58 武闘大会に向けて
お待たせしました!
まだ第4章すら書き終えていないというアレな状態ではありますが、これ以上お待たせするのもアレなので更新を再開します。
途中で更新が止まったら察してくれ!
辻斬り騒動から二週間ほどが経過し、その話題が徐々に人々から忘れ去られてきた今日この頃。
騎士学校では、遂にこの時期がやって来たかと、別の話題で持ちきりになっていた。
それは……
「さて、いよいよこの時期になったわね。
休日を挟んだ三日後、遂に王都武闘大会が開かれるわ。
騎士学校の生徒は、授業の一環として、この大会には強制参加。
当然、成績にも響いてくる。
腕自慢の冒険者や兵士も参加してくるし、厳しい戦いになるでしょう。
その代わり、自分の強さを存分にアピールできるチャンスでもある。
優秀な成績を残して、騎士団の上層部の目に留まれば、卒業後の配属先でも厚遇されるでしょうね。
頑張りなさい」
『はい!』
朝のホームルームで語られたユーリの言葉を受けて、クラスメイト達が沸き立った。
アリスやシオンも相当気合いが入っているように見える。
目標は、打倒クソ虫か、それとも打倒私か。
前者の可能性が高そうだが、後者もあり得なくはないな。
もし後者なら、私も真面目に相手をしてやろう。
「では、本日の授業を始めるわよ」
『はい!』
だが、とりあえずは今日も地獄の授業を乗り越えなくては。
話はそれからだ。
◆◆◆
そうして、なんとか午前の授業を乗り越え、昼休み。
いつものように食堂へ向かおうとした時、取り巻きを連れたクソ虫とすれ違った。
「……チッ」
クソ虫は殺気の籠った視線で私達を一瞥すると、小さく舌打ちして去って行った。
なんだ、あの態度は?
むきゃつく。
舌打ちしたいのは私の方だ!
という事で、去り行くクソ虫達の背中に向かって中指を立てておいた。
「リンネちゃん、お行儀が悪いですよ」
「む……だが、アリス。奴らが嫌いなのはお前も同じだろう?」
「それはそれ、これはこれです」
アリスに窘められてしまったので、仕方なく中指を引っ込める。
だが、多分、次からも私はやると思う。
アレだ。
体が勝手にというやつだ。
一方、私以上にクソ虫が嫌いな筈のシオンは、私のように中指を立てる事も、クソ虫のように舌打ちする事もなく、無言で殺気を迸らせていた。
「リンネ、アリス。あいつは俺の獲物だ。手を出すなよ」
「わ、わかりました」
「まあ、前回は私達がやったしな。今回は譲ってやる。ただし、組み合わせ次第だぞ」
武闘大会は、まず参加者を4つのブロックに分け、バトルロイヤルで競う予選と、
その予選を勝ち抜いた者による決勝トーナメントという形に別れている。
予選通過者は、各ブロック一名。
凄まじい激戦が予想されるな。
だが、この試合形式だと、シオンがクソ虫と戦える可能性は4分の1だ。
上手く同じブロックに振り分けられないといけないからな。
一応、二人とも決勝トーナメントに進んだ場合でも戦えるが、私もアリスも、その為にわざわざ手を引いて負けてやるつもりはない。
クソ虫と同じブロックになったら、容赦なくぶっ潰す。
これは決定事項だ。
「ああ、それはわかっている。それで構わない」
「なら、よし」
シオンも、その可能性については納得してるようで何よりだ。
まあ、もしシオンとクソ虫が同じブロックで、そこに私も放り込まれたりした場合は、因縁の対決を邪魔しないくらいの配慮はしてやろう。
そんな事を思いながら、改めて食堂へと向かう。
そこで、いつものように、スカーレットとオリビアの二人と合流した。
そして、いつものようにお喋りに興じた。
話題はもちろん、武闘大会についてだ。
「……遂にこの時期が来ましたわね。皆さん、わかっていると思いますけれど、ここでフォルテにリベンジを許せば、全てが水の泡ですわ。
精一杯頑張るのも大事ですが、それだけは忘れないでください」
「ああ、無論だ」
スカーレットに念を押されるまでもなくわかっている。
クソ虫は潰す。
これは決定事項であり、私にとっては最優先事項だ。
それが終わったら、あとは純粋に大会を楽しむ。
アリスの成長を見るのは楽しみだしな。
最近、休日や放課後に、アレクやユーリと特訓してるのは知っている。
まあ、そんな短期間で爆発的な成長はしないと思うが、いつだって若者の可能性は計り知れないものだ。
もしアリスと直接対決する事があったら、その時は存分に相手をしてやろう。
「まあ、それはそれといたしまして。皆さん、頑張ってくださいね。
わたくしは影ながら応援しておりますわ。
せっかくの大会なのですから、優勝候補筆頭のリンネさんを倒すくらいの気持ちでやっちゃってください」
「お、それは良いな。胸を貸してやるぞ若者ども!」
「あはは、頑張ります」
「言われるまでもない」
シオンは私に対しても闘志全開。
アリスも、少し腰が引けてはいるが、全力でぶつかるという気概を感じる。
大変結構。
それでこそ、私もやる気が出るというものだ。
「オリビア、あなたもですよ。期待していますわ」
「……ハッ! 必ずや、スカーレット様の護衛として恥ずかしくない活躍をしてご覧に入れます」
どうやら、スカーレットの一言で、オリビアの闘志にも火がついたようだ。
挑戦者が増えて、私も楽しい。
私はライゾウみたいな戦闘狂ではないが、それでも、やはり一人の剣士として、闘争心というものはある。
殺し合いを楽しむ気にはならないが、試合として武を競うのは嫌いじゃない。
それに、将来有望な若者の挑戦を受けるというのは、年寄りの楽しみの一つなのだ。
まあ、今は私が一番の若者な訳だが、そこは気にしてはいけない。
「あ、そうですわ。せっかくですし、今日の放課後、コロシアムへ下見に行きませんか?
そろそろ一般参加者の受け付けも終了しますし、組み合わせも発表される筈ですわ」
「お、悪くないな」
「あ、そういう事なら、私も行きます」
「同じく」
という事で、私達の放課後の予定が決定した。
なんだか、スカーレットが少しウキウキしているように見えるが、もしかしたら、スカーレットも試合を見るのは好きなのかもしれんな。
あいつ、血筋的には武の家系であるプロミネンスの系譜だし、そういうのが好きでも、なんら不思議ではない。
そうしている内に、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り、午後の授業が開始される。
さて、まずは地獄の授業を再び乗り越えなくては。
話はそれからだ。
◆◆◆
そして、放課後。
私達は、武闘大会の会場となるコロシアムへと足を運んだ。
スカーレットとアリス、オリビアはお忍びモード。
シオンは冒険者スタイルで、私は前にアリス達と一緒に買い物をした時に買った私服だ。
こういう時くらい着ないともったいない。
あとは、いつものようにスカーレットの護衛部隊が隠れて数人付いて来ているが、まあ、彼らは背景とでも思っておけばいいだろう。
そして、肝心のコロシアムだが。
ここは長い歴史を誇る巨大闘技場だ。
城とまではいかないが、下手な貴族の敷地よりも広い、円形の巨大な建物。
月一くらいで腕自慢が武を競い、時には騎士による御前試合なども行われる由緒正しい場所だ。
だが、そんなコロシアムでも、正式に『王都武闘大会』と名の付く闘いは年に一度だけ。
最も多い参加者が集まり、騎士候補生が強制参加させられ、最大の賑わいを見せる時期。
それが今。
王都武闘大会の開催期間なのである。
そんなコロシアムの外にデカイ看板が立てられ、そこに出場選手の名前が書かれていた。
予選ブロックの振り分けと共に。
私の名前は……お、あった。
「私はAブロックだな」
「オリビアもAブロックですわ。オリビア、いきなり最強の壁とぶつかってしまいましたわね」
「リンネ様、胸をお借りいたします」
「おう、かかって来い!」
オリビアの戦いは見た事ないから、少し楽しみだ。
特に、オリビアは空間魔法使い。
空間魔法使いは極端に数が少ない上に、大抵は魔法一筋で食っていけるから、オリビアのように剣術まで使う奴は、私の長い人生の中でも見た事がない。
そういう意味でも興味深い一戦になるだろう。
ちなみに、オリビアが剣術に手を出した理由は、魔法以外でもスカーレットの役に立ちたかったからという、見上げた忠犬精神に基づくものらしいが、それは置いておこう。
「私はCブロックですね。他に知り合いの方はいないようなので、ホッとしたような、残念なような……」
ほう、アリスはCブロックか。
ならば、私と当たるとすれば決勝だな。
アリス、決勝で会おう!
「俺はBブロックだな。しかも……」
そこでシオンは言葉を切り、不敵にニヤリと笑った。
「あいつと一緒だ」
言われて見てみれば、確かにシオンと同じBブロックに、クソ虫の名前があった。
フォルテ・アクロイドという名が。
……正直、クソ虫という名前で呼びすぎて本名を忘れてかけていた。
危ない、危ない。
いや、待てよ。
むしろ、クソ虫の本名などというクソの役にも立たない記憶は、忘却の彼方にすっ飛ばしてしまった方がいいのではなかろうか?
「……剣聖はDブロックですわね。とりあえず、予選では皆さんと当たらないようですわ」
私が凄まじく無駄な事を考えていると、スカーレットがポツリとそう呟いた。
言われてDブロックの欄を見てみたが、そこでふと重要な事に気づく。
そういえば私、剣聖の名前知らんわ。
「ん?」
だが、その代わりに見知った名前をDブロックの欄に見つけてしまった。
しかし、よくある名前だ。
同名の別人という可能性も高い。
そう思っていたのだが……
「お、もう組み合わせが発表されてるっすよ。昨日登録したばっかりなのに、早いっすねー」
「俺の名前はどこだ!?」
「わー……おっきい建物」
そこに聞き慣れた声が聞こえてきて、同名の別人ではないと確信した。
見れば、シオンも私と同じ事を考えたのか、声の方へと振り向いている。
私も声の方へ目を向けると、そこには予想通りの顔ぶれが揃っていた。
「おーい! お前らー!」
私は、笑顔でそいつらに声をかけた。
すると、向こうも私の存在に気づいたのか、こっちを見た。
いや、思ったよりも早い再会だ。
「久しぶりだな!」
そこにいたのは、我が幼馴染にしてA級冒険者。
かつて私とシオンも所属していた冒険者パーティー『英雄の剣』のメンバー達。
ベル、オスカー、ラビの三人だった。




