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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第1章 転生編

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1 プロローグ

新連載、始めました。

 己の半身たる剣を構える儂に、強力な攻撃が迫る。

 氷の龍と炎の龍。

 正確には、それを模した技。

 魔法の力に剣術の威力を乗せた大技であり、間違っても儂のようないたいけな年寄りに向けて撃っていいものではない。


「一閃ッ!」 


 だが、儂はただの老いぼれではない。

 我が名は、エドガー・ナイトソード。

 老い衰えたとはいえ、未だ世界最強の剣士の称号『剣神』の名を持つ男じゃ。 

 この程度の攻撃で殺られる程、耄碌してはおらん。


 気合いの声と共に剣を振るう。

 並どころか一流と呼ばれる者達ですら、視認する事も叶わぬ、神速の一太刀。

 横一文字に振るわれた斬撃は、迫り来る魔法の龍どもとかち合い、凄まじい轟音を立てながら相殺した。

 

 ……相殺か。

 歴代最強の剣神と呼ばれた儂の剣が止められるとは。

 何とも感慨深いものよ。


「ハァアアア!」


 そうして感傷に浸る儂の元に、雄叫びを上げながら、一人の青年剣士が突撃してくる。

 速い。

 今の儂に匹敵する速度じゃ。

 昔より大分遅くはなったが、儂の剣技は数多の敵がひしめく戦場を駆け抜けて鍛え上げた、速さに特化した剣術。

 それに追いつくとは、本当に強くなったものよ!


「おおおお!」


 儂もまた雄叫びを上げ、青年剣士の一撃を真っ向から受け止める。

 骨が軋んで、筋肉が断ち切れ、全身が悲鳴を上げた。

 くたばりかけの爺にはキツいのう……。

 だが、これは儂の意地じゃ。

 引く訳にはいかん。


 剣に力を込めて、青年剣士を吹き飛ばす。

 青年剣士はその力に逆らわず、自ら後ろに跳んで距離を取った。

 しかし、青年剣士と入れ替わるように、絶妙なタイミングでその背後から一人の女剣士が現れ、手に持った冷気を放つ細剣で儂の首を狙う。

 

「ぬおぉ!?」


 剣で受けるのは間に合わないと判定し、咄嗟に体を反らして避けるも、避けきれず、儂の右頬に一筋の刀傷が刻まれた。

 そして、細剣が放つ冷気によって、傷口はみるみる凍りつき、そのまま顔の半分が氷で覆われる。

 

 これぞまさに、年寄りの冷や水!

 なんて言ってる場合ではないのう!


 これで、右側の視界が潰れてしまった。

 だが、優れた剣士は、感覚の全てを視界に頼るような事はしない。

 音、気配、魔力。

 そういった様々な要素で索敵を行える。

 故に、目を潰されたくらいでは、痛手にはなっても致命傷にはならんということじゃ。


 死角となった右側から振るわれた女剣士の剣を、見ないままに受け止める。


「さすがね」

「まだまだ、小娘には負けんわ!」


 そのまま青年剣士と同じように、剣に力を込めて吹き飛ばす。

 女剣士はこれまた青年剣士と同じく、自ら後ろに跳んで距離を取る。

 追撃はできん。

 何故なら、またしても絶妙なタイミングで新手が来たからじゃ。


「オラァアアアアア!」

 

 炎を纏った大剣を振り上げた巨漢が上から降ってくる。

 炎の射出を推進力として空を飛び、落下の衝撃をも威力に加えた必殺の一撃が儂に迫る。

 この威力。

 正面から受けきるのは無理じゃな。


 まるで隕石のような巨漢剣士の振り下ろしを、剣を斜めに構えて受け流す。

 炎がなかなかに熱いが、これだけでは儂の『闘気』を貫けはしない。

 ただ熱いだけじゃ。


 そのまま受け流しきった大剣が地面に叩きつけられる。

 地面が爆発した。

 そして、巨大なクレーターが出来上がった。

 相変わらず、なんちゅう破壊力じゃ……。

 剣士が出していい火力ではないのう。


 剣自体は防げても、爆発による衝撃までは防ぎきれず、儂は爆心地から遠ざかるように吹き飛ばされる。


「ぐあっ!?」


 だが、ただではやられん。

 吹き飛ばされる直前、一瞬のうちに斬撃を放ち、巨漢剣士の足を切り裂く。

 無理な体勢から放った一撃じゃ。

 そこまでの深手にはならないじゃろうが、追撃を阻止することくらいはできよう。


「ゴホッ……」


 しかし、こちらも無傷ではない。

 衝撃と共に拡散する炎が闘気による硬い守りを僅かに突破し、肌を焼く。

 全身を貫く衝撃に、体が悲鳴を上げる。

 代わりに右目を覆っていた氷も溶けたが、差し引きとしてはマイナスかのう。

 体中が痛いわ!


 だが、そうも言っておれん。

 無防備に吹き飛ばされておる今の儂は、奴らにとって格好の的。

 早急に立て直さねばならん。


 地面に足を突き立て、その摩擦で強制的に停止する。

 剣も突き立てた方が身体への負担は少なくて済むが、剣士が戦いの最中に自ら剣を使えない状態になるなど、言語道断。

 それならば、多少身体を傷つける方が何倍もマシというものよ。

 

 実際、儂の判断は正しかった。

 儂が停止したのとほぼ同時に、青年剣士が斬りかかってくる。

 剣を地面に差した状態では、これに対処することはできなかったであろう。


「ハッ!」 

「ぬん!」


 青年剣士の初撃を受け止め、そのまま斬り合いに突入する。

 振り下ろし、刺突、足払い、フェイントを混ぜて袈裟懸けの一撃。

 高い身体能力、そして厳しい鍛練の末に得た技術で食らいついてくる青年剣士。

 だが、有利なのは儂じゃ。

 何故なら、身体能力においても、技術においても、儂の方が上。

 特に単純な剣速、剣を振るう速度に大きな差がある。


 青年剣士が一度剣を振る間に、儂は三度は剣を振れる。

 こやつとて世界有数の剣士。

 こと速さに対する対応力においては、他の追随を許さないじゃろう。


 そんな青年剣士を持ってして、食らいつくのが精一杯。

 これこそが、この剣速こそが、儂を最強足らしめる究極の奥義。

 剣神の称号を得てから今日という日まで無敗を誇ってきた、剣神エドガーの力よ!

 

「お前達に倒せるか!? この儂を! 世界最強の剣士を!」

「ぐっ!?」


 再び青年剣士を吹き飛ばす。

 今度は自ら後ろに跳ぶなどという余裕もなく、地面に叩きつけられ、錐揉みしながら飛んで行った。


 だが、青年剣士の低空飛行はすぐに終わりを告げた。

 あやつの飛行経路に割り込んだ女剣士が、青年剣士を優しく受け止める。

 その隙を守るように巨漢剣士が油断なく此方に剣を構えていた。

 その体に、先程つけた傷は見当たらない。

 青年剣士が儂の足止めをしておる間に、女剣士が治したのじゃろう。

 あやつは治癒の魔法が使えるからのう。

 うむ。

 いい連携じゃ。


 そして、女剣士の腕の中から青年剣士が抜け出し、三人が並んで儂と相対する。


「ふっ」


 それを見て、儂は笑った。

 挑戦的な笑みでもなければ、失笑の類いでもない。

 自然とこぼれた、穏やかな笑みじゃ。

 そう。これは、


「お前ら……本当に強くなったのう」


 弟子・・の成長を感じる師としての笑みよ。


 儂は改めて、相対する三人の弟子を見やる。

 

 儂と同等の速度を持つに至り、一対一でも食らいついてきた一番弟子。

 黒髪の青年剣士、アレク。


 儂の頬に傷を付けた、冷気を放つ華美な細剣を持つ二番弟子。

 白銀の髪をなびかせる女剣士、ユーリ。


 大地を抉るほどの一撃を放った、炎を纏う大剣を持つ三番弟子。

 赤髪の巨漢剣士、マグマ。


 いやはや。

 どいつもこいつも、立派に育ったものよ。


「師匠……」

「先生……」

「爺……」


 おうおう。

 三人揃って、なんて情けない顔しとるんじゃ。

 これは、ちょいとばかし叱責してやる必要があるかの。


「おい、この馬鹿弟子ども。珍しく素直に褒めてやったというのに、なんじゃ、その泣きそうな面は? そんな覇気の欠片もない顔したへなちょこどもには、安心して後を任せられんではないか。儂にまだ戦わせるつもりか?

 あー辛いのう。もはや明日をも知れぬ身だというのに、弟子どもが不甲斐ないせいで、まだ戦場に立たねばならんとは本当に辛いのう」

 

 そう言って、挑発混じりにケツを叩いてやれば、弟子どもの顔が変わった。

 さっきまでのちょっとしんみりした空気は完全に消え去り、その顔には戦意が浮かんでおる。


「師匠……! あなたって人は……! こんな時まで……!」

「どうやら寿命が来る前に冥土に行きたいようね」

「上等だ、このクソ爺! 今、この場で焼き尽くして火葬してやるよ!」


 うむ。

 いつもの顔に戻ったのう。

 その、師匠に対して敬意の一つも見せないクソ生意気な態度はどうかと思うが、それでこそのお前らじゃろう。

 ()()()とはいえ、これもまたいつもの稽古。

 ならば、いつも通りにやるのが一番良い。


 ━━さて、そろそろ儂も本気で行くか。


「「「ッ!?」」」


 儂の雰囲気が変わったのを感じたのか、弟子どもの顔が強張る。

 思えば、こいつらを相手に本当の意味での全力で戦うのは、これが初めてか。

 儂の真骨頂は、圧倒的な剣速で先の先を取り続け、相手に何もさせずに勝利する速攻。

 弟子ども相手にそんな事をしていては、ただの虐めじゃ。

 だからこそ、儂の全力は稽古において封印してきた。


 だが、これは最後の稽古。

 こいつらには儂を超えて行ってもらわねばならん。

 であれば本気で、儂が最も得意とする型で、一切の容赦なく相手をする。

 攻勢に回った儂は強いぞ。

 剣神の本気、存分にその身に刻むがよい。


 儂は弟子どもに剣の切っ先を向け、宣言する。


「殺す気で行くぞ」 


 本気の殺気を籠めたその言葉に、弟子どもが息を飲む。

 だが決して怖気づきなどせず、鋭い視線で睨み返してきた。

 それでよい。

 戦場で臆せば、すぐに命を持っていかれる。

 師を相手にそんな顔ができるのならば、合格じゃ。

 心構えは満点をくれてやろう。


 そんなことを思いながら、一歩足を踏み出す。


神脚しんきゃく


 体表を覆う身体強化の魔力、闘気を足に集中し、大地に亀裂を入れる程の踏み込みを推進力に変えて、目にも留まらぬ速度で突撃した。

 

 筈だった。


「ゴハァッ!?」


 突如として、儂の身体を激痛が襲った。

 胸が! 胸が痛い!

 痛みの原因である肺から込み上げてきた物を吐き出せば、真っ赤な血が口から吹き出した。

 そのままゴホゴホと咳き込み、その度に吐血し、体力を使い果たした儂は膝から崩れ落ちる。

 これは……あれじゃな。

 

「ふっ……どうやら儂はこれまでのようじゃな」 

「「はあああ!?」」


 己の終焉を悟り、倒れたままにそれを告げれば、弟子どもがすっとんきょうな声を上げた。

 ユーリだけは呆れたような顔で儂を見ておる。

 なんじゃその反応は?

 お前ら、儂が不治の病を患っている事も、いつ天に召されてもおかしくない程に症状が進行している事も知っとるじゃろうが。

 だから、最後の稽古とか言って気合い入れてたんじゃから。

 

「いや知ってますけど、よりによって今ですか!? 今、寿命ですか!?」

「あれだけかっこつけたくせにこんなオチとか……」

「呆れてる場合じゃねえぞユーリ! 治癒だ治癒! 早く治せ! 俺はこんな結末認めねえぞ!」


 ああ、走馬灯が見えてきた。

 これは、今は無き我が生まれ故郷か。

 懐かしい。


「師匠ッ! しっかりしてください師匠ッ!」

「ユーリッッ!」

「無理ね。治癒の魔法が病気に対して効きにくいのは知ってるでしょう。

 本職じゃない私だと、ここまで進行した病相手には打つ手がないわ。諦めなさい」

 

 走馬灯の場面が切り替わる。

 帝国のクズどもが起こした大陸全土への侵略戦争の犠牲となり、故郷が滅びる光景。

 幼い儂を命懸けで逃がそうとする両親の姿。

 苦い記憶じゃ。


「テメェ……! 何でそんなに落ち着いてやがんだこの冷血女! クソ爺とは言え、師匠が死にそうなんだぞ!」

「覚悟ならとっくに決めてきたでしょう。それどころか、私達の手で先生を斬る覚悟すらあった筈よ。あなたこそ、わめいてないで神妙にしなさい。見苦しい」

「なんだと、この野郎ッ!」

「私は野郎じゃないわ」

「やめろ二人とも! こんな時に!」


 さらに場面が切り替わる。

 故郷を追われ、魔物がひしめく森の中を必死に逃げて、どこかの街の路地裏へと辿り着いた記憶。

 路地裏をさ迷い歩き、ある時、とある馬鹿女の財布を狙って失敗し、ボコボコにされた記憶。

 その正体は兵士見習いであった馬鹿女に兵舎に連行され、なんやかんやあって、そのまま兵士見習いとして引き取られた記憶。

 思えばあれが、剣神エドガーの原点じゃった。


「……師匠の死に目だ。静かにしてくれ」

「アレク……」

「チッ……わかったぜ。悪かったよ」


 兵舎での賑やかな日々。

 がさつでうるさかったが、なんだかんだで優しかった兵士達。

 自分も似たような立場だからと、姉面して度々絡んできた馬鹿女。

 ボコボコにされた恨みを晴らすべく勝負を挑み、返り討ちにあって更にボコボコにされた思い出。

 あれは悔しかった。

 あまりにも悔しくて、だから強くなろうと思えた。


 だが、そんな日々も長くは続かなかったのう。


 場面が切り替わる。

 戦場を駆け回る。帝国のクズどもとの戦いの記憶じゃ。

 儂が兵舎で騒がしい日常を送っていた裏で、久遠の仇敵たる帝国は、ゆっくりと、しかし確実に侵略の魔の手を伸ばしておった。

 そのうち、兵舎の兵士達や儂や馬鹿女にも前線への異動命令が下され、戦場へと赴いた。


 奴らは故郷の仇であり、倒さねばより多くの大切なものを奪っていく敵じゃ。

 儂は戦い続けた。

 奴らへの恨みを晴らす為に。

 大切なものを守る為に。

 実戦に勝る稽古はなく、戦えば戦う程に儂の剣は洗練されていったが、帝国は大陸全ての国へと同時に攻め込めるような超大国。

 その戦力は圧倒的じゃった。

 奴らとの戦いは熾烈を極めた。


 最終的には、儂自らの手で奴らの首魁たる帝国皇帝を討ち取り、侵略戦争は終わりを告げたが、結局、儂は多くのものを失った。

 一番大切なものも含めてな。

 儂は戦争終結の英雄となり、剣神と謳われるようになったが、その当時はあまり嬉しくもなかったのう。


「師匠……今までありがとうございました。安らかに眠ってください」 


 と、儂が剣神となるまでの半生が走馬灯として流れきった時、周りで神妙な顔をしている弟子どもの姿が目に映った。

 ああ。思えばこいつらを弟子にしたのは、ずいぶん歳を食ってからのことじゃったのう。

 侵略戦争後の小競り合いも落ち着き、半楽隠居状態で世直しの旅(笑)とかやってる時じゃった。

 懐かしい。


 ……おっと、忘れとった。

 儂にはまだ、最後の仕事があった。

 剣神として、こいつらに託さねばならんものがあったわ。


「アレク……ユーリ……マグマ……」

「師匠ッ!」

「なにかしら? 遺言?」

「クソ爺、死ぬなッ!」


 あー、まったく騒々しいのう。

 最後まで、やかましい奴らじゃ。

 まあ、お前ららしいといえば、らしいがな。


 儂は最後まで握りしめていた剣を、弟子どもに差し出した。

 かつて、帝国皇帝より奪い取った、剣神の証にして世界最強の剣を。


「これを……この剣を……お前らに託す……。三人で……決闘でもして……次の持ち主を……次の剣神を決めるがよい……」


 最後の力を振り絞って、どうにかそれだけ口にする。

 それで、どうやら本当に力を使い果たしたらしく、急速に意識が薄れていきおった。


 薄れる意識の中、儂の手の中から剣が消えるのを感じた。

 霞む視界で、弟子どもの誰かが剣を受け取る姿をしかと見届ける。

 どうやら最後の仕事も無事に終わったようじゃ。

 これで、何の憂いもなく成仏できる。

 

 ふわりと、天に浮かぶような感覚がした。

 身体から魂でも抜けたか。

 抜けた魂は、はたして何処へ行くのかのう。

 本当に天国なんてものに行くのか、それとも地獄か。

 どちらにせよ、できれば先に死んでいった戦友達には会いたいものじゃな。

 向こうには愛すべき馬鹿も居ることじゃろうし。



 不意に、手を引かれたような気がした。

 先程まで剣を握りしめていた手を、誰かに引かれたような気がした。





 

 そんな不思議な感覚を最期に、儂の意識は消失した。

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