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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第3章 辻斬り編

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48 お出かけ

 そうして、次の日の放課後。

 お出かけデートの時間。

 王都の中央通りにある人気の服屋において、私はフリッフリのワンピースを着ていた。


「どうだ☆」

「うっ、吐き気が」


 目元にピースを作って可愛いアピールをしてみれば、私のあまりの美少女オーラにやられたのか、シオンが口元を押さえて顔を青くした。

 うむ。

 我ながら、凄まじい破壊力だな!


「シオンさん! 失礼ですよ!」

「よくお似合いですわ、リンネさん!」


 アリスがシオンを叱り、スカーレットは普通に褒めてくれた。

 オリビアも、珍しく自分の意思を見せてコクコクと頷いている。

 ふむ。

 悪くない気分だ。

 私の中にも、年頃の少女としての感覚が少しはあるのかもしれんな。



 このお出かけデートの主導権を握っているのはスカーレットだ。

 発案者である事以上に、スカーレット以外に舵を切れる奴がいなかったという理由がある。

 私は年頃の連中がこういう時どうするのかわからんし、シオンはボッチ気質、オリビアは自己主張がない。

 唯一アリスだけは可能性があったが、普段から出かける時はスカーレットに進行を任せているらしく、無理に自分が仕切ろうとは思わなかったようだ。


 結果、外出先はスカーレットの意見が採用され、この女性用の服屋にやって来た訳だ。


 そして、何を思ったのか、スカーレットはまるでナイトソード家メイド軍団のごとく、私を着せ替え人形にして遊び出した。

 私が女っぽい私服を一着も持っていないと言ったら、何故かスカーレットの闘志に火が付いてしまったのだ。

 私は当初なされるがままになっていたが、アリスがおずおずと参戦してきて、スカーレットに協力したところで、やる気に火が付いた。

 ノリノリで着せ替え人形からモデルへと転職し、そこまでいくと何故かオリビアまで参戦してきて、ファッションショーは盛大に盛り上がった。

 シオンだけを蚊帳の外にして。

 まあ、奴には審査という重要な役目があるんだがな。

 その役目を果たせているかは、正直、微妙なところだが。


 代わりに、アリスに聞いてみよう。


「アリス、どう思う?」

「とっても可愛いですよ」

「よし、買おう!」


 即行で購入を決意する。

 こういう服を着る機会はあまりないが、アリスが褒めてくれるのならば、何着か持っていても損はあるまい。


「まったく! リンネさんは素材が良いのですから、磨かないのはもったいないですわ!

 いくら以前が以前でも、今は今! もっと女の子としての自覚を持ち、女の子としての魅力を磨いても罰は当たりませんわよ!」

「む」


 スカーレットの言葉に、少し考える。

 たしかに、私は元男だが、今は母の美貌を受け継いだ美少女。

 その魅力を磨かないのはもったいない、いや、母に対して失礼ではないだろうか?

 これからは、もう少し認識を改め、少しは女らしくするべきかもしれん。


「……勘弁してくれ。女らしいリンネなんて鳥肌が立つ」

「シオンさん!」


 まあ、シオンもこう言ってる事だし、女らしくは気が向いた時でいいか。

 とりあえず、今日はアリスに勧められた服を数着買うだけにしておこう。

 そうしよう。



 そうして買い物を終え、再び街へと繰り出した。

 ちなみに、今着ているのは、ミニスカートがキュートなファッションだ。

 そして、履いてみてわかったが、ミニスカートって動きやすいな。

 少しスースーするが、普段履いているショートパンツすら上回る動きやすさ。

 いっそ、普段着にしてしまおうか?

 悩むな。


 そんな事を考えつつ、他の四人と喋りながら街並みを歩く。

 シオンは荷物持ちだ。

 さすがに、女四人に男一人という構成で、男一人であるシオンが荷物を持たないという選択肢はなかった。

 もし拒否していれば、街行く人々から冷たい視線で見られていた事だろう。


 そんな感じで歩いていた時、ふと、人だかりを見つけた。

 道行く人々が足を止めて、その場に留まっているのだ。

 なんぞ? と思って近づいてみると、近づくにつれて楽器の音色と歌声が聞こえてくるようになった。

 どうやら、吟遊詩人が演奏しているらしい。

 そして、人だかりが出来る事からもわかる通り、結構上手い。

 耳に残る美声だ。


「せっかくですし、少し聞いていきましょうか?」


 スカーレットの提案により、私達もまた他の通行人と同じく足を止めて演奏に聞き入った。

 どうやら、この歌の題材は前世の私、『剣神』エドガーの物語のようだ。

 私が剣神になる前の話、『剣姫』シャーロットこと、シャロとのラブストーリーを歌っている。

 今は、敵に拐われたシャロを私がカッコよく救い出すシーンだ。

 使い古された題材だが、歌い手の腕が良いのか、感動的な良い曲に仕上がっている。


「これって本当の事なんですか?」


 その演奏を聞いたアリスが小声で質問してきた。

 モデルが目の前にいるという事で、気になったらしい。


「本当の事だぞ。まあ、かなり脚色が入っているがな」


 この歌に登場する私はやたらとカッコよく、シャロがやたらと素直で可愛らしいが、まあ、嘘は語っていない。

 史実と言えば史実だ。


「へ~!」


 それを聞いたアリスは、興味津々といった感じで歌を聞く事に集中した。

 さすがに、ここまで美化された歌を孫に聞かれるのは、少しこそばゆいな。

 逆に、シオンは実に胡散臭いものを見る目で私と吟遊詩人を見ている。

 そこまで疑われると、それはそれで腹立つ。


 そうしている間に演奏が終わった。

 場は拍手喝采に包まれ、吟遊詩人目掛けて大量のお捻りが舞う。

 私も金貨を投げておいた。

 孫を楽しませてくれた礼だ。

 遠慮なく受け取るがいい。


「ありがとうございます。では、好評につき、もう一曲歌わせていただきましょう」


 お捻りを投げて立ち去ろうとしたが、その言葉を聞いて私達の足は止まった。

 そして、吟遊詩人は楽器を構え、次の曲名を口にする。


「『若き英雄達の歌』」


 そうして歌われ出したのは、遠方で活動する若き冒険者パーティー『英雄の剣』をモデルとした歌。

 『英雄の剣』。

 かつて、今世の私が幼馴染達と共に結成した冒険者パーティーだ。

 しかも、歌の内容は私の知らない出来事だった。

 つまり、この歌は私達が脱退した後の『英雄の剣』の活躍を歌っている。


 内容は、どこかの迷宮を面白おかしく攻略する物語。

 実にあいつららしい。


「あいつらも元気でやってるみたいだな」

「……ああ」


 私の独り言に返事があった。

 返事をしたのはシオンだ。

 やはり、幼馴染として、元パーティーメンバーとして、あいつらの現状は気になるらしい。


「お知り合いですか?」

「ああ、幼馴染だ。私とシオンもこのパーティーに入ってたんだぞ」

「あ、そうだったんですか」

「そういえば、聞いた事がありましたわ。『天才剣士』が所属していたパーティーの話を。

 なるほど、彼らがそうなのですね」


 それを聞いた事で、アリス達の歌への関心が高まったらしい。

 さっきの私の歌の時と同じくらい、真剣に聞き入っている。

 まあ、この歌もベル達の活躍がコミカルに表現されていて、聞いてて楽しい。

 やはり、この吟遊詩人は良い腕している。


 そんな感じで、再び演奏が終わった。

 またも拍手が巻き起こり、お捻りが宙を舞う。

 私も、もう一度お捻りを投げておいた。

 今回は銀貨だ。

 あいつらの歌に金貨を払うというのも変な気分だったので、ちょっとケチッた。

 すまんな、吟遊詩人。


 そうして演奏は今度こそ終わり、吟遊詩人は大量のお捻りを持ってホクホク顔で帰って行った。

 私達も、これ以上この場所に留まる理由もないので、お出かけデートを続行。

 色々な店を周り、女の買い物(特に王女というセレブの買い物)がいかに凄まじいかを身を以て体験し、荷物持ち(シオン)が闘気を解放しなければならない事態になった。

 それでも、なんだかんだで楽しい時間だった。

 

 しかし、それもそろそろ終わりだ。

 日が傾いてきている。

 辻斬りが出没する昨今、夜の外出は危ない。

 つまり、お出かけデートはここまでだ。

 元々、放課後の時間を使っていたが故に、あまり長時間の外出は無理だったのだ。

 こればかりは仕方がない。


「さて、では帰るか」

「はい」

「そうですわね」

「やっと、終わった……」


 約一名、荷物持ちの生気がなかったが、まあ、気にする事はあるまい。

 シオンは、この程度でくたばるような男ではない。

 放置すれば、明日には元気になっているだろう。


「リンネちゃん、今日は楽しかったですか?」


 帰り道で、ふとアリスがそう尋ねてきた。

 もちろん、答えは決まっている。


「ああ! 凄く楽しかったぞ!」


 私は、心からの笑顔でそう言った。

 辻斬りのせいで、どうしても少しピリピリしていた心が洗われたような気がする。

 良い息抜きになった。

 是非とも、また皆で来たい。


「それは良かったです」


 私の返事を聞いたアリスは、とても優しく微笑んだ。

 まるで、心のつかえが取れたかのような笑顔だった。

 ……もしかしたら、アリスは私達が辻斬りと対峙した件を、まだ気にしていたのかもしれない。

 気にするなとは言ったが、それでも気に病んでしまう優しい子だという事は知っている。


 もし、こうして元気な姿を見せた事で、アリスの心に安心を与えられたのなら良かった。

 なんとはなしに、そんな事を思った。






 ◆◆◆






 そして外出を終え、皆で学校へと帰り、それぞれ寮の部屋へと戻った後の事だった。


「あ!」


 私はある用事を思い出した。

 別に今日やらなければならない用事ではない。

 だが、なるべく早く済ませたいと思っていた用件だ。

 まだ日は沈んでいない。

 急げば、すぐに戻って来れるだろう。


「行くか」


 即決即断。

 私は再び寮を飛び出し、駆け足である場所へと向かった。

 目的地は、とある商店。

 王都の中でもかなり大きく、様々な商品を扱っている有名店だ。


 受付で名前を告げ、しばらく待つ。

 そうすると、従業員に上階の部屋へと案内された。

 そこには、何人かの護衛を連れた、一人の老人の姿が。


「爺さん、来たぞ」

「おお! 待っとったぞ、リンネちゃん。

 さあさあ、約束通り、良い剣を揃えておいたぞい」


 そう言って従業員に指示し、色々な剣の積まれた台車を運ばせている老人の名は、ヤコブ。

 辻斬りことカゲトラと遭遇した事件において、私達が護衛していた商人だ。

 カゲトラの狙いは私だったようだが、タイミング的に本来の狙いはこの爺さんだったんじゃないかと、私は睨んでいる。


 まあ、それはともかく。

 私は、爺さんが約束通り用意してくれた名剣の数々を物色していった。

 一本一本振ってみて、自分に合うかどうかを確かめる。

 その結果、次の愛剣候補は三本にまで絞られた。


「うーむ……悩むな」


 そう呟きながら、もう一度一本ずつ手に持って確認する。

 今度は、爺さんが剣の解説を入れてきた。


「それは世界最硬と言われる鉱石、アダマンタイト鉱石を素材に作られた剣じゃな。

 耐久性において、その剣の右に出るものはないじゃろう」


 そんな解説をされたのは、飾り気のないシンプルな形状をした剣。

 世界最硬の鉱石を使っているという話だが、見た目は普通の剣だ。

 質実剛健と言った感じで私好みではあるが、少し刃渡りが長く、今の身体に合わない。

 まあ、このくらいなら、振ってる内にすぐ慣れるとは思うんだが、そこが決めかねている理由だ。


 アダマンタイト製の剣を置き、次の剣を手に取る。


「黒剣。武具の素材として優秀な金属、黒鉄(くろがね)を使った剣じゃな。

 アダマンタイトには僅かに劣るが、強度は保証付き。

 何より、黒鉄特有の凄まじい破壊力を秘めておる。

 それもまた、おすすめ商品じゃな」


 次に手に取ったのは、漆黒の剣身を持った剣。

 大きさはアダマンタイト製と同じくらい。

 しかし、重い。

 黒鉄特有の重さがある。

 闘気を纏えば問題なく扱えるレベルだし、これが破壊力の秘訣なんだろうが……微妙に好みと合わないな。

 次だ。

 私は、最後に残った剣を手に取った。


「それが一番のおすすめじゃぞ。なにせ、その剣は魔剣じゃ! それも、かなり高位のな!

 さすがに十剣には劣るが、それがワシの店にある中で最高の剣であると断言しよう」


 爺さんの言う通り、その剣は魔剣だった。

 意識して使えば、魔剣特有の擬似闘気が私を包み込む。

 爺さんの言葉に嘘はなく、私の目利きが正しければ、この剣は相当高位の魔剣だ。

 おそらく、格としてはドレイクの持っていた剣と同格のレベル。

 普通なら、金貨何千枚という価値があるだろう。

 それを、爺さんは格安で売ってくれると言っている。

 それでも相当の額にはなるが、S級冒険者の稼ぎを持ってすれば、払えなくはない額だ。


 しかし、


「うーむ……」


 私は悩む。

 硬度ならばアダマンタイト製。

 破壊力ならば黒剣。

 性能重視ならば魔剣だ。

 魔剣に関しては、擬似闘気を纏えば硬度の面でも他の二つを超えるだろう。


 だが、しかし。

 魔剣には大きな欠点がある。

 

 今の私は自分の闘気の反動にすら耐えられず、全開の闘気に耐えられる時間は約十分しかない。

 そこにこの魔剣による擬似闘気を上乗せすれば、その制限時間は一気に縮むだろう。

 一分か、二分か。

 おそらく、その程度の時間しか全力は出せない。

 切り札としてはアリだが、一分でカゲトラを倒せるかと言われると即答はできない。


 やはり、魔剣はなしだな。

 そうじゃなくても、普通に高いし。


 そうなってくると、残るはアダマンタイト製と黒剣の二つ。

 どちらも一長一短だ。

 おそらく、どちらを選んでも総合的には大差ないだろう。


 ならば、自分の好みを優先するか。


「よし! 決めた!」


 私は次なる愛剣を再び手に取った。

 選んだのは、アダマンタイト製の剣。

 どことなくグラムを思わせる、シンプルな剣だ。

 やはり、私にはこういうのが合っている。

 刃渡りに関しても、私が成長期である事を加味すれば、すぐに身体に合うようになるだろう。

 よし、お会計だ。


「ふむ、それでいいのかね?」

「ああ。これに決めた」

「ふむ。ワシとしては魔剣を選んでほしかったが、まあ、自分で決めたのが一番じゃろうな。

 よし! サービスしてやろう!」

「おお! 貰えるのか?」

「そんな訳あるかい! 値引きするだけじゃい!」


 そんな訳で、私は新たなる愛剣を手に入れた。

 お値段は金貨二十枚。

 中々の大金だが、剣の性能を考えれば破格の値段と言っていい。

 私は爺さんに礼を言い、ホクホク気分で店を出た。


 しかし、ここで誤算に気づいた。


「……少し時間をかけ過ぎたな」


 私が店を出た時には、もうすっかり夜になっていたのだ。

 まあ、気をつけて帰れば大丈夫だろう。

 襲ってくる輩がいれば、愛剣の試し切りをしてやる。


 そんな感じで夜道を歩く。

 若い美少女の一人夜歩き。

 そこはかとなく危険な匂いがするが、私はあえて堂々と歩いた。

 私はロリーな美少女だが、元剣神である。

 警戒はしても、過剰にビクつく必要はない。


 そうして歩いている内に、前方から不審な奴が歩いて来るのが見えた。


 ボロい外套で全身を隠した奴だ。

 身長やシルエットから男だとわかる。

 だが、フードを目深に被って顔を隠した様子は、不審者の一言に尽きる。

 こんな時間帯に出歩いている事といい、実に怪しい。


 私はそいつと普通にすれ違い、━━その直後、そいつの首筋に新しい愛剣を添えた。


「こんな所で何をしている? 指名手配犯(・・・・・)

「なに、ただの散歩だ。外を出歩くなとは言われていないのでな」


 その男は、首筋に剣を当てられた状態にも関わらず、至極冷静な声で返答した。

 私に、現時点では戦う気がない事を見抜いているのだろう。

 さすがに、こんな街中でこいつと戦えば、周囲がどうなるかわからんからな。

 まあ、それもこいつの対応次第ではあるが。


「数日ぶりだな『天才剣士』。ここで会ったのも何かの縁。少し話さないか?」


 そう言って不審者は私の方に振り向いた。

 フードの中に見える、色素の抜けた白髪。

 目の下のどす黒い隈。

 風にはためく外套は、左腕の部分の袖が大きく風に流され、その中身が存在していない事を指し示している。


 その不審者の正体は、数日前に私達と死闘を繰り広げた辻斬り。

 堕ちた侍。

 カゲトラに他ならなかった。

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