プロローグ
雨が強まってきた。
いつもの通学路に、紫陽花が咲き誇っていて綺麗だった。
雨と紫陽花は、季節柄合っている。
なので、少しだけ立ち止まって眺めた。
その後、また歩き出す。
今の時間帯は、人気も少なく雨音以外は聞こえない。
(…雨音だけじゃなくて、蛙の鳴き声もしてるか…。)そう思いながら、気分良く自然の音楽を楽しんだ。
家に、帰る途中にある小さめの公園の前を通りがかった時。
公園の中央に、たった一人きりで傘もささずに、立ち竦んでいる女性が居る事に気が付いた。
慌てて、その女性に駆け寄り、傘の中に入れて話しかける。
「お姉さん、風邪ひいちゃいますよ?」
話しかけてようやく、女性は私の方を見た。
(…綺麗な人だな~。)そう思いながら、少しの間見とれた。
それと同時に、今にも泣きそうで、途方にくれている迷子のようだと思ってしまった。
きっと、何か辛い事があったんだろう。
「………君は…、岡山高校の生徒か…」
この人は、私を見ているようで見ていない。
「そうですけど…、今は風邪をひかないようにするのが先ですよ。」
「…放っておいてくれないかな…」
(……う~ん、そう言われても迷子の子犬のような感じだから、放っておけないんだよね…。)そう思って、困ってしまった。
とはいえ、この人はまだ一人で居たいみたいだし、どうしようかな…。
平日の昼前に、こんな所で傘を持たずに一人で居るって事は、間違いなくわけありだろう。
他人の私が、これ以上何か言ったりしても、動く気がなさそうだし…。
(…仕方ないな~)私は、鞄の中からタオルを取り出した。
お姉さんは、そんな私を訝しげに見ている。
「お姉さん、私雨に濡れて走って帰りたい気分だから、傘とタオルあげますね!」
「…え?…ちょっ…!?」
私は、お姉さんに傘とタオルを押し付け、走って家に帰った。
…家まで、まだ少し距離があるけど、たまにはこういう日もいいよね♪
私は、笑いながら家に向かって走ったのであった。
帰り着いた後、母に怒られてしまったけど、後悔はしていない。