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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第4章 武闘大会編

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62 シオン VS フォルテ

「飛脚・電光!」

「ッ!?」


 シオンが、フォルテの予想を遥かに超える速度で肉薄する。

 いや、予想どころか、確実にフォルテの速度をも超えていた。

 そのままシオンは、まるでリンネを思わせる超速で剣を振るった。


「紫電・一閃!」

「ぐっ……!?」


 雷を纏った一閃が炸裂する。

 フォルテも咄嗟にガードはしたが、間に合わずに吹き飛ばされた。

 しかも、その一撃は速いだけでなく、風と闘気の鎧を貫いて、決して軽くないダメージをフォルテへと与えた。


(痛い……)


 フォルテは心の中で弱音を吐いた。

 痛み。

 それは、最もわかりやすい苦しみだ。

 苦しみは人の心を蝕み、弱い心であれば、そのまま折ってしまう。


 しかし、フォルテの心は折れなかった。


(あの時に比べれば!)


 思い出すのは、リンネとの戦い。

 否。

 あれは戦いとも言えぬ、一方的な蹂躙であった。

 一方的に叩きのめされ、痛めつけられた、屈辱と恐怖の記憶。

 あんな思いをしたのは、人生で二度目だ。

 あの完膚なきまでの敗北は、幼い頃のトラウマを刺激し、フォルテに多大なる恐怖を刻んだ。

 虚勢を張り、屈辱に怒ったふりをして、無理矢理怒りで恐怖を塗り潰した。

 大丈夫、一度目の時のように、父の権力にすがれば何とかなると、必死に自分に言い聞かせて正気を保った。


 その時に比べれば、この程度の痛みは屁でもない。


「飛脚・疾風(はやて)!」


 そうして、今度はフォルテから仕掛ける。

 まるで先程の攻防の焼き直しのように、今度はフォルテが飛脚を使ってシオンに肉薄し、剣を振り抜く。


「風魔・一閃!」

「くっ……!?」


 今のシオンよりは遅いが、フォルテの一撃も十分に速い。

 そして、力に関してはフォルテが上だ。

 シオンとフォルテでは、纏っている闘気のレベルが違う。

 先程のフォルテと違って、シオンのガードは間に合った。

 しかし、ガードの上から強引に叩かれて、シオンもまたフォルテと同じだけのダメージを負う。


 まさに、一進一退の攻防が続いていた。


「雷神・槍牙!」

「風神・槍牙!」


 今度は、互いの突きが正面からぶつかり合う。

 剣と剣の激突によって軌道が変わり、技は互いに不発に終わる。

 それを認識した瞬間、ほぼ同じタイミングで両者は後ろへと飛んだ。

 そして、今度は剣に魔法を纏わせ、放つ。


「飛剣・雷迅!」

「飛剣・風刃!」


 属性の差により、雷の方が速く相手に到達する。

 魔力の差により、風が雷を斬り裂いて直進する。

 しかし、その時には既に、シオンは次の攻撃に移っていた。


「五月雨・雷雨!」

「!? 守ノ型・塞!」


 電光石火の連続攻撃を、フォルテは何とか防いでいく。

 当然、速度でも技術でも勝るシオンの攻撃を防ぎ切れる筈もなく、防御に失敗した攻撃が確実にフォルテを弱らせていく。

 もしも、これが真剣での斬り合いであれば、今頃フォルテは血塗れになっていただろう。

 あるいは、なます切りにされていたかもしれない。

 しかし、今使われているのは木剣だ。

 ダメージにはなっても、決定打に欠ける。


「破断・雷!」

「守ノ型・流……ぐぅ!?」


 僅かに速度を落とし、威力に特化した斬撃を放つシオン。

 結果として、それが緩急を生む事となり、この攻撃を受け流せなかったフォルテに大きなダメージを与える事に成功した。

 攻撃がヒットした左肩の骨は砕けるか、そうでなくとも大きな皹が入っているだろう。


 だが、フォルテはまだ倒れない。


(チッ!)


 心の中で、シオンは焦り混じりの舌打ちをした。

 この状況、一見シオン優勢で進んでいるように見えるが、実際はそうでもない。

 確かに、ダメージが蓄積し、フォルテは弱ってきている。

 だが、同時にシオンもまた弱ってきているのだ。

 ダメージを受けている訳ではない。

 体力が削られている訳でもない。

 しかし、シオンの戦う為の力は刻一刻と、それこそ一秒ごとに大きく失われている。


 シオンが消耗している力。

 それは魔力だ。

 魔法の発動には必ず魔力が必要であり、その消費量は強力な魔法や扱い切れぬ魔法を使う事によって、加速度に上がってしまう。


 シオンの使っている技。

 雷神憑依は、もろにこの条件に当てはまっている。


 ライゾウの生家に代々伝わる奥義であり、その難易度や魔力消費量は、この技を完全に極めたライゾウですら出し渋る程に凄まじい。

 加えて、シオンはまだ15歳の子供。

 魔力量はまだまだ成長途上であり、ライゾウに比べれば大きく劣る。

 幼い頃より魔法を使い続けてきたシオンの魔力量は、そこら辺の大人よりも余程多い。

 それでも、雷神憑依を使いこなすには不足に過ぎる。


 今のシオンの魔力で、雷神憑依を発動していられる時間は、凡そ一分。

 

 リンネの神速剣以上に明確な制限時間が存在するのだ。

 一分を過ぎれば魔力は枯渇し、雷神憑依も闘気も解けた上に、魔力切れ特有の疲労感がシオンを襲うだろう。

 そうなってしまっては、もはやフォルテには勝てない。

 故に、シオンは勝負を急ぐ必要があるのだ。


「おおおお!」


 シオンが雄叫びを上げながら、攻撃のギアを更に上げた。

 先程よりも更に速い斬撃の連打が、フォルテを襲う。

 しかし、


(当たらない!?)

(さっきよりも鈍い!)


 その判断は間違いであった。

 焦ったが故の判断ミス。

 剣撃とは、ただ速ければ良いというものではない。

 無理に速さのみを追い求めれば、振りの形が疎かになり、無駄に力が入り、結果として剣は鋭さを失ってしまう。

 かつて、アリスが速い剣に拘ったが結果、陥った失敗。

 勝負を急ぐあまり、シオンはそれと同じ失敗をしてしまった。


(マズイ!)

「もらった! 疾風・重槍牙!」

「くっ!?」


 そして、自分のミスに自分で気づいた時には、もう遅い。

 その隙を突かれて攻守が逆転し、今度はフォルテが怒涛のラッシュでシオンを追い詰める。


 フォルテの剣は速い。

 それこそ、今のシオンやリンネといった例外を除けば、学生で並ぶ者はいない程に。

 剣聖ですら、速度という一点においてはフォルテに劣る。

 そんなフォルテの攻撃だ。

 こうなってしまえば、今のシオンと言えども容易くは逆転できない。


「五月雨・旋風(せんぷう)!」

「守ノ型・流! くっ……!」


 そして、フォルテの攻撃は一撃一撃が重い。

 受け止める事などできず、受け流す事も至難。

 防御に集中しなければ、瞬く間に敗北する。

 だが、守っているだけでは確実に負ける。

 制限時間は、もうすぐそこにまで近づいているのだから。


(どうする!?)


 フォルテの攻撃を必死に凌ぎながら、シオンは考える。

 逆転の目を。

 勝利への道筋を。


 フォルテの攻撃は熾烈だ。

 だが、その顔に余裕はなく、むしろ、フォルテもまた必死に剣を振っている。

 シオンの与えた傷が効いているのだ。

 先程までのシオンの攻撃は、フォルテの全身を打ち抜いた。

 その内、剣を振るう腕に当たった回数も多く、特に左肩に当てた破断の一撃はかなり効いているだろう。


 今のフォルテは痛みを堪えながら剣を振っている。

 ならば、必ず限界がある筈。

 どこかで必ず動きの鈍るタイミングが訪れる。

 その隙が出来るのが先か、シオンの魔力が尽きるのが先か。

 それこそが勝敗を別つ境目。


 そして、━━勝機は訪れた。


「ッ!?」


 突然、フォルテの動きが止まる。

 左肩が上がらない。

 遂に、痛めつけられた骨が悲鳴を上げたのだ。

 骨に刻まれた罅が大きく広がり、砕けた。

 壮絶な痛みがフォルテを襲う。

 それが、フォルテの動きを止めてしまった。


「しまっ……!?」


 そこへ、待っていたとばかりに、シオンの一撃が繰り出される。

 魔力は尽きる寸前。

 これが最後の一撃。

 その一撃に、剣の最後の一振りに、シオンは渾身の力を籠める。


 イメージするのは、シオンが見てきた中で最も速く、最も鋭い至高の剣技。

 目の前の強敵を一方的に叩きのめした神の剣。

 今のシオンでは逆立ちしても真似できない技。

 だが、自分なりに少しでも近づこうと、その剣技を模倣し、雷神憑依で速さを底上げし、その技を放った。



「神速剣・一閃!」



 神速の領域へと、ほんの僅かに足を踏み入れたシオンの剣は、咄嗟に残った右手をガードに回そうとしたフォルテの稼働速度を遥かに上回り、━━その頭部に、決定的な一撃を叩き込んだ。


「ぐ……あ……」


 フォルテが、膝から地面に崩れ落ちる。


「ハァ……ハァ……」


 対するシオンも完全に魔力を使い果たして肩で息をし、極度の疲労の中、気力だけで立っていた。

 もう一歩も動けない。

 しかし、倒れる訳にはいかない。

 勝利が確定する、その瞬間までは。


 だが、


「あああああああああああ!」


 倒れたフォルテが、獣のような咆哮を上げながら起き上がる。

 頭から血を流しながら、震える手足に力を籠め、焦点の合っていない目を見開いて、立ち上がる。

 倒れる訳にはいかない。

 その執念のみで、フォルテは起き上がった。


『いいですか、フォルテ。我がアクロイド家に無能はいりません』


 ぼやけた頭に浮かんでくるのは、遠い昔に父に言われた言葉。

 幼い頃、人生初の大敗を喫して、父に泣きついた後の事。


『君には期待していました。君には剣と魔法の才能がある。使い方によっては『剣神』にできるかもしれないとまで思っていたんですよぉ。

 なのに、君は同年代どころか年下の平民に完膚なきまでに敗れた。

 正直、失望しましたよ。

 ただ、まあ、君はまだまだ幼い。

 成長の余地はいくらでも残されているでしょうし、ここで切り捨てるのはいささか早計というものでしょうからねぇ。

 ですから、慈悲をあげましょう。

 二度とこのような事がないように自分を鍛えなさい。

 そうして、誰にも負けない天才でいる限り、私は君を可愛い息子として扱ってあげます。

 それができなかった時は……わかっていますね?』


 そう語る父の事が、怖かった。

 怖くて怖くて堪らなかった。

 強くなければ、天才でなければ見限られる、見捨てられる。


 その恐怖は、フォルテの心の中にいつまでも残り続けた。


 だから、学校では必死に力を見せつけてきた。

 権力を振るい、気に入らない者を迫害し、自分は強者なのだと自分に言い聞かせてきた。

 自分は天才だ。

 才能と権力に恵まれて生まれた。

 ずっと勝つ事が、勝ち続ける事が当たり前なのだと、自分に言い聞かせてきた。


 その影で、決して努力も欠かさなかった。

 努力している天才は強い。

 強いから負けない。

 負けなければ、父に見捨てられる事はない。

 そんな事をずっと考えながら生きてきたのだ。

 幼き日に、青髪の少年に打ちのめされ、父にトラウマを刻まれたその日から!


 そんな思い(恐怖)だけを原動力に、フォルテはシオンを睨みつける。

 疲労困憊になりながらも、気丈な目付きで自分を睨む青髪の少年を見る。


 そこで、フォルテはふと気づいた。


(そうか……こいつは、あの時の……)


 目の前にいる少年の姿が、恐怖の始まりとなった悪夢と被る。

 その思い出を、自らの手で払拭するべく、フォルテは無事な右手をシオンに向け、魔法を発動させようとした……


 その瞬間。

 フォルテの足が、ガクンと崩れた。


(これ……は……!?)


 薄れゆく意識の中、フォルテは自分を襲うこの現象が何であるのか、理解できずにいた。


 フォルテの症状、それは魔力切れだ。

 Bブロックの戦いが始まって最初に使った大技。

 その後にも魔力の消耗を度外視で派手な技を使い続けた代償が、ここにきて牙を向いたのだ。


 再び地面に倒れ、意識を失う刹那。

 フォルテは反射的に観客席に視線を向けた。

 そして、見てしまった。

 まるで虫を見るような目でフォルテを見下ろす、父の姿を。


 心が絶望に支配されるのを感じながら、フォルテは意識を手放した。

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― 新着の感想 ―
ざまあ完了! だけど、コイツもある意味被害者みたいなモンだしな。次はピエールだな。
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