさんが試合の終了を宣言し、頭と腹を抱えて踞る二人に駆け寄る。


「ヒール」


 そして、二人に治癒魔法をかけた。

 それだけで二人は完全復活だ。

 やはり、治癒術師が一人いると便利だな。


「クッソォオオオ! また負けた!」

「乙女の頭を叩くとは何事っすか!」

「……勝負での事だろうが」


 キャンキャンと吠えるオスカーを、シオンがめんどくさそうにあしらう。

 そのうち、ラビが駆け寄ってきて二人を宥めた。

 あまり、効果はなかったがな。


 しかし、そんなシオンも結構息が上がっている。

 だが、満更でもなさそうな顔だ。

 やはり友達と遊ぶのは楽しいか。

 実に微笑ましいな。

 思わず、ニヤニヤとした顔でシオンを見てしまう。


「……なんだよ」

「いや~、別に」


 シオンは不機嫌そうに、私から目を逸らした。

 ひねくれ小僧め。


「では、皆疲れてきたみたいなので、今日の稽古はここまでにしますね」

「「はーい」」

「うむ」

「ああ」


 ヨハンさんが、本日の剣術教室終了を宣言する。

 そう、皆と言うように、実は私も結構疲れているのだ。

 ヨハンさんとの試合稽古によって。


 さすがは、元エリート騎士という事か。

 ヨハンさんは、現時点の私よりも強かった。

 ユーリやマグマと同じ、闘気使いの魔法剣士だ。

 弱くなった私には良い練習相手だった。

 まあ、負けるのは悔しかったから、意地で勝率六割にまで持っていったがな。

 時には神速剣まで使って。

 結果、神速剣は禁術に指定されてしまったが。


「さて、今日はこの後ちょっと特別な事をやろうと思ってます。少し待っていてくださいね」


 そう言って、ヨハンさんは家の中に入って行った。

 かと思ったら、一分もしないうちに戻って来た。

 その手に青い水晶玉を持って。

 ……はて?

 あの水晶玉、どっかで見た事があるような?


「お待たせしました」

「ヨハンさん、それなんだ?」

「ええ、これは魔法適性を見極める魔道具です。できるなら、皆に魔法も覚えてもらおうと思いまして」

「おお!」

「グッジョブっす、ヨハンさん!」

「ああ、なるほど」


 適性検査の魔道具だったか。

 どうりで、どこかで見た事あると思った。


「まずは、魔法について軽く説明しますね。

 魔法とは、体内の魔力を使って発動する不思議な現象の事です。火を出したり、水を出したり、怪我を治したり、そういう事ができるようになります」


 ヨハンさんは、魔法の基礎的な事から語り始めた。

 まあ、私も自分が使えなかったからって事で、かなりうろ覚えだし、ちょうどいいかもしれない。

 

「そして、魔法を使えるかどうかは、魔法適性を持っているかどうかで決まります。火の適性を持っていれば火の魔法を。水の適性を持っていれば水の魔法を、といった感じに。

 そして、この魔道具に手をかざすと、水晶が自分の持っている適性の()に光るんです。

 あ、ちなみに、僕は水の適性を持っていますよ。だから、今は青く光っています」

「「へー!」」

 

 ヨハンさんの説明を聞いて、ベルとオスカーが目を輝かせる。

 ラビも声こそ出さないが、興味津々なようで、ベル達と同じ目をしている。

 冷静なのはシオンだけだ。

 あいつは、既に魔法が使えるからな。


「なあなあ、最強の魔法って何なんだ!」

「最強の魔法ですか? うーん、そうですね。やっぱり……」

「光と闇だろう」


 ヨハンさんの言葉を遮って、私がベルの質問に答えた。

 光と闇。

 それは、前世における最強の敵が使ってきた魔法だ。

 反吐が出るが、奴の力だけは本物だった。


「光と闇ですか。彼の剣神エドガーの宿敵、『魔帝』サタナエルが使ったとされる魔法ですね。たしかに、単純な戦闘能力という意味では、その二つが最強かもしれません」

「えー……でも、それ悪役の力だろ? なんか思ってたのと違うぜ」


 ベルが不満を漏らした。

 まあ、気持ちは嫌ってくらいよくわかるが、これだけは言っておきたい。


「力は力だ。結局は使う奴次第だぞ」

「リンネちゃんの言う通りですね。それに、光と闇は相当に希少な属性です。片方だけでも、適性を持っているのは万人に一人と言われていますし、そんなに気にする必要はないですよ」

「……そっか。そうだな!」


 ベルはあっさりと切り替えた。

 うむ。

 素直でよろしい。


「では、話を戻しましょう。誰から測りますか?」

「もちろん、俺から……」

「いや、私がいく!」


 ベルを押し退けて、私はいの一番にヨハンさんから水晶を借りた。

 ヨハンさんの手から離れた水晶玉は青く光るのをやめ……透明になった。

 くっ……やはり、こうなったか。


「……あの、その、これは適性なし……ですね。で、でも、適性を持っているのは五人に一人くらいの確率なので、気を落とさないでください! そ、それに、リンネちゃんは闘気が使えるんですから!」

「励ますな、ヨハンさん。私は気にしていない」


 私は前世でも魔法適性がなかったからな。

 身体が変わっているから、もしかしてと思ったが、あまり期待はしていなかった。

 それに、ヨハンさんの言う通り、私には闘気がある。

 闘気は体を鍛える事によって後天的に獲得できる特殊な魔法適性という話もあるし、私は全然気にしていない。


「アハハ! ダッセーーー!」

「ダサイっす!」

「何だと! お前らぁああ!」


 だが、とりあえず、笑いやがったベルとオスカーは締め上げておいた。

 安心しろ。

 ちゃんと手加減はしている。

 存分に悶絶するがいい!

 

 そんなすったもんだを終えて、今度はベルが測る事になった。


「さあ! 未来の英雄に魔法を授けろ!」


 そんなアホくさい台詞と共に、ベルは水晶玉を天に掲げる。

 果たしてその色は……透明であった。


「……適性なしですね」

「なんでだぁああああああああ!?」

「ぷっ」

「アハハハハハ!」

「笑うなぁあああああああああ!」

 

 暴れるベルを取り押さえる。

 どうだ、下手な事を言うと自分に返ってくるんだぞ!

 良い勉強になったな!


「じゃあ、次はあたしっすね」


 そして、次はオスカーの番。

 オスカーが持った水晶玉は……緑色に光った。


「これは風の適性ですね。直接的な攻撃力も高く、索敵や移動補助なども行える良い魔法です。オスカーちゃんなら、矢に纏わせて使うというのもありですね」

「よっしゃぁ! やったっす!」

「オスカーァアアアア! この裏切り者!」

「痛っ!? やめるっす、ベル!」


 私は、暴れるベルを今回は止めなかった。

 毎回止めるのは疲れるからな。

 決してオスカーを僻んだ訳ではないとだけ言っておこう。


「では、最後はラビちゃんですね」

「えっと……私は、その……」


 最後に残ったラビは尻込みしていた。

 まあ、この水晶玉を渡された奴は、全員笑われるか、しばかれてるからな。

 気弱なラビが尻込みするのもわかる。


「ラビ。減るもんじゃないし測っておけ。魔法は使えて困るもんじゃない。それに、こんなチャンスは滅多にないぞ」

「う、うん。リンネちゃんがそう言うなら……」


 うーむ……ラビはもう少し自主性を持った方が良いな。

 まあ、まだ6歳だし、これから育んでいけばいいか。


 そうして、ラビも両手で水晶玉を持った。

 色は……青だな。


「ラビちゃんは、僕と同じ水の適性ですね。攻撃力は低いですが、鍛え方次第では治癒の魔法を覚える事ができます。ラビちゃんに向いていそうな魔法です」

「あ、あわわ……」


 ラビは自分に魔法の才能があると言われて、なにやら目を回していた。

 嬉しくないのか?

 治癒術師は一人いると、本当に便利なんだぞ。


「ラァビィ……!」

「ひうっ!」


 だが、ここで嫉妬の化身がラビに標的を定めた。

 ラビは、私の後ろに隠れてプルプルしている。

 そこに飛びかかってきた嫉妬の化身(ベル)を、私は容赦なく迎え撃った。


「えーと……それじゃあ、明日からは魔法の訓練も始めますから、よろしくお願いします……ね」

「……はぁ。父さん、誰も聞いてないぞ」


 その後、ヨハンさんの家にはしばらく、ベルの悲鳴とオスカーの笑い声が響いた。

 今日も平和である。

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