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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第1章 転生編

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20 旅立ち

 あの魔物襲撃事件から二年が経ち、私は13歳になった。

 

 この二年、何故かちょくちょく出くわすドレイクの話によると、あの事件の真相は、結局わからずじまいだったらしい。


 私達が領都を去った後、国からの支援金を得た領主が、冒険者ギルドに事件の原因究明の依頼を出し、

 ドレイクをはじめとしたベテラン冒険者達が、国から派遣されて来た騎士団と合同で調査を行うも、成果はなし。

 当初は、近場の迷宮から異常発生した魔物達だったのではないかと考えられていたそうだが、その迷宮に何も異常が見つからなかった為、調査は振り出しに戻った。


 というより、迷宮はおろか、魔物どもが進行して来た森にすら異常が見つからなかったそうだ。

 あの大進行によって多少荒れてはいたが、逆に言えばそれだけ。

 何もない所から突然現れたとしか思えない。

 それが、有識者の結論だった。

 なんの役にも立たない情報だな。


 で、そんな、なんの役にも立たない情報しか得られなかったが、これ以上は雲を掴むような話という事で、調査団は解散。

 あとは、国の魔物研究者達が、独自に考察を重ねるしかないと。

 そうして、あの被害しか生まなかった事件はお蔵入りになりましたとさ。

 最悪だな。

 再発防止すらできないとは。


 

 そんな最悪の事件と違って私生活の方だが、こっちは特に変わりなしだ。

 前までと同じく、剣術教室をやり、冒険者活動をして、たまにちょっと遠くの街に行ってみたりもした。

 そんなもんだ。


 強いて変わった事を上げるなら、私以外の連中の冒険者ランクがA級に上がった事くらいか。

 ベルだけが筆記試験で何度も落ちたな。

 その度に猛勉強して、最近ようやくA級になったところだ。

 ……私も、特例でS級にならなければ、ベルと同じ勉強地獄を体験するハメになっていたかもしれん。

 素直にS級になっておいて良かった。


 だが、そんないつも通りの日常も、今日で一旦終わりだ。


 季節は冬。

 騎士学校の入学試験まで、残り一ヶ月半にまで迫っている。

 この辺境から王都までは、乗合馬車で約一ヶ月という話だ。

 そんな長旅なら、想定外のトラブルで遅れる可能性を考えて早めに出発するのは常識。


 つまり、今日こそが私の、私達の旅立ちの日なのだ。



「リンネ、体には気をつけるのよ」

「わかった」


 現在、私はチャールズの引く荷車の横で、母やヨハンさん、ベル、オスカー、ラビ、ロビンソンといった面子に別れの挨拶をしていた。

 ちなみに、父は「トリスの街までは俺が送る。これだけは絶対に譲らない!」と言い張った為、チャールズの手綱を引いて待機中だ。

 シオンは一緒に行くので、別れの挨拶は必要ない。


「リンネ! これだけは覚えとけよ! 

 俺はいつか、お前を遥かに超えた英雄になる! そして、お前にリベンジを果たしてやるからな! その時はまた会おうぜ!」


 ベルはそう言って、手を差し出してきた。

 握手だ。

 驚いたな。

 こいつに、こんな良識的な対応ができるのか。

 思わず、その手を凝視してしまった。


「なんだよ?」

「……いや、なんでもない。で、リベンジだったか。そうだよなぁ。お前、結局、私に一回も勝てなかったもんなぁ」

「なんだと!」


 ベルが顔を真っ赤にして怒る。

 だが、その怒りが具体的な行動になる前に、私は神速でベルの差し出された手を握り返した。


「だから、私に勝つまでは死ぬなよ。また会おう」

「……へっ! 当たり前だ!」


 ベルはそうして、勝ち気に笑った。

 うむ。

 良い顔だ。

 これなら、心配はいらんな。


「いやー、寂しくなるっすね。馬鹿が二人も減ったら愉快さ半減っすよ」

「オスカー……お前はあれだな。もう少し、その享楽主義なところを直した方がいいな」

「善処するっす」

「嘘つけ。今まで善処なんてした事ないだろ」

「ちょっと待て。何、さりげなく俺まで馬鹿扱いしていやがる」


 ヨハンさんと話していたシオンがツッコミを入れてきたが、軽く無視してオスカーとも握手を交わす。

 まあ、こいつも大丈夫だろう。

 なんだかんだで、こいつが死ぬようなイメージが湧かない。

 のらりくらりと生き残りそうだ。


 そして、オスカーはシオンにも別れの挨拶をしに行き、煽り、ベルも巻き込んで、いつもの喧嘩を始める。

 それを尻目に、私はラビと向き合った。


「ラビ、お前には大変な役目を任せる事になるな。私達が抜ける以上、あの馬鹿二人の手綱をお前一人で握らねばならない。

 マジで大変だろうが、今のお前ならできると信じているぞ。頑張れ」

「うん……リンネちゃんも頑張ってね」


 ラビは別れが寂しくてのか、目に涙を溜めながらも、必死に頷いていた。

 心配だな。

 だが、私は知っている。

 冒険者を始めて一番成長したのは、間違いなくラビだ。

 ならば、信じよう。


「それでも、もし寂しくなったり、どうしても駄目そうな事があったら、王都に来い。遠慮なく、私を頼っていいからな」

「……うん」

「その代わり、私が困った時はお前らを頼るからな。……また会おう」

「……うん!」


 そうして、私は最後にラビの頭を優しく撫でる。

 思い返すと、こいつに対しては、友達というより妹でも相手にするような感覚だったな。

 しかし、もうラビは、私が守ってやらなければならない存在ではない。

 まだまだ幼く頼りないが、もう庇護者の手を離れて生きていける、一人前の冒険者だ。

 本当に困った時は助け、逆に私が困った時には助けを求める。

 これからは、そういう対等の関係だ。


 実は、この三人もまた、近いうちにこの村を出て行く予定なのだ。

 

 私達が村を出るのを良い機会だと考えて、今までのように定期的に街に行く感じではなく、本格的に色んな場所を巡ってみると言っていた。

 ドレイクみたいなもんだな。

 その果てに、どこかの街を拠点にするのか、父のように誰かと結婚でもして引退するのか、ドレイクのように歳をとっても放浪を続けるのか。

 それは、わからない。

 だが、生きていれば、また会えるだろう。


「リンネちゃん」


 と、今度はヨハンさんが話しかけて来た。

 シオンが馬鹿二人と喧嘩を始めたから、手が空いたんだろう。


「リンネちゃんには、本当に感謝しています。君のおかげで、シオンはあんなに明るくなった。本当にありがとうございました」

「私はそんな大した事をした訳じゃないぞ」


 ただ、独りぼっちの少年に友達を作ってやっただけだ。

 それも、無理矢理。

 あれで上手くいったのは、単純にあいつら自身の問題だろう。

 全部が全部、私の手柄だったと言う気はない。


「それでもです。キッカケは間違いなくリンネちゃん、君でした。だから僕は、君にお礼を言いたいんです」

「……まあ、感謝されたのなら素直に受け取っておく。どういたしまして」

「ええ。本当にありがとうございました」


 そうして、ヨハンさんは優しい目で私とシオン、そしてベル達を見た。

 息子とその友達、そして教え子の旅立ちなんだ。

 感慨深さでも覚えているのだろう。


 だが、その顔が急に真剣なものになる。

 そして、その真剣な顔で、私に語りかけてきた。


「リンネちゃん。君にこんな事を言うのは非常に厚かましいんですが、聞いてくれますか?」

「うん? 別に構わないが」

「では……騎士学校に入ったら、あの子を、シオンを支えてやってくれませんか?」


 む?

 まあ、シオンもまた我が友だからな。

 困った事があれば普通に助けてやるが……急にどうした?


「もしかしたらなんですが……今の騎士学校には、僕が左遷されるキッカケになった騒動、それをシオンに仕掛けたという、大臣の息子さんがいるかもしれないんです」

「……なるほど」


 シオンにとっては、久遠の仇敵だな。

 あいつが昔の事をどれだけ根に持っているかはわからないが、少なくともサラッと水に流せるような話ではないだろう。


「あの子も馬鹿じゃありません。もしその子を見つけても、安易に復讐に走ったりはしないでしょう。そんな事をしても、また権力に潰されるだけだとわかっている筈なので。

 ……でも、そんな相手が近い場所にいるというのは、凄まじいストレスになると思うんです」


 だろうな。

 私で言えば、あの何度殺しても殺し足りない程憎んでる魔帝のクソ野郎と、同じ学校に通うような話だ。

 しかも、そいつは馬鹿強いから復讐もできない。

 やってしまえば、自分だけではなく周りに迷惑がかかる。

 ……私だったらストレスで禿げ上がりそうだ。

 なるほど、ケアが必要だな。


「わかった。そういう頭使うのは苦手だが、やれるだけの事はやる。私に任せておけ」

「……お願いします。本当に、できる限りでいいので」


 そう言って、ヨハンさんは頭を下げた。

 本気で息子を心配なんだな。

 もしかしたら、ヨハンさんは、本当はシオンに騎士学校へ行ってほしくないのかもしれない。

 それでも、シオンは何言っても止まらなかったってところか。

 だから、こうして頭を下げる。

 少しでも息子の助けとなるように。

 ……この人も良い親だ。

 安心しろ。

 その心意気には答える。


「ワンワン!」


 少し重くなった空気を切り裂くように、今度はロビンソンがやって来た。

 グッドタイミングだ。

 さすがは、我が家のペット筆頭。


「よしよし。お前ともしばらく会えなくなるな。家の事を頼んだぞ」

「ワンッ!」


 ロビンソンは力強く吠えた。

 多分、「あっしにお任せくだせぇ、ご主人様!」とか言っているのだろう。

 実に頼りになる。

 これで、我が家の守りは磐石だな。


 その後、ロビンソンはチャールズに向かってワンワンと吠え、何かを言っていた。

 道中は任せた的な事を言っているのかもしれない。

 さすがは、我が家のペット筆頭。


「よし。それじゃあ、そろそろ行くか」

「わかった」

「はい」


 父の言葉に従い、私とシオンはチャールズの引く荷車に乗り込んだ。

 父が手綱を引き、チャールズがヒヒーン! と鳴いて、荷車を発進される。

 

「行ってらっしゃーい!」

「また会おうぜ!」

「しばしの別れっす!」

「またねー!」

「頑張ってください!」

「ワンワン!」


「おう! 行って来る!」


 皆のそんな声に見送られながら、私達は村を出た。

 その姿が見えなくなるまで、私は荷車の後ろから手を振り続ける。

 隣を見れば、シオンも控えめに手を振っていた。

 やはり故郷を離れるのだ。

 それなりに思うところはあると見た。

 ああ、いや、シオンの故郷は王都だったか。

 だが、この村はもはや、シオンにとって第二の故郷だろう。


 顔を見れば、離れるのが寂しいと思っている事は一目瞭然だった。






 ◆◆◆






 そして、チャールズはいつもの通り、半日かけてトリスの街に辿り着く。

 ここで、チャールズと父ともお別れだ。


「リンネ! 体には気をつけるんだぞ!」

「それはママに言われた」

「うぐっ!」


 私にバッサリと切られた父が呻いた。

 しまった。

 素直に、うんと言っておくべきだったか。


「……それでもだ。リンネ、体にだけは気をつけて。元気でいてくれ」

「……うん。わかった」


 そして父は、泣きながら私を抱き締めてきた。

 思いっきり嗚咽が聞こえる。

 そんなに寂しいか。

 だろうな。

 私も寂しい。


「パパ、大丈夫だ。手紙も書くし、すぐに帰って来る」

「……うん。行ってらっしゃい、リンネ」

「……行って来ます」


 そうして、父は抱擁を終わらせ、私を離した。

 ちょっとした子離れ、親離れだ。

 決して今生の別れではない。

 また、すぐに会えるとも。


 その後、父はシオンの方を向いた。


「シオンくん。リンネを頼んだぞ」

「はい」

「ただし、手を出したらタダでは済まさん」

「それは大丈夫です。俺はこいつに女としての魅力は感じていないので」

「ウチの娘の何が不満なんだゴラァ!」

「……どうしろと?」


 シオンがめんどくさそうな顔になった。

 父は吠えるが、私としては好都合だ。

 前にも言った通り、私は男に興味はないし、再婚する気もないからな。


 そして、乗合馬車が出発する時間がやって来た。


「リンネー! 元気でな!」

「パパもなー!」


 私は、またしても父の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 こうして、私とシオンは、王都に向けて旅立ったのだった。






 ◆◆◆






「……まさか、お前と二人で行く事になるとはな」


 乗合馬車の中で、シオンがポツリと呟いた。

 なにやら微妙な顔だ。

 何を考えているのやら。


「騎士学校でも、馬鹿のお守りか」

「なんだと!」


 こいつ!

 私は馬鹿ではない!

 脳筋なだけだ!


 失礼な事をぬかしたシオンの背中に回り、首を締め上げてやった。

 だが、慈悲深い私は、顔色が蒼白になったあたりでやめてやる。

 今日は目出度い門出の日だからな。

 このくらいで勘弁してやろう。


「まあ、なんにせよ、これからもよろしく頼むぞ、シオン」


 そう言って、私は手を差し出した。

 握手である。


「ゴホッ! ゴホッ! ……首を締め上げといて、何言ってやがる」

「あんなものは、軽いスキンシップだろうが」 


 いつもの事だろう?


「……はぁ。騎士学校では問題を起こしてくれるなよ。俺にまで迷惑がかかる」


 そう言いつつも、シオンは渋々といった感じで、私の手を握った。

 良い心掛けだ。


「これからも、よろしくな」

「……ああ」


 そうして、私達は王都への旅路を行く。

 故郷を離れ、それぞれの目的の為に。



 そして、━━あいつらとの再会が、すぐそこにまで迫っていた。

第1章 終

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