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11 初依頼

「はい。これがあなた達の冒険者カードになります。なくさないでくださいね」


 ドレイクによる大人げない試験が終了した後、私達は試験合格という事で冒険者カードを発行してもらい、晴れて正式に冒険者となった。


 受付嬢が冒険者カードを手渡してくれる。

 カードに書かれたランクはF級。

 駆け出しの新米冒険者だ。

 だが、これが夢への第一歩だとばかりに、ベルは盛大に喜んでいた。

 オスカーとラビも似たような感じだ。

 シオンだけは、ドレイクに負けたのが悔しいのか、ずっと不機嫌そうな、しかめっ面のままだが。


 続けて、私達五人でパーティーとして登録した。

 パーティー名は『英雄の剣』。

 英雄願望の強いベルが付けた名前である。

 名前負けしたら恥ずかしいが、まあ、大丈夫だろう。

 新人の冒険者が付けるパーティー名なんてこんなもんだ。

 冒険者になろうなんて若者は、夢と希望と上昇思考に満ちているからな。


「よう、坊主ども。合格おめでとう。だが、冒険者ってやつは常に危険と隣り合わせ。油断した奴から死んでいく仕事だ。ちょっと強いからって調子に乗るなよ」


 そんな夢と希望に水を差すかのようにドレイクが現れた。

 先輩風を吹かせてやがる。

 あんな大人げない事しておいて、よくやる。


「何、カッコつけてんだ。大人げなく本気で勝ちにいったくせに。今さら威厳を出そうとしても遅いぞ」

「いや、違うぞジャック。あれは大人として教訓を授けてやろうとしてだな……」

「嘘つけ。子供相手に地味に苦戦したのが悔しかっただけだろうが。闘気に加えて、義手に仕込んだ魔道具の一つまで使いやがって」

「うっ……だが、教訓を授けようとしたのも本当だぜ?」

「安心しろ。それはわかってる」

 

 父とドレイクが仲良さげに話している。

 前回のお出かけの後に聞いた話だが、父とドレイクは十年前くらいまで同じパーティーの仲間だったらしい。

 そして、当時、A級冒険者パーティーとして活躍していた二人は、調子に乗ってパーティーメンバー達と共に難易度の高い依頼に手を出した。

 油断して挑んだ結果、二人以外のパーティーメンバーは全滅。

 その後、しばらくは二人で組んでいたが、父がこの街に配達に来ていた母に一目惚れして結婚した事で、完全にパーティーは解散したとの事だ。

 そういう苦い経験があったからこそ、ドレイクは冒険者になろうとするベル達を止め、父は私が冒険者になろうとするのを、やんわりとだが反対した訳だ。

 人に歴史ありだな。


「まあ、何にせよ、これからは同じ冒険者仲間だ。俺はそろそろ次の街に行くが、縁があったらまた会おうや。

 試験官なんてやったよしみだ。その時は何かと助けてやるよ」


 そう言って、ドレイクは去って行った。

 ……何だかんだで良い奴だったな。

 父の友達みたいなもんだし、また会う事があったら仲良くしてやろう。

 そんな風に思った。






 ◆◆◆

 





 その翌日。

 私達はドレイクのせいで遅れた予定を消化するべく、武器屋に来ていた。


「この店で一番良い装備を頼む!」

「頼むっす!」

「いや、この金額じゃ、ちょっと……」


 親に貰ったお小遣いだけで、店番の兄ちゃんに無茶な注文をつけるベルとオスカーを尻目に、私は店内を物色していた。

 今必要なのは、店で一番良い装備などではない。

 自分の体に合った剣だ。

 今の私は、身長の低い8歳の女の子な訳だから、素直にショートソードあたりを選んでおくのが無難だな。


 なにせ、今日はこれから、初めての冒険に行く。

 さっき、ギルドで初めての依頼を受けてきたのだ。

 まあ、F級冒険者が受けられる依頼なんて、薬草採取が関の山だが、それでも薬草を取りに行こうとすれば、野生の魔物と出会う可能性もある。

 つまり実戦、殺し合いが待っているかもしれない訳だ。

 ならば、訓練用ではない本物の装備がいる。

 一応、村の自警団の狩りに交ぜてもらった事はあるが、その時は自警団のお古を借りたからな。

 正式に冒険者になったのなら、やはり自分の装備が必要だろう。


 そうしてショートソードを探していた時、少し気になる物を見つけた。


「これは……」

「いや、これはまだ、リンネには早いんじゃないか?」

「わかってる。見てただけ」


 私の目に入った物。

 それは、緩く反りの入った片刃の剣。

 この国ではあまり見ない、()と呼ばれる武器だ。

 和国という大陸の東にある国では多く出回っていると聞いた事があるが、前世の私はあまりこの国を離れた事がなく、必然的に刀を見る機会も少なかった。


 だが、これは別に必要ないな。

 珍しさから、つい目がいってしまったが、刀は独特のくせがあって扱いづらい。

 慣れれば大丈夫だとは思うが、それなら既に慣れた直剣を使えという話だ。

 それに、この刀は大人サイズで、今の体で振るにはデカすぎる。

 考えれば考える程にいらんな。


 刀から意識を外し、当初の予定通りショートソードを探す。

 最終的に、銀貨五枚の捨て値で販売されていた、数打ちの剣を購入した。

 それと同時に鎧も購入。

 成長期ですぐにサイズが合わなくなる事を見越して、できるだけ安く、サイズ調整のしやすい、皮製の部分鎧を選んだ。

 値段は、全部合わせて金貨二枚。

 そこそこの値が張ったが、これでも値引きはした(父が)。

 それに、冒険者の装備としては、かなり安上がりな部類だろう。


 私以外の面子の装備も似たようなものだ。

 ベルは最後まで一番良い装備である魔剣に執着していたが、強制的に諦めさせた。

 恨みがましそうな目で見られたが、知った事か。

 魔剣は安い物でも金貨数百枚、最高位にいたっては金に変えられないだけの価値があるんだ。

 子供のお小遣いで買える訳がなかろう。

 おとなしく諦めろ。

 いつか出世して、自分の金で買え。



 そうして装備を整え、いざ薬草採取に出発……の前に父が言った。


「本当は冒険者の基本セット一式も買いたかったけど……お金がないから、また今度にしよう」


 そう言って、父は、とりあえず自分が現役時代に使っていたという基本セット一式を見せて説明してくれた。

 火を起こす魔道具、水を出す魔道具、照明の魔道具、解体用のナイフ、コンパス、さっき買ってきた回復薬、村から持ってきた保存食、などなど。

 兵士時代に「とりあえず、これだけは持っておけ」と言われた装備一式に似てるな。

 だが、こっちの方が種類が多い。

 基本的に、兵士よりも冒険者の方が、やらなければならない事が多いのだろう。

 だから、必要な装備も増える。


「これは冒険者をする上で絶対必要だ。このまま冒険者としてやっていくつもりなら、近い内に買っておきなさい」


 との事だ。

 これなしで冒険すると、冗談抜きで死にかねないので、私も改めて肝に命じた。



 気を取り直して、薬草採取に出発!

 目的の薬草が自生しているという、近場の森へと向かった。

 元A級冒険者()の指導の下という贅沢な環境で、私達は森の中を突き進んで行った。

 道中、父が、よく採取依頼が出る薬草の類い(今回依頼された薬草とは別物)や、食べられる植物、足跡などから魔物の種類や縄張りを見極める方法を教えてくれた。


 父は、娘に物を教えるのが楽しいのか終始機嫌が良さそうだったが……私は正直、難しくて半分も理解できなかった。

 こういうのは頭脳担当の奴に任せきってたからなぁ。

 こんな事なら、前世でもう少し真面目にやっておけばよかったかもしれん。

 だが、わかっていなさそうなのは私だけではない。

 馬鹿二人組、ベルは首を傾げるだけだし、オスカーは真面目に聞いているかも怪しい。

 逆に、ラビとシオンは真剣に聞いていたが。


 そうして、森を進む事しばらく。

 私達の前に、一体の魔物が現れた。


「ビックボアか!」


 それは、通常の猪の五倍くらいデカい、巨大な猪。

 マーニ村の近くにも生息しているが、あの場所では縄張りの主を張れるくらいには強力な魔物だ。

 村の周辺で遭遇した時は自警団が狩っていたから、私達が直接相手をした事はない。


「俺の獲物だぁ!」

「風魔の矢っす!」


 飛び出したベルを援護するように、オスカーが風を纏った矢を放つ。

 しかし……矢はあっさりとビックボアの脳天を貫いて、それだけで狩りは終了した。


「へ? 終わりっすか?」

「オスカーァ!」

「いや、あたしのせいじゃないっすよ!」


 二人のいつものじゃれ合いを軽く無視する。

 その間に、父をはじめとした他の全員で、ビックボアの解体を始めた。

 こうやって、遭遇した魔物を解体し、その素材を売るのも冒険者の貴重な収入源という話だからな。

 私達は慣れていないので、父に教わりながらだ。


「ビックボアを瞬殺か……あれでも危険度Dの、そこそこ強力な魔物なんだけどな……俺が初めて戦った時は、すげぇ強く感じたのに……」


 解体を進めながら、父は哀愁の漂う声で、そう呟いた。

 危険度Dというのは、D級の冒険者()()()()()が相手をするレベルという意味だ。

 そんな魔物を一人で討伐するという事は、オスカーは既に、一人でDランクパーティー並みの力があるという事になる。

 他の面子も似たようなもんだ。

 とんだ大型ルーキーだわな。

 まあ、戦闘力だけだが。

 私を含めて。


「……よし。気を取り直して、先に進もう」


 解体したビックボアを、父が持ってきた大容量の物を入れられる空間収納の魔道具(超高級品)に入れ、先を急ぐ。

 道中でそこそこの数の魔物と遭遇したが、どれもマーニ村付近で見かけた事のある雑魚ばかりであり、すぐに片付いた。

 今まで見かけた中では、ビックボアが一番強かったくらいだ。

 私達の敵ではなかった。


「……おかしい。魔物の数が多すぎる」


 ある時、ポツリと、父が呟いた。

 なにやら、少しだけ焦っているように見える。


 ……言われてみれば、遭遇する魔物の数が多いか。

 私達からすれば何ともないが、普通のF級冒険者にはキツイかもしれない。

 たしかに、薬草採取という依頼で、これだけの魔物と遭遇するのは、おかしいと言えばおかしいのか。

 運が悪かっただけという可能性もあるが。


「何かあるのかもしれない。急いで依頼を済ませてしまおう」


 だが、父は事態を重く捉えているようで、少しペースを上げた。

 ベテランの勘というものは、案外馬鹿にできない。

 そのベテランが違和感を感じたというのなら、警戒するに越した事はないだろう。

 油断した奴から死んでいくのは、兵士も騎士も冒険者も同じだからな。


 そして、そこから少し進んだ場所で、私達は目的の薬草を採取する事に成功した。

 

「よし。すぐに戻ろう」


 初仕事成功の余韻に浸る間もなく、父に急かされて撤退を開始する。

 ベルとオスカーは、やや不満そうだが、こういう時に気を抜けば死ぬのが冒険者だという事を、父やヨハンさん、自警団の人達に口を酸っぱくして言われ続けたせいか、文句は言わなかった。

 もしかしたら、ドレイクにしばかれたのも効いているのかもしれない。


 ━━しかし。


 どれだけ警戒を重ねても、油断を排しても、死ぬ時は死ぬ。

 出会う時は、危険と出会ってしまう。

 それが冒険者だ。


 昨日、ドレイクがこんな事を言っていた。


『お前らは強い。だが、上には上がいる。そして、そういう格上とは、いつ遭遇するかわからねぇって事を肝に命じておけ』


 まさに、その通りだった。

 S級冒険者の忠告を体現するかのように、それ(・・)は私達の前に現れた。


「なっ……!?」


 それを見て、父が押し殺したような驚愕の声を上げる。

 近くの茂みからヌッと現れた、赤黒い肌をした巨漢の魔物。

 姿かたちは人間に近い。

 腰に布を巻き、手に鋼鉄の棍棒を持っている。

 だが、その頭部から生えた二本の角と、下顎から生える巨大な牙……そして、筋肉の鎧に包まれた、5メートルを遥かに越える巨体が、それが人間ではなく魔物なのだと教えてくれる。

 

 今、わかった。

 魔物がやけに多かった理由。

 それは、こいつから逃げて来たからだ。


「オーガ……!? 危険度A……!」


 父が、その魔物の名前を呼んだ。

 危険度A。

 すなわち、Aランクという最高位に近いランクのパーティーが相手をしなければならない、災害のような魔物。

 それが、私達の前に現れたのだ。


 オーガは、まるで何の感情も宿っていないかのような無機質な目を私達に向け、静かに棍棒を振り上げた。

銅貨一枚=100円

銀貨一枚=1000円

金貨一枚=10000円


くらいだと思ってください。

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― 新着の感想 ―
おかしいと思ったなら退いてくれ、父よ。 非保護者のが多いんだぞ?
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