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16 領都防衛戦

「大砲用意! 放て!」


 指揮官の指示に従い、魔法兵達が大砲に魔力を送り込み、強力な魔法を発動させていく。

 大砲とは、魔法使いの持つ()の一種であり、

 長さ5メートル、幅1メートルもあるが、効果としては普通の杖の強化版だ。


 ラビとかも持っている普通の杖は、魔法の発動を助け、威力を増したり、消費魔力を節約したりといった効果がある。

 大砲は、巨大化させる事によって、持ち運びや取り回しといった利便性を捨て、ただひたすらに杖としての性能のみを高めた兵器である。

 いくら高性能でも、こんなデカすぎる杖を携帯する馬鹿はいない。

 だからこそ、大砲は砦や城壁にしか設置されていない訳だ。


 だが、大砲は、そのあまりの不便さに目を瞑ってもいい程に、絶大な威力を発揮する。

  

 たとえば、今のラビが、杖の代わりに大砲を使ってアクアランサーを放てば、あのオーガにすら致命傷を与えられるかもしれない。

 そう言えば、そのヤバさがよくわかるだろう。

 まあ、あくまでも、ノーガードの状態に直撃させられればの話だが。


「フレイムアロー!」

「サンダークラッシュ!」

「ストーンブラスター!」


 そんな大砲を使って、複数の魔法兵達が強化された魔法を放つ。

 炎の雨が、雷の閃光が、岩の弾幕が、魔物の群れを襲う。


 しかしそれは、━━魔物の群れから飛んできた魔法に相殺(・・)された。


「マジか」

「おいおい、勘弁しろよ。アレ(・・)、まさか全部リッチとかじゃねぇだろうな?」


 近くにいたドレイクが、魔法を相殺した人型の魔物を見てボヤく。

 リッチ。

 熟練した魔法使いがアンデット化する事で発生するとか言われてる魔物。

 危険度A。

 私の目の錯覚じゃなければ、そんなのが複数体いるように見えるな。


 しかも、あっちにいるのは、同じく危険度Aのケルベロスにサイクロプスか?

 しかも、当たり前のように複数体。

 ああ、ドレイクが言っていた通り、オーガもいるな。

 複数体。


 更に、危険度Bのグリフォン、キマイラ、ミノタウロス、その他もろもろ。

 おまけに、危険度Cの雑兵がわんさか。

 だとすると、あのリッチ以外の人型は、ヴァンパイアとかか?

 もしそうなら、危険度Aだ。

 

 ……なんだ、この百鬼夜行は?

 何故に、あんな強力な魔物どもが、当たり前のように徒党を組んでいやがる。

 逃げた連中の気持ちが、少しはわかったような気がする。


 せめて、こっちに上級魔法使える奴がいれば、もう少し楽なんだがな。

 上級魔法は、広範囲の敵を圧倒的な火力で一気に薙ぎ払う大魔法。

 その分、習得が困難で、上級魔法使いは闘気使いよりも少ない。

 さすがに、こんな田舎領地には転がってない人材だったらしい。

 むしろ、闘気使いがわかってるだけでも二人(ドレイクと私)いるだけマシなのだろう。


「ちょっと撃ってみていいっすかね?」

「やめとけ。この距離じゃ、矢と魔力の無駄だ」

「風魔の矢っす!」

「聞けや!」


 私の静止を無視して放たれたオスカーの矢は、もの凄い速度で飛翔し……ヴァンパイアっぽい奴にあっさりキャッチされた。

 うむ。

 やはり、あれはヴァンパイアと見るべきか。


「うわっ、マジっすか」

「だから、言わんこっちゃない」

「いや、今のは結構良かったぞ。弓矢の嬢ちゃん、今度はもう少し引き付けてから撃て。なるべく弱そうなのを狙ってな。数を減らすのが最優先だ」

「わかったっす!」


 ドレイクに言われて、オスカーがやる気を出した。

 うむ、まあ、頑張れ。

 とりあえず、もうヴァンパイアは狙うなよ。

 無駄撃ちになるからな。


「り、リンネちゃん。私も撃った方がいいかな?」

「いや、ラビはいざという時以外は魔力を温存だ。お前の治癒が生命線だからな」

「わ、わかった」

 

 逸りそうになったラビを諌める。

 オスカーはともかく、ラビに後先考えない事をされると本気で困る。

 もしも、この二人の能力が逆だったらと思うと、ゾッとするな。


「クッソォ! 俺も早く暴れたいぜ!」

「俺達の仕事は魔物が接近してきてからだろうが。逸るな馬鹿」

「そんくらい、言われなくてもわかってんだよ! 気持ちの問題だ!」

「どうだか」


 お、一番血気に逸りそうな馬鹿(ベル)はシオンが止めてくれた。

 まあ、いくらベルでも、無策で突撃する程、愚かだとは思っていない。

 本人も言う通り、気持ちの問題だろう。

 それに、この分なら、すぐに出番は来そうだ。

 その時に存分に暴れるがいい。

 

「……すげぇな嬢ちゃん達は。普通、あれを見て、そんなに落ち着いてはいられねぇだろうに」

「修羅場慣れでもしたんじゃないか?」

 

 ドレイクの感心してるのか、逆に呆れてるのかわからない様子で言った言葉に適当に返す。

 だが実際、オーガ戦を経て、あいつらは修羅場に慣れ、成長したのだと思う。

 あの後、より一層の鍛練を重ね、今では私と父抜きでもオーガと渡り合えるんじゃないかと思える程に強くなった。

 肉体的にも精神的にも。

 だからこそ、こんな戦場で余裕を持っていられる。

 本当に、子供とは思えない自慢の友だ。


「おっと。無駄話の時間は終わりみたいだな」


 ドレイクが気を引き締めた。

 私達も気を引き締める。

 視線の先で、魔物の群れが突撃を開始したのだから。

 

「さあ、ここからが本当の戦いだな」


 久しぶりの死闘だ。

 ベルじゃないが、せいぜい暴れるとしよう。



 大砲の攻撃を突破し、最初に城壁に到達したのは、耐久力に優れる魔物、一つ目の巨人サイクロプスだった。

 オーガからパワーを引いて、その分を防御力に足したような魔物だ。

 そりゃ硬い。


「神速剣・破断!」


 私は、それを一太刀で斬り伏せる。

 一分だ。

 今の私は、一分の間なら闘気を常に全開にし、神速剣を使い続ける事ができる。

 こうして小分けにして使えば、限界は早々訪れない。


 頭から真っ二つにしたサイクロプスの死体が、砂となって崩れ去る。

 ……やはりか。


「気をつけろ! こいつら多分、全部変異種だ! 首を落としても死なないぞ!」

「それを一撃で倒す嬢ちゃんは何者だよ……だが、大人として負けてられねぇな!」


 次に来た魔物に対して、ドレイクが突撃していく。

 相手は、三つの頭を持つ狂犬、ケルベロス。

 

「湯煙!」


 ドレイクは、ベル達との戦いでも使っていた煙幕によって、ケルベロスの視界を奪う。

 

「飛剣・嵐!」


 続いて、右手に持ったやや短い剣を振り抜き、衝撃波でケルベロスを吹き飛ばした。


「アームド・ブースター!」


 更に、左腕の義手の拳部分が飛んで行き、ケルベロスの巨体を掴む。

 そのまま振り回して、後方のリッチの所へと投げ飛ばした。

 ケルベロスとリッチが砂となって崩れる。

 飛んで行った拳は、義手本体に接続されたロープが縮む事によって回収され、元に戻った。

 ……なんだ、その大道芸みたいな腕は。


 父曰く、ドレイクは例の仲間達が全滅したという依頼の際に左腕を失い、義手を付け始めたらしい。

 S級冒険者なら、腕を生やせるレベルの治癒術師に見てもらう事もできただろうに、あえて使い続けているとの事。

 そして、その義手に様々な魔道具を取り付け、予測困難な攻撃を仕掛ける事を得意とするそうだ。

 だが、知識としては知っていても、実際に見ると曲芸みたいで、ちょっと驚いた。

 

 しかし、見たところ、義手なしでも普通に強いな。

 片手で放った嵐で、ケルベロスがズタズタになっていた。

 ドレイクは、実はS級の中でもかなり上位の実力者なのかもしれない。


「俺達も行くぜ!」


 次はベル達が突撃した。

 相手は空を飛んで接近してきたグリフォン。

 サイクロプスやケルベロスよりは格下だが、普通に考えれば強敵だ。


「攻ノ型・一閃!」

「破断・(いかずち)!」

「風魔の矢っす!」


 それを、ベル達は流れるような連続攻撃で瞬殺した。

 ラビを温存してるのに、これか。

 もはや、危険度Bではこいつらの相手は務まらんな。

 成長が著しすぎるだろ、天才どもめ!

 まるで、昔の自分を見ているようだ。


 だが、それでも徐々に押し込まれてきた。

 これは防衛戦だ。

 私達の所だけ善戦しても、他が駄目なら意味がない。

 騎士や熟練冒険者はかなり活躍しているが、兵士や他の冒険者、特に経験の少なそうな若手が随分と苦戦している。

 

「神速飛剣!」

「飛剣!」

「嵐の矢っす!」

「ギガボルティックランス!」


 私達をはじめとした余裕のある奴らが、脆い所を遠距離攻撃で、時には駆けつけて援護するも、中々事態は好転しない。

 やはり、相手の数が多い。

 危険度Aの連中にいたっては、火力の足りない遠距離攻撃だと仕留めきれない。

 せいぜい、城壁の下に落とすのが関の山だ。


 あと、リッチどもの魔法が地味にウザい。

 結界で威力が削れてなお、直撃すれば普通に死ぬ。

 闘気使いなら大丈夫だろうが、そんな奴はほとんどいない。

 それでも、籠城を選んだからこそ、この程度で済んでいる訳だ。

 野戦を仕掛けなくて正解だったな。


 ……ぐ。

 さすがに、そろそろ体が軋んできた。


「ラビ、頼む!」

「うん! ヒール!」


 ラビに治癒魔法をかけてもらい、悲鳴を上げ始めた体を修復する。

 これで、まだまだ戦えるぞ!


 それに、治癒術師はラビだけではない。

 他の場所でも、戦線を支えるべく動き回っている。

 これなら、まだまだ持つだろう。

 最初に部隊を分けたから、疲弊してきても交代人員がいるしな。



 そうして戦い続けて、一時間も経った頃だろうか。

 それ(・・)が戦場に現れたのは。


「なん……だと……!?」


 ドレイクが、空を見上げて驚愕する。

 私も驚いた。

 そこには、世界で最も強く、最も有名な魔物が、悠々と空を飛んでいたのだから。


 全長30メートルは超えているだろう巨体。

 全身を包む頑健な鱗。

 城壁すらも一撃で破壊するだろう、巨大な爪と牙。

 それは、あらゆる英雄譚に、強大な敵や、心強い味方として登場する怪物。


「ドラゴンか!」


 ドラゴン。

 危険度S。

 すなわち、連携を取ったS級冒険者複数人でかからねばならない、化け物の中の化け物。

 これを単独で討伐できるのは、前世の私のような『英雄』だけだろう。

 そんな怪物が、この場に現れてしまった。


 ドラゴンが大きく口を開け、そこに凄まじい魔力が集束していく。


 ドラゴンの代名詞。

 竜の息吹き、ブレスによる攻撃だ。

 それが、発射されようとしていた。


「大砲だ! 迎撃せよ! 急げ!」

「フレイムブラスト!」

「サンダーブラスト!」

「アクアブラスト!」


 それに対抗するかのように、大砲から放たれた強力な魔法が、ドラゴンに向けて飛来する。

 ブレスと魔法が、正面からぶつかった。

 威力は……互角。

 二つの力は相殺し、その衝突によって、凄まじい衝撃波が発生する。


「うお!?」

「うっへぇ……」

「きゃあ!」

「くっ……!」


 その光景を見て、ベル達が驚愕の声や悲鳴を上げる。

 ラビにいたっては踞ってしまった。

 さもあらん。

 ……だが、今の攻防。

 ドラゴンのブレスは、結界によって威力が落ちていたのだ。

 その上で、これだ。

 やはり化け物だな。

 危険度Aの連中とは、格が違う。


 そして、安心するのは、まだ早い。

 ドラゴンは、早くも次のブレスの発射準備を始めていた。

 あんなものを二度も三度も放たれたら、さすがに相殺しきれないだろう。

 しかも、ドラゴンだけに気を配れば、他の魔物に蹂躙される。

 ……誰かが、ドラゴンの相手をする必要があるな。


「ラビ、いつでも治癒を使えるように準備しておけ」

「え?」

「私はちょっくら、━━あのデカブツの相手をしてくる」


 そう言って、私はドラゴンに目を向ける。

 ドラゴンと、目が合った。

 他の魔物と同じように、無機質で、何も映していないような瞳。

 とても生者とは思えない、死んだ魚のような目。


 そんな目をしてる奴が、これ以上暴れるな。

 これ以上、無為な犠牲を出すな。

 今、叩き斬って終わらせてやる。


「おい待て嬢ちゃん! 何するつもりだ!?」

「ドレイク。ここは任せた。私はアレの相手をする」

「ふざけんな! 死ぬ気か!? 行かせねぇぞ! 嬢ちゃんを死なせたら、俺はジャックの奴に合わせる顔がねぇ!」


 ……やはり、なんだかんだで優しいなドレイクは。

 良い奴だ。

 だが、心配は無用。


「安心しろドレイク」

「安心できるか!? どこに安心できる要素がある!?」


 あるんだよ。

 何故なら、


「私は勝てない戦いはしない。勝算のない戦いで自殺するような真似は、断じてしない。

 その代わり、━━戦ったのならば、必ず勝つ。

 たとえ勝率が限りなく低かろうとも、必ず勝利を引き寄せる。それが私だ」


 それが、前世から受け継いだ剣神エドガーの……いや、私の生き様だ。

 英雄とは、困難を打ち破り、強敵を打倒し、そして最後には必ず勝利して、生きて帰って来る者の事である。


「神脚!」


 そして、私は脚に力と闘気を籠めて飛び上がった。 

 神脚は、王国剣術の型の一つ、飛脚の進化系。

 この技を極めし者は、飛脚という技名の通り、()()()()()


 私は闘気を全開にし、剣を握り締め、ドラゴンへと戦いを挑んだ。

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― 新着の感想 ―
チートキャラが揃うとなんかズルいなあ………。 この危険度Aの面子を相手に普通に戦うとか、一般冒険者諸君は泣きながら引退してもいいと思う。
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