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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第3章 辻斬り編

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47 連休明け

 翌朝。


「おはよう!」


 馬車で学校へと戻って来た私は、教室のドアを勢いよく開けながら、元気良く叫んだ。

 クラスメイト達の注目の視線が私に集中する。

 まあ、私は目立つからな!

 色んな意味で。


「あ、おはようございます、リンネちゃん」

「アリス~! 久しぶりだな!」

「えっと、まだ三日ぶりくらいですよ?」


 私はいつも通りアリスに飛び付き、クラスメイト達の視線が、注目の目から微笑ましいものを見る目に変わった。

 平和だなー。

 まるで、辻斬り騒動が夢だったかのようだ。


 そうして、私がアリスとのスキンシップを楽しんでいた時、教室のドアが開いて、そこからシオンが入ってきた。

 ボロボロの姿で。

 どうやら、ライゾウとの修行はハードだったようだ。


「おはよう、シオン。だいぶ派手にやったようだな」

「ああ」

「え!? シオンさん、どうしたんですか!? と、とりあえず、ヒール!」


 心優しいアリスが、シオンの惨状を見て治癒をかけた。

 顔とかに付いていた傷が治っていく。

 アリスに感謝するがいいぞ!


「助かる」

「それはいいんですけど……何があったんですか?」

「別に何もない。少し修行が激しくなっただけだ」

「え、ええっと……」


 シオンの説明に納得してないのか、アリスが困ったように私を見てきた。

 説明してくれという事か!

 アリスが私を頼っている!

 任せろ!


「シオンは辻斬りとの戦いに付いて行けなかった事を気に病んで、凄まじく強い侍に修行をつけてもらっていたのだ!

 だから、何も心配する事はないぞ、アリス!」

「えっと、心配の前にツッコミどころが多すぎるといいますか……本当に何があったんですか?」


 おっと、説明不足だったな。

 私は、この連休中にあった事をアリスに説明した。

 一から十まで。

 戦闘狂のライゾウの事や、心配性のドレイクの事。

 そして、辻斬りことカゲトラが、クソ虫一家の刺客である可能性が高い事まで語った。

 なにせ、もし本当にそうなら、アリスだって他人事ではないからな。

 カゲトラは、アリスの事も狙うかもしれん。


 まあ、最後の最後に片腕斬り落としてやったから、しばらくは出てこないと思うがな。

 失った四肢を復元するには、最高峰の治癒術師でも一週間はかかる。

 それまでは、おとなしくしてるだろう。


「そ、そんな事が!? それってつまり、私のせいでお二人が……」

「それは違う!」


 それだけは断じて違うぞ!


「クソ虫に挑んだのも、辻斬りに挑んだのも、私達の意思だ!

 お前が責任を感じる事ではない!」

「ですが……」

「それに、悪いのはどう考えてもクソ虫だ! 責めるなら、自分ではなく奴を責めろ!」


 そう言っても、アリスの表情は曇ったままだった。

 しまった。

 心優しいアリスに、ここまでの事情は話さない方がよかったか?


「リンネの言う通りだ。お前の責任じゃない」

「シオンさん……」


 ん?

 シオンが口を開いた。

 慰めの言葉でも口にするのか?


「それでも気に病むのなら、今自分にできる事をして償いの代わりにすればいい。俺みたいにな。

 どうせ今の俺達には、自分にできる事をする以外に、強い奴らの役に立つ手段はない」


 おい、なんだ、その後ろ向きな言葉は!?

 と一瞬思ったが、言葉とは裏腹に、シオンの声には後ろ向きな感情など欠片も籠ってはいなかった。

 むしろ、向上心に満ちている感じがする。

 自分にできる事をやる。

 シオンの場合は修行して強くなり、いつか私達に並び立ってやろうという強い意思を感じる。


 そして、どうやらその熱はアリスにも伝染したらしい。


「自分にできる事を……そうですよね。私も頑張ります!」


 胸の前で小さくガッツポーズを作る頑張り屋のアリスは、とてつもなく可愛いかった。

 よくやった、シオン!

 アリスをこんな可愛い状態にするとは!

 まさに、お前にできる事をやった結果だな!

 褒めてしんぜよう!


「……なんだ、その目は?」

「称賛の目だ」

「馬鹿にしてるのか?」


 そんな事はないぞ。

 断じてな。


 そうしてお喋りをしている内に授業開始の鐘が鳴った。

 そして、教室のドアが三度開かれ、そこから担任のユーリが現れる。


「そこ、静かにしなさい。ホームルームを始めるわよ」


 ユーリに注意されてしまったので、私はしぶしぶアリスとのお喋りをやめた。

 教室が静かになったのを見計らって、ユーリが再度口を開く。


「さて、入学式から約二週間。あなた達もだいぶ学校に慣れてきた頃でしょう。

 もう少しすれば、あなた達にとって最初の山場である武闘大会が始まるわ。

 それが終われば迷宮への遠征や中間試験と、イベントには事欠かない。

 気を引き締めて臨みなさい」

『はい!』


 クラスメイト達が騎士候補に相応しい揃った声で返事をした。

 アリスやシオンも同じだ。

 私だけ少しタイミングがズレた。

 私って、実は騎士に向いてないのでは……。


 そんな一抹の不安を抱きつつ、私は日常に戻ったのだった。






 ◆◆◆






 そして、昼休み。


「なるほど。そんな事がありましたの」


 恒例となった、スカーレットとオリビアを交えたランチの時間。

 二人に辻斬り騒動の話をしたところ、スカーレットからはこんな反応が返ってきた。

 あまり驚いてないな。


「予想でもしてたのか?」

「まあ、予想はしていましたわね。騎士学校に潜伏させているオリビアからの報告で、フォルテが相当荒れている事は知っていましたから。

 親に泣きついて何かしてくるのではないか、とは思っていましたわ。

 さすがに、こんなに早く、しかも、そんな強敵とぶつかるとは思っていませんでしたが……」


 スカーレットは、少し憂鬱そうに顔をしかめた。

 カゲトラの存在を、思ったより深刻に捉えているらしい。

 まあ、気持ちはわかる。

 あのレベルの戦力は、欲しいと思って手に入るものではない。

 それが敵の手駒の中にいて、しかも神出鬼没に現れて有力者を殺して回るというのだから、その厄介さは政治的に考えると本当に厄介なのだろう。

 政治方面に疎い私ですら、はっきりヤバイとわかるのだから相当なもんだ。


「……まあ、わたくし達が憂鬱になっても仕方がありませんわね。

 切り替えていきましょう!」


 スカーレットはそう言ってパンッと手を叩き、重くなりかけた空気を変えた。

 さすが王女。

 切り替えが早い。


 そう。

 スカーレットの言う通り、この件に関しては、私達がいくら悩んでも仕方ないのだ。

 向こうは神出鬼没の辻斬りであり、こっちから仕掛ける事はできない。

 それを釣り上げる策に関しても、完全にアレク達頼みだ。

 当事者である私すらも、半分蚊帳の外。


 つまり、学生がいくら悩んでも無駄。

 ならば、難しい事は大人にぶん投げて切り替えるしかない。

 昔、トーマスとかに仕事を投げていた私のように!

 その辺り、スカーレットはよくわかってるな。

 さすが王女。

 上に立つ者は仕事の投げ方が上手い。


「さて! 辻斬りに関しては身の安全に注意するしかないとして、明るい話題を出しましょう。

 いきなりですが、明日の放課後あたり、皆でお出かけしませんか?

 実は、フォルテが荒れているせいで騎士学校の生徒会の仕事が捗らず、しわ寄せがわたくしの方まできて、ストレスが溜まっているのです。

 明日の放課後ならば時間が作れるので、気分転換に皆でお出かけしたいのですが、いかがでしょうか?」


 スカーレットは楽しそうに微笑みながら、そんな事を言い出した。

 ふむ、本当に話題を変えてきたな。

 そして、お出かけか。

 悪くない。

 アリスとのお出かけ……!


「え? でも、不用意な外出は危ないんじゃ……?」

「いや、それは大丈夫だぞ、アリス。私がいる」


 それに、最初にスカーレットと会った時のように、隠れ護衛も付いて来るだろうしな。

 王女の護衛となれば、相当の腕利き揃いに違いない。

 それこそ、全員で連携すればカゲトラの相手ができるようなレベルの。

 私とそいつらが揃えば、何も心配する事はない。

 それをアリスに伝えると、


「あ、それもそうですね。なら、私は構いません」


 と、参加を表明した。

 やったぞ!

 おじいちゃん、最近ちょっとした臨時収入があったからな。

 色々と買ってやろう。

 存分に孫を甘やかすのだ!


「俺は遠慮しておく。女だらけの中に交ざる気はない」

「お、照れたか。このチェリーボーイめ」

「誰がチェリーだ」


 お前だよ、シオン。

 女性経験のまるでないチェリーそのものではないか。

 私がお前くらいの頃は、既に恋人がいたぞ。


「まあ、チェリー云々は置いといて、お前も来い。荷物持ちだ」

「誰が行くか」

「リンネ様、荷物持ちでしたら私が」


 と、ここまで背景だったオリビアが珍しく口を挟んできた。

 それを見て、私はニヤリと笑った。

 これはチャンスだ。


「聞いたか、シオン? オリビアは立派だなー。それに引き換え、お前は女の子に荷物持ちを押し付けて逃げるのか?

 なんと情けない。騎士にあるまじき情けなさよ。騎士ならば、紳士的にレディをエスコートしてみせろ!」

「……チッ。むかつく言い回しだ」


 そうして、シオンは「行けばいいんだろ、行けば」と若干キレぎみではあるものの、参加を表明した。

 よし。

 これで全員参加だな。

 やはり、こういうのは「皆」で行った方が楽しいだろう。


「あの、リンネちゃん、強制はダメですよ?」

「いいんだよ、アリス。これも修行だ」


 戦場と日常のスイッチを切り替える為のな。

 常時戦場モードでは事務仕事に支障をきたす。

 だからと言って、常時日常モードでは戦えない。

 騎士たる者、その切り替えが大事なのだ。

 まあ、当然、そんな事は建前だけどな。


「では、決定ですわね! 明日を楽しみにしていますわ!」

「おう!」

「はい、そうですね」

「……はぁ」


 シオンだけはため息を吐いたが、黙殺する。

 美少女四人とデートできるというのに、何が不満だと言うのか?

 実に女っ気のない奴である。


 何はともあれ、こうして私達は、放課後息抜きデートに行く事になったのだった。

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