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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第3章 辻斬り編

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40 休日

「ひっ!?」


 王都の郊外にある街道。

 そこに恐怖に染まった男の悲鳴が響いた。

 男は貴族であり、隣の街へと赴く為、護衛を付けた馬車で王都を出発したばかりだった。 


 ちょっとした遠出など、男にとっては日常茶飯事。

 王都周辺の街道は、騎士団や兵士団による定期的な狩りのおかげで、魔物も滅多に出没しない。

 加えて護衛も腕利き揃いであり、男は何の心配もなく馬車に揺られていた。


 だが、そんな男は今、恐怖に引きつった顔をしていた。


 辺りに広がるのは、護衛達の血によって出来た、真っ赤な血の池。

 十人いた護衛達は、全員が斬り殺され、血を流すだけの肉塊へと変わり果てている。

 馬車も破壊され、馬はどこかへと逃げた。

 だが、馬は逃げられても、男は逃げられない。


 何故なら、この惨状を作り出した襲撃者が、血の滴る紅色の刀(・・・・)を男の眼前に突きつけているのだから。


「貴殿に恨みはない」


 そう語る襲撃者は、不健康そうな男だった。

 長い髪は色素が抜け落ちて真っ白に染まり、目の下にはどす黒い隈が出来ている。

 顔色は今にも死にそうな程に悪い。


 だが、この男はたった一人でこの惨状を作り出したのだ。

 走る馬車に真正面から対峙し、正々堂々、真っ向勝負にて護衛達を斬り捨てた。

 彼らが主を逃がす間も与えず、一瞬にして十人の腕利きを死体に変えたのだ。


 そんな襲撃者は、腰を抜かして座り込む男に向けて言葉を続けた。


「だが、これも仕事だ。せめて苦しまぬよう、一瞬であの世へと送ってしんぜよう」

「ま、待っ……」

「御免」


 男が抵抗する暇もなく、襲撃者は一瞬で男の首をはねた。

 返り血に染まりながら、襲撃者は腰の道具入れから火の魔道具を取り出し、壊れた馬車と一緒に、その場にある全ての死体を燃やした。

 まるで、死者を弔い、火葬するかのように。


「……嗚呼、虚しい」


 空へと登っていく煙を見上げながら襲撃者はそう呟き、すぐに炎に背を向けて、その場から立ち去ったのだった。






 ◆◆◆






「暇だ」


 クソ虫との対決から一週間後の週末。

 私はナイトソード家の執務室で、茶菓子を貪りながらダラダラしていた。

 

 これには、ちゃんとした理由がある。

 今日は休日、それも連休の初日なのだ。

 まあ、それはいい。

 むしろ、喜ぶべき事だろう。

 問題は、せっかくの休日に私が暇をもて余しているという事よ。

 何故なら、私と遊んでくれる奴がいないのだ。


 アリスはクソ虫との対決に向けた特訓の時に、盛大に授業をサボった分の遅れを取り戻そうと勉強に励んでる。

 そんな事しなくても、あの子の成績は学年トップだというのに。

 なんで、そんなに頑張るのか聞いたところ、「ナイトソード家の娘として恥ずかしくない成績を残したいんです!」と返ってきた。

 だが、その理屈で言うと、一番ナイトソード家に相応しくないのは私だ。

 だから別に気にしなくてもいいと言ったら、「私がやりたくてやっている事ですから」と返ってきた。

 ウチの孫が頑張り屋さん過ぎて泣ける。

 そんなアリスの邪魔をするなんて、私にはできなかった。

 何?

 お前も一緒に勉強しろ?

 私は平日の授業だけでお腹いっぱいだから無理だ。


 次にシオンだが、こいつも駄目だった。

 暇潰しに修行でもつけてやろうと思って男子寮に突撃してみたら、忽然と失踪していたのだ。

 城下町にでも行ってるんだろう。

 肝心な時に使えない奴だ。


 スカーレットとオリビアとは、アリスなしで遊ぶような仲ではないので除外。

 しかも、なんか二人とも忙しいらしい。

 王女ともなると色々あるのだろう。


 アレクとユーリとマグマは普通に仕事中。

 貴族に休日はない。

 なんというブラック職業。

 我が弟子どもながら、よくそんな環境で生息できるものだ。

 トーマスの社畜根性でも受け継いだのだろうか?


 そうなると、あと残るは使用人軍団くらいだが……。

 あいつらと遊ぶってのもなぁ。

 メイド軍団に話を持ってったら、ショッピングにでも連れ出されて着せ替え人形にされそうだし。

 休日に、そんな面倒な事したくはない。


 一人で修行でもするのもありっちゃありだが、修行は一人でやっても効率が悪い。

 ある程度、実力の拮抗した相手と戦うのが一番成長できるのだ。

 いっそ、使用人軍団と一緒に修行するか?

 ……いや、それをやったら、修行じゃなくて指導になるな。

 面倒だからパスだ。


「という訳で暇なんだが、なんか、おもしろい事ないか、お前ら~?」

「そんなに暇なら、俺達の仕事を手伝ってください」

「だが、断る」


 アレクの救援要請をバッサリと切り捨てる。

 悪いな。

 書類仕事は嫌いなんだ。


「無駄ですよ、アレク。リンネ様にこういう書類仕事を期待してはいけません。馬鹿なんですから」

「おい、トーマス」

「失礼。口が滑りました」


 まったく、誰が馬鹿だ!

 元主に対する敬意が足りんぞ、トーマス!

 私はちょっと脳筋なだけだ!

 頭脳労働が性に合わないだけで、やる気になればできなくはないんだぞ!

 まあ、やる気になる事なんて、前世ではついぞなかったがな。


「ひ~ま~だ~!」

「……人が仕事してる前で堂々とゴロゴロされると殴りたくなるので、どこか他の場所でやってくれませんかねぇ?」


 おっと。

 アレクの額に青筋が浮かんだ。

 ちょっと調子に乗りすぎたか。

 まあ、アレクが怒っても、毛ほども怖くはないがな。


「はぁ。リンネ様。そんなにお暇でしたら、最近巷を騒がせる辻斬り退治でもしてきてはいかがですか?」

「辻斬り?」


 なんじゃい、そりゃ?

 聞いた事ない話だな。


「ああ、辻斬りですか。たしかに、リンネさんにぴったりの仕事かもしれませんね」

「ほー。とりあえず、詳しく聞かせろ」

「わかりました」


 そうして、アレクが私に辻斬りとやらの情報を教えてくれた。

 その間、トーマスは一切手を止めずに書類を仕上げている。

 さすが社畜の鑑。


「件の辻斬りですが、奴は一年前くらいから王都の近辺に現れ始めた凶賊です。

 神出鬼没で、狙われるのは、主に貴族や貴族と繋がりのある有力者。

 当然、そういう権力者は優秀な護衛を雇ってるんですが……その辻斬りは、どんなに強い護衛が相手でも真っ向から斬り捨て、必ず目的を達する凄腕という話です」

「それはまた、物騒な話だな」


 どんなに強い護衛もって事は、騎士なんかも殺られてるんだろう。

 そのくらい強くなければ、とっくの昔に捕まってるだろうしな。


「特徴は、長い白髪に目の下のどす黒い隈。紅色に輝く不気味な剣を持った、まるで幽鬼のような生気の感じられない男だそうです。

 ここに人相書きがあります」

「人相書きがあるんかい!」


 なんで、そんな都合よく持ってんだ!?


「元々、俺達でなんとかしてほしいと国に頼まれていた案件ですからね。

 ですが、今は忙しい上に難しい依頼なので、なかなか進展がないというのが現状です」

「難しい?」

 

 やたらと強くなったこいつらをして難しいと言わしめるとは……。


「……まさかとは思うが、その辻斬り、お前らでも勝てないとか言わないだろうな?」

「どうでしょうね。辻斬りと直接相対した事はないので、断言はできません。

 向こうも俺達の事は警戒しているのか、三剣士の前に姿を現した事はないですし」


 ああ、そういう意味か。

 たしかに、辻斬りの目的が権力者の暗殺なら、わざわざ馬鹿強い連中には近づかんわな。


「なるほど。それで、お前らが捕まえる事は難しいって訳か」

「そうなります」


 弟子どもは、良くも悪くも目立つからな。

 全員が何かしらの役職を持ってるから、身軽には動けない訳だ。

 そして、身軽に動けなければ、神出鬼没の辻斬りとエンカウントするのは難しい。

 三剣士が本格的に辻斬りを調べてるって話がどこかから流出したら、姿を眩まされるのが落ちだ。

 前世の私みたいに、全ての仕事を放り出した上で、身分を隠して世直し(笑)の為に動くって訳にもいかんだろうし。


「そこで私の出番という訳か! ……と言いたいところなんだが、ぶっちゃけ難しいぞ。

 さすがの私でも、休日の一日や二日費やしたくらいで、神出鬼没の辻斬りを見つけられるとは到底思えん」

「ええ、わかってますよ。本題はここからです」


 そう言って、アレクは真剣な顔つきになった。


「……これはあくまでも憶測に過ぎませんが、その辻斬りは大臣と、アクロイド家と繋がっている可能性が高いと見ています。

 殺された有力者のほとんどが、大臣にとって不利益となる者ばかりですから。

 つまり、辻斬りは、この前の騒動でアクロイド家の面子を潰したリンネさんやシオンくんを狙ってくる可能性があるんです」

「……ほう」


 あのクソ虫一家の関係者だったのか。

 それを先に言え。

 俄然、やる気が出てきたわ。

 あの戦いのアフターケアをしてやるよ!


「というか、そういう事はもっと早く言え!」

「そうですよね。失念してました。他の事で急がしくて、辻斬りの事が頭から抜けてたといいますか……」

「おい」


 しっかりしろ剣神。

 そんな事では、先代のような立派な男にはなれんぞ。


「コホン。それで、リンネさんにやってほしい事というのは……」

「生餌となって辻斬りを釣り上げ、そのまま斬ればいいんだろ?」

「はい。その通りです」


 わかりやすくて実にいいな。

 覚悟しろよ辻斬り!

 釣り上げられた魚のごとく、三枚におろしてくれるわ!


「さて! それじゃあ、辻斬り退治に行くとするか!」

「くれぐれも注意してくださいね。相手は凄腕。いくらリンネさんでも、確実に勝てるという保証はないんですから」

「わかってる。私は勝てない戦いはしないからな」


 ちゃんと勝てる算段をつけてから挑むし、負けそうになったら逃げる。

 私はもう剣神ではなく、最強ではない。

 故に、慢心も油断もしない。

 そもそも、剣神だった頃でさえ、最強ではあっても無敵ではなかったのだからな。

 剣神が無敵ならば、代替わりなんて事は起こらない。

 あの強さの化身のようだった先代、いや、先々代剣神ですら、若き日のエドガー(わたし)に斬り殺されている。

 

 どんな強者でも、死ぬ時は死ぬ。

 油断すれば、死ぬ確率は一気に増す。

 私はそれを知っている。

 だからこそ、どんな戦いでも気を抜かないのだ。

 圧倒的な実力差があったクソ虫との戦いですら、私は欠片も油断していなかったしな。


「では、行って来る!」


 執務室を出て、廊下を歩く。

 まずは、そうだな、冒険者ギルドにでも出向くか。

 辻斬りの細かい情報が得られるかもしれんし、あわよくば辻斬りに狙われそうな奴の護衛依頼でも受けて、護衛の連中と一緒になって袋叩きにでもできれば最高だな。

 ついでに、学食代でも稼いでこよう。

 学費は特別生として学費は免除されてるが、学食の代金で地味に貯金が目減りしてるしな。


「……行きましたか」

「行きましたね」

「しかし、よかったのですか、アレク? 辻斬りがそんなタイミングよくリンネ様を襲撃する可能性なんて限りなく低いでしょうに。

 あれでは十中八九、無駄足になりますよ」

「この部屋でダラダラされるよりマシです。それに、あの人はもう少し働くべきだ」

「……それもそうですな」


 なんか、背後の執務室からアレクとトーマスの会話が聞こえた気がしたが、その内容までは聞き取れなかった。

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