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【コミカライズ】最強の剣神、辺境の村娘に生まれ変わる。  作者: 虎馬チキン
第1章 転生編

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15 魔物襲来

 昇格試験当日。

 私は、目の前に用意されたテスト用紙を前に唸っていた。


「ぐぬぬ……」


 迂闊だった。

 まさか、昇格試験の内容が、筆記と実技の二つに別れていたとは。

 こんな事なら、予習の一つでもしておくべきだった。


 いや、諦めるのは、まだ早い!

 ドレイクも言っていたではないか。

 試験は、戦闘力だけではどうにもならない事もあると。

 まさに、今がその時だ。

 根性見せなければ。


 幸い、問題は冒険者としての基礎知識、探索のやり方や、特定の魔物の弱点や倒し方といった、決して解けなくはないものばかりだ。

 父に教わった事や、前世で聞き齧った記憶まで引っ張り出せば、必ずなんとかなる!

 筈だ!

 自分の力を信じろ!


 そうして、頭が沸騰しそうになりながらも、なんとか合格点は取れているんじゃないか? というくらいの出来にはなった。

 疲れた……。

 しかも、これだけ頑張って、合格点に達している保証はないという。


 まあ、合格点に満たないのなら、別にそれでもいい。

 試験の合否は、筆記と実技の合計点という話だ。

 ならば、実技で満点を取ればいいのだ。

 おそらく、ベルとオスカーも、その可能性に賭けているだろう。

 ……いや、オスカーは割りと要領がいいから、崖っぷちなのはベルだけかもしれない。


 そして、筆記試験の時間が過ぎ、試験官を務めるギルド職員が立ち上がった。

 

「では、これにて筆記試験を終了します。続いて実技試験に移りますので、受験者の皆さんは速やかに会場に移動を……」

『緊急! 緊急!』


 と、その時。 

 試験官の言葉を遮るように、放送用の魔道具から大きな声が聞こえてきた。

 多分に焦りを含んだ声だ。


『街の東側、シールの森方面より、大量の魔物の群れが街に向かって接近中! その数、少なくとも百体以上! 住民は速やかに避難を! 騎士、兵士、冒険者の皆さんは、ただちに街の東門に集合してください!』

「なんですって!?」


 試験官が驚愕の声を上げた。

 受験者達も、結構混乱している。

 だが、私は冷静だ。

 こういう不測の事態ってやつは、ある日突然、なんの前触れもなくやってくる。

 それを経験で知っているからな。


 私は無言で席を立とうとした。


「失礼します!」


 と同時に、他のギルド職員がやって来て、何やら試験官に耳打ちする。

 何やら話がありそうなので、とりあえず、その場で待った。

 既に街が襲われているという訳ではないみたいだからな。

 そのくらいの時間はあるだろう。


「皆さん、これより試験は一時中断。街の防衛をギルドから正式に依頼します。

 この依頼を受ける方は、ただちに街の東門へと向かってください」

「待てや」


 試験官の言葉を聞いて、私をはじめとした何人かは即座に立ち上がったが、一部は座ったまま静観を決め込んだ。

 そして、そいつらを代表するかのように、柄の悪い男が試験官に突っ掛かる。


 私は、そいつらを無視して歩き出した。

 話を聞く時間はあるが、モタモタしている暇はない。


「試験を中断しておいて何もなしか?

 俺は忙しい中、遠路はるばる、この街に来たんだ。試験を後日に回すじゃ納得できねぇぞ」

「もちろん、埋め合わせはしますよ。この依頼はギルドからの正式案件。それ相応の報酬をお約束します」

「違うな。それじゃ足りねぇ」

「…………」


 がめついな、こいつ。

 何様のつもりだ?

 まあ、仕事で戦ってる騎士や兵士と違って、冒険者は基本的に金か名誉か自分の都合で動く。

 だから、非難するつもりはない。

 ちょっとばかしイラっとするから、ぶん殴りたいとは思うが。


「…………わかりました。緊急事態ですが、昇格試験は続行。街の防衛を実技試験の代わりとさせていただきます。

 功績次第によって合否を判定するので、そのつもりでいてください」

「ふっ。その言葉が聞きたかった。行くぜ、野郎ども! せいぜい派手に暴れ回るぞ!」

『おう!』


 どうやら、話は纏まったらしいな。

 部屋を出る寸前に、そんな会話が聞こえた。

 まあ、防衛戦力が増えるのなら、何も言うまい。


 そして、私は部屋を出てすぐにベル達と合流し、東門とやらに急いだ。

 道中、冒険者に英雄としての過度な理想を持っているベルが喚いたが、まあ、仕方がない。

 ああいう奴もいるって事で納得しておけ。

 世の中、気に入らない奴の、百人や二百人いるもんだ。

 一々気にしていたら、キリがない。


 そう言っておいたが、ベルはずっと不機嫌なままだった。






 ◆◆◆






 街の中を疾走し、東門へと辿り着いた。

 この街は土地勘がないから盛大に迷子になり、面倒になって、途中から建物の上を走って来たがな。

 そのせいで、私達の中で一番体力がないラビは、若干息が上がっている。

 まあ、ラビは後衛だ。

 戦闘にそこまでの支障はないだろう。


「よう。来たな、嬢ちゃん達」

「ドレイクか」


 私達が到着した時、東門には結構な戦力が集まっていた。

 ドレイクをはじめとした、腕利きと思われる冒険者が……二十人くらいか。

 加えて、昇格試験を受けていたC級冒険者が、約四十人。

 騎士っぽい奴が約十人。

 兵士が沢山。

 騎士と兵士に関しては、街を囲う城壁の上にもいるだろう。

 あそこには、大砲(・・)がある筈だからな。


 これだけの数がいれば、有象無象の魔物の百体くらい、どうにでもなりそうなもんだが。

 しかし、この場は緊迫した雰囲気に包まれている。

 どうやら、何かあるみたいだ。


「何かあったのか?」

「……それがな。実はとんでもねぇ事になってやがる」


 ドレイクは神妙な顔で語り出した。

 絶望的とも言える情報を。


「斥候によると、街に向かって来てる魔物の数は約百体。それだけなら、まだなんとかなるんだが……問題なのは数より質だ。

 最低でも危険度C。中には危険度Aの大物まで何体か交ざってるそうだ。嬢ちゃん達にとって因縁深いオーガもいるらしいぞ」

「は?」

「なんだ、そりゃ!?」

「マジっすか!?」


 私は思わず間の抜けた声を上げ、ベルとオスカーは驚愕の声を上げた。

 ラビとシオンは絶句している。

 無理もない。

 これはもう、一つの街だけで対処できる領域を軽く越えてるぞ。

 もはや国が動くレベルの大災害だ。


「しかもな、それを聞いた連中がビビって逃げ出しちまった。ここに来てる冒険者は、覚悟の決まってるベテランがほとんどだ。嬢ちゃん達も、逃げるなら今の内だぜ」


 見れば、昇格試験にいたC級冒険者達が兵士からこの情報を聞いたのか、尻尾を巻いて逃げ始めていた。

 その中には、あの試験官に噛みついた柄の悪い奴もいる。

 ちなみに、そいつは、


「冗談じゃねぇ! そんな化け物どもと戦ってられるか! 俺は田舎に帰らせてもらう!」


 とか言っていた。

 他の奴らも似たようなもんだ。

 あれだけイキがっておいて、これか……。

 実に情けない奴らである。


「あいつら!」

「坊主。冒険者は命あっての物種だ。責めるもんじゃねぇぞ」


 吠えるベルを、ドレイクが宥める。

 そして、改めて聞いてきた。


「で、お前らはどうする?」

「俺は逃げねぇ! 英雄はそんなカッコ悪い事しねぇんだ!」

「あたしは、ぶっちゃけ逃げたいんすけど……まあ、ベルがやるなら付き合うっす」

「ふ、二人が残るなら、私も」

「俺は騎士志望だ。冒険者と違って、自分の都合で逃げたりはしない」

「……ハッ! 勇ましいこった!」


 ドレイクは、諦めたような顔で笑った。

 個人的には逃げてほしいのだろうが、実力があるから、止めるに止められないといったところか。

 なんだかんだで、戦力は欲しいだろうしな。


「当然、私も残る! 勝算はあるんだろ?」

「まあな。防衛戦なら結界と城壁、大砲が使える。

 それに、今頃ギルドか領主が、通信の魔道具で国に救援要請を出してる筈だ。

 最悪、一日くらい粘れば、国お抱えの空間魔法使いが、とびっきりの援軍を連れて来てくれるだろうさ」


 そう言った後、ドレイクはニヒルに笑って、こう続けた。


「それに、━━俺一人でも負けるつもりはねぇしな」


 それは、S級冒険者という称号を持つに相応しい、経験に裏打ちされた、確かな自信を感じさせる強者の笑みだった。

 渋い中年であるドレイクには、よく似合っている。

 ほほう。

 中々にカッコいいじゃないか。


 そう思ったのは私だけじゃないらしく、ベルがキラキラとした目でドレイクを見ていた。

 考えてみれば、ドレイクはS級冒険者であり、吟遊詩人に歌われる程の冒険者だ。

 冒険者として英雄を目指すベルにとっては、割りと憧れに近い存在なのかもしれないな。

 初対面の印象が悪かったから噛みついてるだけで、本当は握手とかして、サインとか貰いたいのかもしれない。


「ドレイク殿、こちらに」

「おう、今行く。と、そうだ。嬢ちゃん達も付いて来い。これから陣形とかを決める作戦会議だからな。一緒に戦う以上、連携は大事だぜ」

「わかった」

 

 という事で、ドレイクと一緒に他の冒険者達の所へと行った。

 そこには、冒険者だけではなく、騎士や兵士達も集まっている。

 どうやら、会議は既に始まっているらしい。


「待たせたな」

「ドレイク殿! おや? そちらの子供達は?」

「こいつらも今回の作戦の戦力だ。実力は俺が保証する。そうじゃなくともC級冒険者だ。参加する資格はあるだろ」

「なんと……! その歳でC級とは。将来が楽しみですな」


 そうして、私達は概ね好意的に歓迎された。

 ドレイクのお墨付きというのが効いたのかもしれない。

 もしかしたら、ドレイクの弟子か何かと思われているのかもな。

 まあ、そうだとしても別に構わん。


 そして、会議が進行する。


「やはり、大砲で数を減らした後、引き付けて防衛に徹するのが無難ですかな?」

「だろうな。敵には危険度Aの化け物が複数いる。下手に突撃しても死ぬだけだろう」

「報告です! 只今、国からの伝令がありました! 大至急空間魔法使いを手配し、一日以内に王国最高戦力『三剣士』のお一人を派遣してくださるそうです!」

「なんと! それは本当か!」

「三剣士様が来てくださるのなら、まさに千人力ですな! ならば、我々は街の門を閉じ、時間稼ぎを目的とした作戦を行うべきと考えます。異論はありますかな?」

『意義なし!』

「俺も特にねぇな」

「では、細かい陣形の相談に移りましょう」


 私が適当に聞き流している間に、作戦はどんどん決まっていった。

 決して、サボっている訳ではない。

 適材適所だ。

 頭脳労働は、私の苦手分野だからな。

 現場指揮官くらいならできるが、作戦とかを立てるのは無理だ。

 だったら、作戦を立てるのはドレイク達に、それを聞くのはラビかシオンに任せて、私は決まった事の要点だけ聞いて、言われた場所で言われた通りに暴れればいい。

 それが一番効率的だ。



 そのまま、会議は恙なく進行し、終わった。

 どうやら、基本的に籠城の構えを取って、援軍が来るのを待つという事に決定したらしい。

 私達の仕事は、城壁に取り付いて来た魔物の迎撃だ。

 というか、ほぼ全員が同じ仕事だ。

 交代で、ひたすら迎撃する事になる。

 持久戦だな。



 そして、それぞれが配置に付き、こちらの準備が完了する。

 それから一時間もしないうちに、魔物の群れが現れた。

 鳴き声の一つすら発する事なく、不気味な程、静かに行進する魔物の群れ。

 見ただけでわかる。

 あれは普通じゃない。

 三年前のオーガとそっくりな、不自然さと薄気味悪さを感じる。


「……一筋縄ではいかなそうだな」


 不吉な予感を覚える。

 だが、それで魔物の群れが止まる訳もなく、遂に先頭の魔物が大砲の射程圏内に入った。


 戦いが始まる。

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― 新着の感想 ―
違うな。それじゃ足りねぇ > 緊急時に危機感が全くないという事で、試験の結果からマイナス50点させていただきます。くらいは言ってもいいんじゃないの? まあ、逃げ出すなら一緒だけど。
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