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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第3章 辻斬り編

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44 辻斬り

 辻斬りが最初に標的にしたのは、奴から最も近い位置にいた護衛の一人だった。

 弟子どもと遜色ないレベルの闘気を纏った辻斬りは、目にも留まらぬ速度で標的に肉薄する。

 見てから動いたのでは到底間に合わない。


「神脚!」


 故に私は、辻斬りが動く前に地面を蹴った。

 視線の向きと殺気の方向性から敵の動きを読み、辻斬りが護衛に斬りかかるより先に、私が辻斬りに斬りかかる。

 こんな幼女に先手を取られた事に驚愕したのか、辻斬りは目を見開いた。


「神速剣・一閃!」

「ぐっ……!?」


 神速の一撃が辻斬りを襲う。

 しかし、これだけで倒せる相手ではない。

 命中はしたものの、しっかりと刀で防がれた。

 初見にも関わらず、辻斬りは私の神速剣を防いだのだ。

 だが、咄嗟の守りだったが故に剣撃の威力までは殺しきれず、辻斬りは森の木々を薙ぎ倒しながら大きく後方へと吹き飛んだ。

 私達の間に距離が開く。


「今の内だ! 下がれ!」

「す、すまない」


 私は追撃せず、標的にされた護衛に指示を出した。

 こいつの力量では、私達の戦いには付いて来れない。

 今の一瞬の攻防だけで確信した。

 あれは英雄の領域だ。

 英雄同士の戦いでは、一流の戦士ですら足手まといになる。

 私達の戦いに直接立ち入る資格があるのは、闘気使いのドレイクとシオンくらいだろう。

 だが、未熟なシオンはギリギリアウトだ。

 あとは、ライゾウ。

 他は遠距離からのサポートが関の山だろうな。


 見れば、他の連中も即座に対辻斬り用の陣形へと切り替えていた。

 私とドレイクが前へ。

 他は馬車の護衛に。

 そして、シオンをはじめとした、魔法を使える遠距離持ちがサポートする。

 便所に行ったどっかの馬鹿を除けば完璧な陣形だ。

 というか、早く戻って来いライゾウ。


「凄まじい剣技を操る、幼き女剣士……なるほど、お前が『天才剣士』リンネか。驚いたぞ。噂に聞いた以上の使い手だ」


 吹き飛ばされた辻斬りが、森の中から再び現れた。

 服に汚れが付いているものの、目立った外傷は見当たらない。

 やはり、ガードの上から叩いた程度では駄目か。

 殺るなら、確実に肉体を斬らねば。


「……女子供を斬るのは心苦しい。本来なら、死なぬ内に、この場から立ち去れとでも言うところなのだがな」


 は?


「なんだ、そりゃ? そうすれば見逃してくれるとでも?」

「ああ。本来ならな。今の某は去る者は追わぬ。

 だが、お前は別だ。某が受けた仕事の中に、お前の抹殺も入っている。悪いが、逃がす事は叶わん」


 そう言いながら、辻斬りが刀を構え直す。

 まるで、罪悪感を、振り払うかのように。


「それに……女子供とはいえ、お前のような強き剣士を相手に、そんな事を言うのは失礼というものだろう」


 辻斬りの雰囲気から、甘さが完全に消えた。

 眼光は鋭く、物腰には一切の隙がない。

 ……チッ。

 少しは、ロリーな美少女に遠慮してくれてもいいんだがな。 

 個人的には、失礼とかいくらでもしていいから、遠慮して弱体化しててほしかった。

 だが、こうなっては全力を持って迎え撃つ他にない。

 小細工抜きの真っ向勝負だ。


「やるぞ、ドレイク。サポート頼む」

「……無茶すんなよ。危なくなったら即交代だからな」

「わかって、る!」


 その言葉を言い終わらない内に、再度突撃。

 ドレイクも後に続いた。


「神速剣・破断!」

「一の太刀・(ざん)!」


 威力重視の私の剣と、鋭く振るわれた辻斬りの刀が激突する。

 辻斬りの技は、長き修練を重ねた者特有のキレを持っていた。

 クソ虫みたいな紛い物とは比べ物にならない、まごうことなき本物の強者の剣。

 だが、それでも威力、速度ともに私の方が僅かに上。

 ぶつかり合った斬撃は、その僅かな差で私が押し勝ち、辻斬りの体勢を崩した。


「!?」

「神速剣・槍牙!」


 驚愕する辻斬りへと、容赦のない追撃の刺突を繰り出す。

 狙うは心臓。

 一撃必殺!


「五の太刀・(やなぎ)!」


 これを、辻斬りは斜めに構えた刀で受け流した。

 刃同士がギャリギャリと音を立てながら交差する。

 しかし、崩れた体勢からの防御では完全には受け流しきれず、軌道の逸れた剣が辻斬りの腕を削った。


「ぐっ……!」


 傷はそこそこ深い。

 今の内に畳み掛ける!


「神速剣・五月雨!」


 次に放ったのは、神速の連続斬り。

 刹那の内に振るわれた無数の斬撃が、辻斬りの体に傷を刻んでいく。

 致命傷だけは上手く防いでいるが、代わりに辻斬りの全身が傷だらけになっていく。

 いける!

 私は更なる力を籠めて、剣を振り抜いた。


 異変は、その時に起こった。


「は?」


 折れた刃が宙を舞う。

 その形は、私がよく知っているもの。

 今世の故郷を離れる直前に、成長期の自分の体格を考慮して購入した、今の私の愛剣。

 その先端部分。

 

 見れば、私の剣は、半ばから折れていた。

 否。

 切断されていた。

 断ち斬られていた。

 何の前触れもなく。


 何故……!?


 一瞬混乱し、すぐに気づく。

 結論など、一つしかないという事に。


 私の剣は、耐えられなかったのだ。

 たった数回の激突に。

 僅か十にも満たない刃の交差。

 それも、ほとんど防戦一方の状況で。

 闘気を纏った私の剣は、辻斬りの持つ刀に叩き斬られた。

 そういう事だ。


 これが十剣の一つ、妖刀紅桜の能力。

 すなわち、ただひたすらに圧倒的な、切れ味。


「四の太刀・刺竜(しりゅう)

「ッ!?」


 呆然とした一瞬の間に、戦況は逆転していた。

 剣を失った私と、猛攻を耐えきった辻斬り。

 攻守は逆転し、今度は私が攻められる。


 辻斬りの放った刺突を、残った剣の残骸を使って、なんとか受け流す。

 更に剣が削られた。


「六の太刀・連舞(れんぶ)


 続いて、連続斬りが私を襲う。

 刺突の後に連続斬り……!

 私がやった事をやり返されてる気分だ。

 しかも、剣を失った私は防ぐ事ができない。


 避けるしかない。

 方向は後ろ。

 神脚によって背後へと跳び、辻斬りの間合いの外まで逃げる。


太刀脚(たちあし)


 しかし、そう簡単には逃がしてくれない。

 辻斬りは、飛脚に似た技を使って追いかけて来た。

 このままでは、いずれ追い詰められる。

 私一人ではジリ貧だったろうな。

 だが!


「交代だ、嬢ちゃん!」

「任せた、ドレイク!」


 私は一人じゃない。

 後ろに下がった私と入れ替わるように、ドレイクが前に出る。

 そして、左腕の魔道義手を辻斬りに向けて突き出した。


「フラッシュ!」

「ぬっ!?」


 義手の掌が眩しく発光した。

 目潰しだ。

 ドレイクは普通に強いが、こういう、こすっからい搦め手も得意としている。

 目潰し一つ取っても、いくつかのバリエーションがあるのだ。


「嵐!」


 そうしてドレイクは、辻斬りの視界を封じてから、衝撃波で確実に吹き飛ばした。

 だが、しっかりとガードされている。

 ドレイクの攻撃力では、ガードの上から致命傷を与える事はできない。


「ボルティックランス!」


 そこへ、シオンが追い討ちをかけた。

 雷の槍が、嵐は直撃で動きのとれない辻斬りへとぶち当たる。

 それを見てハッとしたかのように、魔法担当の護衛達も魔法を連発した。

 十人の護衛の中で、魔法使いは四人。

 魔法剣士が二人。

 そいつらの放った様々な属性の魔法が辻斬りを襲う。

 いくら強力な闘気を纏っているとはいえ、さすがにこれだけ撃てばノーダメージとはいかないだろう。

 私達が付けた傷も合わせれば、それなりのダメージにはなっている筈だ。


「この機を逃すな! ドレイク殿に加勢するぞ!」

『おう!』

「あ!? 馬鹿、やめろ!」


 それを好機と捉えたのか、護衛達のリーダーが号令を下し、遠距離攻撃を持たない四人が辻斬りに向かって突撃して行ってしまった。

 いくら負傷してるとはいえ、お前らでどうにかできる相手じゃない事に変わりはないんだぞ!?


「止まれ!」

「飛剣・桜吹雪」


 私が静止を呼び掛けるも、既に手遅れだった。

 紅色の魔力を帯びた衝撃波が吹き荒れ、護衛達を吹き飛ばす。

 技の種類としては、嵐とほぼ同じだ。

 だが、紅桜の力によって独特の進化を遂げた紅色の嵐は、護衛達の体をズタズタに引き裂いた。

 魔剣と義手で防いだドレイクは無事だが、残りは全員虫の息となっている。

 B級冒険者に匹敵する護衛達が、たったの一撃で倒された。


 飛剣というのは、斬撃を飛ばすという性質上、直接斬りつけるよりも威力が落ちる。

 しかも、斬撃を広範囲に拡散する衝撃波へと変換する為に薄める(・・・)嵐は、更に威力が下がってしまう。

 その薄めた攻撃でこれだ。

 恐るべし紅桜。

 そして、恐るべし辻斬り。


「剣を借りるぞ!」

「え?」


 私は愛剣の残骸を放り捨て、呆然としていた残りの護衛、魔法剣士の奴から了承も得ずに新しい剣を奪取して前線に戻った。

 無事に返す保証はない。


「ドレイク! 盾!」

「わかってる!」


 短いやり取りだけで、ドレイクは察してくれた。

 ドレイクの持つ魔剣は、私のと違って相当な業物だ。

 おそらく、紅桜相手でもそれなりに打ち合える。

 加えて、義手もまた特別製で、かなり頑丈。

 紅桜の斬撃でも、何度かは受けられる筈だ。


 だが、単純な剣士としての腕前で、ドレイクは辻斬りに劣る。

 義手の機能を十全に使ったとしても、互角には一歩届かないだろう。


 だからこそ、ドレイクが盾となり、私が剣となって戦う。

 それが最善の戦略!


「……凄まじいな」


 ドレイクによる牽制の攻撃を捌きながら、辻斬りが口を開く。

 その隙を突くように、私はドレイクの後ろから、あるいは回り込んで別方向から剣を突き出す。

 だが、当たらない。

 慣れない剣を使ってるせいで速度もキレも低下した。

 紅桜と直接打ち合ってはいけないというのもキツイ。


 だが、それ以上に……辻斬りが私の速度に()()()()()()()


 これは紅桜ではなく、この辻斬り自身の力。

 いくら十剣と言えど、武器に振り回されるような雑魚が持っていたのならば、恐れるに足らなかった。

 だが、達人が最強の武器を持ってしまえば、この上なく強くて厄介だ。

 まさに、鬼に金棒。

 こいつ、本当に強い……!


「強いな。お前は本当に強い。仲間の力を借りているとはいえ、魔剣もなく、己の力のみで紅桜と渡り合うか。

 努力だけでは越えられぬ壁を完全に越えている。

 まさに『天才剣士』。お前は天に選ばれた、本物の強者だ」


 辻斬りが語る。

 おそらく、私に話しかけている訳ではない。

 その声には、何か強い感情が籠っているように感じた。

 その感情を言葉に乗せて、ただ、吐き出している。


「某は、お前が……」



「お二方! 離れるでござる!」



 辻斬りが言葉を続けようとした瞬間、その大きな声が聞こえてきた。

 咄嗟にそれに従って、私とドレイクは大きく飛びすさる。


 直後、巨大な雷の斬撃が、辻斬り目掛けて炸裂した。


「飛剣・雷光(らいこう)!」


 同じ雷でも、シオンとは比べ物にならない程に強力な一撃。

 だが、咄嗟に紅桜で雷を斬り裂いたのか、辻斬りに大きなダメージはない。

 しかし、それでも構わない。

 一気に戦況を覆す戦力が、やっと戻って来たのだから。


「お待たせした! 拙者、只今参上でござる!」


 攻撃の飛んで来た方向。

 そこには、バチバチと放電する刀を握った、もう一人の侍。

 もう一人の強者、ライゾウが立っていた。

 やっと来たか!

 遅いわ!


「シデンイン・ライゾウ……!」


 そして、そんなライゾウを、辻斬りは強い感情の籠った目で見つめていた。

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