74 始動
凄い短いです。
「揃ったな」
どことも知れぬ暗い部屋。
そこに女の声が響いた。
その声を出したのは、部屋の最奥にある玉座に腰かけた一人の女。
そして、女の前には六名の男女が跪いている。
その中の一人、巨漢の老人が、女の言葉に返答するべく、口を開いた。
「ハッ。帝国十二神将、ここに集結いたしました」
「と言っても、欠員だらけですけどね~。しかも、来てない人も一人いますし~」
「シャドウ、口を慎め。陛下の御前だ」
「ハイハイ。わかってますよ~」
老人の言葉に、跪いている中の一人である仮面の男、シャドウが軽い調子で茶々を入れ、速攻で老人に叱られた。
しかし、シャドウに反省の色はない。
だが、それはいつもの事であり、陛下と呼ばれた女はその態度を許している。
彼女にとって、手駒である彼らは使えればそれでいいのだ。
品格など、二の次、三の次である。
そんな主の意向を正しく汲み取っているが故に、一番の忠臣たる老人は苦い顔をしつつも、それ以上の追及はしなかった。
「で? 教国に派遣してたオレ様まで呼び戻して、今度はいったい何する気だ、陛下?」
「やるなら、強敵との死闘がいいでござるよ!」
次に口を出したのは、際どい衣装を身に纏った紫髪の女と、和服を着た侍風の男。
スコーピオンとライゾウである。
主を前に敬語すら使わない二人に、老人の不快指数は上がっていくが、いつもの事だと不満を胸の内に押し込める。
感情を殺すのは彼が最も得意とする分野であった。
そして、二人の疑問に陛下と呼ばれた女が答える。
「最近は余の容体も随分と安定してきてな。この分であれば、あと一年程で完全に復活する事ができるであろう。
そして、その時こそ、我らがディザスロード帝国による第二次侵略戦争開始の時。
今回、其方らを呼び戻したのは、その先駆けの為だ」
そこで一度言葉を切り、女は抑揚のない声に少しだけ力を籠めて続きを語った。
「此度の目的は、かつて我が国を敗北に追いやった仇敵、グラディウス王国への本格的な攻撃。
そして、空席となっている十二神将の補充だ。
此度の計画は、今まで行ってきた人形の実験を兼ねた嫌がらせとは違う。
現在の十二神将ほぼ全員と、手持ちの暗部を大量に投入する大規模な襲撃となるだろう。
各自準備を整え、来るべき時、存分に王国を蹂躙せよ」
その言葉に、スコーピオンとライゾウが好戦的な笑みを浮かべた。
シャドウもまた、仮面の下でニヤリと笑う。
表情を変えない者は三名。
一人は、感情の制御に優れ、鉄仮面を被る事に慣れた巨漢の老人。
もう一人は、まるで人形のように無反応な、上半身裸でフルフェイスの兜を被った屈強な男。
そして最後の一人。
それは、全身を真っ黒な外套で隠し、腰に業物と思われる刀を差した剣士であった。
「作戦の詳細は追って知らせる。下がれ」
『ハッ!』
その言葉に従い、各自部屋から立ち去っていく。
ある者は戦意を迸らせ。
ある者は任務への使命感で気を引き締めて。
そんな中、仮面の男シャドウは、立ち去る時剣士の男の肩にポンッと手を起き、おどけた態度で声をかけた。
「よろしくお願いしますね~、新人さ~ん」
その言葉に対して剣士の男は、まるで人形のように何の反応も返さなかった。
第4章 終




