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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第2章 入学編

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24 ナイトソード家

 ナイトソード()()()


 それは、今から約70年前に、『剣神』エドガー・ナイトソードが、戦場での武功により貴族の位を得た事によって作られた家。

 当初は子爵家だったが、エドガーが剣神となり、救国の英雄と呼ばれるようになった時に侯爵家へと格上げされた。


 そして、エドガーの死後。

 家を継ぐべきエドガーの子孫がいない為、仕方なく一番弟子であるアレクがナイトソードの名と家を引き継ぐ。

 だが、その時、既にアレクは、現王の妹であり、兄弟弟子でもあったユーリ・グラディウスと恋愛結婚をしていた。

 結果として、侯爵が王族と縁を結ぶ事態となり、ナイトソード家は更に公爵家へと格上げされる。

 

 そうして、現在。

 ナイトソード家は、互いに『三剣士』の名を持つ最強夫妻が守り、エドガーの始めた事業を引き継ぎ、一人娘も生まれて、順調に発展を続けているのだ。



 ……というのが、噂話などから知り得た、私の前世の家の現状である。

 アレクとユーリがイチャコラしてたのは周知の事実だったし、あいつらの娘は、私も実の孫のように可愛がってたから、よく覚えている。

 公爵家に格上げされてたのには驚いたが、まあ、理由を聞けば普通に納得できた。

 

 しかし、ツッコミどころもある。


 私の始めた事業ってなんぞ?

 そんなもんを始めた覚えはないぞ。

 ぶっちゃけ、私は貴族としての仕事の殆どを部下か弟子に放り投げて放浪してた、お飾り侯爵だった。

 騎士としての仕事はちゃんとやったが、貴族としての事業なんて、これっぽっちも手をつけていない。

 やった事と言えば、世直しの旅(笑)くらいだ。


 ああ。

 あとは、野良犬感覚で孤児とか拾ってきたな。

 アレクもそんな感じで拾ってきた孤児の一人だったし、他のナイトソード家で働く執事とかメイドとか番兵とかの九割は、私が拾ってきた元孤児だ。

 その教育を押し付けた部下を過労死させそうになったのは良い思い出だな。


 ん?

 待てよ。

 そういえば、その部下が、孤児救済を事業扱いにして、私がパーティーとかをすっぽかす言い訳に使っちまえとか言ってたような……。

 まあ、どうでもいいか。



 で、私は今、そんなナイトソード家の前に来ていた。

 シオンは宿で留守番だ。

 込み入った話もしたいからな。


 王都の外れにある緑に溢れた広大な敷地。

 そこに建った巨大な屋敷。

 敷地全体……とまではいかないが、屋敷部分を完全に覆い尽くして余りある対魔法結界。

 まさに公爵家の名に相応しい威容だが、実は最初の子爵家時代から引っ越しはしていない。

 改築はしたがな。


 たしか、英雄に相応しい屋敷を与えたいけど、王城近くに子爵ごときを住まわせたら、他の高位貴族から苦情が来るかもしれないとか、

 そんな感じの複雑な事情があって、こんな王都の外れの方に屋敷を与えられたんだったな。

 今となっては懐かしい。


 そんな屋敷の門の前に立つ門番が二人。

 成長しているが、見覚えのある顔だ。

 私が拾ってきた元孤児だな。

 逞しく成長してはいるが……気が緩んでるな。

 門番なら、もう少しシャキッとしろ。

 もしかしたら、白昼堂々、公爵邸に襲撃をかける大馬鹿がいるかもしれないだろう。


 そう、今の私のように。


「ねぇ~、そこのおじちゃん達~」

「ん?」

「どうしたんだい、お嬢ちゃん?」


 私は、悪乗り全開の媚びた美少女ボイスで門番どもに話しかけた。

 門番どもは、ちょっと頬を緩めていた。

 フッ。

 母譲りの美貌を持ってすれば、この程度容易いわ!


「あのね~、えっとぉ……」


 そして、もじもじとしながらチラチラ門番どもの顔を見るという、我ながら気持ち悪い事をしながら、おもむろに腰に差した木剣を抜いた。


「隙だらけだ」


 そのまま、ちょっとデレデレしながら私を見ていた門番に木剣を叩きつけ、吹き飛ばす。

 門番は、屋敷を囲う柵にめり込んで沈黙した。

 ロリコン死すべし、慈悲はない。

 いや、死んではいないが。

 まあ、門番のくせに油断するからそうなる。


「なっ!?」

「ハァ!」

「ぐへっ!?」


 慌てて剣を抜こうとしたもう片方の門番には突きをお見舞いする。

 そいつも吹き飛び、一人目と同じく、柵にめり込んで沈黙した。

 ……情けない。

 こんな美少女相手に、助けを呼ぶ事すらできないとは。


 さて、次だ。


「たのもーーーう!」


 私は、屋敷全体に響き渡る大音量で叫び、突撃を開始する。

 理由?

 ちょっとしたサプライズだ。

 (たる)み防止の為に、前もよくやっていた。

 まあ、稽古みたいなもんだな。


「何奴!?」

「私は曲者だ!」

「そ、その間抜けで適当な返し方は旦那様の……ぐはっ!?」


 ワラワラと出てきた番兵どもを、木剣で叩き潰しながら屋敷を目指す。

 どいつもこいつも手応えがない!

 弛んどる!

 まあ、私に殺意がないからなのか、向こうも本気で殺しにきてはいないがな。

 本気を出せば、もう少しマシになると信じたい。


「曲者だ! 迎え撃て!」

「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」

「おい、ちょっと待て。クソ強い幼女って、ユーリが言ってたお客様じゃね?」

「そんな事言ってる場合か! もう何人やられたと思ってんだ!」

「……なんか懐かしいな、この感じ」

「旦那様を思い出しますね」

「いいから、早く行け!」


 そんな呑気な事をぬかす番兵どもを蹴散らしながら敷地内を駆け抜け、屋敷に突撃。

 だが、そこからは剣を持ったメイドや執事が立ち塞がった。


「そこまでです! いくらお客様と言えど、この家でこれ以上の狼藉は許しませぬぞ!」

「だったら、力ずくで止めてみろ、トーマス!

 まあ、お前はこの家で一、二を争うくらいに弱いから無理だと思うがなぁ!」

「な、何故それを!? まさか本当に旦那様の……」

「そら!」

「ぐはぁああ!?」


 矢面に立った老執事のトーマス(よく仕事を押し付けていた最古参の部下)を軽く小突いてぶっ飛ばし、他の連中も同様に叩きのめす。

 正直、外の番兵どもよりも手応えがあった。

 私が屋敷内の備品を壊さないように戦っている事を差し引いても、普通に強い。

 まあ、こいつらには、指導という程ではないが、剣神(わたし)自ら多少の手解きをしてやった。

 それを、しっかりと糧にしているようで何よりだ。

 ……というか、今さらだが、番兵がメイドより弱いとか、この家は大丈夫なのだろうか?

 番兵どもにも、こいつら以上の手解きをしてやった筈なんだがな。


「! おっと!」


 そんな事を考えている最中。

 死角となった場所から鋭い斬撃が放たれた。

 それを木剣で受け、そのまま襲撃者とつばぜり合いになる。

 襲撃者は、眼鏡をかけ、メイド服を着た歳かさの女だった。


「メアリーか! 老けたな!」

「余計なお世話です」


 そのまま、襲撃者メアリーと何度か斬り結ぶ。

 ユーリには及ばないが、普通に強いな!

 ヨハンさんと同じくらいには強いかもしれん。

 前から思ってたが、こいつはメイドにしとくには惜しい人材だ。


「やるな! 前よりも強くなってるんじゃないか?」

「お褒めに預り光栄……です!」


 言いながら、メアリーが激しく攻めて来る。

 当たり前のように纏った闘気に、剣という長物を屋内で完璧に使いこなしてみせる技量。

 相変わらず見事だ!

 褒めてやろう!


「だが、まだまだ私には届かん! 神速剣・一閃!」

「ッ!?」


 急に速くなった私の剣を、それでもメアリーは防いだ。

 神速剣は、一流の剣士ですら視認困難な速度を誇る。

 それを防ぐという事は、超一流の領域に、英雄と戦える領域に踏み込んでいるという証。

 本当に、なんでそんな奴がメイドなんてやってるんだか。

 まあ、そこにこいつなりの理由がある事は知っているがな。


「神速剣・槍牙!」

「うっ……!」


 そんなメアリーを、神速の突きで弾き飛ばす。

 咄嗟に剣で防いでいたから、怪我はしていないだろう。

 そして、メアリーが復活する前に先を急ぐ。

 目的地は二階だ。

 廊下を走り回り、階段を駆け昇る。


 そうして辿り着いたのは、この屋敷の執務室。

 私がたま~に使ってた部屋だが、事業を始めたってからには、ここに居る筈だ。

 この屋敷の()()()が。


「頼もーーーう!」


 執務室の扉を蹴り開け、中に乗り込む。

 そこに奴はいた。

 私の予想通りの顔がいた。


「お待ちしてました」


 そう言いつつ、困ったような顔で私を出迎えたのは、腰に二本(・・)の剣を差した、黒髪の剣士。

 昔から落ち着いた奴だったが、年齢を重ねて、より安定感を増したように思う。


 こいつこそが、我が一番弟子にして王国三剣士の一人。

 そして、当代『剣神』。

 即ち、世界最強の剣士。


「久しぶりだな、アレク!」

「ええ、お久しぶりです師匠……でいいんですよね?」


 『剣神』アレク・ナイトソードは、若干懐疑的な目で私を見た。

 なんだ、その目は?

 生まれ変わってまで会いに来てやったんだから、もっと敬え。


 何はともあれ、こうして私は、13年ぶりに一番弟子と再会した。






 ◆◆◆






「━━という感じで、私は転生して、お前らに会いに来た訳だ。

 どうだ、わかったか?」

「はい。一応は理解できました。ユーリから聞いてはいましたが、まさか本当に師匠の生まれ変わりだったとは……」


 その後、執務室において、一部の重鎮(トーマスとメアリー)を含めた三人を相手に、私は転生した事やこれまでの事、王都に来た理由と目的なんかを話した。

 ユーリとマグマは仕事中という事で欠席だ。

 そして、アレク達は「信じがたいです」と言いつつも、すんなりと私の話を信じてくれた。

 曰く、白昼堂々、公爵邸に襲撃をかける馬鹿は私くらいだそうだ。

 言い方に棘があるな。

 他にも、雰囲気や剣技がエドガーの生き写しという事、

 ユーリに放ったエドガー(わたし)しか知らない筈の台詞なんかも判断材料になったそうだが。


「それにしても転生ですか。そんなもの、おとぎ話だと思っていましたが……。

 師匠、何かこの世に未練でもあったんですか?」

「いや、全くなかった」


 本当に、何故に私が転生したのか、その理由は未だに謎だ。

 一応、心当たりがなくもないが……確証なんてこれっぽっちもない勘に過ぎないからな。

 言う必要はないだろう。


「旦那様ぁ! 生きておられたのなら、何故もっと早く知らせてくれなかったのですか!?

 このトーマス! 旦那様が亡くなられて、どれだけの悲しみに暮れた事か!

 この家の者達は、(みな)そうですぞ!」

「いや、お前らより両親の方が大事だったし。

 それに、お前らならぞんざいに扱っても大丈夫だろ?」

「なんという言いぐさ!?」

「トーマスさん、諦めましょう。旦那様はこういう方です」


 吠えるトーマスを、メアリーが宥めた。

 というか……


「そもそも、エドガーはもう死んだんだ。死人をいつまでも引き摺るな、見苦しい」


 私は、お前らに後を託して天寿を全うしたんだ。

 本来なら、それで終わり。

 それがひょっこり帰って来たからってギャーギャーと。

 いつまでも死人に頼るな。


 ……ん?

 三人が微妙な顔で私を見ている。

 なんだ、その顔は?


「師匠がそれを言いますか……」

「奥様の事をずっと引き摺っておられる方に言われましても……」

「説得力がありませんね」


 ぐっ!

 痛いところ突いてきやがった!

 だが、それはそれ!

 これはこれだ!


「うるさい! とにかく、これから私の事は師匠とか旦那様とかじゃなく、リンネさんとでも呼べ!

 昔みたいに私に頼るなよ! エドガーは死んだんだからな!」

「……師匠に頼った事なんてありましたっけ?」

「仕事を押し付けられた記憶しかありませんね」

「これ、二人とも! 旦那様も昔は頼りになったのです! 昔は!」

「喧嘩売ってんのか!」


 この恩知らずどもが!

 また骨の髄まで教育して、私の偉大さを叩き込んでやろうか!?

 そう思ったが、やめておいた。

 今は感動的な再会の場だ。

 教育なら、後でできる。

 ……その代わり、本当に後で覚えとけよ。

 不甲斐なかった番兵どもと一緒に鍛え直してやる。


「それで、師匠……」

「リンネさん」

「……リンネさん。こうして戻られた訳ですし、また剣神に戻りませんか?」

「何言ってやがる。剣神の証はお前らに託しただろ。今さら返されてもいらんわ」

「いえ、それがそうでもないというか……リンネさん。これを見てください」


 そう言って、アレクは一本の剣を差し出してきた。

 さっき、アレクが腰に差していた剣の一本。

 全体がガラスのように透き通った、美しい剣。


「『神剣』か」


 神剣。

 これこそが、歴代の剣神に受け継がれてきた、世界最強の剣。

 いったい、いつ作られたのかはわからない。

 どうやって作られたのかもわからない。

 ただ、記録に残らない程の太古の昔から、代々の剣神に振るわれてきた、剣神の証。

 前世の最期において、私が弟子どもに託した剣だ。


「で、これがどうした?」

「よく見てください。この剣は、師匠が使っていた頃から、()()()()()()()()()

「あん?」


 言われて、神剣を鞘から抜き、まじまじと見る。

 ガラスのような透き通った造形。

 だが、その形は、芸術品のような美しさに反して、どこまでもシンプル。

 装飾もなく、一切の飾りがない。

 まるで、そこらの兵士が持つ、数打ちの量産品のような外見。

 世界最強の剣という割にはショボい。

 だが、神剣はこれで良いのだ。


 この剣は、使い手に合わせて形を変える。

 その代の剣神が最も使いやすい形へと姿を変えるのだ。

 この形状は、兵士上がりであった前世の私に合う形。

 ……ああ。

 つまり、そういう事か。


「なるほどな」

「ええ……神剣は、俺を主として認めていないんです」


 剣神の代替わりというのは、基本的に先代を倒した者が『神剣』と『剣神』の称号を受け継ぐ。

 実際、私も戦場において先代剣神を斬り殺した事で剣神になった。


 だが、前世の私の死因は病だ。

 ほぼ老衰とも言う。


 誰にも倒される事なく、弟子どもとの決着がつく前に寿命が来てしまった。

 戦いの中で倒れたのだから私の負けだと思うが、神剣はそれを認めていない訳か。


 それを証明するかのように、私の手の中へと戻って来た神剣が、淡く光って形を変えた。


 今の私の小さい体に合うような、短く軽いショートソードへと。

 これは、未だに神剣が私を主と認めている証。

 なんという事だ。

 一番死人を引き摺っていたのは、この剣だったのか。


「……やっぱり。師匠が転生したと聞いた時から、そんな気がしてたんです。

 『剣神』の称号はあなたのものだ。お返しします」


 アレクは、なにやら苦しそうな顔でそう言った。

 ……なんだ、その顔は?

 何故、そんなに苦しそうな顔をする。

 何故、そんなに思い詰めたような顔をする。

 ……これは一度、腹を割って話し合う必要があるか。


「おい、アレク」


 私は、項垂れるアレクに声をかけて立ち上がった。


「剣を取れ。出かけるぞ」


 私の前世に、未練などないと思っていた。

 その考えは今でも変わらない。

 だが、未練はなくとも、どうやら、やり残した事はあったらしい。


 さあ、前世の決着をつけに行くか。

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