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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第2章 入学編

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31 アリス VS リンネ

「飛脚!」


 試合が始まった直後、アリスは飛脚を使った鋭い踏み込みで、私との距離を詰めてきた。

 ふむ。

 良い動きだ。

 少し重心移動がぎこちないが、この歳にしては十分な練度だろう。


「攻ノ型・一閃!」

「守ノ型・流」


 アリスの一撃を受け流す。

 む?

 思ったよりも軽いな。

 これならば……


「攻ノ型・五月雨!」

「守ノ型・(さい)


 中々に速いアリスの連続斬りを、受け流すのではなく受け止める。

 守ノ型・塞。

 最も基礎的な守りの型であり、守ノ型・城壁の簡易版とも言える技だ。

 城壁や流と違って、威力のある攻撃は止められない技なんだが、アリスの攻撃は普通に止められる。

 年齢差や体格差を考えれば、アリスの方が身体能力は上。

 それなのに、こんなにあっさりと防げてしまう。


 ……やはりな。

 アリスの攻撃はそこそこ速いが、代わりに一撃一撃がやけに軽い。

 闘気を使っていない私が軽く受け止められるレベルだ。

 しかも、速度に拘り過ぎているのか、技の切れも悪い。

 格下相手ならば速度に任せて強引に勝てるだろうが、同格以上には通じないぞ。

 これは、要改善だな。

 あとで手解きしてやろう。


 私は剣に力を籠め、アリスを弾き飛ばした。


「ッ!」

「今度はこちらから行くぞ!」


 攻撃の次は防御を見てやる。

 まずは小手調べ。

 速度を緩め、されど鋭く正確に。


「攻ノ型・槍牙!」


 真似しやすく、手本となるような刺突を放つ。


「守ノ型・流!」

「ほう」


 しかし、アリスはそれをあっさりと受け流してみせた。

 攻撃時のような無理した感じではない。

 まさに川の流れのように、流麗にして自然な動きで私の攻撃を防いだ。

 しかも、上手くカウンターまで繰り出している。

 素晴らしい!

 さすが、私の孫!


「やるな!」


 その反撃の一撃を正面から防ぎ、つばぜり合う。

 ……今の一撃には、しっかりと重さが乗っていたな。

 うっかり、さっきと同じ感覚で受けていれば、吹き飛ばされていたかもしれん。

 まさか、さっきまでの動きは、私を油断させる為のフェイクか?

 だとしたら、恐ろしい子である。


「次だ! 攻ノ型・重槍牙(じゅうそうが)!」

「! 流!」


 幾重にも重ねるような刺突の連打。

 それも、さっきよりも速度を上げている。

 だが、これもアリスは防いだ。

 反撃する余裕まではなさそうだが、このままでは突破できる気もしない。


「陽炎!」

「ッ!」


 途中でフェイントの抜き胴体へと切り替える。

 これにも対応された。

 今のは、闘気なしでの最高速度で振るったんだがな。

 フェイントと、急速な速度の変化。

 二重の技法を用いた技を、アリスはまたも受け流す。


 受け流しというものは、受け止めるの発展系だ。

 ただ剣を盾にすれば良い受け止めと違って、受け流しは相手の攻撃を正しく把握し、それに適した動きをする事でしか成し得ない。

 つまり、相手の攻撃を見切る余裕がなければできないのだ。

 それ即ち、アリスは私を相手に、まだ攻撃を受け流すだけの余裕があるという事。

 素晴らしいを通り越して凄まじい!

 さすが、私の孫!

 カッコ可愛い!


「ならば、更に速度を上げるぞ! 五月雨!」

「うっ……!」


 私は軽く闘気を解放し、目にも留まらぬ連続斬りを繰り出す。

 アリスの顔から、完全に余裕が消えた。

 剣が掠り、その体に小さな傷が増えていく。

 同時に、私の心が罪悪感で大ダメージを受けていく。


 しかし、まだ崩れない。

 決定的な一撃は入らない。


 それどころか、徐々に対応してきている!

 一撃を繰り出すごとに、攻撃がアリスへと届かなくなっていく。

 戦う程に相手の剣を学習し、より完璧な守りへと進化する。

 天性の守りの才。

 まるで、幼い頃のユーリを相手にしているようだ。


 ならば!


「飛脚乱舞!」

「!?」


 どこまで付いて来れるのか試してやろう!

 アリスの周囲を飛び回り、徐々に闘気の出力を上げていく。

 その状態で、四方八方から斬りかかる。

 

 真上からの振り下ろし。

 半歩横にずれながら、受け流された。


 低く身を屈めながらの足払い。

 飛脚で飛び退き、かわされる。


 背後からの首狩り。

 背中に回された剣で止められた。


 側面からの刺突、と見せかけて空中で軌道を変え、正面に回っての薙ぎ払い。

 剣で防がれるも、威力を殺し切れずに、アリスは後方へと吹き飛ぶ。


 それを追いかけ、一閃。

 崩れた体勢からでは受けきれず、アリスは転んで地面を転がっていった。


「ここまでだな」


 それを更に追いかけ、一本と判定されるような軽い一撃を放とうとした。

 今の攻防。

 簡単に勝敗が決したように見えたが、私は急速にギアを上げ続けていた。

 最終的には、今のシオンすら上回る闘気を纏っていたのだ。

 だが、そんな攻撃を、不恰好ながらアリスは防ぎ続けた。

 誇って良い。

 お前は素晴らしい剣士だ。

 そして、まだまだ強くなる。

 

 刹那の内にそんな称賛の言葉が頭を巡り、しかし、アリスへと剣を振り下ろした瞬間に気づいた。

 

 アリスはまだ、諦めていないという事に。


「ッ!」


 アリスの前方に、急速な勢いで魔力が集まっていく。

 魔法が発動しようとしている。

 妨害……できなくはないが、ここは迎撃する。

 アリスの可能性を知りたい。


「アクアブラスト!」


 そうして放たれたのは、ラビやヨハンさんと同じ水の魔法。

 私相手に手加減はいらないとわかっているからか、完全に殺す気としか思えない、津波のような質量の水流が私に迫る。


「飛剣!」


 軽く振るった飛剣によって、それを迎撃する。

 水流が真っ二つに割れるが、消滅はせずに結界の中を水浸しにしていく。

 私が一瞬、溺れる事を懸念した隙に、アリスは次の攻撃準備を完了していた。

 

「飛剣・水刃!」


 高密度に圧縮された水の刃。

 まともに食らえば痛いじゃ済まないだろう。

 まあ、まともに食らうつもりなどないが。


「守ノ型・流」


 水刃に剣を添わせ、最低限の動きと力で軌道を変える。

 だが、私が防ぎ終える頃には、もう次の攻撃魔法が放たれる。

 

「レインアロー!」


 続いて放たれたのは、雨のように降り注ぐ水の矢。

 避けられなくもないが、吹き飛ばした方が早い。


「飛剣・嵐!」


 衝撃波で雨を散らす。


 しかし、アリスは魔法も上手いな。

 今の魔法は、どれもこれも相当の威力があった。

 バリエーションも豊富だし、発動速度も速い。

 魔法使いとしてやっていっても大成するだろう。

 さすが、私の孫。

 だが、これだけの魔法が使えるなら、何故に今まで使わなかったのか?


 ……いや、考えるのは後だ。

 今は最後までアリスの相手に集中する。

 さっきアリスを過小評価し、試合が終わったなどと思って油断したばかりだ。

 剣士たるもの、油断して戦いに臨むなど、決してあってはならない。

 いくら、殺し合いではなく試合の場だったとしてもだ。

 さっきの私は剣士失格だった。

 だからこそ、次はない。

 より真剣に、アリスの全てを受け止める!


「来い! アリス!」

「はい!」


 アリスの背中に、水の魔力が集中していく。

 水はアリスの背中で形を変え、まるで蝶の羽のような、幻想的で美しい形状へと変化した。


 こ、この技は……!

 前に似たような技を見た事がある。

 ならば、効果も似ていると見るのが妥当か。

 

 となれば、来る!

 今までとは比較にならない攻撃が!


「飛脚・水蓮(すいれん)!」


 アリスが、水の羽から出る水流を推進力として、飛脚の速度を大幅に向上させ、突撃してくる。

 速い!

 神速剣にこそ及ばないが、さっきまでの私よりも速い!


 それに驚愕しつつも迎撃しようとして……


「わ!? あわわ!」

「ん?」


 様子がおかしい事に気づいた。

 高速で接近してくるアリスが焦っているのがわかる。


 そのまま、アリスはコントロールを失い、水浸しの地面に墜落して滑った後、ガンッと凄い音を立てて、盛大に結界に衝突した。


「きゅう……」

「アリスーーー!?」

「それまで」


 ユーリが試合の終了を宣言し、結界が解除される。

 私は急いでアリスの元へと駆け寄った。

 アリスは……頭から血をダラダラと流して気絶していた。


「ユーリッッ!」

「わかってるわよ。ヒール」


 ユーリの治癒魔法によって、血は止まった。

 だが、目を覚まさない。

 あばばばば! 

 どうすれば!?


「落ち着きなさい。死んではいないわ。

 とりあえず保健室に送って寝かせてあげて。しばらくすれば起きる筈よ」

「保健室だな! わかった!」


 私はアリスをお姫様抱っこし、闘気を全開にして、神速で保健室へと向かってダッシュした。

 待っていろ、アリス!

 すぐに助けるからな!


「……保健室の場所知ってるのかしら?」


 去り際に、ユーリのそんな声が聞こえたような気がした。






 ◆◆◆






「う、うーん……ここは?」

「アリス! 目が覚めたか!」


 あの後、半狂乱になりながら学校中を走り回り、血走った目で職員に保健室の場所を吐かせ、なんとか辿り着いた保健室のベッドにアリスを寝かせた。

 そのまま、ベッドの側に張り付く事、約三十分。

 ようやく、アリスが目を覚ました。


「大丈夫か? 痛いところはないか? 思いっきり頭打ってたが、記憶はハッキリしているか?」

「あ、はい。大丈夫です。ご心配をおかけしました」


 アリスの受け答えはしっかりしている。

 どうやら、後遺症とかもなさそうだ。

 一安心である。

 私は安堵のため息を漏らした。


「情けないですよね……。せっかくリンネちゃんに見てもらえる機会だったのに、最後は自分の技を制御できずに自滅だなんて……」


 と思ったら、なんかアリスが卑屈になった。

 憂いを帯びた美少女は絵になるが、私は辛気臭いのは苦手だ。


「いや、そんな事はないぞ。

 たしかに最後こそアレだったが、それまでの戦いには目を見張るものがあった。

 特に防御面は素晴らしい。

 正直、同年代の頃の私を超えてるぞ」


 だから、励ます。

 そして、これはお世辞でも何でもない本心だ。

 アリスは卑屈になる必要などない。

 自分の実力を誇っていい。


「……本当ですか?」

「ああ。私が保証する。自信を持て。

 それに、最後のにしたって全力を出し切ろうとした結果だろう?

 あれは実戦じゃない。訓練だ。

 なら、あれで良いんだよ」


 実戦の、殺し合いの場であんな不安定な技を使うのは褒められた事じゃないが、それが訓練の場となれば話は別だ。

 むしろ、訓練ならば、様々な技をドンドン試すべき。

 たしかに、アリスが自滅した時は焦ったが、冷静に考えてみれば、あの場には治癒が使えるユーリがいた。

 そのユーリが落ち着いていた以上、私があそこまで取り乱す必要はなかった訳だ。

 そこは、私も少し反省だな。


「そうですか……。あ、あの、リンネちゃん!」

「ん? どうした?」


 アリスが顔を上げ、真っ直ぐに私を見つめる。

 その時のアリスの目は……やけに真剣だった。

 まるで、この前戦った時のアレクを思わせるような、真剣な目だった。



「私は……『剣神』になれるでしょうか?」



 だからだろうか。

 その問いには、その言葉には、私が考えるよりも重い感情が籠っているような気がした。

 アリスの祖父として、元剣神として、私はこの問いに対して、真剣に答えなければいけない。

 そんな気がした。


「……アリスは剣神になりたいのか?」

「はい。それが私の義務ですから」


 義務?


「何故、そう思う?」

「何故って……私はナイトソード家の娘で、お父様もお祖父様も剣神で、だから……」

「だから何だ? それは理由にならないぞ」


 私の言葉に、アリスは絶句していた。

 そうか。

 アリスは、そういう考え(・・・・・・)を持っていたのか。

 なら、少し訂正しておこう。


「これはアレクにも言った事だが、剣神の称号を継ぐのは決して義務ではない。

 元は、私が敵を殺して奪った称号だ。

 そんなものを強制的に受け継がなければならない道理などない。

 他の誰が認めなくとも、他の誰でもないこの私が認める。

 剣神の称号をお前が受け継ぐ義務はない。

 それを重荷に感じているのなら、下ろして構わん」


 そう告げた時、アリスは……泣いた。

 俯き、涙をボロボロと流して泣き出してしまった。


「アリス!? 何故、泣く!? 大丈夫か!?」

「そんな……それじゃあ……私は、何の為に今まで……」


 マズイ!

 もしかして、私はとんでもない事をしてしまったのかもしれん!

 アリスの重荷を取り払ってやるつもりだったが、この反応を見るに、アリスにとって剣神になるという義務感は、心の支えか、人生の指針だったのかもしれない。

 私は、それを奪ってしまった訳だ。

 しかも、なんか予想以上に思い詰めてたっぽい。

 早急にフォローしなくては!


「アリス!」

「……はい」


 弱々しく応えるアリスの頬を両手で掴み、私の方を向かせる。

 そして、言った。


「アリス、改めて問う。

 お前は剣神になりたいのか?」

「…………」

「答えなさい。

 ナイトソード家の娘だからとか、義務感とか、そういうのを取っ払って考えてみろ。

 お前が、お前の意志で剣神になりたいのかどうかを」

「…………わかりません」


 わからない、か。

 まあ、今はそれでもいい。


「なら、考えなさい。

 考えた上で、それでも剣神になりたいと思ったのなら、━━私は応援するし協力する」

「……え?」

「何を驚いている?

 私は剣神を継ぐ義務はないとは言ったが、剣神を継ぐなとは言っていないぞ」


 アレクの時と同じだ。

 結局は自分の好きなようにすれば良い。

 自分で決めた道を行くのが一番良い。

 少なくとも、私はそう思っている。


「アリス。お前には才能がある。

 本気で剣神を目指すのならば、なれる可能性が十分にある程の才能が。

 そして、お前が自分の意思で私やアレクの跡を継ぎたいと思ったのなら、私は全力で背中を押してやる。

 他のものになりたいと思った時でも、真剣に相談に乗ってやる。

 私はいつでもお前の味方だ。

 とりあえず、それだけは覚えておけ」


 そう言い終えたところで、ゴーンゴーンと、授業の終了を告げる鐘の音が聞こえてきた。


「さて、昼休みの時間だな。

 難しい事を考えるのは一旦やめて、飯を食いに行くぞ!

 立てるか?」

「は、はい」


 アリスの手を取り、ベッドから立ち上がらせる。

 ふらつくようなら、私が飯を運んで来ようかとも思ったが、これなら大丈夫そうだな。

 そのまま保健室を出て、食堂へと向かう。


「あの、リンネちゃん」

「ん?」

「ありがとうございました」

「うむ」


 礼を言われるような事は何もしていないし、アリスの悩みも解決していない。

 それでも、アリスの顔はどこか晴れやかだった。

 少しでも力になれたのなら何よりだ。


 私は、軽い足取りで食堂へと向かった。


 ━━そこに、最悪な出会いが待っているとも知らずに。

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