9話 『土偶』
八雲とテンは門を開き中へと入る。
中はそれなりに広い空間が広がって居た。
中央には体長2m程の土人形が立っている、いや鎧を着た土偶と言うべきか。
『おぉ…デカイ埴輪だな』
『強そうだね〜』
『そうだな、これと戦うのか?』
『排除 排除って言ってるよ〜?』
テンは魔物の声が聞こえるのだろうか?
そんな事を考えて居ると土偶の目が赤く光り腰に差してある刀をゆっくりと抜き叫んだ。
『ぐおぉぉぉおお!』
『うるさ…』
『八雲 来るよ〜!』
八雲は左に飛びすさり土偶の刀を躱すと風の術(鎌鼬)を土偶へとぶつける。
土属性には風かと思い鎌鼬の術を放ったが、思ったよりは効いていない様だ。
『流石に1発で倒せる強さではないのね』
今までがそうだから倒せると思ったが、どうみても中ボスな奴が雑魚敵と同じ強さの訳がない。
『テンの番〜!』
テンは雷矢の術と同時に覚えた氷礫の術を土偶へと放つ。
10cm程の氷の塊群が矢の様に次々と土偶に突き刺さるが、それが土偶に効いてるのか効いていないのか八雲には分からない。
…分かるのは氷の塊を体に受けながら左の掌を此方に向け何かをしようとしている事だ。
『ぐぉぉっ!』
土偶の叫び声と共に八雲とテンの足元が泥田の様に急にぬかるんだ。
『おい、嘘だろ』
ぬかるみから出ようと もたつきながらも移動を始めると土偶もこちらを刀で攻撃しようと近付いて来るのに気付いた。
『大風の術!』
すぐさま八雲は風の力で土偶を押す様な術を放つ。
『えい!』
テンは火球の術を放ち攻撃を加えている。
土偶が八雲とテンの攻撃を受け2歩3歩と後退すると八雲の足元のぬかるみが消えて行った。
テンは野生の勘だろうか、ぬかるみ始める前に場所を移動していたので被害はなかった。
『鎌鼬!』
土偶は動きが遅く刀で斬りかかられても躱す事じたいは そう難しくはない。
ただコチラの攻撃が効いてるのか効いて居ないのか全く分からない。
何発目の鎌鼬の術か数えるのもやめて居たが
ふと土偶の首の後ろに赤い石が埋め込まれてるのを発見し、そこに鎌鼬の術を撃ち放ってみると
『ぐぉぉおおおん!』
と大きく叫び 土偶は動きを停止した。
『…あら?止まったか?』
『埴輪さんの魔力が消えたよ〜?』
『って事は勝ったのかね?』
『やった〜』
体感としては土偶に何をしても効き目は無い様に感じられたが…弱点を探して攻撃を加えるのが倒す方法なのだろうか?
『あぁ、消え始めた』
今まで会った他の魔獣と同じく白い光を身体から放ち、土偶が消えていく。
消えた後には50銭と刀が落ちていた。
土偶が持っていた土で出来た物ではなく普通の刀だ。
良いものかどうかは分からないが とりあえず落ちているものは全て拾う。
『あそこの星形の魔法陣が光り出したな』
土偶が最初に居た場所から20m後方に魔法陣が描かれていたのだが
土偶が消えた事により、その魔法陣が輝き出した。
『八雲〜 この魔法陣 今までのと少し違うよ〜』
『ん? 本当だ 形が違うなぁ』
今までのは五角形の星だったが、ここにあるのは6芒星と言うのか角が一つ多い。
『そろそろ一旦帰りたいんだけどなぁ』
『もう夕方だもんね〜』
洞窟の中は常に昼間の様に明るかったので分からなかったが、テンは時間感覚が優れているのだろう、外の時間を把握している様だ。
『よし、踏んでみるか』
『うん!』
(帰らせてくれ、と)
そう心に思い六芒星の魔法陣を踏んでみると…洞窟の外に居た。
正確には洞窟に入ってすぐの魔法陣の前の小部屋に居た。
『おぉ 帰ってこれたな』
『やったー!また来ようね!』
『そうだな、まぁ 今日は宿にでも泊まるか。布団で寝たい』
『うん!』
一人と一匹は 洞窟の外へと出て町の宿屋を探した。