32 大臣の息子
食堂に辿り着いた私達は、まず学食を頼んで席を探し、一人寂しくボッチ飯してるシオンを見つけたので、哀れに思って同席してやった。
「……なんだ、その目は?」
「同情」
「表に出ろ」
そんなやり取りがあったが、気にしてはいけない。
それにしても、最近のシオンは、若干ベルに似てきたな。
幼なじみの影響を受けているらしい。
そうして和気藹々と食事を楽しんでいた時、二人の女子生徒がこっちに向かって来るのがわかった。
人波が割れて、彼女達の道となる。
そうして現れたのは、黒い制服を着た赤髪の少女と、白い制服を着た護衛っぽい少女。
前にアリスと会った時に見かけた二人だった。
「ごきげんよう。あなたが噂のリンネさんだったのですね?」
「そう言うお前は、もしかして、スカーレットか?」
「その通り。あなたの事はお父様から詳しく聞いておりますわ。
是非とも仲良くするようにと」
ほう。
人前だからか若干言葉を濁したが、これは私の正体まで知ってるな。
シグルスも家族には伝えとく的な事言ってたし、間違いないだろう。
そうなってくると、気になるのはもう一人の方か。
私は、チラリと護衛少女の方に目を向けた。
「ああ、この子は、わたくしの護衛のオリビア。
彼女も事情を知っています。
ですから、お気になされずとも大丈夫ですわ」
「へぇ。信用はできるんだな?」
「ええ。オリビアとは幼い頃からの付き合いですし、彼女自身も国の重要戦力である空間魔法使い。
言わば、半分身内ですので」
ああ、空間魔法使いだったのか、この子。
たしかに、空間魔法は利便性の計り知れない超魔法であると同時に、逃げるのに最も向いた魔法。
だから、有事の際以外は王族の護衛に付いてる事が多いんだったな。
そして、空間魔法使いは国内に十人いるかどうかという程に希少だから、絶対に国を裏切らないように幼い頃から教育され、厚遇される。
故に、信用はできるって事だ。
「改めまして、オリビアと申します」
「うむ。よろしくな」
「ハッ。ですが、私はスカーレット様をお守りする盾。
どうぞ主を優先し、私の事は空気のように扱ってください」
おお、忠誠心が高いな。
だが、どこかズレてるような気がするぞ。
なんだ、空気のように扱ってくださいって?
「……この子、あまり自己主張をしないのですわ。
わたくしが危ない事をすれば口を挟みますし、話しかければ応えてくれますけれど……平時は本当に後ろに付いて来るだけと言いますか」
「私ごときが、常日頃からスカーレット様の行動に口を挟むなど、畏れ多い事ですので」
「あはは……オリビアさんは、スーちゃん至上主義者ですからね」
なるほど。
そういうタイプか。
まあ、いいんじゃないか?
忠義の形も人それぞれ。
上司と部下の関係も人それぞれだ。
ナイトソード家も相当特殊な主従関係だし、他所の主従関係にまで口は出さんよ。
仲も良いみたいだしな。
「まあ、それはそれとして。
お食事中ですよね? ご一緒してよろしいかしら?」
「ん? 別に構わんが、いいのか? 王族が私達みたいな庶民と一緒にいて」
「それを言うなら、公爵令嬢のアリスも同じですわよ」
む?
言われてみれば、確かにそうだな。
「シオンさんもよろしいかしら?」
「お構いなく。俺が意見しても変わらないでしょう」
「あら、敬語ですのね。
寂しいですわ。前にお会いした時はタメ口でしたのに」
「……さすがに、王女様に対してタメ口をきく度胸はありませんよ」
「あら、残念」
そうして、私達の昼飯にスカーレットとオリビアが加わった。
良かったな、シオン。
最初はボッチ飯だったのに、今では両手に花どころか前後左右に大輪の花だ。
ハーレムだな!
そう言ってみると、
「……こんな頭の痛いハーレム、いらない」
と、小さな声で呟いていた。
権力に囲まれて頭が痛いのかもしれん。
まあ、この場にいる全員、その気になれば簡単にシオンを破滅させられるからな。
権力にトラウマのあるシオンからすれば、気が休まらないってところか。
そうして、スカーレットのせいで食堂中の注目を集めながら飯を食っていた時だ。
そいつが現れたのは。
最初に反応したのは、忠犬意識の高いオリビアだった。
主への良からぬ気でも感知したのか、バッと音の鳴りそうな勢いで、ある方向へと顔を向けた。
そのただならぬ様子に、私も反射的に警戒態勢を取り、即座にオリビアの視線の先を見る。
それに一拍遅れて、他の三人も反応した。
そして、私達の視線の先で、人波が割れる。
スカーレットが登場した時と同じ光景だが、心なしか周囲の反応に怯えの色が強いような気がした。
そうして現れたのは、四人の少年。
一人の少年を先頭に、その取り巻きみたいなのが三人。
先頭の奴の左手首に嵌められた、金だけかかってそうな趣味の悪い腕輪がやけに目に付く。
そいつらを見た瞬間、スカーレットとオリビアが殺気を放ち、アリスすらも僅かに顔をしかめた。
シオンも、隠しているようだが臨戦態勢に入っている。
かく言う私も、頭の中で戦闘のスイッチが入った。
私の直感と本能が囁いている。
こいつらは敵だと。
取り巻きは、明らかにこちらを(正確にはシオンと私を)見下すような目で見ているし、
先頭の奴も、一見友好的な笑みを浮かべているが、その雰囲気からは隠しきれない腐臭が漂っている。
その雰囲気は、かつて腐る程に潰してきた、権力に溺れたクソ貴族どもとよく似ていた。
若干、大昔のシグルスにも似ている。
私の勘が間違っていなければ、脅威苦が必要な手合だ。
「どうも。ご無沙汰しております、スカーレット様。
そして、おはようアリス。君は今日も美しいね。
さすがは、僕の婚約者だ」
「あ゛?」
先頭の奴のその台詞を聞いた瞬間、私の中でこいつの評価が最底辺にまで落ちた。
なるほど、こいつか。
ユーリの言っていた、アリスに付きまとっている害虫というのは。
思わず、ドスの効いた声が出てしまった。
取り巻き三匹が私に不快そうな視線を向けてくる。
不快なのはこっちの方だ。
殺気を叩きつけて黙らせた。
三匹の害虫は、それだけで顔を青くして震え上がった。
小物だな。
だが、先頭の奴は意にも介さない。
大物だな。
虫にしては。
「フォルテ。何しに来ましたの?
見ての通り、わたくし達は楽しく食事中ですわ。
邪魔をしないでほしいのですけれど」
「ハハ、邪魔をするなとは悲しいですね。
僕はただ、可愛い婚約者と一緒に食事がしたかっただけなのですが」
「何が婚約者ですか。
その話は、あなたの家からの一方的な申し出でしょう」
「今のところは、ですよ。
あなた様にもわかっておいででしょう?
僕以上にアリスの伴侶に、次代の『剣神』に相応しい男はいないと」
……ほほう。
どうやら、このフォルテとかいうクソ虫は、剣神の称号目当てに、ウチの可愛いアリスをたぶらかそうとしているらしい。
殺すぞ。
そして、なんとも愚かな考えだ。
別にアリスと結婚しても剣神にはなれないというのに。
剣神の称号は、家柄や血筋で継いでいくものではない。
剣神とは、この世で最も強い剣士だけが名乗れる称号。
お前には無理だ、クソ虫!
「……ッ!」
その時、ゴミ虫の口から剣神という単語が出た瞬間、私は隣に座るアリスの変化に気付いた。
これは……恐怖?
それとも、悔しさ? 怒り?
ともかく、アリスの表情が、そんな苦しんでいるような感じに変わった。
俯き、目を伏せ、唇を引き結んている。
その痛ましい姿を見て、私は悟った。
こいつだ。
アリスがさっき私にしてきた質問。
剣神になれるかという問い。
その時に、やたらと苦悩していたアリス。
こいつだ。
あんなにもアリスを追い詰めた原因は、間違いなくこのクソ虫にある。
そう、確信した。
私はアリスの手を取り、強く握る。
ハッとした顔で、アリスが私の方を見た。
大丈夫だ。
お前は私が守る。
そんな意志を籠めて、私は力強く頷いた。
それを見たアリスは、少しだけ安心したのか、僅かに微笑んでくれた。
「……ふぅ。しかし、こんなに拒絶されてしまっては、楽しく食事という訳にもいかなそうですね。
今回はスカーレット様の顔を立てて退散させてもらいます。
じゃあ、またね、アリス」
別れ際、クソ虫がアリスの頬に手を伸ばしてきた。
条件反射なのか、アリスが身を固くする。
それを見た瞬間にシオンが立ち上がり、オリビアが剣に手をかけた。
しかし、二人よりも遥かに早く私が立ち上がり、神速の動きで伸ばされたクソ虫の右手を掴み、万力で締め上げる。
「ッ!?」
「おい。誰の許可を得てアリスに触ろうとしてんだ? あ゛ぁ?」
ギリギリと、手首を粉砕するくらいの気持ちで締め上げる。
クソ虫の額に冷や汗が伝った。
「なっ!? 貴様!?」
「無礼な!」
「平民ごときが! フォルテ様になんという事を!」
「黙れ」
「「「ヒィッ!」」」
取り巻き三匹は、殺気一つで戦意喪失した。
小虫が。
囀ずるな。
耳障りだ。
一方、クソ虫の方は……ほう、小癪にも闘気で腕を守ってきたか。
小賢しい。
こちらも掴む手に闘気を纏い、ガードの上から強引に締め上げる。
「ッ!? ……貴様、公爵子息である僕に向かって、こんな真似をしてただで済むと思っているのか?」
なんだ?
今度は脅しか?
これだから、権力だけのクソ貴族は芸がない。
「やれるもんならやってみろ。今回のこれは、嫌がる女性に手を出そうとしたお前が明らかに悪い。
王族と公爵令嬢が証人だ。
王族と公爵家の後ろ楯を持つS級冒険者相手に、お前ごときが何かできると思うなよ」
言い終えた後、掴んでいた手を乱暴に離して突き飛ばす。
「失せろ!」
「くっ……!」
クソ虫は、手首を押さえながら惨めに退散していった。
取り巻き三匹が慌てて後を追う。
二度と私達の、いや、アリスの前に現れるな!
おととい来やがれ!
私はクソ虫どもに向かって、中指を立てておいた。
「お見事ですわ!」
そして、クソ虫どもが消えた後、スカーレットがわざとらしくパチパチと手を叩いて、拍手を始めた。
オリビアが即座に追従し、それが食堂中に広まっていく。
拍手をする生徒達の顔は、心なしか晴れやかだった。
ふむ?
「これは、どういう事だ?」
「簡単な事ですわ。あのクソ、失礼。フォルテは学校中の、とは言いませんが、結構な数の生徒に嫌われているのですわ。
権力を使った横暴が目立ちますから」
「なるほど」
どこまで救いようがないんだ、あのクソ虫は。
暗殺でもしてやろうか?
……いや、ユーリが駆除作業の真っ最中だって話だし、やめておくか。
「で? なんで、あんなクソ虫にアリスとの婚約なんて話が出たんだ?」
「クソ虫……言い得て妙ですわね。
それも簡単な事ですわ。あんなのでも実力と権力だけはあるのですよ、あの男。いえ、あのクソ虫」
そうか?
あいつからは強者特有の雰囲気を感じなかったが。
私の動きも目で追えてなかったし。
ああ、だが、闘気の強さだけはそこそこだったな。
闘気を使えるというだけでも凄いのに、出力も大体グラムの擬似闘気より少し下ってくらいの強さだった。
他の十剣に匹敵するレベルだ。
……あれ?
そう考えると、あのクソ虫って相当優秀なのか?
虫にしては。
「フォルテの生家であるアクロイド公爵家は、王国の建国期から続く歴史ある名家。
その現当主であるピエール・アクロイドは、王国の重鎮である大臣職を務めています。
加えて、フォルテ自身も騎士学校最強の魔法剣士。
教国から留学中の『剣聖』と、唯一まともに戦える生徒なのですわ」
「何!? 剣聖だと!?」
剣聖。
教国最強の騎士に代々受け継がれる称号だったな。
私も会った事あるが、当時の剣聖は前世の私よりも歳上の爺さんだった。
その爺さんが留学中……な訳ないな。
代替わりしたんだろう。
となると、当代の剣聖はかなり若いのか。
って、話が逸れた。
今は剣聖の事など、どうでもいい。
「という訳で、無駄に有能なあのクズを排除するのは難しく、今まで手をこまねいていました。
城下町であなた達にアリスの友人となってくれるように頼んだのも、あの害虫からアリスを守ってくださる存在を欲しての事。
それくらいに、あれのアリスへの干渉は酷いのですわ。
本当に、あのクソ虫は……! わたくしが男であれば、アリスをわたくしの婚約者にして守れたのに! そう思った事も一度や二度ではありません」
「あ、あはは……情けなくてごめんね……」
アリスが力なく笑う。
というか、スカーレットのアリスへの入れ込みようが凄い。
まあ、スカーレットはシグルスの娘であり、アリスはシグルスの妹であるユーリの娘。
つまり、この二人は従姉妹、身内なのだ。
身内を害されて怒る姿には好感が持てる。
少しだけ同性愛を疑ってしまったが、それは別にいい。
スカーレットになら、アリスを任せられると感じた。
お祖父ちゃん公認だ。
もし本当にそうなったら応援してやろう。
まあ、それはそれとしてだ。
「事情はわかった! 私が来たからにはもう安心だ! あのクソ虫には、金輪際アリスに近づかせん!」
「頼もしい限りですわ!」
私はスカーレットと硬い握手を交わした。
アリス親衛隊の結成だ。
ついでに、シオンとオリビアの手も繋いで強制参加させておいた。
これだけの守りがあれば、ひとまずは安心だろう。
「それにしてもだ。アリス。お前ももう少し抗った方がいいぞ。
家柄的には同じ公爵家なんだし、体に触られるくらいなら、殴り飛ばしても大した問題にはならないだろう」
「そうですわね。大義名分があれば、わたくしも擁護できますわ」
「いや、その……」
アリスがどもった。
なんだ?
まだ、何かあるのか?
「私はアクロイドさんより弱くて、強く出られないと言いますか……。
「君の義務は剣神を継ぐ事。もしくは次代の剣神の伴侶となり、ナイトソード家を存続させる事だろう?」と言われると、反論ができなくて……」
「あのクズ! そんな事言ってやがったのか!」
殺してやる!
ウチのアリスに余計な重荷を背負わせやがって!
やはり、私は正しかった!
アリスの悩みの原因作ったの、あのゴミだった!
「スカーレット! どうにかして、あのカスを合法的に潰す方法はないか!?」
「そんな都合の良いもの……」
「ありますわよ」
「あるのか……」
シオンがなんか言っていたが、今は無視だ。
「一つは、政治的にアクロイド家を追い詰め、潰す事。
しかし、これはさすがに学生であるわたくし達には無理ですし時間がかかりすぎます。
お父様達、大人に任せるしかないでしょう」
ユーリが言ってた方法だな。
多分、アレクとかトーマスとかもやってるんだろうし、そっちはあいつらに任せればいいというのは同意だ。
というか、シグルスも絡んでるのか。
「二つ目。フォルテを支える要素の一つである、個人の優秀さを奪う事。
具体的には、衆人環視の下でこっぴどく叩きのめし、騎士学校最強の称号を奪ってやる事ですわね。
そうすれば、今程大きな顔はできなくなるでしょう」
おお!
わかりやすくて良いな!
たしかに、あいつがアリスに言い寄ってる最大の武器は、自分が次代の剣神だとかいう、謎の自信によるものが大きいと見た。
ならば、それを潰してやれば、少しはおとなしくなるかもしれん。
「そして、その為の場ですが、都合の良い事に二つありますわ。
一つは騎士学校の伝統行事『武闘大会』。騎士候補生は、この大会に必ず参加する義務があります。
外部の冒険者や兵士も参加する大きな大会ですから、そんな場で赤っ恥をかけば効果絶大でしょう」
「おお! そういえば、あったなそんな大会!」
昔、たまに観戦してたわ。
それに、弟子どもを強制参加させた事もあったな。
「で、それはいつだ?」
「一ヶ月後ですわ」
「遅い!」
そんなに待ってられるか!
「落ち着いてください。本命はもう一つの方ですわ。
もう一つは、来週の初めに騎士学校で行われる、一年生と二年生合同の戦闘訓練。
武闘大会に比べれば観衆も少ないでしょうが、それでも結果が学校中の噂くらいにはなりますわ。
そこで、あの虫を叩き潰してくださいまし!」
「なるほど、了解した! やってやるぞ!」
滾る!
滾るぞ!
あのクソ虫を負け犬に、否、負けゴミ虫してやるのが楽しみだ!
……だが、この作戦。
私がやるよりも効果的な手が、一つあるな。
「アリス!」
「は、はい!」
私は、ちょっとノリに付いて来れていないアリスに目を向けた。
そう。
この問題はアリス自身の問題。
そして、アリスもまた騎士候補生だ。
私が助けるのもいいが、できる事なら、自分で解決した方が良いに決まっている。
「お前は言ったな。自分はあのクソ虫よりも弱いから強く出られないと。
その時、悔しいと思ったか?」
「……え?」
「どうなんだ?」
私は真剣な目でアリスを見つめながら、問う。
「……正直、悔しいです。剣神の娘として、剣士として、あの人に劣っている事が」
「そうか。なら、奴よりも強くなりたいと思うか?」
「はい!」
良い返事だ!
だったら、方針は決まった!
「ならば、特訓だ! 今週末の決戦に向けて、私が本気でお前を鍛え上げる! そして、お前自身の手で奴を倒せ!」
「は、はい!」
「よし! そうと決まれば、今日の授業は早退だ!
時間がない! 帰って早速、特訓を開始する!」
たしか、特別生の特典の一つに、ある程度の授業免除というのがあった筈だ。
さすがに必修科目の授業は出ないといけないが、今日はもうない。
帰って特訓だ!
「ちょっと待て」
「……なんだ、シオン?」
まさか、真面目に授業を受けろとか言うんじゃないだろうな?
私が授業サボりたいと思っているとでも?
失礼な。
そんな気持ちは、ほんの少ししかないぞ。
だが、シオンの言葉はちょっと予想外のものだった。
「その特訓。俺も協力させてくれ」
「む? 構わないが、なんだ、アリス親衛隊の自覚でも出てきたのか?」
「違う。たしかに、義憤に駆られたという気持ちもあるが、そうじゃない」
じゃあ、なんだ?
シオンが義憤と仲間意識以外でアリスに協力する理由……何か、あったか?
「……あいつなんだよ。フォルテ・アクロイド。
あいつが、俺の因縁の相手だ。奴に一泡吹かせられるのなら、協力は惜しまない」
「……ああ、なるほど」
例のヨハンさん左遷事件の元凶。
あいつだったのか。
私の中で、更にクソ虫の評価が落ちた。
最底辺を突き破って、奈落の底にまで落ちていく。
下手したら、帝国に並ぶレベルだ。
どこまで落ちれば気が済むのやら。
とにかく、そういう理由なら大歓迎だ。
ついでだから、この機にシオンも鍛え直してやろう。
「よし! 行くぞ!」
「ああ!」
「はい!」
「頑張ってくださいませ!」
こうして、私達は学校を早退し、秘密特訓を開始したのだった。




