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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第3章 辻斬り編

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55 辻斬り騒動の後で

「リンネ様、ドレイク様、この度は本当にありがとうございました」

「よくやった!」


 カゲトラを仕留めた後、それ以上の襲撃はなく、無事にマルティナとイグニを目的地まで送り届けた。

 マルティナは深々と頭を下げ、イグニはどことなく上から目線で労ってくれた。

 そんなイグニも、実に可愛い。

 抱き締めた。

 嫌がられた。

 お祖父ちゃんは悲しい。


「な、なに、お前達を助けるのは当然の事だからな。

 また、何かあったら頼れ」

「フフ。では、その時はお言葉に甘えさせていただきますね」


 マルティナの後ろから威嚇してくるイグニの姿にダメージを受けつつ、マルティナと言葉を交わした。

 こいつらは、私にとって身内に等しい。

 身内が困っていたら助ける。

 当たり前の事だ。

 これからも、仲良くやっていきたい。


「では、またな」

「はい。道中、お気を付けて」


 そう。

 私達は、もう王都に戻る。

 二人とは、ここでお別れなのだ。

 まあ、マルティナ達も、そう長い事こっちに留まる訳ではないし、じきに王都に帰って来る。

 そうしたら、いつでも会えるようになるさ。

 だから、寂しくはない。


「ほら、イグニ。お礼を言いなさい」

「うー……」


 最後に、マルティナが背後に隠れたイグニを引っ張り出してくれた。

 そしてイグニは、数秒うーうーと唸った後に、プイッとそっぽを向きながらボソッと言った。


「あ、ありがとう」


 可愛い。

 尊い。

 そっぽを向きながら、若干顔を赤くしている姿は、まるで素直になれない反抗期の子供のようで、凄まじく可愛い。

 抱き締めたい。


 だが、落ち着けリンネ。

 ここで抱き締めては、同じ事の繰り返しだ。

 私は学習する女。

 別れの時まで孫に嫌われたくはない。


 私はポスッと、イグニの頭に優しく手を置くに留めた。


「どういたしまして」


 そして、穏やかな笑顔でそう言った。

 この子を守れて本当に良かった。

 本心から、そう思いながら。


 イグニは、そんな私の手を払いのけなかった。


「じゃあ、またな」

「ん」


 そうして、二人に別れを告げ、私はドレイクと共に王都への帰路を歩き始めたのだった。






 ◆◆◆






「ドレイク。今回は助かったぞ」

「ハッ。ほぼ嬢ちゃん一人で解決してたじゃねぇか」


 帰り道。

 私は乗合馬車の中で、ドレイクに話しかけていた。

 まあ、結果だけで言えばドレイクの言う通りなんだが、それでも私は、ドレイクを連れて来たのが無駄だったとは思わない。


「お前がいたから、私は辻斬りとの戦いに専念できたんだ。感謝してる」

「……ふん」


 素直に感謝の言葉を伝えると、ドレイクは決まり悪そうにそっぽを向いてしまった。

 イグニと違って、全然可愛くないな。

 おっさんがやっても絵にならん。


「……まあ、嬢ちゃんが何も言わずに一人で行くよりは良かったと思っておく。

 今回は大して力になれなかったが、それでも、また何かあったら頼れよ。

 何も聞かされずに、気づいたら嬢ちゃんが死んでたなんて事になったら嫌だからな」

「ああ」


 こいつは頼りになる。

 その時は、また声をかけよう。


「そういえば、ドレイクはこれからどうするんだ?

 辻斬りも倒したし、またフラフラと、どこぞの街に行くのか?」

「いや、もうしばらく王都に留まるつもりだ。

 旅立つのは、武闘大会を見学してからだな。

 嬢ちゃんと『剣聖』の戦いには興味がある」


 ああ、そういえばもうすぐだったな、武闘大会。

 今回の件で、またしても学校をサボったから、今一大会が近づいているという実感に欠けていた。

 そして、剣聖か。

 スカーレットの話だと、剣聖も留学生とは言え騎士学校の生徒なんだから、強制参加の武闘大会には出てくる筈だ。

 まだまだ若造とはいえ、教国最強の剣士。

 気を引き締めてかかる必要があるな。

 まあ、今回と違って殺し合いではないのだから、そこまで張り詰める必要もないだろうが。


「あとは『風の貴公子』あたりも有望株だな。

 去年の大会では、一応とはいえ剣聖に勝ってる奴だ。

 油断してると、嬢ちゃんもやられちまうかもしれんぞ」

「風の貴公子?」


 聞かない名前だな。

 誰だ、そいつ?


「たしか、フォルテって名前だったか? 貴族のボンボンって話は聞いたな」

「ああ、クソ虫の事か」

「クソ虫!?」


 考えてみれば、あいつも強敵と言えば強敵なのか。

 私からすれば余裕だが、アリスやシオンからすれば、まだまだ敗色濃厚な相手だろうしな。

 それに、若者というやつは、時に短期間で予想外の成長を遂げる事がある。

 前回の屈辱をバネに急成長してくる可能性もあるのだ。

 というか、あいつ剣聖に勝ってたのか。

 おや?

 という事は、剣聖は意外と大した事ない?


 ……まあ、なんにせよ、クソ虫に関しても要警戒だな。

 万一、大会で私達への雪辱を果たしたら、またデカイ顔してアリスに絡んでくるかもしれんし。

 今度こそ、衆人環視の前で完膚なきまでに叩き潰し、心を折ってやるとするか。


「ま、まあ、なんにせよ、頑張れよ嬢ちゃん」

「うむ。……ん? というか、ドレイクは参加しないのか?」

「ああ、俺はやめておくさ。引退間際のおっさんが若者に交ざるのはキツイんでな」


 その理屈で言うと、引退どころか一回死んだ爺が若者に交ざるというのも……いや、今の私は美少女だ。

 天才剣士リンネちゃんだ。

 ならば、なんの問題もないな。

 


 と、そうして、とりとめのない話をしている内に馬車は進み、中継地点の街や村で何泊かしてから、私達を王都へと帰って来たのだった。






 ◆◆◆






 王都へと戻った後。

 ちょっと思い至ってヤコブの爺さんの所に寄り、空間収納の魔道具を買って、その中に紅桜をぶち込んで封印した。

 空間収納の魔道具は、超高級品だけあってさすがに高かったが、必要経費だと思っておこう。

 紅桜なんて超危険物、そこら辺に捨てておく訳にもいかないからな。


 で、その後。

 ドレイクが今回の祝勝会をしたいと言うので、一番馴染み深い酒場、冒険者ギルドにやって来た。

 マグマへの報告は後でいい。

 マルティナが早馬で手紙を出してたから、家族の無事と、辻斬りが討伐された事は知ってるだろうからな。


 で、冒険者ギルドに辿り着いた頃には、時刻は夕方。

 学校はとうに終わっている放課後の時間。

 そして、ギルドに入ると、見知った顔が二人いたので、せっかくだから声をかけた。


「ええ!? カゲトラ殿を倒してしまったのでござるか!?」


 それが、今声を荒げたライゾウと、ボロボロになったシオンだった。

 どうやら、シオンはここ数日、ライゾウに修行をつけてもらっていたらしい。

 探せど探せどカゲトラを見つけられないライゾウとギルドで再会し、ライゾウの息抜きを兼ねて、シオンが修行の話を持ちかけたんだとか。


 ライゾウは、そこそこ強いシオンと戦えてハッピー。

 シオンは強くなれてハッピー。

 ウィンウィンの関係という訳だ。

 そういう取引がでるようになっていたとは、シオンのコミュ力も上がったものだな。

 昔は、ただのボッチだっというのに。


 で、修行の後に一緒に飯を食ってたら私達が現れたと。

 そこでカゲトラを仕留めてきた話をしたところ、ライゾウが驚愕した訳だ。

 まあ、狙ってた獲物を、横からかっさらわれたようなもんだしな。


「何故、拙者を誘ってくださらなかったのでござるか!?」

「いや、お前、絶対目立つじゃん。そしたら、カゲトラが出て来ないと思ったんだよ」

「うっ!?」


 心当たりがあり過ぎるのか、ライゾウは反論もできずに黙った。

 一応は、自分を客観的に見れているらしい。

 それに、そもそもライゾウが勝手にカゲトラを獲物認定していただけであって、私達がそれに遠慮する必要などないのだ。

 故に、文句は受け付けない。


「リンネ」


 ライゾウが意気消沈して崩れ落ち、ドレイクにドンマイとばかりに肩を叩かれていると、今度はシオンが私に話しかけてきた。

 ……なんとなく言わんとしている事はわかる。


「お前はまた、勝手にそんな事を」

「い、いや、勝手にではないぞ! 一応、ちゃんと正式に決定した作戦だったし!」


 シオンは少し怒っていた。

 まあ、それも当然と言えば当然だろう。

 今回、シオンには何も伝えてないからな。

 知らん内に友が死地に赴いていたとなれば、そりゃ怒りもする。

 しかも、シオンに声をかけなかった理由が理由だ。


 実力不足だから置いて行った。


 シオンは、言わずとも、それを察しているのだろう。

 その証拠に、シオンは怒りつつ、凄い不機嫌そうな顔になっている。


「……はぁ。まあ、力不足の俺に何かを言う資格はない。

 だから、俺は(・・)何も言わないでおく。

 だが、アリスあたりは何か言うかもな。覚悟しておけ」

「うぐっ!?」


 シオンの言葉は、私の胸に深く突き刺さった。

 そうだった。

 今回の話をアリスが知れば、どんな反応をする事か……。

 ああ、想像するだけで胸が痛い。


 まあ、アリスも騎士の娘。

 身内が危険な仕事をする事には理解があるだろうし、極秘作戦という事で自分に伝えられない事もあるとわかってはいるだろう。

 しかし、理解する事と、納得する事は別。

 もっと言えば、納得する事と、それでどんな感情を抱くのかという事も、また別だ。


 悲しい顔をされるかもしれん。

 うっ!

 胸が張り裂けそうだ!

 だが、言わなければならん。

 ずっと秘密にされた方が、もっと辛いだろうからな。


 とりあえず、今日中に寮に行って話そう。

 そして、全力で機嫌を取ろう。

 うむ。

 それが良い。

 むしろ、それしかないな。


「うぅ……カゲトラ殿ぉ!」

「いい加減、落ち着けっての」


 私が心の中でアリスに平謝りしていると、ライゾウが何故か泣いていた。

 ドレイクが、しょうがねぇなとでも言わんばかりに、背中を擦っている。

 ライゾウ、お前……まさか、カゲトラの事が好きだったのか?

 そっち系というやつか?

 と思ったら、ライゾウの側には酒の入ったコップが置かれていた。

 どうやら、酔ってるだけのようだ。


「ライゾウよぉ。そんなに強い奴と戦いてぇなら、武闘大会にでも出てみたらどうだ?

 そしたら、嬢ちゃんとか『剣聖』とかとも戦えるぜ?」

「それができたら苦労はないでござる!」


 ドレイクが至極もっともな事を言って宥めたが、ライゾウは何故かキレた。

 酒に弱いのだろうか?


「拙者、主に呼ばれてしまったのでござるよ! 故に、すぐにでも戻らねばならぬのでござる!

 大会に出る時間などないのでござるよ!」


 ああ。

 そういえばこいつ、流浪の武芸者とか名乗ってたくせに主がいるんだったな。

 カゲトラの話だと、ライゾウは和国の名門出身みたいだし、色々あるのだろう。

 ……というか、すぐにでも戻らなければならんのなら、こんな所で飲んでていいのだろうか?


「そうだ! リンネ殿! 最後にどうか一戦!」

「酔っぱらいの相手をする気はないぞ。

 一度はカゲトラとも戦えたんだから、それで満足しとけ」

「そんな、ご無体なぁああ!」


 煩い。

 尚もライゾウは騒いだので、「わかった、わかった、また今度な」と言って煙に巻いておいた。

 まあ、また会う事があったら、戦ってやるのもやぶさかではない。

 今回はことごとくタイミングが合わなかったが、別に試合くらいなら断る理由もないのだから。



 そして、宴もたけなわ、祝勝会というより、ライゾウの送別会のようになってしまったプチ宴会も終わり、

 ドレイクは宿へ。

 私とシオンは寮へ。

 そして、ライゾウはどこかへと帰る。


「リンネ殿! 約束でござるからな! 次に会った時は、勝負でござる!」

「わかった、わかった」


 去り際に、ライゾウはそんな感じの宣言をして、そして、酔っているとは思えないしっかりとした足取りで去って行った。

 なんというか、ライゾウは最後までライゾウだったな。


「さて、私達も帰るか。またな、ドレイク」

「おう。嬢ちゃん達も元気でな」


 そうして、ドレイクとも別れを済ませ、私達も寮へと引き上げたのだった。

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