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卒業する君へ。

 空が橙色に染まっていく。別にいつだって見ていた風景だ。やがて空は光りを失い、暗く沈んで街明かりを際立たせる。そう、いつだって見ていたはずの、ものだった。

 なのに、どうしてこんなにもーー




「ーー何してんの」


 背後から声を掛けられる。振り返ると、僕の友人である佐城が呆れたような顔で立っていた。

「あっ、ちょっと待って。俺これデジャヴだわ」

 佐城はこめかみを押さえて、何かを思い出そうとする。僕は佐城が何か言い出すまで黙っていた。少しすると、佐城は大声で「あっ!」と言うと、勢いよく手のひらに握りこぶしを立てた。

「一年の頃の佐藤だ! 懐かしい! あの時はこうやってよく空見てニヤニヤしてたよ」

「そうか? 全然覚えてないぞ」

「マジで? あの頃は毎日のようにやってたのに」

 全く覚えていない。そうか、言われてみればそんな気がする。いや、やっぱり分からない。

「で、佐藤は何がしたかったの? こんな時間まで学校に残って」

 佐城の質問に僕は少し考える。いや、本当は考えてなんていない。考えることなんてない。僕がなんで今ここにいるのかなんて分かりきったことだ。

「なぁ、佐城、色々あったよな。三年間」

「なんだよ、急に」

 僕は空を見た。たしかに、佐城の言う通り懐かしい感じがする。

「いや、少しだけ……な」

 佐城と僕は普段通りの足取りで学校を後にする。こうやって二人で帰るのは久しぶりだ。

「卒業式泣くと思う? 俺は泣く」

「泣かないだろうな」

 僕の言葉に佐城は「泣かなそうだわ」と言って笑った。悲しくはない。入学した瞬間から卒業があることは分かっていたし、この生活に思い残すこともない。

「そういや、青春部って卒業式の日なんかするの?」

「何かはするんじゃないか。僕には分からん」

 青春部は九月に引退した。しかし、青春部の活動は割と目立つので、何をしているのかは大体分かる。この間もジャージ姿で野球をしているのを見かけた。おそらく意味はない。

「俺さー卒業寂しい……ってどした?」

 突然、立ち止まった僕に佐城が心配して声を掛けた。僕はもう一度、空を見た。少しずつ日が沈んでいる。

 そうだ、この空気を感じたかった。この思い出を、三年間を、僕たちを縛る過去にしないために。僕たちの背中を押してくれる思い出にするために。

「思い出したよ。お前、一年の頃、自分のこと、ワシって言ってたよな!」

「あっ! この野郎! また言いやがった! 一年の頃じゃなくて、三年の夏までワシだったよこんちくしょう!」

 僕は佐城から逃げるように走り出した。大声で、大声で、大声で笑い叫びながら。この瞬間を永遠に感じられるように。

「ちくしょう! 楽しかったなぁ!」

「そうだなー!」

 追いかけてくる佐城も僕に負けないくらい笑っていた。大声で、大声で、大声でーー





 卒業する君へーー届けるように。




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