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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第2章 入学編

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36 合同訓練開始

「そんな事があったのですね……」


 またも食堂で会ったスカーレットとオリビアに、今回の経緯を話した。


 襲撃の後、駆けつけてきた兵士達に事情を話している内に時間が過ぎ、学校に着く頃には昼になっていた。

 私は「休むか?」と聞いたが、二人は頑として拒んだ。

 それだけ、今日に懸ける意気込みが強いのだろう。

 その心の強さは立派だ。


「アリス……大丈夫ですの?」

「うん、大丈夫だから」


 そう言うアリスの顔色は悪い。

 強がって見せても、やはりコンディションに影響が出ているな。

 シオンは瞑想でもするように気を落ち着かせているが、それでも万全ではなさそうだ。

 授業開始まであと少ししかないが、それまでに少しでも回復してくれる事を祈るしかない。

 ……それと、少し予定を変更した方がいいかもな。


「とりあえず、二人とも何か食べとけ。腹が減っては戦はできぬ。

 だが、食べ過ぎるなよ。満腹は動きを鈍らせるし、戦闘中に吐いたら目も当てられんからな」

「はい」

「……食事中に吐くとか言うな」


 そうして、私達は学食を取りに行ってモソモソと食べ始めた。

 さっき言った事を加味して、食事はサンドイッチが一つと飲み物だけだ。

 二人とも、少し進みは遅いが普通に食べられている。

 食欲があるのなら、思ったよりは平気そうだな。


「で、さっきの襲撃に関してだが……お前はどう見る、スカーレット?」

「そうですわね……」


 スカーレットが顎に手を当てながらそう呟いた時、オリビアがスッと懐からある魔道具を取り出して、机の上に置いた。

 風の魔法で周囲の音を遮断する、簡易式の盗聴防止魔道具だ。

 気が利くな。

 前回は使わなかったが……まあ、それは何か理由があったんだろう。

 たとえば、あえてあの会話を周囲に聞かせる事で、クソ虫との敵対を大々的に周知させる為とか、そんな感じの理由が。


「まず襲撃者の正体ですが、アクロイド家の手の者である可能性が一番高いでしょうね。

 聞いた話ですと、かなり杜撰な襲撃だったようですし、それで得をするのはフォルテくらいしか考えられませんわ」

「だろうな」


 むしろ、それ以外の可能性があるのかという次元の話だ。


「しかし……少し不可解ですわね」

「む? 何がだ?」

「白昼堂々ナイトソード家の馬車を狙うという行動そのものがです。

 それを行ったという証拠が出てくれば、いくらなんでも追及を免れませんし、そうでなくとも疑惑は深く残り続けます。

 政治的に見れば、今回の事件は王家やナイトソード家を本格的に敵に回す愚行なのですわ」


 ……言われてみれば、その通りかもしれんが。

 じゃあ、なんだ?

 つまり、どういう事だ?


「そんな愚かな事を公爵ともあろう者がするとは思えませんが……では、他に何か目的が……? アクロイド家の仕業に見せかけて、他の誰かがやったという可能性もなくは……いえ、しかし……」


 スカーレットが自分の世界に行ってしまった。

 傍目から見ても、高速で頭を回転させているのがわかる。

 よし、任せておこう。

 頭脳労働は苦手だ。

 こういうのは、できる奴に任せるのが最善だろう。


 ややあって、スカーレットは顔を上げた。


「……ふぅ。わたくし一人で考えていても埒が明きませんわね。

 詳しい事は情報を集めてから改めて考える事にいたします。

 それよりも今は……」

「ああ。直接対決の方が大事だろう。わかっている」


 細かい理屈捏ね回すのは苦手だが、今やらなければならない事くらいはわかる。

 クソ虫を真っ向勝負で叩き潰す事。

 これが最優先であり、決定事項だ。

 

「アリス、シオン、行けるか?」

「……はい。これくらいで折れる程、弱くはないつもりです」

「俺もだ。あまり見くびるな」


 そうか。

 たとえ、アリス達が戦えなかったとしても、私一人で戦いに赴くつもりだったが、この調子なら大丈夫そうだな。

 正直、まだ心配ではある。

 だが、そんな事を言っていては何もできない。

 今は、二人を信じる。


 そして、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。

 この後は、すぐに午後の授業が始まる。

 例の合同訓練は午後の始め。

 つまり、この後すぐだ。


「よし! 行くぞ!」

「はい!」

「ああ!」

「ご武運を!」


 そうして、私達は決戦の場へと赴いた。






 ◆◆◆





 合同訓練が行われる決戦の場は、第二訓練場。

 少し前に、アリスと私が戦ったあの場所だ。

 アリスにとっては、強敵(わたし)相手に全力を出し尽くして戦うという事を既に経験した場所。

 決戦の場としては悪くないだろう。


「やあ、アリス」


 そして、そこに奴はいた。

 他の二年生達に交ざる、不快な異物。

 我らが宿敵、クソ虫ことフォルテ・アクロイド。


「聞いたよ。大変だったそうじゃないか。無理せずに休んでいた方がいいんじゃないかな?」


 白々しい!

 よくもまあ、ぬけぬけと!

 クソ虫は心配そうな顔を作ってはいるが、目が笑っているし、声も言葉とは裏腹にへばりつくような気持ち悪さがある。

 確信した。

 犯人はこいつだ!


「そこ、私語は慎みなさい」

「おっと。これは失礼しました」


 教師であるユーリの言葉には素直に従い、クソ虫は一旦引いた。

 決めた。

 あいつは徹底的に潰す。

 情けも容赦も拘りも捨ててぶっ潰す。

 今、そう決めた。


「では、これより一年A組と二年A組による合同訓練を開始するわ。

 今日の目的は相互理解。お互いの実力を確かめる意味で、一対一の試合を行います。

 双方の合意さえあれば、誰が何度戦おうと構わないわ。

 二年生は、一年生に胸を貸すつもりで戦いなさい」

『はい!』


 この一見まともな事言ってるように感じるユーリの言葉だが、当然、私達の目的をサポートする為の方便である。

 ユーリは、教師としての権限を私的な目的で使う事に少し難色を示したが、最終的に背に腹は変えられないという事で協力してくれた。

 これで、クソ虫が不様に逃走さえしなければ、私達は全員が奴と戦う事ができるという訳だ!

 お前が虐げた者と元剣神の怒り、存分にその身で味わうがいい!


「じゃあ、最初は……」

「私が行こう」


 前に出ようとしたアリスを手で制し、私が手を上げた。

 アリスとシオンが驚いた顔で私を見る。

 事前に決めた予定と違うからな。

 だが、ここは押し通す。


「二人とも、悪いが、ここは私に任せてくれ。私が先陣を切る」


 鋭い視線で二人を見ながら、私はそう宣言する。

 目的は一つだ。

 まずは私が確実な勝利を手にし、強引に流れを引き寄せる。

 本来ならまず二人に任せるつもりだったが、今の二人は不調だ。

 まずクソ虫と精神面で対等になるには、私が最初に勝って勢いを味方に付けるしかない。


「……わかりました。頑張ってください、リンネちゃん!」

「俺達の出番を奪うんだ。情けない真似はするなよ」

「もちろんだ。━━必ず勝ってくる」


 二人もそれをわかっているのか、否定せずに送り出してくれた。

 他のクラスメイト達も、何かを察しているのか、私に一番手を譲ってくれた。

 その想いには、死んでも答える。


「一年生は決まりのようね。では、二年生は……」

「勝負だ。フォルテ・アクロイド」


 ユーリの言葉を遮り、クソ虫を指差して宣言する。

 高位貴族に対する割りと無礼な行いに、他の生徒達がざわめいた。


「貴様ぁ! フォルテ様に対して無礼にも程があるぞ!」

「黙れ」

「ヒィ!?」


 なんか見た事あるような奴が絡んできたが、殺気を叩きつけて黙らせる。

 よく見たら、前にいた取り巻き三匹の中の一匹じゃないか。

 相変わらずの小虫だ。


「構わないよ。僕が出よう」

「フォルテ様!? しかし……」

「いいんだよ。身の程を知らない一年生を教育してあげるのも、先輩としての役目さ」

「ハッ!? その通りです! さすが、フォルテ様!」


 なにやら寸劇じみたやり取りがあったが、なんにせよ、向こうも戦う気はあるらしい。

 好都合だ。


 そして、お互いに試合開始地点に立ち、訓練用の木剣を手に向き合う。

 私達の周囲を、結界が包み込んだ。


「準備はいいわね? では、始め!」


 ユーリが試合の開始を宣言した。

 クソ虫は動かない。

 ……どういうつもりだ?


「来ないのか?」

「先手は譲ってあげるよ。後輩くん」

「そうか。ならば、遠慮なく行かせてもらおう」


 その瞬間、私は高出力の闘気を纏い、それを脚に集中した。


「神脚」


 本気の踏み込みで地面が凹み、私は一瞬にしてクソ虫との間合いを詰めた。

 そして、木剣の一撃を、クソ虫の木剣に向けて(・・・・・・)打ち込む。


「ッ!?」

「どうした? 戦場で剣を落とすなんて、剣士として失格だぞ。早く拾え」


 公衆の面前で恥をかいたクソ虫の顔が、羞恥と怒りで歪む。

 ハハハ!

 いい気味だ!


「なめるな!」


 即座に木剣を拾い、クソ虫は私から距離を取った。

 そして、魔法を発動させる。


「風纏い!」


 クソ虫は、闘気の上から風の鎧を纏った。

 あれは鎧であると同時に、術者の動きをサポートし、その速度を大きく引き上げる移動補助の魔法。

 たしか、そこそこ習得の難しい魔法だった筈だ。


「風神・槍牙!」


 その状態でクソ虫が突進してくる。

 確かに速い。

 技のキレも悪くはない。


 だが、私よりは圧倒的に遅い。


 繰り出された突きを軽くかわし、続く連撃もことごとく防ぐ。

 クソ虫の顔が驚愕に歪んだ。


「何故だ!? 何故、当たらない!?」

「お前が弱いからだろう」

「グハッ!?」


 そう言いながら、クソ虫の腹を木剣で叩く。

 踞ったところを足で蹴り飛ばし、再び距離が空いた。


「飛剣・風刃!」

「飛剣!」

「ぐっ……!? そんな……馬鹿な……!?」


 クソ虫の放った風の刃を飛剣で迎撃し、逆に押し返して吹き飛ばした。


「トルネードウィンド!」

「飛剣・嵐!」


 次は大風の魔法。

 これも押し返して粉砕する。

 

 そして、再び神脚で距離を詰めた。


「ッ!? 来るなぁ!」

「遅い」


 迎撃に繰り出された剣は、あまりにも遅い。

 劣勢に追い詰められてからの立て直しが、全くと言っていい程できていない。

 格下をいたぶる事しかできないのか、こいつは?

 ……醜い。


「神速剣・五月雨!」

「ぐぁああああああああ!」


 怒涛の連続斬りで、クソ虫の全身を滅多打ちにする。


「神速剣・重槍牙!」

「ぐぅうううううううう!」


 次は連続の刺突。

 最後の突きでクソ虫の体を吹き飛ばし、地面に這いつくばらせた。


「痛い……痛い……」

「惨めな」


 こいつには、私だけではなく、アリスやシオンの剣を受け止める義務がある。

 故に、この一戦で潰れないように加減はした。

 それなのに、この体たらく。

 いくら強くとも、根性のない奴は酷く脆い。


「私の勝ちだ。フォルテ・アクロイド」

「それまで。勝者、リンネ」


 結界が解除され、ユーリが静かに試合の終了を宣言した。

 そして、ユーリがクソ虫に近づき、嫌そうな顔で治癒の魔法をかける。

 周囲の反応は様々だ。

 驚愕する者。

 奇声を上げながらクソ虫に駆け寄る者。

 ボロ雑巾になったクソ虫を半笑いで見つめる者。

 とりあえず、クソ虫の面子を叩き潰す事はできたようだな。


「こんな……馬鹿な事が……あっていい筈がない……! クソ……!」


 そして、少し回復したクソ虫は、小声で自分の名前を叫びながら、怨嗟の目で私を睨み付けていた。

 なんだ、まだ元気そうじゃないか。

 安心したぞ。


「お前ぇ! 覚えていろ! 僕を敵に回した事を後悔させてやる!」

「……何が覚えていろだ。まさか、これで終わりだとでも思っているのか?」


 私が殺気を籠めて睨み返すと、トラウマでも刻まれたのか、クソ虫は顔を青くして冷や汗をかいた。

 いい気味だ。

 もっともっと追い詰めてやりたくなる。


 だが、それをやるのは私ではない。


「ここからが本番だ」


 そう言い残して、私は一年生の所へと戻る。

 そして、そこで待っていたアリスの肩を叩く。


「行けるか?」

「はい」

「そうか。頑張れ」

「はい!」


 私と入れ替わるように、アリスが前へと進み出る。

 その背中は、なんだか頼もしく見えた。


「アクロイドさん。あなたに勝負を申し込みます」


 そうして、アリスは凛とした声で、クソ虫に勝負を申し込んだ。

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