4話 『次郎』
『ん?そうかい?自分じゃ珍しいのか分からんや』
『お前 唐人か?』
『まぁ そんな所だ』
唐人か?ってのは日本以外の国から来たのか?ってな意味なんだと自分に都合よく解釈し、適当に返事をする。
未来からか異世界からか 自分がどこから来たのか本人ですら分からない。
『折角 木曽の町に来たんだから 国に帰る前に しっかり段位を上げて行けよ?』
『ん?おおう、ありがとう』
『珍しい職業なんだから死なない様に始めは浅い所で頑張れ。強くなったら俺の部下にしてやるぞ』
『(…部下?)ははは、なるべく頑張るよ』
『おう、じゃあな』
男が店から出て行くと店番の女が
『お兄さん、あの方は次郎様ですよ』
と小声で話し掛けて来た。
『…次郎?』
安易な名前だな ってのが率直な感想だ。
『えぇ、源家の血筋のお方だと もっぱらの噂です』
(源…ってあの源?)
『へぇ そうなんですか』
『そうなんですかじゃないですよ!』
『いや…まだこの国の事に疎くて』
『関東の源家、上方の平家…おまけに鬼が魔獣や妖怪などを従えて各地に侵攻して居ると聞きますし…』
(鬼や妖怪はアレとして源平の名前が出たって事は…平安時代か?それも末期の方の)
『本当にこの国も不安定な世の中になりました、人間同士で争っている場合ではないと思うんですがねぇ』
(源家vs平家vs鬼?)
『なるほど、皆 色んな理由で段位を上げる為に洞窟に潜るって事ですかね?』
『えぇ、そうです。強くなる事がこの時代を生きる為に必要ですから』
『…うん。教えてくれてありがとう。俺も洞窟に行ってみますよ』
『はい お気を付けて…武器防具をご入用ならお待ちしております』
『八雲〜 ここから入るの〜?』
『おぉ そうみたいだな』
八雲とテンは洞窟と呼ばれるダンジョンの前に辿り着いた。
ダンジョンの周りに町が出来たのか
町にダンジョンが出来たのかは分からないが
この町にはダンジョンがあるって事なのだろう。
『お主ら 洞窟へ入るのか?』
洞窟の前に待機している兵士に話し掛けられた。
『えぇ そのつもりです』
『うむ。入場料は一人15銭で30銭だ』
(金取るのか)
『はい では30銭』
郷に入っては郷に従え
入場料の事も テンを一人と数える事も
疑問に思うのをやめ素直に払った。
『では確かに。無理はしない様にな』
町に来るまでに34銭を手に入れたが
果たして1回洞窟に入って30銭分の元を取れるのかは分からないが
金を払ってまで入るのだ。
『テン、段位上げもそうだが金を稼ぐぞ』
と八雲は鼻息を荒くするが
『うん!テン頑張るよ〜、八雲も頑張ろうね〜』
とテンは楽しそうだ。
装備もアイテムも考えも無しにダンジョンに入って大丈夫なのか?とは
基本 楽観主義の八雲は全く思わなかった。