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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第3章 辻斬り編

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57 そして、次の戦いへ

 寮へと戻ってシオンと別れ、自分の部屋に荷物を置いた後、私は意を決してアリスの部屋を訪れた。

 深呼吸して心を落ち着かせ、ドアをノックする。

 コンコンという音が鳴り、中から「は~い」と可愛らしい返事が聞こえてきた。


「どちら様ですか?」

「リンネだ」

「あ、リンネちゃん。今、開けますね」


 ガチャリと鍵が開けられ、ドアが開く。

 そして、中からアリスが現れた。


「お疲れ様でした。どうぞ、上がってください」

「う、うむ」


 アリスに連れられて、部屋の中に入る。

 部屋の構造は二人部屋だが、アリスも特別生なので、私やシオンと同じように、二人部屋を一人で使っている。

 実質、一人部屋だ。

 ルームメイトがいないと、こういう身内同士の話をする時に便利だな。


 ……しかし。


「今、お茶を入れますね」


 そう言って、お茶を用意し始めるアリスをチラリと見る。

 ……普通だ。

 前に遊びに来た時と同じ、いつも通りの対応だ。

 もしかして、今回の件を聞かされてないのだろうか?


「あの、アリス……」

「はい。紅茶です。

 ……辻斬り退治、お疲れ様でした。ゆっくりして行ってくださいね」


 知ってた。

 だが、その上でアリスは何も言わない。

 しかも、なんか、慈愛に満ちた目で私を見てるんだが。

 と、とりあえず紅茶をいただこう。


「あちっ!?」

「大丈夫ですか!?」


 うっかり舌を火傷した。

 アリスが慌てて治癒魔法をかけてくれる。

 油断した。

 まさか、この私が、こんな事でダメージを受けるとは。

 どうやら、少し動揺しているようだ。


「……アリスは知ってたんだな。私が辻斬り退治に行ってた事」

「はい。お母様から聞きました。極秘作戦との事だったので、詳細は後になってから聞かされましたが」

「……怒らないのか?」

「え? 何をですか?」


 いや、それはほら……


「お前に何も言わずに行った事とか」

「ああ……そういう事ですか。怒りませんよ。大事なお仕事だったんでしょう?

 なら、私から言えるのは、お疲れ様でしたと、無事に帰って来てくれて何より、という事だけです」


 ……良い子だ。

 凄い良い子だ。

 なんと尊い。


 だが、


「もっとこう、色々言ってくれてもいいんだぞ?

 なんで、なんにも言ってくれなかったんですか! とか。

 また勝手に危ない事して! とか」

「えぇ……リンネちゃんは怒ってほしいんですか?」

「いや、そういう訳じゃないんだが」


 言いたい事があるならぶつけてくれという意味だ。

 そう告げると、アリスは「う~ん……」と可愛く唸り、やがて何かを閃いたようにハッとした。


「じゃあ、今夜は一緒に寝てください」

「ふぁ?」


 ど、どういう事だ!?

 それでは、ただのご褒美なんだが!

 まあ、アリスがそうしたいと言うのなら、私に否はないが。


 その後、他愛もない話をしたり、一緒に料理をして私が盛大に足を引っ張ったり、お風呂に入ったりした後、少し早めの時間に就寝。

 いつもは私がアリスを抱き締めるのだが、今日は逆にアリスの方から抱き締めてきた。

 後ろから抱き締められている今の私は、サイズ的な問題もあって、まるで抱き枕のようだ。

 もしくは、ぬいぐるみ。

 年齢的に、私の体はアリスよりも小さいから、むしろ、こっちの方がしっくりくるような気がする。


「……リンネちゃん。私も不安じゃなかった訳ではないんですよ」


 私を抱き締めながら、アリスはポツリとそう言った。

 その腕が、少しだけ震えていた。


「家族とか、知り合いとかが戦いに赴くのは慣れてます。

 でも……心配はするに決まってます」

「……ああ」


 私は小さく返事をしながら、アリスの腕をポンポンと優しく叩いた。

 宥めるように。

 安心させるように。


「リンネちゃん……無事に帰って来てくれて、本当に良かったです」

「ああ」


 私はアリスを宥め続ける。

 アリスは、私がそこにいる事を確かめるように、ずっと抱き着いてきた。

 そうしている内に、ふと思い至る。

 そうだ。

 アリスに言い忘れていた言葉がある。


「アリス」

「なんですか?」


 私は、凄く優しい声で、こう言った。


「ただいま」

「……はい。お帰りなさい」


 そんなやり取りをしてから割りとすぐに、アリスは安心したように眠りに落ちたのだった。






 ◆◆◆






 翌日。

 孫娘成分をこれでもかと吸収して絶好調の私は、ダルい授業を難なく攻略し、昼休みにスカーレット達に今回の顛末を話してダベり、放課後、ユーリに呼び出された。

 呼び出された場所はナイトソード家。

 ユーリの他に、アレクとマグマもいた。

 辻斬り退治の詳細報告が聞きたいのだろう。

 どうやら、呼び出しの目的は、学校をサボりまくってる私への生活指導ではないようだ。


「リンネ、まずは礼を言っとく。家族を守ってくれて感謝するぜ」


 そう言って、マグマは頭を下げた。

 その顔は、心底ホッとしたように緩んでおり、同時に心から私に感謝しているのが伝わってきた。

 その姿は、家族の事を思う、一人の立派なお父さんに見えた。


「マグマ、これだけは言っておく」


 そんなマグマに対し、私はとてつもなく真剣に告げた。


「末永く爆発しろ、このロリコン野郎が」

「お、おう」


 私の、責めてるのか祝福してるのかわからない言葉を聞いて、マグマは萎縮した。

 一応、自分がやらかした事は自覚しているらしい。

 なら、まあ、許してやろう。

 マルティナも幸せそうだったし、イグニは可愛かったし。

 13歳を孕ませた件に関しては不問にしてやる。

 寛大な処置に感謝せよ。


「まあ、マグマのロリコン問題については置いておきましょう。

 それこそ、結婚当時から、さんざん議論された事だしね。

 それよりも、今は辻斬りの話でしょう?」

「ユーリの言う通りだね。

 リンネさん、今回は本当にありがとうございます。

 これで辻斬りの犠牲者はいなくなりますし、それに大臣の力を大きく削ぐ事ができました。

 アクロイド家の取り潰しも、より一層捗るでしょう」

「……ああ、そうだな」


 カゲトラの身の上話を聞いた身としては、奴を斬った事を手放しに喜ぶ気にはなれない。

 だが、それはそれ、これはこれだ。

 あいつは倒すべき敵であり、あいつが死んだ事でこの先の犠牲者はいなくなり、アレク達は有利になった。

 喜べはしなくとも、これで良かったのだと割り切る事はできる。


「浮かない顔ね。どうしたの?」


 しかし、やはり、ちょっとした不満が顔に出てしまったらしい。

 ユーリが目敏く、それを言い当ててきた。


「……ちょっと辻斬りと話す機会があって、その人柄を知ってしまってな。

 少しだけやりきれないと思っただけだ」

「珍しいわね。敵に情けは無用とか言ってたくせに」

「まあな。私も耄碌したという事だろう」


 それに、カゲトラは凶悪な辻斬りだったが、身内が被害に合った訳ではないし、誰かがカゲトラに殺される場面を目撃した訳でもない。

 私だって人間だ。

 見た事も会った事もない被害者の為に、そこまで怒る事はできない。

 帝国の時とは違うのだ。

 それでも、戦闘中は情け容赦なく殺しに行ったのだから、情に流された訳ではないと思うがな。


「聞くか? 辻斬りの身の上話。あまり気分の良い話ではないし、無理に聞く必要もないと思うが」

「……辻斬りはたしか、元は和国の侍という話でしたよね?」

「ああ。本人と知人の話だと、そこそこ出世してたらしいな」

「わかりました。聞きましょう。

 経緯はどうあれ、それだけの人物を殺してしまったとなると、和国との問題になりかねませんし。

 その時に、事情を知っていた方がいいでしょうから」


 アレクの言葉に、ユーリとマグマは異論を挟まなかった。

 まあ、そういう事なら話しておくか。

 

 そうして私は、アレク達にカゲトラの身の上話を話した。

 貧しい身の上からのし上がり、一時は栄華を手に入れたものの、才能の壁にぶち当たって挫折し、

 その心の隙を妖刀の呪いに付け込まれて破滅した、哀れな剣士の話を。


「それは、また……」

「愚かね。才能の壁にぶつかったくらいで呪いの武器に手を出すなんて」

「そう言うなや、ユーリ。あれは意外と心にくるぜ。

 騎士団にも、似たような理由で挫折する奴は結構いる」

「そんな事はわかっているわ。ウチの生徒にも同じような子はいるもの。

 それを踏まえた上で、呪いの力にすがるのは愚かって言ったのよ。

 解決手段は他にもあるというのに、わざわざ破滅するとわかっている最悪の手段を選ぶなんて」


 ユーリの言う事はもっともだな。

 特に、人を教え導く教師であるユーリだからこそ、その言葉は重い。

 ただし、紅桜を実際に握ってみた身としては、あれに支配されるのも仕方ないと思えてくるがな。

 それくらいに強い呪いだった。


「それで、その妖刀とやらはどうしたんですか?」

「私が責任持って封印してる。これはお前らにも任せる気はないぞ。

 あんな危険物に関わる人間は少ない方がいい」

「まあ、確かにその通りですね。なら、リンネさんに任せます」

「うむ。任された」


 紅桜は空間収納の魔道具の中だからな。

 その魔道具は、今まで使ってた道具入れの代わりに、これから肌身離さず持ち歩くつもりだ。

 見た目は普通の道具入れと同じだから、わざわざ狙ってくる奴はいないだろうし、その中に危険な妖刀が入ってるなんて思う奴もいないだろう。

 そもそも狙われなければ、盗まれる可能性は少ない。

 ナイトソード家の金庫にぶち込むより安全だろうな。

 主に、使用人軍団が事故で触る可能性を排除できるって意味で。


「和国の国宝って話だからな。せいぜい管理には気を付けるさ」


 私が何気なく言ったその言葉を聞いた瞬間、アレク達が固まった。

 どうした?


「……リンネさん、今なんて言いました?」

「和国の国宝だから、管理に気を付けると言った」

「妖刀って、そんな大それた代物だったんですか!?」

「ん? 言ってなかったか?」

「聞いてないわね」

「このクソ爺! また重要な事を後から言いやがって!」


 そんなに重要な事か?

 こんな危険物、いっそどっかに埋めちまっても問題ないと思うが。

 いや、掘り返されるのが怖いからやらんが。


「絶対に和国との問題になる……」

「兄上にも報告しておくわ」

「問題が増えたな。頭が痛ぇ」


 なにやら、アレク達が騒ぎ始めたので、私は「頑張れ」とだけ告げて静かにフェードアウトした。

 難しい話はお前らだけでやってくれ。

 私は知らん。

 私が必要になったら呼んでくれい。


 そうして、私はいつものように面倒事を他にぶん投げて、屋敷を去った。






 ◆◆◆






 夜。

 寮のベッドに寝転がりながら、少しだけ物思いにふける。


 今回も色々な事があった。

 カゲトラとの戦い。

 ライゾウとの出会い。

 ドレイクとの再会……はよくある事だが。


 他にも、愛剣の代替わりに、紅桜という地雷の入手。

 何より、一番大きかったのは、マルティナとイグニとの出会いだ。

 また守りたいものが増えた。


 なんというか、王都に来てからは、イベントに事欠かないな。

 マーニ村にいた頃は、大きな事件なんて数年に一度あるかないかだったというのに。

 冒険者やってた頃より冒険してる気がする。

 不思議だ。


「で、次は武闘大会か」


 クソ虫が出てくるし、遂にまだ見ぬ今代の剣聖も出てくる。

 それに、シオンとアリス、ついでにオリビアも参加するのか。

 騎士学校の生徒は強制参加だからな。


「本当にイベントには事欠かんなぁ……」


 妙な気分になりつつも、私は思考を打ち切り、布団にくるまって寝る姿勢に入った。

 考えても仕方ない。

 何をしてもしなくても時間は流れ、次のイベントがやってくる。

 なら、さっさと寝て体力を温存しておこう。


 そして私は、次の戦いに備えて、グッスリと爆睡したのだった。

第3章 終

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