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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第2章 入学編

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39 墓参り

『やあ、エド。また来たね』

「ああ。また来た」


 生まれ変わってからここに来るのは、もう二度目だ。

 一度目は、王城に行った日の朝に足を運んだ。

 本当なら、屋敷に来たその日に来たかったんだが、アレクとの勝負とか、アリスとの食事会とかで時間が潰れてしまったからな。

 未練がましいとか言ってはいけない。

 私だって自覚している。


『見てたよ、エド。生まれ変わっても大活躍じゃないか! さすが、ボクの旦那様!

 アリスちゃんに付いてた悪い虫も追い払えたみたいだし、安心したよ』

「あれは私の手柄じゃない。アリス自身の功績だよ。さすが、私達(・・)の孫だ」

『ふふ。そうだね。さすが、ボク達の孫だ』


 シャロはそうして、嬉しそうに微笑んだ。

 ……この笑顔は果たして私の見ている幻想なのか、それともシャロの幽霊なのか。

 それは、未だにわからない。

 わからなくていい。

 こうして、この墓の前で近況を報告するのは、私にとって儀式みたいなものだ。

 お前が命懸けで守った私は、ちゃんと人生を謳歌していると。

 お前の死は決して無駄ではなかったんだと、シャロに伝える為の儀式。


『アレクくんの悩みも解決したし、良かった良かった。

 ボクもあの子達の事は心配してたからね。

 時々暗い顔してるのを見ても、この体じゃ慰めてあげる事もできやしない。

 ホント、エドが戻って来てくれて助かったよ』

「……あいつらは、私がいなくても、自力で何とかしてたと思うけどな」


 アレクにしても、アリスにしてもそうだ。

 剣神として相応しいとか相応しくないとかいう、どうでもいい理由で悩んでいたアレクだが、私がいなくても、いずれ吹っ切っていただろう。

 あいつには、剣神の称号なんぞよりよっぽど大事な家族(もの)がある。

 それを守らねばならない事態に直面した時、アレクならば確実に迷いを振り払って覚醒していたと断言できる。

 間違っても大切なものを履き違えたり、重圧で潰れるたりする程弱い男ではない。


 アリスの方は、まあ、自力で何とかするのは難しかったかもしれない。

 だが、あの子には支えてくれる奴らが沢山いる。

 アレク、ユーリ、スカーレット、使用人軍団。

 マグマやシグルス、フレアなんかも困ったら助けてくれただろう。

 実際、アレクやユーリはクソ虫の排除に動いていた。

 スカーレットは当たり前のように守ってくれていた。

 私がいなくても、他の誰かに助けられて窮地を脱していたと思う。


 それに、あの子はまだ子供。

 いくらでも成長の余地がある。

 案外、私が手を貸さなくとも、自力でクソ虫を退けていたかもしれない。

 若者の可能性は無限なのだ。


『それでもだよ。君が頑張ってくれた事に変わりはないさ。お疲れ様』

「……ああ」


 そうだな。

 私も今回、それなりに頑張った。

 自分の頑張りを否定する気はない。

 困った時は助け合い。

 戦闘力しか取り柄のなかった私に、()()()()()()()()()()()()

 それを、しっかりと果たせた。

 今は、その事を素直に誇ろう。


「……だが、これで終わった訳じゃない」


 クソ虫は倒したが、心を折ってはいない。

 シオンやスカーレットの予想通りなら、また私達の前に立ち塞がるだろう。

 ひょっとしたら、今回の屈辱をバネに、より厄介に成長してくるかもしれん。


 マグマの言っていた、未知の敵の事もある。

 オーガの時、シャムシールの時と、今世の私に度々絡んでくる不気味な強敵。

 王国を狙ってくると言うのなら、いずれその黒幕とも戦う時がくるだろう。

 

 他にも、まだ私の知らない敵や、生きている内に遭遇してしまう脅威だって、きっとある。

 戦いはまだまだ終わっていない。

 むしろ、まだ始まったばかりだ。


「私の二度目の人生は始まったばかり。そして、戦いはこれからも続く。

 ……私はもう一度頑張ってみる。見守っていてくれ」


 そう告げて、私はシャロの墓に背を向けた。

 もう十分だ。

 私は未練がましい奴だか、いつまでも感傷に浸って動けなくなる程弱くはないつもりでいる。

 だから私は、シャロの墓に背を向けて、歩き出す。


『頑張れ。ボクはいつでも君を見守ってるよ』


 後ろから、そんな声が聞こえたような気がした。

 だから最後に、一度だけ振り返る。


「じゃあな。また来る」

『うん。行ってらっしゃい、エド』


 そうして、私は歩みを進めた。

 墓のある泉から離れ、森の中を歩く。

 歩きながら考える。


 今言葉にした通り、私のリンネとしての人生は始まったばかりだ。

 それに、もしかしたら、私が女として生まれ変わったのは、私の為に死んだシャロの分まで生き抜けと、そういう意味なのかもしれない。

 いささかロマンチックに過ぎる考えかもしれないが、そう思う事は自由だろう。


 ならば、私のすべき事は一つ。

 前世でそうしたように、今世も最後まで全力で生き抜き、今度こそ胸を張ってシャロに会いに行く。

 その為にも、戦いの途中で死んでなんていられない。

 シャロの分まで生きるのだから、もう一度、天寿を全うしてやる。


 強くなろう。

 今度こそ、戦いの中で大切なものを失わないように。

 今度こそ、全てを守りきれるように。


 それは理想論かもしれない。

 私一人ではどうにもならない程に戦いが大きくなれば。

 それこそ、もう一度戦争でも起こってしまえば。

 私は必ず、何かを失う事になるだろう。

 戦争とはそういうものだ。

 敵味方問わず、大切なものを根こそぎ奪っていく。


 それでも、その理想を目指す事をやめる気はない。

 どんな理想も、目指さなければ叶わないのだから。


 私は英雄だ。

 かつての『剣神』エドガー・ナイトソードの生まれ変わり、『天才剣士』リンネだ。

 ならば、英雄は英雄らしく不可能を可能にしてやろう。

 その為の努力は惜しまない。

 せいぜい、前世を超える大英雄を目指してやろうではないか。

 大切なもの全てを救う、最強で無敵な大英雄をな。


 墓参りからの帰り道、私はそんな決意を固めたのだった。






 ◆◆◆






「許さない……許さない……許さない……!」


 王都にある、とある屋敷。

 アクロイド公爵家の別邸の廊下を、一人の少年が歩いていた。

 その様子は、正気とは言い難い。

 怒りと恨みの籠った言葉をブツブツと垂れ流し、使用人達を怯えさせていた。


「許さない……! この僕にあんな屈辱を……! 絶対に許さない……! 殺してやる……殺してやる……殺してやる……! どんな手を使ってでも……!」


 壊れたように殺意を口にする少年、フォルテ・アクロイド。

 彼が目指すのは、父、ピエールの執務室である。

 大方、ピエールの持つ権力と、私兵による兵力を当てにしているのだろう。


 この時、殺意によって視野狭窄に陥ったフォルテは、自分を見つめる不気味な視線に気づかなかった。


「おやおや~」


 歩き去るフォルテを見ながら、どこか愉悦の感情の籠った声を上げる男がいた。

 フード付きの真っ黒な外套を羽織った怪しい男。

 その顔には、笑顔を模した黒い仮面をつけている。

 全身黒ずくめ。

 街中で見かけたら即通報されるような、怪しさ全開の格好だった。

 その男の隣には、フルフェイスの兜を被った上半身裸の巨漢が立っている。

 実に怪し過ぎる二人組であった。


「今の少年、大臣さんの息子さんですかね~? モリメットさんはどう思います?」

「…………」

「無視! 無視は寂しいですねぇ!」


 仮面の男のおどけた言葉に、巨漢の男は何も答えない。

 もし、この場に彼ら事情を知っている者がいれば、今のやり取りを滑稽な一人芝居(・・・・)だと不気味に思った事だろう。

 だが、そんな事を知っている者など、この場には一人としていなかった。


「さてさて。なんにしても、あの少年、実に良い目をしていましたね~!

 これは何か面白い事が起こりそうです! もうちょっとこの国に留まってみますか」


 仮面の男は一人で結論を出し、うんうんと頷いている。

 そうして少しの間止まった後、二人は静かに歩き出した。

 目的地は、フォルテと同じくピエールの執務室。

 それすなわち、王国を蝕む()が、王国を蝕む腐敗貴族と繋がっているという事。


 不吉な影は、王国の裏へと確実に忍び寄っていた。

第2章 終

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