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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第3章 辻斬り編

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45 侍 VS 侍

「遅いぞ、ライゾウ!」

「すまぬ、リンネ殿! 尻を拭くのに思ったよりも手間取ったでござる!」

「大の方だったんかい!」


 どうりで遅いと思った!

 というか、そんなきったねぇ話、聞きたくもないわ!


「それはそれとして、お久しぶりでこざる、カゲトラ殿!

 しばらく見ぬ間に随分と老けましたな!」

「シデンイン・ライゾウ……お前は変わらんな」


 ライゾウと辻斬り、カゲトラは知己の仲であるかのように言葉を交わす。

 ライゾウの家名みたいなものを知っている事と言い、やはり二人は知り合いではあったようだ。

 だが、互いに殺気をぶつけ合っているのを見れば、決して仲が良い訳ではないというのはわかる。

 一触即発。

 今にも死闘が始まりそうだ。


 そうして緊張が高まる中、ライゾウが声を張り上げた。


「カゲトラ殿! 貴殿に一騎討ちの決闘を申し込むでござる!

 皆々様! 手出し無用に願いたい!」

「はぁ!?」


 何言ってやがる!?

 いや、言うんじゃないかとは思っていたが、本当に言いやがった!

 この馬鹿!

 戦狂い!

 状況わかってんのか!?


「お前なぁ!」

「嬢ちゃん、言っても無駄だ」


 思わず文句を言おうとしたら、ドレイクに止められてしまった。

 いや、私とてわかっている。

 わかってはいる。

 まだ一日にも満たない短い付き合いだが、ライゾウの人柄は把握した。

 あまりにも単純すぎて、簡単に理解できた。


 あいつは、本当に生粋の武人なのだ。

 強くなる事、強い者と戦う事だけ(・・)が生き甲斐であり、それ以外には全く興味がない。

 だからこそ、これは護衛依頼だとか、何を置いても勝利と依頼人の安全を優先しろとか、負ければ死ぬんだぞとか言ったところで、ライゾウには届かない。

 そんな事、あいつには関係ないのだから。

 ただ、強い奴と戦いたい。

 それだけの為に、ライゾウはここにいる。


「……チッ! 負けて死んでも自己責任だからな!」

「感謝するでござる、リンネ殿!」


 私はしぶしぶ引き下がった。

 本当なら、後顧の憂いをなくす為にも、カゲトラはここで、ライゾウ含めた総戦力で袋叩きにして確実に仕留めたい。

 だが、そう言ってもライゾウは聞かないだろう。

 下手に横槍入れて機嫌を損ねられても面倒だ。

 

 もういい。

 勝手にやれ。

 ライゾウが勝てばそれで良し。

 負けた場合は、弱ったカゲトラを残った全員で潰せばいい。

 もう、それでいいわ。


 私とドレイクは、シオン達のいる馬車の前まで下がった。

 治癒の使える護衛二人が、倒れた護衛達を治療している。

 どうやら、私達が戦ってる間に回収したらしい。


「さて、これで邪魔は入らぬ! 貴殿が既に手負いの身であられるのは残念でござるが、それでも存分に戦いましょうぞ!

 今度は試合ではなく、死力を尽くした実戦(殺し合い)の中で!」


 ライゾウが嬉しそうに笑いながら刀を構える。

 それを鋭い視線で睨みながら、カゲトラもまた紅桜を構えた。


「いざ! 尋常に参る!」


 そして、遂にライゾウが仕掛けた。

 カゲトラに全く引けを取らぬ闘気を纏い、愚直に、正面から、最短距離を直進する。

 速いな。

 ドレイクと戦ってた時よりも遥かに。

 まあ、試合の時と違って、魔剣の擬似闘気を使っている分、速くなって当然なんだが。

 しかし、それを差し引いても、スピードならば、カゲトラよりもライゾウが上だ。


「一の太刀・斬!」


 その勢いのまま、ライゾウはカゲトラに斬りかかった。

 ……だが。


「二の太刀・反鬼(はんき)

「ぬお!?」


 カゲトラは半歩横にずれる事で、ライゾウの攻撃を冷静に避け、反撃の抜き胴を放つ。

 ライゾウは凄まじい反射神経で後ろに下がり、これを避けた。

 代わりに、ライゾウの攻撃も不発に終わる。

 そして、ライゾウが距離を取って仕切り直しだ。


「太刀脚・天狗(てんぐ)の型!」


 ライゾウが加速し、今度は動き回りながらカゲトラを撹乱する。

 その動きは、私の神脚乱舞に酷似していた。

 どこの国にでも似たような技はある。


「九の太刀・旋風(つむじかぜ)!」

「五の太刀・柳」


 そのまま、ライゾウは四方八方から斬りかかる。

 だが、カゲトラには届かない。

 どんな風をも受け流す巨木の如く、全ての剣撃を紅桜で受け流している。

 ……あれは相性の問題もあるな。

 同郷だからか、二人が使う剣術は同じ流派だ。

 私の神速剣と違って、知り尽くされた動きと技では、カゲトラに一手届かない。

 

 それに、なんとなくわかってはいたが、カゲトラの戦い方には隙がないのだ。

 ユーリのように、守りに特化している訳でも、

 マグマのように、攻めに特化している訳でも、

 アレクのように、速さに特化している訳でもない。

 全ての技が優れている。

 全ての技に、並外れた修練の跡がある。


 だからこそ、わかりやすい強みが紅桜以外に無いにも関わらず、奴は強い。


「さすがでこざるな、カゲトラ殿! 前に戦った時よりも遥かに強いでござるよ!」


 だが、対するライゾウも負けてはいない。

 攻め切れてこそいないが、反撃を食らう事もない。

 それに、いくら攻めても、ライゾウの刀が紅桜に断ち斬られる気配はない。


 何故なら、ライゾウが持つ刀もまた『十剣』の一つ。

 本人曰く、実家から持ち出してきたという希代の名刀。


 その名も、『雷刀電光丸』。


 雷の魔剣だ。

 そこから放たれる、雷を帯びた鋭い斬撃。

 補助に、高威力の魔法攻撃。

 それら全てを斬り裂き、受け流す紅桜。


 二人が暴れる事に、攻撃の余波だけで森が原型を失ってゆく。

 巻き込まれないようにするだけでも一苦労だ。

 私達の目の前で、そんな凄まじい激戦が繰り広げられていた。


「……凄い」


 ふと、隣からそんな呟きが聞こえてきた。

 声の主はシオンだった。

 シオンは、二人の侍の戦いを真剣な目で見つめていた。

 同じ、雷の魔法剣士であるライゾウの戦う姿に、何か思うところでもあるのかもしれない。


「シオン。お前はあれを見て、どう思う?」


 少し気になって尋ねてみた。


「……世界には、まだまだ強い奴が沢山いる。俺より強い奴が沢山いる。

 俺は、あの戦いには付いて行けない。お前の戦っている世界には、まるで手が届かない。……未熟者だ」


 シオンは、悔しそうに拳を握り締めた。

 それはそうだ。

 シオンは天才だが、まだまだ経験が足りない。

 強敵との死闘という経験値が、圧倒的に足りていない。


 ならば、そんな未熟なシオンのやるべき事は一つだ。


「だったら、この戦いを目に焼き付けとけ。

 強者から、先を行く者から一つでも多く学び、盗み、糧として成長しろ。

 私から言えるのはそれくらいだ」

「……ああ。言われなくてもわかってる」


 そうして、シオンはより一層真剣に二人の戦いを観察、いや、分析し始めた。

 それでいい。


「……坊主。一つだけ言っとくが、お前が弱いんじゃなくて、嬢ちゃんがおかしいだけだからな。そこは間違えるなよ?」


 ドレイクがなんか言っていたが、気にしなくていいだろう。


 そうして外野が騒いでいる内に、侍同士の戦いは戦況の変化を迎えようとしていた。

 ライゾウが今までの猛攻をやめ、停止した。

 その代わりに口を開く。


「ああ、楽しい! 心踊る! これ程の死闘は久方ぶり! この国に来て本当に良かったでござる!」


 ライゾウが獰猛に笑う。

 心の底から楽しそうな、修羅の笑みだ。

 だが、対峙するカゲトラの目は、どこまでも冷たい。


「ならば、いい加減に本気(・・)を出したらどうだ?

 手加減したままで死闘などと……侮辱も大概にいたせ!」


 ……今なんと言った?

 手加減?

 ライゾウが、手加減していただと?

 そんな、馬鹿な……!?


「手加減とは人聞きが悪い。切り札を温存していただけでござるよ。

 しかし! これ程の戦い! 切り札を切らぬままでいるのは、たしかに失礼! 非礼を詫びるでござる。

 そして! お望み通りお見せしよう! これが拙者の全力でござる!」


 そう言った瞬間、ライゾウの全身から稲妻が走る。

 魔法を使ったというのはわかった。

 だが、攻撃手段として使ったのではない。

 ライゾウは、雷の魔法を()()()()()()()


 それは、まるで雷と一つとなったかのような、異様な姿であった。


「奥義・雷神憑依!」


 そうして、雷となったライゾウが駆ける。

 速い!

 さっきとは比べ物にならない速さ!

 単純な移動速度ならば、私すらも超えているぞ!

 まさに、雷の如し。

 雷を纏って速度を上げるとは……どんな理屈だ?


「一の太刀・斬!」

「くっ……!」


 さっき簡単に防がれたのと同じ技。

 だが、今は前提となる基礎能力値が違う。

 先程とは違い、カゲトラも余裕を持って防ぐ事は叶わない。

 それでも、防いでいる。

 まだ倒せてはいない。


「雷速太刀脚! 雷旋風(いかずちせんぷう)!」

「ッ!?」


 再び、ライゾウがカゲトラの周囲を跳ね回り、四方から斬りかかる。

 今度は雷のような速度で。

 残像すら置き去りにして攻める。


「なめるなぁあああ!」


 カゲトラが咆哮を上げ、紅桜を振りかぶって決死のカウンターを狙う。

 紅桜と電光丸が真面目から激突した。

 だが、これは……


「十一の太刀・虎鋏(とらばさみ)!」

「がっ……!?」


 カゲトラの背後から(・・・・)飛来した雷の槍が、その背中に炸裂する。

 後ろに回った時に魔法を使い、それが発動する前に正面に回って挟み撃ちか。

 なんという早業。


 そして、予想外の攻撃によって体勢が崩れた隙を狙い、ライゾウの一撃がカゲトラの脚を斬り裂いた。

 そのままの流れで首筋に一閃。

 だが、それは紅桜で防がれ、しかし、踏ん張りがきかずにカゲトラは地面を転がる。

 その勢いが止まった後、カゲトラは疲労困憊の様子で地面に膝をついた。

 これは勝負あったな。


「本当に、本当に楽しかったでござるよ、カゲトラ殿。

 とても手負いとは思えぬ、実にあっぱれな強さでござった。

 ですが、これで終わりでござる! 切捨御免!」


 ライゾウがトドメを刺すべく疾走した。

 カゲトラは……む?

 何故か刀を構えず、右腕を宙にかざした。

 正確には、右腕の手首に嵌まった腕輪をかざしている。

 あの腕輪どこかで……ハッ!?

 まさか!?


「転移!」

「む!?」


 カゲトラに斬られる間際、カゲトラが腕輪に籠められた魔法を発動させた。

 空間魔法の転移。

 その場から退却する為の魔法。

 逃がすか!


「神速飛剣!」

「ぐっ……!」


 私の飛剣がカゲトラを斬り裂く。

 しかし、それは左腕を盾に、犠牲にして防がれた。

 片腕を切断するも転移は止まらず……


 ━━空間が歪み、カゲトラの姿が消えた。


「クソッ! やられた!」


 まさか、あんな代物を持ち出してくるとは!

 転移の腕輪。

 本家の空間魔法と違ってランダムにしか飛べず、移動できる距離も酷く短い。

 おまけに、一回限りの使い捨て。

 そのくせ、馬鹿みたいに希少で、アホみたいな値段の付けられる骨董品だ。

 そんなもんを使われるとは、完全に想定外だった。


 だが、それ以上に!


「ライゾウ! お前、仕留めようと思えば仕留められただろ! 何故、逃がした!?」

「い、いや、その、逃げられたらまた戦えるのではないかという思いが、一瞬、脳裏を過ってしまい……」

「このアホが!」


 まったく!

 倒せた筈の敵をみすみす取り逃がすとは!

 やはり、ライゾウに任せるべきじゃなかったか!?


「まあまあ、嬢ちゃん、落ち着け。

 とりあえず全員無事……じゃねぇが、全員生きて辻斬りを退けられたんだ。今はそれで満足しとけ。な?」

「ぬぅぅ……」


 まあ、ドレイクの言う通りではあるんだが。

 しかし、奴を逃がした以上、また私達の命を狙ってくるぞ。

 この依頼が終わったら、私の連休も終わってしまうし。

 千載一遇の好機だったというのに……。


「う、うぅ……どうなってんだ?」

「隊長! 目が覚めたんですね!」

「よかったぁ!」


 ふと見れば、勝手に突撃してカゲトラにやられた護衛達が起き出していた。

 結構深い傷負った奴もいたが、命に別状はなさそうだ。

 ……まあ、たしかにドレイクの言う通り、護衛依頼は達成したし、誰も死なずに済んだ。

 まことに遺憾だが、今はこれで満足しておくか。


 こうして、私達は辻斬りを撃退したのだった。





 ◆◆◆






「ハァ……ハァ……」


 深い森の中で、一人の男が荒い息を吐く。

 紅色の妖刀、紅桜を持った辻斬り、カゲトラだ。


「またしても……またしても某は、あやつに勝てなかった……まさか、手も足も出せんとは……」


 カゲトラは今、敗北の味を噛みしめていた。

 そして、己の過去へと想いを馳せ、フッと失笑する。


「呪いに見入られ、紅桜を手にしようとも、結局何も変わらぬか。

 なんと不様で情けない……」


 カゲトラは、悔やむように、悔いるように、ただ苦しそうに笑った。

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