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10 冒険者登録試験

 初めて街へ行った日から一ヶ月後。

 私達は再び、(くだん)の街トリスに向かっていた。

 メンバーは前回と全く同じだ。

 しかし、前回とは目的が異なる。


 今回の目的、それは、━━私達の冒険者登録である。






 ◆◆◆






 前回のお出かけが終わった後、その結果に不満を漏らした奴が二人程いた。

 言うまでもなく、ベルとオスカーだ。

 問い詰めたところ、やはり二人は共謀していたらしく、親の目を盗んで冒険者になるのが前回街に行った目的だったそうだ。

 その時に二人の吐いた台詞が、これである。


「登録さえしちまえば、こっちのもんだと思った」

「反省はしてるけど、後悔はしてないっす」


 馬鹿じゃないのか?

 あまり頭が良い方ではないと自覚している私ですら、そう思った。

 あんな考えなしの行動で成功すると思っていた辺り、所詮は子供の考える事と言うべきか。

 呆れてものも言えない。


 だが、しかし。

 馬鹿でも情熱だけは本物のようで、二人は冒険者になる事を決して諦めなかった。

 前回の失敗を活かし、まずは親の説得を目指したのだ。

 最初からそうしろという話である。

 ……というか、ベルはともかくとして、オスカーにそこまでの冒険者にかける情熱があったとは驚きだった。

 気になって本人に理由を聞いてみたところ、


「んー、やっぱりベルと一緒に馬鹿やってるのが一番楽しいんすよ!」


 と返ってきた。

 ああ。つまり、こいつは別に冒険者になりたい訳ではなく、ベルに付いて行きたいだけなのかと納得した。


 何はともあれ、二人は割りと真剣に冒険者としての将来を考えている訳だ。


 しかし、これに焦ったのが一人いた。

 ラビだ。

 あの子は本当に友達に置いていかれるというのが怖いようで、二人が冒険者になるなら、自分も付いて行くと言い出した。

 当然、ラビの両親は大反対。

 それはそうだろう。

 あんな気弱なラビが冒険者になりたいとか言い出したら、私でも止める。

 というか、実際止めた。


 だが、ラビは珍しく自分の意思を押し通し、この一ヶ月で「まあ、とりあえず一回くらいなら」という曖昧な答えではあるものの、両親の許可をぶんどってきた。

 それを満面の笑みで報告された時は仰天したものだ。

 絶対に、途中で言いくるめられて諦めると思ってたぞ。


 そして、ベルとオスカーの両親も、二人の冒険者登録に許可を出した。

 どうも、こっちは割りとあっさり許可が出たらしく、二人は肩透かしを食らって微妙な顔をしていた。

 聞いた話によると、二人とも「自分の好きな道に進んだら良い」と言われたそうだ。

 だから、最初から親に相談しておけと言ったんだ。


 かくして、私達は、晴れて全員が親の許可を得て、冒険者になる事が決定した。

 そう、全員と言うように、その中には私とシオンも入っている。


 私は、いつか行く(というか、定期的に通うつもりでいる)王都への通行証代わりに冒険者資格を取る事を決めた。

 父がやんわりと反対していたが、母は賛成してくれたし、その父も強くは言わなかったので、すんなりと許可は貰えた。


 シオンは、騎士になる為の実績を作るべく、まずは冒険者になるのも悪くはない、との事。

 まあ、実際は、シオンが一人だけ仲間外れになる事を危惧したヨハンさんに、上手い事言いくるめられた結果だけどな。

 

 何にせよ、そんな感じの経緯で、私達は再び街に行く事になった訳だ。






 ◆◆◆






 前回と同じく、チャールズの引く荷車と共に、私達は冒険者ギルドへと到着した。

 今回も父の配達に同行するという形で来たからな。

 必然的にそうなる。


「じゃあ、おじさんは配達を済ませて来るから。今度こそ(・・・・)おとなしく待ってるんだぞ。特にそこの二人」

「わ、わかってるぜ」

「了解っす」


 父は、割りとしっかりしてる方である私とシオンに、「頼んだぞ」と目線で訴えてから、チャールズと一緒にギルドの裏手に消えて行った。

 そして、私達は再びギルドの中へ。

 今回は、二人が暴走してもいいように、即座に首根っこを掴める位置に立つ。

 しかし、前回ドレイクにしばかれかけたのが効いたのか、意外にも二人はおとなしかった。


「お? よう、嬢ちゃん達じゃねぇか」


 そう言って声をかけてくる、左腕に義手を装着した中年冒険者が一人。


「ドレイク」

「呼び捨てかよ。まあ、元仲間の娘だし、別にいいけどな。なんなら、気安くドレイクおじちゃんとか呼んでくれてもいいんだぜ?」

「ドレイクは、いつもここにいるのか?」

「無視かよ。まあ、いい。俺はしばらくこの街を拠点にしてるだけだ。少ししたら、また違う場所へ行くさ。一ヶ所に根は張らないタイプなんでね」


 根無し草タイプか。

 さすらいのなんちゃらというやつだ。


「近くに来たからジャックの顔でも拝みに行こうかと思ってたんだがな……とんだ再会になっちまったぜ。あのパンチで歯が折れて、治癒術師の世話になったしな」

「親の前で娘に手を出そうとするのが悪い」

「誤解を招く言い方すんな! まるで俺がロリコンみてぇじゃねぇか!」


 「まったく」と呟いて、ドレイクは話題を変えた。


「で、嬢ちゃん達は何しに来たんだ? また冒険者登録でもしに来たか」

「そうだぞ」

「……正直に言うと止めたいところだな。だが、前の一件で嬢ちゃんの強さはわかってる。その歳にしちゃ異常な強さだ。十分に冒険者としてやっていけるだろう。

 だから、()()()()()()()止めねぇ」


 む? 少し含みのある言い方だな。


「だが、連れの坊主どもは別だ。悪い事は言わん。家に帰れ。半端な実力と覚悟で冒険者になっても、地獄を見るだけだ」


 そう言ってドレイクは、真剣な顔で、しかも少し殺気を籠めて、脅かすようにベル達を見た。

 その迫力に、ベル達が後退る。


 だが、


「ほう」


 ドレイクが感心したような声を出した。

 ベル達は確かに後退ったが、━━それでも、強い視線でドレイクを睨み返していた。


「俺は冒険者になる! そして、いつか英雄になるんだ! こんな所で立ち止まってられるか!」

「ハッ! 威勢だけは良いじゃねぇか」


 ベルが吠える。

 オスカーはちょっと呑まれていたが、ベルの言葉を聞いて持ち直した。

 ラビは完全に怯えているものの、逃げてはいない。

 シオンにいたっては、最初からビビっていなかった。

 いつの間に、こんなに強くなったんだろうか。


「だったら、俺が試してやろう。お前らが冒険者に相応しいかどうかをな。

 冒険者になるにも試験ってもんがあってな。今回は、俺がその試験官をしてやる。冒険者になりたきゃ、━━この俺を認めさせてみろ」


 そう言い残して、ドレイクは去って行った。

 そして、その足で受付に足を運んだ。

 試験官をやる為の交渉でもしているんだろう。

 お? なにやら、受付嬢に怒られとる。

 どうやら、交渉は難航しているようだ。


 そんなドレイクから目を離し、ベル達に話しかける。


「だそうだが、お前らはどうする?」

「決まってんだろ! 受けて立つぜ!」

「おう! やってやるっす!」

「が、頑張る……!」

「逃げる気はない」


 好戦的だな。

 まあ、このくらい強気の方が、冒険者には向いているか。

 この分なら、まあ、大丈夫だろう。

 


 その後、戻って来た父に「また騒動になったのか……」と呆れられながらも、冒険者試験の受付を済ませた。

 本来ならギルドの試験官が監督するものなのだが、ドレイクの我が儘によって、今回は特例扱いとなったらしい。

 S級冒険者という立場の成せる技だな。

 ただ、それはベル達四人に対しての話であって、私だけは通常の試験を受ける事になった。


「お待たせしました。それでは、リンネさん。こちらへどうぞ」

「うむ。では、行って来る!」

「気をつけるんだぞ、リンネ!」


 心配性な父に見送られ、私は一足先に試験会場であるギルドの中庭、訓練施設のような場所へと赴いた。

 ちなみに、父達は見学ができる位置にいるから、大して離れていない。

 そして、そこにいた試験官と思われるギルド職員から説明を受けた。


「それでは、これより冒険者登録試験を始めます。

 試験の内容はいたって簡単。あなたには、これから私が用意(・・)する相手と戦っていただきます。

 冒険者になるには、最低限、己の身を守れるだけの戦闘力を持つ事が必須条件。それ故の試験内容です。

 わかりましたか?」

「うむ。わかっている」


 私とて馬鹿ではない。

 そんな子供に言い聞かせるように話さなくても理解できるから安心せい。


「結構。では、対戦相手を用意しましょう。━━クリエイト・ゴーレム!」

「ほう」


 試験官が地面に手をついて魔法を行使した瞬間、訓練場の地面が盛り上がって一体の土人形が出来上がった。

 クリエイト・ゴーレムか。

 そこそこ珍しい魔法を見たな。


 この魔法は、その名の通り、ゴーレムという土で出来た人形を作り出す、土の中級魔法。

 だが、作るのにも動かすのにも魔力を消費し、しかもゴーレム自体がそんなに強くないって事で、使い勝手が悪く人気のない魔法だ。

 極端な話、ゴーレムを作って殴るくらいなら、岩の弾丸でも作って発射した方がよっぽど手っ取り早くて安上がりな訳だな。

 だが、たしかに、こういう試験の場とかでは結構便利な魔法かもしれん。


「それでは始めますが、準備はいいですか?」

「無論だ」

「よろしい。では、始め!」


 試験官が開始を宣言した瞬間、私は地面を蹴ってゴーレムに接近し、速攻を仕掛けた。

 全速力ではない。

 全力を出すまでもない。

 だが、それでも並みの人間では反応できない超スピードである事に変わりはない。


「よっ」


 そして、その速度のまま突撃し、すれ違いざまに訓練用の木剣を一閃。

 開始1秒でゴーレムを真っ二つにしてやった。

 瞬殺。

 一拍遅れて、縦に裂けたゴーレムが、ただの土塊へと戻っていく。


「んなっ!?」


 それを見て試験官が絶句した。

 実にあっけなかったが、これで私は合格という事でいいのか?

 試験官に呼び掛けて確かめてみる。


「おーい」

「ハッ!? 失礼、呆然としていました」


 コホン、と咳払いした後、試験官は正気に戻って話を続けた。


「これにて試験を終了します。当然、あなたは合格です。おめでとうございます」

「うむ」


 こうして、私は新米の駆け出し冒険者となったのだった。

 訓練場の外を見れば、父がドヤ顔で鼻を高くしていた。

 期待に応えられたようで何より。


 さて、前座は終わりだ。

 私が父の元へと戻ると、入れ違いにベル達が訓練場の中へと入って行く。

 

「頑張れよ」


 そんなベル達に、私はただ一言だけ応援の声をかけた。


「おう!」


 それにベルは気合いの入った声で応え、他の奴らも思い思いの言葉を返してきた。

 そして全員、顔が引き締まっている。

 彼らの前に、いち早く入場したドレイクが立ち塞がった。

 

 さあ、本番の始まりだ。

 見届けさせてもらおうじゃないか、お前らの戦いを。


 私は父の隣で腕を組み、観戦モードへと移行した。






 ◆◆◆






「さて、いつでもいいぜ」


 訓練場の中心において、ベル達とドレイクが対峙する。

 念の為なのか、彼らの周りには、この場所に設置してあった特殊な魔道具で結界が張られた。

 結界にも色々とあるが、ここにあるのは内側と外側、両面からの魔法も物理攻撃も弾くタイプの結界だ。

 しかも、そこそこ頑丈。

 これがあれば、誰でも安心して観戦ができるという訳だな。


 そんな場所の中央で、ドレイクは右手に木剣を持って佇んでいた。

 対するベル達が持つのも木製の武器だ。

 本当なら、冒険者試験の前に武器屋に行く予定だったのだが、ドレイクのせいで後に回された。

 まあ、対人相手の試験なら、事故が起こっても大丈夫な木製の方がいいだろう。


「ボルティックランス!」

「風魔の矢っす!」


 しかし、そんな事はお構い無しで、シオンとオスカーが殺傷力の高い攻撃を繰り出した。

 雷の槍と、風を纏った高速の矢がドレイクを襲う。


「マジかよ……あの嬢ちゃん以外も、中々やるじゃねぇか」


 口ではそう言いつつ、ドレイクは余裕で二つの攻撃を防いだ。

 矢はあっさりと避けられ、雷の槍は剣で叩き落とされる。

 まあ、そう簡単にはいかないわな。

 見たところ、ドレイクはまだ闘気を使っていない。

 にも関わらず、当たり前のように魔法を叩き落とした。

 やはり強いな。

 間抜けに見えて、実力は本物だ。


「うおおおおおお! 攻ノ型・槍牙(そうが)!」


 だが、ベルは臆さない。

 突撃し、ヨハンさんから習った型の一つ、高速の刺突を繰り出す。


「ほう、王国剣術か。良い師匠がいるみたいだな」


 それを、ドレイクは我流と思われる剣捌きで軽く受け流した。

 技量の差は歴然。

 そのまま、ドレイクはカウンターを狙う。


「飛剣・雷迅!」

「うおっと」


 そこへシオンが横から攻撃を仕掛け、オスカーが良いタイミングで援護射撃をする。

 その隙に、ベルは飛脚を使って離脱を試みるも、シオン達の攻撃を軽く受けきったドレイクに追撃された。


「ぐっ!」

「お、いっちょまえに防ぎやがったか」


 ドレイクの攻撃を何とか剣で防ぐも、膂力の差によって吹き飛ばされ、ベルは盛大に地面を転がった。

 全身打撲による、それなりのダメージ。

 しかし、ラビが即座にベルに駆け寄り、治癒魔法をかけた。


「ヒール!」

「治癒術師までいるのか……なんとも、バランスの取れた良いパーティーだな。……最近の子供はどうなってんだ」


 ベル達の子供らしからぬ強さと完成度に、ドレイクは驚いたような、むしろ一周回って呆れたような、何とも言えない顔をしていた。

 あの四人を相手にして、そんな事を考える余裕があるとは。

 私ですら、闘気なしで四人同時に相手すれば苦戦するというのに……。

 少し、自信をなくすな。

 やはり、私は()世界最強という事か。

 弱くなったもんだ。

 まあ、私は幼女だし、これから強くなるんだがな。


「攻ノ型・破断(はだん)!」

「破断・(いかずち)!」

「嵐の矢っす!」

「なんだなんだ、強いじゃねぇか坊主ども! ……だが、まだまだ甘い!」


 ドレイクが剣を振るう。

 ベルの腕を叩き、シオンの足を叩き、オスカーに接近して腹を打った。

 三人が苦痛に悶絶する。

 ドレイクはここまでだと思ったのか、剣を下げる。


 だが、まだ終わっていない。


「アクアランサー!」

「何っ!?」


 回復に徹していたラビが突如として牙を向き、水の攻撃魔法を放つ。

 回転する巨大な水の槍がドレイクを押し流し、その隙にラビは走って、三人の治癒を終わらせた。

 さすがに全快はしていないが、普通に動ける程度には回復している。


 ……それにしても、少し驚いた。

 あの気弱なラビが人に向かって攻撃魔法を、しかも普通の奴なら死んでもおかしくないくらいの攻撃を叩き込むとは。

 剣術教室の時は、どうしてもできなかったというのに。

 いや、それは相手が私達だったからというのもあるんだろうが、それを差し引いても、人に向かって殺し技を仕掛けるのは勇気がいる。

 だが、それくらいできなければ、冒険者としてやってはいけない。

 この戦いで、ラビは少し成長したのかもしれない。


「あーあー……水浸しだ」


 それでも、やはり実力差をひっくり返すには至らなかったようだが。

 ドレイクが、ほぼ無傷の状態で戻ってくる。

 まあ、だろうな。

 どう見ても気弱なラビによる攻撃には少々意表を突かれたんだろうが、それで倒れるような奴がS級になれる筈がない。


「スパーク!」


 水浸しで、いかにも電気を通しやすそうになったドレイク目掛けて、シオンが放電を仕掛けた。

 だが、


「飛剣・嵐」


 ドレイクの放った衝撃波のような斬撃が、放電を容易く散らす。

 ……闘気を使ってきたか。

 ここまでだな。


「お前らの強さはよくわかった。認めてやる。文句なしに合格だ」


 そう言いつつも、ドレイクの戦意は欠片足りとも消えてはいなかった。

 それを察知しているからこそ、ベル達も戦闘態勢を解かない。


「だからこそ、今は俺に負けとけ。

 お前らは強い。だが、上には上がいる。そして、そういう格上とは、いつ遭遇するかわからねぇって事を胸に刻んどけ」


 そうして、ドレイクは魔道具の義手を掲げた。


「湯煙」


 義手から吹き出した煙が結界の中に充満し、外からの視線を遮る。

 その煙が晴れるまでにかかった時間は、僅か三秒。

 三秒が経過し、煙が晴れた時。


 ━━ベル達は、全員地面に倒れていた。

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