閑話6
ボクは、雪に嫌われてしまうと思っていた。
雪の気持ちを無視して、結婚したのだから、ボクの事を良く思っていないと思っていたんだ。
なのに、雪は嫌う事なくボクの妻として、仲良くしてくれる。
妻として、家事を頑張ろうとしてくれていた。
気持ちは、嬉しかったが断った。
でも、せめてお弁当作りとお菓子作りだけでもしたいと言われて、それぐらいならいいかと思って、許可を出した。
正直、あまり美味しくはないだろうと期待はしていなかった。
だけど、美味しかった。
美味しいだけじゃなく、ちゃんと栄養面も考えてくれていた。
お菓子も、時々作ってくれるという事だったけど、毎日色々なお菓子を作ってくれる。
どれも、美味しい物ばかりで、飽きないし甘ったるくもなくて、食べやすかった。
結婚して、もう一週間たつ。
雪との生活は、楽しかった。
雪のおかげで、秋本先生への想いをすぐに、吹っ切る事が出来たし…。
秋本先生と話しても、もう何とも思わなくなっていた。
職場では、雪の事を秘密にしている。
年下と同性婚したとだけ話していた。
雪の事は、妻と言っている。
名前や何をしている人なのか、そういう詳しい事は一切話さなかった。
雪の方は、ボクの事を話しているのか分からない。
口止めしていないけど、今だに何も問題になっていないので、黙ってくれているようだ。
飲み会が終わった後、秋本先生がボクと二人だけで、飲みに行こうと誘って来た。
どうやら、色々と話しがしたいらしい。
まぁ、いいかと思って誘いにのった。
色々と話して、そろそろ帰ろうかなと思い始めた時だった。
「…なぁ、この後家に来ないか?嫁が、実家に帰っていて家には誰も居ないんだ。だから、久しぶりに遊ばないか?奥さんには、まだ手を出していないんだろう?色々と溜まってるだろうし、私も溜まっているから思いっきり遊ぼう。」
そう言って、誘って来た。
ボクは、その言葉を聞いて嫌な気分になり、ジョッキに半分以上残っていたビールを一気に飲んで、<ダン!>と音をたててジョッキをテーブルに置いて、秋本先生を睨んだ。
「お互いに、結婚してるんですよ?遊ぶ訳ないでしょう!私は、浮気しません!」
ボクは、そう言った後さらにもう一杯同じ物を注文した。
秋本先生は、そんなボクに驚いていたけどどうでも良かった。
けっこう酔ってしまったボクは、秋本先生に付き添われて、家に帰る事になった。
酔った勢いで、秘密にしていた雪の事を話してしまった事を思い出したのは、翌朝二日酔いになって部屋から出て、先に朝食を食べていた雪と秋本先生を見た時だった。
二人は、すぐにボクに気付いた。
雪は、食事の手を止めてボクの元にやって来た。
「二日酔いだよね?何食べたい?…薬いる?」
ボクを気遣ってくれた。
「…薬はいるよ。胃に優しい物が食べたいな。」
「分かった。」
雪は、控えていたメイドに薬を持って来るよう頼み調理場へ入って、料理長にボクの朝食を頼んだ。
その後、ボクの所に戻って来て、「おじや作ってくれるって」と言ってボクをいつもの席に座らせて、自分の席に戻り食事を再開した。
ボクは、一連の雪の行動をずっと見ていた。
今も、何となく雪を見ている。
秋本先生の事は、忘れて雪だけを見つめていた。




