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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第2章 入学編

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33 秘密特訓

 学校をサボ……早退してやって来たのは、ナイトソード家の中庭にある特設訓練場。

 昔、弟子どもを鍛える為に作った場所だ。

 機能は、騎士学校や冒険者ギルドにある訓練場とあまり変わらない。

 そこで特訓を開始してから約五時間。

 アリスとシオンは、


「う、うぅ……」

「く、くそっ……」


 訓練場の地面に、疲労困憊の様子で倒れ伏していた。






 ◆◆◆






 五時間前。

 訓練場にやって来た直後に、私はある事をアリスに尋ねた。


「アクロイドさんの戦術ですか?」

「ああ。本格的にお前を強くするには、さすがに時間が足りないからな。

 故に、今回はあのクソ虫に勝つという一点のみを重視して鍛える。

 その為には、まず情報だ。

 敵の手の内を知っているのといないのとでは、勝率が大きく違うからな」

「リンネが理知的な事を言っているだと……!?」

「黙れ、シオン。今はボケている時間も惜しい」


 大体からして、私はこういう戦闘に関する事では頭が回るのだ。

 戦争や戦略となるとお手上げだが、単純な戦闘の勝ち負けについてなら一家言ある。

 私は馬鹿ではない。


「そうですね……アクロイドさんは風の魔法を使う魔法剣士です。

 闘気による身体強化と、風魔法の移動補助による高速戦闘を得意としています。

 速さ勝負になると私では勝てませんし、離れても高威力の遠距離攻撃に加えて、多彩なバリエーションの魔法を持っているので、決して有利にはなりません。

 ……正直、今のままだと勝てる気のしない強敵です」

「なるほどな」

 

 あのクソ虫の戦闘スタイルが、なんとなくわかった。

 要は、ベルとオスカーを合体させた感じか。

 ベルは私に影響されたのか、速度でガンガン攻めるスタイルを好んでいたし、

 オスカーも、接近された時に風魔法の移動補助を使う事はよくあった。


 そうなると、仮想敵役は私とシオンが務めればいいか。


 如何にクソ虫が速いといっても、おそらく私よりは遅い。

 直に奴の闘気に触ってみた感じからして間違いないだろう。

 あそこに風魔法の加速が加わったとしても、正直、速さ勝負では負ける気がしない。

 もちろん、他の分野でも負ける気はしないが。


 だが、魔法に関しては私では再現不能だ。

 そこでシオンの出番だな。

 シオンとクソ虫では系統が違うが、シオンの雷魔法はクソ虫の風魔法よりも遥かに速い。

 雷魔法の速度に対応できるようになれば、大概の魔法攻撃は怖くないのだ。

 それでも仮想敵として不足なら、暇してる番兵どもの中から風魔法使いを拉致ってきて相手をさせればいい。


 よし。

 方針は決まったな。


「アリス。クソ虫の全力(・・)を見た事はあるか?」

「あ、はい。去年の武闘大会で剣聖さんを相手にしていた時に」

「そうか。なら、ちょっと私がシオンに向かって徐々にスピードを上げながら斬りかかるから、それを見て、クソ虫と同じくらいのスピードになったら教えろ」

「はい!」


 という事で、まずはシオンと私が戦う事になった。

 まあ、戦いというよりは確認作業だな。

 シオンに求められているのは、私の攻撃をひたすらに防ぐサンドバックとしての役割だ。


「では、行くぞ」


 最初からそこそこの速度で斬り込む。

 そして、アリスと戦った時と同じように、そこから急速にギアを上げていった。

 数撃もしない内に、剣速はシオンの対応限界にまで達する。


「くっ……!」


 シオンがキツそうな顔になった。

 ここで私がフェイントを交えた動きでもすれば、シオンは瞬く間に倒れるだろう。

 だが、アリスからの静止の声はまだかからない。

 更に速度を上げる。


「ぐぅ……!」


 シオンが闘気を全開にして耐える。

 アリスはまだ止めない。

 更に加速。


「ぐあっ……!?」


 遂に、訓練用の木剣が、シオンの頭部をしたたかに打ち抜いた。


「ストップ! それくらいの速さでした」


 というところで、ようやくアリスが静止した。

 ……マジか。

 これは、思ってたより強いなクソ虫。


「技も何もない速度だけでシオンを倒せるレベルか……。

 しかも去年の時点でこれという事は、実際はもう少し速いだろうな。

 チッ。クソ虫のくせに戦闘力だけはいっちょまえか」


 しかも、これに魔法攻撃まで加わるときた。

 やたらとハイスペックな野郎だな。

 自称次期剣神を名乗るのも、少しは納得できる。

 まあ、私からすれば楽勝のレベルではあるが、アリス達には少々キツイ。

 まったく、虫のくせに。


 だが、嘆いても始まらない。


「さて! では相手の戦力も予測できたし、特訓を開始する!」

「はい!」

「内容はいたってシンプル。私がクソ虫を超える速度で斬りかかるから、アリスはそれに慣れろ(・・・)

 途中で、魔法対策にシオンとの試合や、場合によっては番兵の風使いとの試合も挟む。

 後は、ひたすらに戦い続けろ! 戦闘は経験がものを言う! 死ぬ程キツイが根性見せろよ!」

「はい! よろしくお願いします!」

「よし! 良い返事だ!」


 そして、アリスの無限地獄が始まったのだった。

 可愛いアリスを痛めつけるなんて心が張り裂けそうだが、これも愛の鞭だ。

 耐えるのだ、アリス。

 そして、耐えるのだ、私。


 こうして、特訓が開始された。






 ◆◆◆






 で、五時間後。

 エンドレスバトルに疲れ果て、二人は倒れてしまった。

 まあ、この五時間、ほぼ休憩なしで戦い続ければこうもなる。

 アリスが本格的にダウンしたら、その合間にシオンを鍛え。

 最低限の体力が回復したら、また試合再開を繰り返してきたからな。


 私の教育方針は、基礎トレ、試合、基礎トレ、試合、基礎トレ、試合の無限ループが基本だ。

 弟子どもを育成してた時は、これに結構な割合で実戦を混ぜた。

 寝てる隙に迷宮の底に拉致したり、盗賊のアジトに売り飛ばしたりしたなー。

 その状態から魔物や盗賊を殲滅し、自力で帰還させるという訓練だった。

 実戦に勝る稽古はないというのが私の持論だからな。


 ただし、実戦だけでもいけない。

 基礎トレーニングで技や基礎能力を向上させ、試合で試して修正し、そうして初めて実戦に送り出せる。

 まあ、今回は実戦をやる為に敵がいる場所まで行く時間はないし、

 基礎トレで能力を向上させるにしても、数日程度では焼け石に水なので、結果として試合をエンドレスでやらせた訳だが。

 今回の目的は本格的に鍛える事ではなく、あくまでもあのクソ虫に勝つ事。

 その為の特訓だ。

 ならば、これでいい。


「なんだか懐かしいです……」


 仕事の合間に様子を見に来たアレクが、過労でぶっ倒れながらゲロを吐くシオンを見て遠い目をしていた。

 過去のトラウマが疼くそうだ。

 輝かしい青春の思い出と言ってほしいものだな。



 さて、そうして続けてきた特訓だが、さすがに二人とも限界だ。

 日も暮れてきたし、今日の特訓はここまでだな。


 泥だらけの二人を回収し、屋敷へと戻る。

 そして、メイドに頼んでアリスを風呂場に直行させた。

 その後は私が入り、最後にシオンだ。

 風呂の湯は魔道具で入れ替えてるので、シオンが美少女二人の残り湯を堪能する事はできない。

 残念だったな。


 それはさておき。

 風呂から上がっても、まだ夕飯まで少しは時間がある。

 その時間を使い、屋敷の一室で今日の反省会をする事にした。


「さて、特訓初日は無事終了した。

 二人ともよく頑張ったと言っておこう」


 そう言う私の服装は、メイド軍団の画策によって、猫耳パーカー付きのパジャマに変わっている訳だが、気にしない方針でいこう。

 二人とも、疲れ過ぎてツッコム気力もないみたいだしな。


「でだ、アリス。特訓を終えてみてどうだ? 何か掴めたか?」

「そうですね……速さに大分慣れたのは大きいと思います」


 自分で言う通り、アリスは随分と超速の剣に慣れた。

 防戦一方であれば、十分くらいはまともに打ち合える。

 たった一日で凄まじい成長……というより、それを可能とする土台は既に出来ていた感じだな。

 これは、アリスに剣を教えたアレクやユーリの手柄だ。

 そして今日、限界ギリギリまで試合を重ねた事で、その能力に磨きがかかった。

 ……もっとも、まだフェイントや駆け引きに対応する余裕まではないし、魔法を同時に使われたりしたら終わりだろうから、先は長いんだが。


「シオンは何か気づいたか?」

「そうだな……アリスは防御は凄いんだが、逆に攻撃が拙いと思った。無理に速さを出そうとして、技のキレを失ってる感じだ。

 守りに徹されると容易には崩せないが、攻撃中に反撃すれば割りと簡単に勝てた」

「ああ、それは私も思ったな」

「うっ……!」


 アリスの剣は、ユーリに似た防御型の剣技。

 ただ、そこに無理矢理アレクや私が使う攻めの剣を足している感じだ。

 それが噛み合っているなら良いんだが……どうにも、合わない剣技を無理して使っているだけに見える。

 

「よし! アリス、明日は下手に攻めるの禁止だ。攻撃する時は、カウンターを狙うか魔法を使え」

「え!?」


 あの攻撃も悪くはないから、ちゃんと鍛えればものになるとは思う。

 が、どう考えても、数日であのクソ虫に通じるレベルにはならないだろう。

 故に、今回は封印だ。

 強引な攻めという事で例の大技、飛脚・水蓮だったか? あれも封印だな。

 そっちに関しては、今度、時間がある時にじっくりと見てやろう。

 その時には、アレクやユーリも巻き込むか。

 あと、マグマもだな。

 奴はあれと似たような技を持っていたから、教わるには持ってこいの人材だろう。


「あ、あの、どうしても攻めるのは禁止ですか?」

「ん?」


 何やら、アリスが落ち込んだ感じで聞いてきた。


「どうした? もしかして、攻撃に拘りでもあるのか?」

「はい……攻めの剣、速さの剣は、お父様がお祖父様から受け継がれたものですから。

 だから、私もと思って、いました……」


 ……なるほどな。

 アリスが長年悩んできた、剣神関連の拘りか。

 だが、残念な事に、その考えは、


「アリス、それは違うぞ」


 完全に間違っている。


「お前は騎士候補生だ。そして、騎士は何よりもまず勝利を優先しなければならない。

 騎士が剣を振るうのは、国の為、そして何かを、誰かを守る為。

 故に、騎士に敗北は許されない。騎士が負ければ、守るべきものを危険にさらす」


 その許されない敗北を喫し、大切なものを失ってきたのが私だ。

 その時の苦しみ、悲しみ、怒り、罪悪感、無力感、全て覚えている。

 だからこそ、この言葉には誰よりも重みを乗せて語る事ができる。


「お前も騎士になるのであれば、自分の拘りよりも強さを取り、勝率を少しでも上げる事を優先しろ。

 そうでなければ、戦場で死ぬ仲間の数が増えるだけだ。

 それを覚えておけ」

「……はい」


 うむ。

 わかれば良し。


「さて、ちょっとお説教のようになってしまったな。気を取り直して……」


 そこまで言った時、コンコンと部屋の扉がノックされ、私の言葉は中断された。


「皆様、お食事の用意ができました。食堂にお越しください」


 続いて聞こえてきたのはメアリーの声。

 ……どうやら、時間切れのようだな。


「まあ、そういう事だ。腹が減っては戦はできぬ! 今は食事を優先する! 行くぞ」

「はい!」

「ああ」


 そうして、扉の前に待機していたメアリーに連れられて食堂へと向かった。

 そのメアリーの腰には、見覚えのある剣がぶら下がっている。

 剛剣グラム。

 どうやら、私が言った通り、メアリーに受け継がれたらしい。


 ……そういえば、この家にはもう一本、使い手のいない名剣があったな。

 個人的に、あれはあのまま安置しておきたいが、それはあまりにも勿体ない。

 アリスに拘りよりも強さを取れとか言ってしまったばかりだし、もう少し成長したらアリスにあの剣を譲るのもありかもしれんな。

 まあ、その前にアレクの神剣かユーリの氷剣を継ぐ可能性もあるから、まだなんとも言えんか。


 そんな事を考えながら食堂へ。

 その場にはアレクとユーリも居たので、クソ虫と喧嘩するつもりだというのを話しておいた。

 二人とも頭を抱えていたが、クソ虫の行動に腹を立てていたのはこいつらも同じだったので、やるなら徹底的にやってくれと言われた。

 任せておけ!

 まあ、後始末の事を考えると頭痛がするとも言っていたが。


 そして、食事も終了し、しばらく作戦会議の続きをした後に就寝。

 せっかくだから、アリスと一緒に寝た。

 幸せな夢が見られそうだ。


 ちなみに、明日は必修科目がないので学校は休む。

 特訓漬けの一日になる予定だ。

 張り切っていくぞ!

 そんな事を考えた瞬間、隣のアリスがビクリと震えたような気がしたが、気にせず私は夢の世界へと旅立った。

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― 新着の感想 ―
騎士としての危機感を感じる力が身についてますね
寝ながらでも恐怖を感じられるなら大したモンだと思うな。
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